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44.響き合う悪意


「……で、その『インフィニティブルー』に入ってきた、ふざけた新人ってのはどういうやつなんで?」


 冒険者ギルド二階の片隅、モヒカン頭や左目の眼帯、棘の肩当てが特徴の男が、依頼者に対して鋭い眼光を飛ばす。


「へい。セクトっていう名前で、まだ基本スキルさえ習得してないのに普段から周りに固有能力を自慢しまくるいけすかねえ野郎でして……」


 テーブルに視線を落とし、わなわなと拳を震わせるカルバネ。


「……そりゃうぜえなあ。続けてくれ」


「へい……。そいつのせいで、俺たちはもう用なしってことでリーダーにパーティーを追い出されちまったんです。長年メンバーのために汗水垂らして働いてきたっていうのに、ちょっと目立つ固有能力を持ってる新人が来たからって全部パー。こんなの、いくらなんでもありえねーでしょう……」


「なるほどねえ。そりゃあ胸糞だったな。よし、いっちょその話に乗ってやるか」


「ありがてえ、グシアノさん……」


「「「ありがてー!」」」


 カルバネたちに感謝されているこのモヒカン頭の男はグシアノといって、殺しを依頼するパーティーと、それを請け負うパーティーの仲介役を果たしている、殺し屋の世界では言わば重鎮とも呼ばれる存在だった。


 彼の固有能力は【口無し】というもので、基本スキルは《密談》であり、周囲に絶対に音を漏らさないようにするものだ。ランクはDと低めだが、能力が示すように口は極めて堅く、依頼に関しては基本的に直接話をして判断し、大金さえ払えばほとんど断ることはないので、その筋の人間からは重宝されていたのである。


「とはいえ、どんなパーティーに殺しを頼むかはカルバネの心次第だ」


「それはもちろん、承知の上で来ましたんでね。これはほんの気持ちでして……」


 カルバネが恐縮しつつ小袋を取り出し、テーブル上に並べてみせた硬貨は全部で3000ゴーストだった。これは、中位に値するC級パーティーのリーダーがギルドから毎月支給されるものとほぼ同額である。


「へえ……。ほんの気持ちにしちゃあ結構弾むじゃねえか。よっぽど鬱憤が溜まってるみてえだな」


「……へい。駆除に成功したら、この三倍の報酬をお渡しするんで」


「おー、こりゃ驚いた。カルバネの本気を感じたぜ。よし、あいつらに頼んでやろう」


「……あいつら?」


「『ウェイカーズ』だ。知ってるか?」


「……いえ……」


 カルバネの目には明らかに困惑の色が浮かんでいた。


「まあ聞け。ずっと非公式パーティーだったから知らねえのも当然だ。けどよ……赤い稲妻やクールデビルっていうあだ名なら、一度は耳にしたことがあるはずだぜ」


「……なっ……」


 カルバネがはっとした顔を浮かべ、取り巻きの顔が見る見る青くなる。イラルサの村出身である二人の悪名は既にこのアルテリスの町周辺まで響き渡っており、当然カルバネたちの耳にも入っていたのだ。


 アルテリスの市場を拠点にしていたならず者の一人がC級の元中級冒険者だったのだが、一月前に旧友を訪ねにイラルサの村に行った際、赤い稲妻とクールデビルという異名を持つ二人の若者――ルベックとラキル――に酒場で喧嘩を売られ、体中の骨を折られて惨殺されたのだ。既に引退した冒険者相手とはいえ、固有能力のない者が中級者に勝つというのは、それほどのインパクトを残したのである。


「そいつら二人がいるパーティーだっていえば興味あるだろ?」


「……そりゃ、凄く……」


 カルバネの目からは最早不安の色は消えており、口元は綻んでいた。


「今じゃ二人とも強力な固有能力を所持して冒険者の仲間入りを果たしてるってんだから、そりゃもう巷じゃ大騒ぎよ。しかも、そこの新しいボスになったやつが無名だが、これがまた化け物染みた強さらしくてよ……」


「……」


 生唾を飲み込むカルバネ。その脳裏には、無残な姿を晒す予定の『インフィニティブルー』の面々が映し出されていた。


「わかっただろ。俺が期待を裏切らねえ男だって」


「……いやもう、本当に感激っす。あの……」


「ん?」


「俺らも殺しを見物しても……?」


「かまわねえよ。そう伝えておく。そのセクトってのがミンチにされるのを一刻も早く目に焼きつけてえだろうし」


「へい……。よかったな、お前ら」


 緊張した面持ちのアデロたち三人に、カルバネが優しく笑いかける。


「これで憎たらしいセクトをぶち殺せるし、散々見下してきた女どもを死ぬほど抱けるぞ……」


「カルバネさんが一番嬉しそう!」


「いえてますね!」


「……クククッ……」


「お、お前ら……むかつくなあ。そんなに顔に出てるか?」


 カルバネは照れ臭さのあまり骸骨化した。


「……っと、しまった。これじゃ前祝いの酒もこぼれて飲めんな……」


 ちょうどそのタイミングで若い女性のスタッフがすれ違ったこともあり、周囲には笑い声と悲鳴が響き渡ることとなった。

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