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目的の無い旅  作者: スガ
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チレイ森

マサキはチレイ森に到着した

マサキとルビィはヤーシ村を出てから数十分ほど歩いていた。そして、目的地であるチレイ森の目前に立っていた。


「ここがチレイ森か」


「森って言ってもちゃんと道は整備されてますね。あそこが入口みたいですよ」


ルビィの指差す方向を見ると『通行用』と書かれた看板が立っていた。


「何も無いけもの道を通る羽目になるかと思ったがこれなら楽そうだな。それじゃあ行くか」


「いやーーーーーーーーー!!!」


森に入ろうと思ったその時、森の奥から女の叫び声が聞こえた。


「マサキさん!今叫び声が!」


「確かに聞こえた!助けに行くぞ!」


「助けてーーーーーーーー!!!」


森に突入しようと思ったとき、入り口から身長ほどの長さをした棒を持った1人の女が全速力でこちらに向かって走ってきた。その後ろには3羽のカラスが女を追いかけていた。


「お、お兄さん!助けて!このカラスたち追い払うの手伝って!」


「さっきの叫び声はお前か!?ちょ、カラスはどっかに行け!」


追いかけてきたカラスに対して当たらない程度に木刀を振る。女はカラスの意識がこちらに向いたことを確認し、持っていた棒を構えた。


「ありがとうお兄さん!後はこれで全部殴り殺してあげるから!」


「やめろ!追い払う程度でいいから直撃はさせるな!」


「ええ!?なんで!?」


殺意むき出しの女と口論をしながらカラスに対して木刀を振っていると、そのうちにカラスたちは威嚇を止め森に戻っていった。


「よし。とりあえず追い払ったか」


「お兄さん、何で止めたの?」


「むやみに攻撃して、後からもっと集団で襲われたら対応しきれないだろ。それにこっちも複数人だと解れば、あっちもむやみに襲ってはこないだろ」


「へえ、結構冷静だったんだ」


「お前は興奮しすぎだったぞ。・・・あれ?」


軽く会話をしながら女の容姿を確認すると気になることがあった。少し赤黒さを持った長い茶髪。その髪は後頭部の高い位置でまとめられ、うなじの辺りまで垂れている。そしてこの森に1人でいる。


