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第二十四話 必然の邂逅

 俺がツバキから情報提供を受けるなか現れたのはアリエスと正体不明の男女だった。女の方が俺を見るなり目を見開いた。それがあまりにも奇妙で思わず眉根を寄せる。

「ツバキごめんなー、お邪魔して。こっちの話は終わったさかい来ても―たわ」


 だが、女は何事もなかったかのように軽薄な笑顔を浮かべた女がツバキに語りかけている。


「いえ、ハクヨウ様。こちらも主要な話は終わりました。邪魔なんてことはありません」


 ツバキは女の姿を確認するやいなや立ち上がり女の方をへと体を向ける。俺もツバキに倣い立ち上がる。今呼ばれた名を聞く限りこの女がパシフィック商会の会長のようだ。どこからどう見ても十代の少女にしか見えない。長年この商会を率いてきたのは無理がある年齢だ。


「不思議そうやなー。<灰の勇者>はん」


 ハクヨウと呼ばれた女は俺にゆっくりと近づき下から覗き込むように艶めかしい視線を向けてくる。何か俺の底深くを覗くその紫紺の瞳はやや不気味さを感じさせた。


「それはそうでしょう。パシフィック商会は最近できた商会ではありません。その長がこんなに若い女性で疑問を抱くなと言う方が不可能というものでしょう」


「それもそうやな。でも、簡単なことや。うちの両親がこの商会を経営しとって今はここじゃない本拠地におるから代わりにここを任されとるそれだけのことや」


「そうでしたか。ですが、簡単なことではないと思いますよ。ここまでの大商会の一角を担うということは」


「お褒めにあずかり光栄やわー。でも、挨拶はこれくらいにしとこか。アリエスはんも待ちくたびれ取るようやし」


 ハクヨウは俺の横を通り過ぎ、ツバキの座っていた椅子に優雅に腰かける。俺はアリエスの方を見ると何かを訴えかけるような光を孕んだ瞳をこちらに向けてきていた。


「……おつかれ」


 アリエスは俺の肩を叩く。その衝撃が若干強かったのは俺の予想が当たっていたからかもしれない。そんなことを考えているといつの通り情報が流れ込んでくる。


 ハクヨウと何を話していたのか余すことなくその内容が理解できてしまう。そして、そのままアリエスは俺の頭の中の情報を抜き取る。この間僅か三秒ほどだ。アリエスは何事もなかったかのように自然に座り、俺は椅子の後ろに回る。


 その様子にハクヨウは口に手を当てクスクス笑っている。アリエスの能力を知っているようなので滑稽に映ったのかもしれない。ハクヨウは笑いをこらえるようにわざとらしく咳ばらいをし、妖しく光る瞳をこちらに向ける。


「さて話の続きをしましょうか。まあ、といってもお互いにあまり話すことはもうあんまりないかもしれまへんが」


 俺は一石を投じるためにすっと片手を上げる。


「どうぞ、勇者はん」


「一つ明確にしておきたいことがあるのですが」


「なんや?」


「あなた方とは今のところ協力体制を気づいてるようですがもしあなた方の『罪』が白日の下にさらされたらこちらは一切の容赦はしないことを肝に御明示ください」


 俺は僅かな殺気を籠めてそう宣言する。ハクヨウの後ろに控えている二人はそれを敏感に感じ取り思わず腰の武器に手が伸びている。ハクヨウは振り返りもせずに手で二人を制す。


「そんなことは分かっとるよ。救世機関にそんな期待はしてへんわ」


 ハクヨウはからからと笑いながら当たり前のようにそう答えた。


「うちがあんたらに期待するのはちゃんと『悪』を裁くことだけや。それとツバキとヒイラギあんたらは勘違いしとるよ。今の言葉は脅しやなく勇者はんなりの優しさや」


 ハクヨウの言葉に二人は困惑しているようだ。戦士に近い彼らには先ほどの殺気がより恐ろしいものに感じられ理解できないのだろう。だが、別に問題ない俺の意図したことが彼女に伝わったのだから。

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