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第一話 任務と救世機関

 俺はある村を任務で訪れていた。白い衣装と銀色の髪を靡かせ、マントに金糸で織られた天秤の紋章が煌びやかに浮かんでいた。このシンボルは救世機関という独自の法的決定権をもった世間的に言えば地位の高い組織ものだ。普通の村ならばすぐに責任者が近寄ってきて手もみを始めるだろう。だが、この村にはそれがない。それもそのはずだ。村の入口に立っている男の耳には人のうめき声のようなものが聞こえているからだ。それも発信源は一つや二つではない。そこら中から発せられている。


 俺は漂う腐臭に顔を顰めながら無遠慮に村の中に入っていくと住人であったであろう人間の姿を真っ黒な瞳に映した。だが、その姿はあまりにも無惨な姿であった。左手は腐り落ち、顔の半分の皮膚がなく筋肉が露出していた。亡者と化した元村人は荒々いうめき声をあげながら男に襲い掛かってくる。だから俺はどこからともなく蒼い炎を出現させ目の前の化け物を焼き尽くす。亡者は灰へと変わり風に流されていく。


 襲撃時の奇声のせいか次々と様々な亡者が現れ襲い掛かってくる。老若男女問わず痛々しい姿を晒している様に眉根を寄せる。


「お前たちを救うことは俺にはできない。せめてもの情けとしてもう終わらせてやる」


 俺は一人孤独に呟くと村中を包むほどの巨大な蒼い炎を作り出す。その大火力に一瞬のうちにすべてが灰になった。だが、家屋などの人であったもの以外は燃えておらず来た時のままであった。俺は村の中を一通り散策する。だが、怪物へと変貌した村人意外特に変わったものはなく早々に来た道を引き返した。




 山道を下り、舗装された道を真っ直ぐに歩き、俺は救世機関の本部に足を運んだ。いつものように門番の敬礼を横目で見ながら中へと入っていく。いつもと同じようにカウンターの向こう側で並んで座っている女性のなかで一番右端の女性へと話しかける。


「任務完了しました。教主様にお取次ぎをお願いします」


 そう言って腰の袋から剣と天秤の意匠が施された金属板を取り出した。受付の女性は笑顔でそれを受け取り、後方の棚から数枚の種類を運んでくる。いつも通り任務の詳細を報告するためのものだ。


「お疲れさまでした<灰の勇者>様。教主様は現在私室に居りますのでそちらをお尋ねください」


「ありがとうございます」


 そう言うと男は目の前の書類を腰の小さな袋に丸めて入れ、建物の奥へと進んでいく。廊下を進む中で幾人かの人間とすれ違うたびにぺこりと頭を下げられる。俺の<勇者>という階級は機関な中では教主、聖女の次に高いくらいであるため周りの人間は気を使っているのだろう。男は気にせず進んでいき目的の部屋へとたどり着く。軽く数回扉を叩くと許可を促す重厚な声が響く。俺はその指示に従い、扉を丁寧に開ける。


「失礼いたします。シン・アッシュクラウン只今任務を終え帰還いたしました」


 俺は書類の詰まれた机越しに立派な髭を携えた白髪の老人に報告する。老人は椅子に深く座り、鋭い瞳で男を捉えていた。


「ご苦労であったシンよ。近隣の村々の人々もこれで安心であろう。それで何か収穫はあったのかね?」


「報告通り亡者が何故か生息しており、近くに居るものに襲い掛かかってくるようでした。ですが、その原因は全くと言っていいほど掴めませんでした。申し訳ありません」


 俺は老人に向かって深く頭を下げる。


「構わんとも。今回は人に害をなす怪物を退治することが目的であったのじゃから。原因の追究の方は別のものに任せてある。とりあえずお前はゆっくりと休むとよい」


「ありがとうございます。それでは失礼いたします」


 そう言って俺は部屋を後にしようとする。教主はその姿を見送りながらぽつりと呟く。


「……まあ、休めるかはあの子次第じゃがな」


 ぼそりと呟かれた言葉を聞きとることはできなかったが俺は気にせず自室へと歩を進めた。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 亡者の表現が、あれ?これはホラー小説だったかな?と思えるぐらい気持ち悪くて良かったです。
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