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第二十八話 少年レンリ

 重そうな大荷物を背負いながら見覚えのある青年が駆け寄ってくる。少年は飛び出している石につまずき、体を前に倒れる。俺は素早くレンリに駆け寄りその体を支える。その指には黄色の炎が煌めく指輪が嵌められていた。


「大丈夫か?」


「は、はい。ありがとうございます」


 レンリは照れ臭そうに笑う。体を起こすがその反動でふらふらと右往左往している。レンリの小柄な体には不釣り合いなほどの荷物を持っているのだから無理もない。


「その荷物俺が持とうか?」


 レンリは恐縮したようすで勢いよく首と手を左右に振って拒否しようとする。


「い、いえ。これは僕の仕事ですからユウさんに手伝っていただくわけには……」


 素早く首と手を動かしたせいかバランスを崩し、尻餅をつく。俺が優し気な瞳で見下ろすとレンリは観念したように肩にかかっていたかばんの持ち手の部分を外し石づくりの道に置く。


「……お願いします」


 レンリは供物でも捧げるように頭を下げ、荷物を俺に差し出す。その遠慮しきった態度に思わず笑い声が漏れる。頭だけを上げ上目づかいでこちらを伺うレンリは俺が笑っている理由が分からず困惑しているようだ。


「……すまんな。レンリの態度が面白くてつい笑ってしまった」


 俺はレンリに近づき置かれた荷物を背負う。その重量はそれなりのものであった。俺が問題なく持てる程度だが子供にはつらい重さだ。最初はよくてもこれをずっと持ち続けるのはどちらにしろ不可能であっただろう。


「ところでこのお荷物は何なんだ?」


「これはお客様に届けるグランツ商会の商品です。最近店舗で買うだけじゃなくて配達するサービスも始めたんです」


「なるほどな。それでこれからどこに向かうんだ?」


「えーと、ですね……。こっちです。付いてきてください」


 レンリはきょろきょろと周りを見渡し、目的地を見つけたのか俺を先導する。気を使っているのか歩く速度はやや遅い。


「もっと早く歩いていいぞ。このペースでは配り終えるのに一日かかるぞ。俺にとってこの荷物の重さくらいは許容範囲内だ」


「そうなんですか!。流石ですね。じゃあペース上げますね」


 レンチは小走りくらいの速さで動き出す。俺もそれに伴い歩く速度を上げる。レンリの隣を並走するように俺は付いていく。


「そういえば、何故レンリがこんな荷物を運んでいるんだ?お前は仮にもヴィクトル・グランツの息子だろ?こんな仕事、商会の誰かに任せてしまえばいいだろう」


 俺は単純に思った疑問をぶつける。レンリはたははっと乾いた笑いを漏らす。


「僕が仮の息子だからですよ。商会のほとんどの人たちが僕のことを認めてません。なんせ僕の存在は商会の人たちにとっては突然沸いた害虫のようなものですから」


 レンリは哀愁を感じさせる顔をしている。だが、レンリの言い分は最もなのだ。ヴィクトルが息子を取るということは次期後継者に据えようとしているかもしれないという疑いがかかるのは当然だ。俺体以外の人々はヴィクトルの現在の状況を知らないのだから。単純に何か心境の変化があったのかもしれないと片付けられてしまう。


「そうか……。何か力になれることはあるか?」


 レンリはぶんぶんと首を振る。


「ありません。というよりして欲しくありません。僕は会長に拾われた幸運な人間です。他の人が嫉妬するくらいの豪運だと思います。だからこそそこから自分の力で這い上がらなければならないと思っています。死んだ父もそう言うと思います」


「そうか。お前がそう言うならもう何も言わない。頑張れよ」


「はい!」


 二人は街道を進んでいく。レンリの足取りは心なしか早まっていたように感じた。





 

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