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第二十話 聖女の動向

 私は宿でシンと別れた後、予定通り中央通りを目指していた。差し込む朝日に目を細めながらも周りを見渡しながら歩いていく。まだ日が昇ってそんなに時間も経っていないのにそれなりの人が行き交っている。おそらく露店を出している人たちだと思う。その手には荷車、背には大きなカバンが背負われているから。


 一通り中央通りを歩いてみたがまだ店も出ていないため情報収集しようにも話しかけられる人がいない。ここにいる人たちは店を出しに来ている人たちしかいない。忙しい中に割って入るのも気が引けるし。


(どうしようかな。露店が開くのは一時間はあとになりそうだし)


 私は通りの端の方で石造りの建物に体を預けながら唸り声をあげる。すると、不意に女性に声を掛けられた。


「もし……そこのお嬢さん。どうかされはったん?」


 振り返るとそこには赤い着物に身を包んだプラチナブロンドの美しい髪を携えた女の人が立っていた。その立ち姿は綺麗でまるで一輪の花のよう。妖しく輝く紫紺の瞳はまるで宝石のように見える。私が見とれていると彼女の後ろの方から一人の男の人が走ってきているのが見えた。


「お待ちください、ハクヨウ様。勝手に歩き回られては困ります」


 ハクヨウという聞き覚えのある名に首を傾げつつも私の視線は今来た男の人へと移る。その腰には細く曲がったような剣が携えられており、すらりと背は高い。その黒髪の男性は心配そうな声で女の人に注意している。


「別に少しくらいいいやないの。こんな朝はようから狙われたりはしませんわ」


「ご自覚をお持ちください。今やあなたはこの街でもパシフィック商会でも中心人物。いつどこから魔の手がはいよるか分かりません」


 私は商会の名を聞きようやく思い出した。ハクヨウというのは現パシフィック商会の会長だ。またとないチャンスの到来に思わず胸が高鳴る。


「はいはい、分かりましたわ。これからは用心します。でも、うちが何も心配しーひんのはヒイラギがちゃんと守ってくれると信じてるからや」


 ハクヨウさんは花のような可憐な笑顔を浮かべる。その笑顔に絆されたのかヒイラギさんはまんざらでもなさそうな顔をしている。


「こ、今回だけですよ。見逃すのは」


「はーい」


 その表情は容姿に似合わず子供のようだ。おそらく反省もしてないのだと思う。


(なんだかイメージと違うなー。商会長をしている人たちってもっと厳格な人かと思ってたわ。でも、この人なら私の話も聞いてくれそうね)


「あのー……」


「ああ、ごめんな。身内話はじめてもーて」


「いえ、お気になさらず。それよりもあなたたちにお話があります」


 そう言って私は神具から聖女の証を取り出す。その紋章を見るとヒイラギさんはひどく驚いたようだった。最初警戒していた彼の視線はみるみるうちに無害なものへと変わっていった。流されやすいのだろう。


「まさかあの聖女はんやったとは知らんやったわ。それでうちらに何をご所望で?」


「ここでは少し話ずらいことなのですが」


「ならうちらのホームに招待するわ。いいやろ?ヒイラギ」


「まあ、有名な聖女様なら問題ないでしょう。寧ろ無下にいては罰が当たってしまいそうです」


「そうやなー」


 ハクヨウはにこにこしながら答える。


「それじゃあ付いてきてな」


 そう言ってハクヨウさんはくるりと振り向きヒイラギさんを伴って進んでいく。私もその後を歩いていく。とんでもないチャンスが転がり込んできたけど油断はできない。ハクヨウさんの反応を見て私はそう思った。


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