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第三十一話 前夜

 俺はレンリと別れ宿へと戻ってきた。日も完全に沈み、街灯があたりを照らしている。古びた扉を押すとぎしぎしと音を立てる。扉を開けた先には誰もいない寂しい空間が広がっていた。アリエスは帰って来たのだろうか。俺は階段の方へ歩いていこうとした時、上の方からどんどんと近づいて来る足音が聞こえてくる。二階から顔を覗かせたのは見覚えのある少女だった。


「おかえり、シン」


「ああ、ただいま。アンガスはいないのか?」


「まだ、帰ってきてないみたい。出かける旨を伝える手紙も置いてあったから間違いわ。いつ帰ってくるとは書いてなかったけど何も書いてなかったからもうすぐ帰るんじゃない?」


「それもそうか」


 俺は近くにあったテーブルに隣接する椅子に腰かける。アリエ呼応するようにも俺の対面に座った。


「それでなにか収穫はあったの?」


「特にないな。強いて言えばレンリに会った」


 アリエスは目をぱちぱちろさせる。それほど以外の人物だっただろうか。


「レンリってグランツ商会の子よね?どうゆう経緯であったのよ」


「レンリが仕事で荷物の配達しているところに出くわし、俺がそれを手伝った」


 アリエスはへぇーと意外そうな声を上げた。別に俺自身おかしなことはしていないはずだ。それにレンリも。


「珍しいわね。あなたが善意で誰かを手伝うだなんて。それもよく知らない利益にもならない子供の。何か心境の変化でもあったの?それとも彼には何かあなたにとって価値があったの?」


 アリエスにそう言われ改めて考えるとおかしな行動であった気がする。レンリは俺にとって利益をもたらす存在かと言われれば微妙な存在だ。確かにいい地図はもらえたが今後役立つかと言われれば分からないとしか言えない。今までならそんな人間を俺は気に掛けたりしなかっただろう。改めて見つめ直すと疑問が浮かぶ。


 俺はその理由を考えてみるとある一つの結論が浮かんだ。それはあの少年に他人とは思えない親近感を覚えたからというものだった。何故と問われれば俺にも分からない。ただ漠然とそう思ってしまった。その原因を考え込んでいるとアリエスがテーブルに乗り出し、こちらを覗き込んでいた。


「何いきなり黙り込んでんのよ」


「すまんな。少し考え込んでしまった」


「ふーん。それで?」


「俺はレンリに異常なまでの親近感というものを感じている。その理由について考えていたのだが結局わからなかった。まあ、彼のことはあまり知らないから特定できるほどの情報がないと言う方が正しいか」


「なるほどね。でもそれって多分あなたもレンリもスラム街で暮らしてたような暗い過去があったから共感しているだけじゃないの?」


「それもあると思う。だが、持って違う何かがあるような気がして……」


「勘?」


「勘だ」


 アリエスははぁっと大きなため息をついた。仕方ないといった瞳を俺に向けてくる。


「いつもは論理派なのにこんな時だけ感覚的なことを言うんだから……」


「特に気にするな。これはわからなくても支障はないことだ」


「まあ、そうなんだけど気になるじゃない」


 アリエスはむすっとした顔してじっとりとした視線を送ってくる。俺はどうやって誤魔化そうかと思考を巡らせているとぎしぎしという音が聞こえてきた。


「おう、今帰ったぞ」


 入り口には巨体の男、アンガスが立っていた。


「遅いぞ、アンガス」


「悪いな。所要が長引いちまった。極上の飯を作ってやるか許してくれ」


 そう言ってアンガスは厨房へと姿を消す。


「まあ、美味い飯でも食ってくだらない話は忘れてくれ」


「今は保留にするだけだからね。分かったら教えなさいよ」


「分かっているとも」


 この場を収めた俺は極上の料理に思いをはせ、明日に備えることにした。

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