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第二十六話 休息

 俺たちはハクヨウたちと別れ帰路についた。まだまだ人通りの多い通りの端を歩いていく。


「あなたの記憶を読んで今日起こったことは把握したけど何で<蠍>の本拠地を放置したの?あなたなら多少強引にでも殲滅で来たんじゃない?」


「そうとも言い切れない。あの場所で感じた圧力はかなりのものだった。それに<蠍>はかなり大きい組織だ。あの場所を壊せば終わるわけでもないし結局のところ上の人間には逃げられるだろう。それはアリエス、お前も十分分かっているはずだ」


「そうね。私も軽率に戦闘をしなかったことはいい判断だと思ったわ」


 アリエスは挑発的に笑う。どうやら今のは俺をからかっただけのようだ。まあ、いつものことだが。


「でも、正直あなたが負けるところは想像できないわよ。最強名高い<灰の勇者>様」


「……まあ、戦闘能力で言えば<勇者>の中でも上の方だと思う。だが、それで勇者代表みたいに言われるのは他の<勇者>に申し訳ないな」


「意外と繊細ね。別に他のみんなも認めてることだしいいじゃない。もう過去に囚われることもないでしょ」


 アリエスは明るい笑顔を俺に向ける。俺は街灯に照らされ道に映る影を見つめながら微笑を浮かべた。


「別に囚われてはないよ。ただあれは俺の原点でありここにいる理由だ。忘れることはできないさ」


「そう。シンの中で消化出来ているのなら別にいいわ」


 アリエスは優し気な眼差しで俺を見ている。まるで小さい弟を見守るような慈愛のこもった瞳で。


 俺たちが他愛もない会話をしているうちにもう宿の目の前まで来ていた。やはり店の周りには人の気配は微塵もない。俺はぎしぎしと軋む扉を開ける。するとその音を聞きつけ見たことのある大男が店の奥から出てくる。


「おう、帰ったか」


「ああ。料理を頼めるか?」


「おうよ。ちょっとばかし飲み物でも飲んで待ってな」


 アンガスは昨日俺たちが座っていたテーブルに二つのジョッキを置く。俺たちはそのテーブル近くの椅子に座り、置かれているジョッキに口をつける。柑橘系の甘くもさっぱりとした風味が下を刺激し、心地の良い匂いが鼻孔をくすぐる。


「どうだ?俺の特製のジュースは?」


 店の奥から大声で問いかけてくる。俺は入っていた橙色の飲み物を飲み干しその味を堪能する。正直余韻に浸っていたいが反応しない方がめんどくさそうだ。


「ああ、美味いよ。流石アンガスだな」


「ええ、とても美味です。様々な食事会には出たことがありますがこれほどの飲み物は滅多にお目にかかれません」


「そうかそうか。喜んでもらえて料理人冥利に尽きるぜ」


 先ほどよりも大きな声が店中に響く。余程うれしかったのだろう。だが、あまりの声の大きさに俺たちは思わず手で耳を塞ぎ、苦々しい表情を浮かべた。お互いの顔を俺たちは見合わせ何とも言えない笑みをしかできなかった。


 待つこと十分。料理が運ばれてくる。熱々鉄板に乗った肉の塊が運ばれてきた。油と赤みがかったソースがぱちぱちと音を立てている。香ってくる香ばしい匂いは食欲をそそる。俺はナイフとフォークを取り一口サイズに切り分ける。驚くほど肉が柔らかくナイフが簡単に沈んでいく。きらきらと輝くそれをソースが垂れないように素早く口に運ぶ。


 その瞬間口の中に広がる重層的で深みのある肉のうまみ。甘辛いソースが肉のうまみを助長し高級レストランにも匹敵する極上の味となっている。俺は料理を次々tと口に運び、数分で完食してしまった。


「美味かったろ?俺の料理は」


「ああ、美味かった。昨日も思ったがこんな店にいるのが不思議なくらいだ」


 俺はアンガスに目をやる。


「それお前さんが気にすることじゃねーよ」


 アンガスは食べ終えた皿を持って店の奥に下がる。どうやらアリエスも俺と同じように食べ終わっていたようだ。


「それで明日はどうするの?」


 アリエスが満足そうな表情を浮かべながら問いかけてくる。


「明日はまだ回ってないところを行くくらいしかやることがないな」


「じゃあ、明日は自由行動ってことでいいかしら?」


「ああ、それでいいよ」


 俺たちはそれだけの会話を躱し部屋に引っ込む。俺は諸々の装備を外しベッドに横になる。意外と疲労がたまっていたのか俺はすんなりと眠りについた。

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