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第二十九話 過去の話

「そう言えばレンリの父親は何をしていた人だったんだ?」


「農業ですね。田畑を耕し、農作物を育て、それを出荷して生計を立てていました」


「なるほどな。ということは魔物にやられたのか……」


「いえ、違います。父は賊に殺されたんです」


 ふと横を見るとレンリの瞳には今まで見たことのなかった色が見えたような気がした。俺はぽりぽりと頭を掻く。


「すまんな。余計なことを言ったようだ」


「気にしないでください。その賊も死にましたし、僕自身気持ちに区切りは付いてますから」


 そう言うレンリの表情は言葉とは乖離していた。これはこれ以上意識させない方がよさそうだ。俺は話題を変えようと口を開こうとしたとき先にレンリから問いが投げかけられた。


「ユウさんのお父様はどんな人だったんですか?僕のことも話したんだから教えてくださいよ」


 レンリが気を使って話題を提供してくれたのかはわからない。だが、この流れに乗った方が自然に会話を続けることができるだろう。


「そうだな。俺の父親は騎士だったよ。この国ではなかったがそれなりに大きな国に仕えていた。だが、十年前の大災害……まあ、魔物の大量発生みたいなものが起こってその任務中殉職したそうだ」


「そうだったんですね。僕と一緒ですね」


 レンリは笑顔でそう告げる。だが、こちらとしては笑えない冗談だ。いや、正確には笑っていいのかわからない冗談だ。レンリに気を使わせないように話題を転換しようとしていたのにまさか自分から地雷を踏みに来るとは。まあ、自分で踏むくらいなのだからそれなりに気持ちの整理はついていると判断しよう。子供なのに大したものだ。


「ああ、一緒だな。俺たちはどうやら気が合うのかもしれないな」


「そうかもしれませんね」


 

 二人はその後も雑談を交えながら住宅を巡っていく。レンリは住民にかなり認知されているようで訪問した人たちと親し気に話している。いつからこの仕事をしているのか聞くとまだほんの一か月ほどだそうだ。レンリの真面目な仕事ぶりが伺える。


 俺たちは黙々と荷物を運んでいると日も傾き始めた。背負っている荷物もそのころにはほとんどカバンの重さと変わらないくらいにはなっていた。最後の荷物を客に渡し俺たちは帰路に就く。


「今日は本当にありがとうございました」


「気にするなと言っただろう。知り合いが困っていたら救世機関に属する者として助けるのは当たり前だ」


「流石ですね」


 レンリはころころと笑う。


「まあ、これはアリエスの受け売りなんだが……」


「そうなんですか?でも、ユウさんが言ったとしても僕としては違和感ありませんけど」


 レンリは邪気のない真っ直ぐな瞳を俺に向ける。俺は顔を見られないように顔をそらす。ぎこちない笑みを浮かべているのを見られたくはなかったからだ。


「そういってもらえると嬉しいよ」


 俺の態度に疑問を感じたのか横目で見たレンリは不思議そうな顔をしていた。だが、その疑問を俺が解消することはないだろう。確実に愉快な話にはならないから。


 俺たちの仕事を告げるように目の前には大きな塔が聳え立っている。


「最後に聞いていいですか?」


「なんだ?」


「何でユウさんは救世機関にいるのですか?今話していてユウさんの気質に合ってない気がしたのですが……」


 俺は手を顎に当て少し考える。数秒ほどの間の後俺は口を開く。


「恩を返すためだ。それ以外の理由はないよ」


「それって……」


 レンリがさらに深掘ろうとするが俺はそれを無視し歩き始める。ひらひらと手を振り夕日の中を帰っていく。

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