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第十話 布石

 ゆっくりと開かれた扉の奥からアリエスとヴィクトルが顔を覗かせる。どうやら目的を果たし帰ってきたようだ。二人は俺たちの方へと近づきながら会話を続けている。


「ありがとうございました、ヴィクトル氏。こちらの不躾なお願いを聞いていただいて」


「別に構わないとも。それで私の話が真実だと納得してもらえたのかな?」


「ええ、もちろんです」


 アリエスは満足そうな笑みを浮かべていた。


「それで護衛の件ですが三日後にまたここを訪れればよろしでしょうか?」


「そうしてくれると助かる。午前九時に一階の受付まで来てくれれば会場まで案内する」


「分かりました。ではまた三日後に」


 アリエスたちの話は終わったようでここからは出るようだ。俺はレンリに向かって軽く手を振ると名残惜しそうに手を振り返してくる。


「またな」


「またね」


 俺たちはそれぞれが別れの言葉をレンリに告げる。レンリは最初に出会った時と違い朗らかな笑顔を浮かべている。


「またね」


 アリエスはレンリの明るい表情に少し驚いているようだったが何も言わなかった。俺たちはヴィクトルに軽く会釈をして部屋を出ていく。俺たちが来た道と同じ廊下を歩いていると行きの案内をしてくれた女性が立っていた。


「お待ちしておりました。下までお送りします」


 俺たちは彼女の指示に従い来た時に乗った神具を使う。再び妙な浮遊感が俺たちを襲う。決して心地よくはないが気分を害するほどではない。実に考えられた作りだと思う。俺は神具の作りに興味を抱いてがアリエスは違うものに興味を抱いていたようだ。


「あの……すみません。お名前教えてもらえませんか」


 女性は山葵色の髪を靡かせアリエスの方へ振り向くとにっこりと笑う。


「私の名はサラと申します。以後お見知りおきを」


 長いスカートの裾を持ち会釈する様子はあまりにも完成された所作で人間味というものを一切感じさせない。だが、アリエスは何も感じていないようで唯々見惚れているようだった。彼女ははっとしたように正気を取り戻しこほんと咳ばらいをして再びサラと名乗った女性に目を向ける。


「ご存じかと思いますが私はアリエスと言います。これからもよろしくお願いします」


  そう言ってアリエスは右手を差し出す。おそらくサラの反応を探ろうとしているのだろう。だが、アリエスの思惑など意に介していないようにサラは当然のようにそれを握る。


「はい、存じております」


 サラは一切笑顔を崩さずそう断言する。つまりはアリエスの力も知っていると言うことだ。今まで彼女の力を知っている人間は例え罪など犯していなくても避けるものばかりであった。それも当然である。アリエスに触れられるということは自分の全てが知られるかもしれないという恐怖が常に付きまとうからだ。


 実のところアリエスの能力は一瞬ですべての情報を引き出すことはできないため何もかも知られるということはない。だが、この事実は俺とアリエス、それと教主様くらいしか知らない。これまでの活動から推測くらいはされているかもしれないがそれでも平然とアリエスに触れられるものはそうはいないだろう。俺と同様にアリエスも驚いたのか握られた瞬間体を震わせた。


 しかし、アリエスから握手を要求したのだから何か文句をつけるのもおかしいだろう。アリエスは平静を装い自然に手を放す。すると、タイミングよく音がなり、扉が開く。


「出口までお送りしますね」


 サラはそう言って俺たちが入ってきた扉まで先導して歩いていく。俺たちはその後を黙ってついていく。サラが出口の扉を開けてくれ俺たちは外に出る。


「それではまたのお越しをお待ちしております」


 サラは恭しく頭を下げる。


「また三日後にね」


 アリエスはそう言うと早足で俺を伴い通りの方へ歩いていく。俺はしばらくして後ろを振り向いたら視界の中で小さくなったサラがまだ頭を下げている様子を見てあまりの徹底ぶりに気味の悪さを感じた。


 サラの姿が完全に見えなくなるまで歩を進めたところでアリエスは突然振り返った。


「話があるわ」


 アリエスの蒼い瞳からはいつになく真剣さを感じ取れた。


「どこで話す」


「宿にしましょう。時間的にもそろそろ探さないといけないし」


「了解」


 二人は周りに気を配りながら通りを真っ直ぐに進んでいく。





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