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70.蒼の世界


 夜の刻に入り、いよいよそのときがやってきた。


 アルテリスの女神像の腹部にみんなで触れた途端、フワッと浮くような感覚がして、周囲の景色がいつの間にか別物になっていた。


「……ここが、蒼の古城……」


 まず、夜空に浮かぶ満月の大きさ、まばゆさに驚かされる。


 それなのに、今いる中庭のような場所、それに遠くに見える城の壁はどこもかしこも全部薄暗くて、とにかく青いんだ。どういうところなのか事前にみんなから聞かされてはいたが、想像とは違った空気で重みのようなものをひしひしと感じた。故郷イラルサの村外れにある蝙蝠しかいない洞窟じゃ到底味わうことのできない雰囲気で、これが本物のダンジョンなのだと身震いする思いだった。


「ってか、ほかにパーティーが見当たらないんだけど……」


 あれだけいた冒険者の姿がなくなってるし、周囲を探るが微塵も気配を感じない。


「セクト、そりゃそうでしょ。ランダムで飛ばされるんだし」


「……なるほど」


 ルシアの言葉で納得する。でもあんなに沢山いたわけだから誰か近くにいてもおかしくないんだが、それだけ広いってことか。


「ふふっ、セクトもすぐ慣れるよ。それじゃ、いこっか」


「「「はーい」」」


 バニルの言葉で、みんなが武器を取り出した。彼女は小剣で、突くのに適したタイプの片手剣だ。ルシアは二枚の刃が翼のように両サイドにあるナックル、スピカは両手で持つタイプの槍で、先端は複雑でとても痛そうな形をしている。ミルウは棍棒で、先端に大きな刺々しい球体がついている。


 なんか、みんな武器を持つとそれまでの雰囲気ががらりと変わって、途端にやたらと強そうに見えてくるから不思議だ。お子様のミルウでさえも表情がどことなく凛々しい。俺は勝手に自分がなんとかしなきゃという切迫感さえあったが、徐々に肩の力が抜けてきた。みんな相当強いっていうかかなり手慣れてるなこりゃ……。


 俺は一度深呼吸したあと、みんなから聞かされたことを思い出していた。


 蒼の古城第一層は丸一日かけてもマップの一割ほどしか踏破できないほど広大であり、三カ月に一度開くたびに構造も変化することから、強力なモンスターのジャングルと化しているという第二層よりも難易度は低いとはいえ、攻略自体はかなり難しいらしい。


 第一層に出現するモンスターの数や種類は限られており、戦闘能力よりも体力がものを言うとされているダンジョンだ。半漁兵士、ボーンフィッシュ、コルヌタートル、この三種をそれぞれ30匹ずつ倒すことにより小ボスが出現し、さらにそれを倒すことで中ボス、大ボスとつながっていくわけだが、とにかくマップが広くて敵の数が少ないため、途中で棄権する冒険者もあとを絶たないんだとか。


 ダンジョンからドロップアウトするにはミルウの派生スキル《離脱》を使えばいいことだが、それがない場合はほかの離脱用スキルや高価なアイテムに頼るか、あるいは古城のどこかにある女神像を探し出し、太腿部分に触れればいいのだという。


 とはいえ、そこまで行くにしてもかなりの距離を歩かなければならないと思われるため、体力に加えて帰還スキルがない場合は早めの判断が要求されそうだ。しかも《ステータス》での位置情報も蒼の古城――第一層――と表示されるのみで正確な位置までは把握できないし、迷う可能性もある。


 ちなみに前回はバニル、スピカ、ルシア、ミルウの四人で潜ったものの、途中でみんなの体力が尽きてそこでやめてしまったらしい。ミルウがモタモタしてたせいでモンスターをほかのパーティーに盗られて、探し出すのに体力を使い切ってしまったからだとかルシアが愚痴ってたが、最初にもう歩けないと泣きながら座り込んだのは彼女のほうだとバニルにバラされて恥ずかしそうにしていた。


 バニルいわく一番頑張っていたのはなんとスピカで、最後までにこやかに戦っていたという。本人からしても、毎日の掃除に比べると大したことがないとか。そういや、大体彼女に会うと掃除してることが多いしな。あの規模の宿舎で毎日掃除とか洗濯をしてるんだから、よく考えたら恐るべしだ。


 でもそんなスピカが一目置いているというのがバニルで、一番効率よくモンスターを倒していたし、周りに的確に指示もしていたとか。さすが、【鑑定眼】の持ち主らしく、相手の弱点や戦況を見極めるのが上手いのかもしれない。俺も頑張らなきゃな……。

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