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第十一話 最悪な予感

 宿を探し歩いくこと数十分。俺たちは目的の場所を見つけた。この街は広く、人の出入りも多いため宿屋はそれなりに点在していた。だが、俺たちはその中でも多くの人が止まっているような人気の宿は避けたかった。アリエスは有名と言っても過言ではないため騒ぎになるかもしれないからだ。


 そんな思惑を抱える中ちょうどよく寂れた宿を見つけたというわけだ。外観に問題があるようには思えないが人の気配というものをここからはほとんど感じない。おそらくだがここはスラムが近く治安があまりいいわけではないのだろう。ここに来るまでの道のりで人の行き交う量の増減からもそれは明らかだった。


 俺たちは木製の扉を押して中に入るとエプロンをつけた大柄な男が暇そうに頬杖をついていた。俺たちの姿を確認しても顔色一つ変えない。


「いらっしゃい」


 やる気のなさそうな声色が狭い室内に響く。だが、俺たちにとっては好都合だ。


「とりあえず一週間ほど泊まりたいのだがいくらだ?」


 男は俺たちの格好を観察しているのか視線が下から上へと動いている。


「銀貨五枚だな」


 相場よりは高い。だが、これでこの男が金で動く可能税が高いと知れた。


「なら、これでどうだ」


 そう言って俺は腰の神具から金貨一枚を差し出す。男は目を丸くし頬を緩ませる。


「何が望みだ?」


「俺たちが泊っている間他の客は泊めないで欲しい」


「いいだろう。契約成立だ」


 男は大事そうに金貨を受け取るとカウンターの中に置いてあった鍵付きの箱に仕舞う。アリエスはそのやり取りに終始苦い表情を浮かべていたが気にすることではないだろう。


「部屋は好きに使っていいのか?」


「もちろん構わないぜ。それと食事もちゃんと用意してやる」


「それは助かる。じゃあ食事ができたら声を掛けてくれ」


 俺はそう言い残すとアリエスと共に二階へと上がっていく。部屋は八部屋ほどあるようで左右に四つずつ扉が見える。俺たちは左側の奥から二番目の部屋へと入る。その部屋は簡素なベッドが二つだけあるもの寂しい部屋だった。俺たちは互いにベッドに座り向かい合う。


「話があるって言ってたが何か重要なことでも分かったのか?」


 その質問に対する答えは無言で差し出された手であった。俺はそれが何を意味するか察しその手を軽く握る。


(それは私にも分からないわ。でも、妙な違和感を感じたの。とても不気味で嫌な違和感をね)


 アリエスの声が頭の中に響いてくる。彼女の力によって言葉を介さずとも意図を伝えることができる。しかもこの力は一方的なのもではない。


(そう思った理由は何なんだ?ヴィクトルにお前の力が通じなかったからか?)


(それもあるわ。でも、それだけじゃ何とも言えない。あの商会には私たちが知らない神具もあったし聖者の能力を防御する神具を持っていてもおかしくないから)


(つまりそれ以外にも何かあったということか)


(ええ、その通りよ)


(それでその何かってやるは何なんだ?)


(サラと体温よ)


 俺は意味が分からず首を傾げる。俺は雑な説明をするアリエスを不満気に見つめる。


(焦らないで。ちゃんと一から説明するから。まずサラの方だけどあの神具で移動しているとき私とサラが握手したのは覚えているわよね?)


(ああ、覚えてる)


(その時もヴィクトル氏の時と同じで私の能力が通じなかったの。他の商会員の人たちは読み取れたのに)


(単純に他の奴らが読み取れたのはヴィクトルが読み取らせるために神具なり聖者の能力で防ぐ対象から外したというだけじゃないか?)


(多分それはないわ。私は他の商会員の記憶を読んだからあの商会にとって不利な情報も得たわ。この時点で一介の商会員のサラを守るメリットはなくなった)


 俺はその意見に渋い顔を浮かべる。実際その可能性は高いのかもしれない。だが、あのサラという女性はヴィクトルにとって特別な人間であるため聖者に対抗する神具を与えられていたとか実は彼女自身がアリエスの能力を防ぐことができる聖者であるとか可能性は無数に考えられる。俺が納得しかねているとアリエスはまだ話は終わっていないと言わんばかりに早口でまくし立てる。


(まだ話は半分よ。もう一つの理由を合わせて考えることで私の仮説は成り立つのよ)


 俺はその言葉を聞き思考をやめ、彼女の話に意識を傾ける。


(もう一つの理由はさっきも言ったけど体温よ。ヴィクトル氏とサラこの二人の体はとても冷たかったの。まるで死人のように)


 その瞬間アリエスからあるイメージが流れ込んでくる。それはあまりにも最悪な可能性であった。もしかするとあの二人はすでに死んでいて誰かに操られているのかもしれないそんな可能性。


 そして、ヴィクトルとサラを操作している者があの亡者を発生させた何者かと同一人物であり、その人物はこの街で得体のしれない何かを計画しているのかもしれない。そんな最悪の予感が俺たちの脳裏にちらつき始め重なっていた手は静かに離れた。



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