「・・・もしかしてエリカさん?」


「ええ!何で私の名前知ってるの!?」


「さっきまで俺はヤーシ村にいたんだ。そこでイースさんにエリカって娘がメヒラ村に向かったって聞いたんだよ。こんなネックレスも渡されたし」


イースさんから貰ったネックレスをエリカに見せる。どんなリアクションを見せるのか・・・。


「ホントだ、いつもお母さんがつけてるネックレス」


「屋根の修理を手伝ったら渡されたんだ。娘に会ったら見せてほしいと言われて」


「雨漏り治してくれたんだ、ありがと。お母さんから私の話を聞いたってことはあなたもメヒラ村に行く途中なの?」


「ああ、メヒラ村の厄除けを見たくて」


「だったらチレイ森を抜けるのを手伝ってあげるわ。そのネックレスを持ってるってことはお母さんも信頼したことだし、修理してくれたお礼もしたいから」


予想以上に信頼してくれた。それに同行してくれるとはありがたい・・・が


「さっきカラスに追いかけられたけど大丈夫なのか?」


「あ、あれは別問題よ。普段はあんなのに襲われないのに・・・」


「森の中だったら動物に襲われるくらい普通じゃないのか?」


「さっきのは一応魔物よ。ああいうのが来ないように道には魔物除けが掛かってるの」


「襲われるかもしれないのに森に入るのは危険だろ?」


「大丈夫よ。さすがに大型の魔物には襲われないし、君も一緒に戦ってくれるなら安心できるしね」


「道案内してもらう代わりにボディーガードをしろってことか?」


「要約すればね。ところで君の名前は?」


「マサキだ」


「それじゃあよろしくねマサキ。メヒラ村に行こっか」


随分と簡単に信頼を得てしまい、さらには初対面からの呼び捨てに内心困惑していた。

そんな思考をしながら、意気揚々と森に入っていくエリカを追いかけた。




チレイ森に入ると片道一車線ほどの広さで道が整備されていた。道の端には2~3メートル間隔で木の棒が刺さっており、それに札が張り付けてあった。


「なぁエリカさん」


「エリカでいいよ。同世代の人に丁寧語なんて苦手だし」


「随分と道は整備されてるけど、この森を通るって人は結構多いのか」


「よく使う人って言えば行商団とかネコンにいる兵士の人がよく使ってるよ。私たちみたいに別の街に行こうとする人は割と珍しいかな。なんで?」


「思ってたよりも道が整備されてたから。それに魔物の姿も見えないし」


「そこにお札が貼ってあるでしょ。それが魔物除けの結界よ」


「さっきカラスに襲われてたってことは、意味無いんじゃないか?」


「ある程度以上の魔物はこういう結界を嫌がるの。音を鳴らしながら森に入れば熊に襲われないのと同じ感じ。危険や不快感を感じると結界の近くには寄り付かないの」


「結界自体に攻撃性能みたいなのはないのか」


「そう。だからさっきみたいな理性の低い魔物は結界を超えてくるってこと」


エリカと数分ほど話していると、近くの木の枝が揺れガサガサと音がする。念のため腰にさしていた木刀を構え横を見ると、エリカも持っていた武器の棒をすでに構えていた。2人が音のした方向を数秒警戒していると、手のひらほどの体長をしたコウモリ型の魔物が飛びかかってきた。


「ほら、早速やってきた!でもこれくらいなら!」


エリカがコウモリに向かい持っていた武器を思い切り横に振り払うがコウモリは軽々と避ける。コウモリは再び結界の外に飛んでいき、木々の中に隠れていった。振り払った棒は脇腹を少しかすった気がしたが、どうこう言うのは後にしよう。


「ちぇ、逃げられた。こんな感じで小っちゃい魔物はたまに襲って来たりするの」


「なるほど。ところでエリカ、ああいうのには全力で戦う必要は無いと思うが・・・」


「なんで?襲われたんだからちゃんと倒さないとダメでしょ?」


「毎回戦ってたら体力も使うし、さっきみたいに振り回してたら隙が出来て余計な怪我をする羽目になるぞ。近づけないように魔物に向けて軽く振るくらいでいいんじゃないか」


「それじゃあ倒せないじゃない」


「さっきカラス型の魔物に追われてたけど、その時も思い切り振り回してたのか?」


「そっ、そのとおりです・・・」


「逃げる気配が無いなら戦わないとダメだけど、それ以外なら追い払うだけで充分だろ。次に何か来たら俺が追い払うから、むやみに武器を振り回すなよ。一応ボディーガードだし」


「おお、頼りになる~。君についてきてもらって正解だったね」


軽口をたたくエリカに武器が脇腹をかすったことを含め説教をしながら、2人は再び森の道を歩き始めた。




2人が10分ほど歩くと開けた空間にたどり着いた。そこには2つの道と看板が立っており、看板を見るとそれぞれに『メヒラ村』『ネコンの都』と書かれている。


「ここがちょうど中間か?」


「そうだよ。もう10分も歩けばメヒラ村に到着だから」


もうひと踏ん張りかと考えていると、エリカが手を振りながらこっちに来いとジェスチャーをしている。


「見てマサキ」


「何かあるのか?」


「この森に入ったの初めてなんでしょ。じゃあ『あの穴』も見たことないはずだし教えてあげる」


エリカに誘導され、開けた空間に張られた結界の端に立つと10メートル程離れた場所にエリカの言う『穴』があった。その『穴』は5メートル程の直径があり、その周囲を八つの岩としめ縄と札で作られた結界が囲っていた。道中で見た木の棒と札で作った結界とは違うことが一目で理解できた。


「あれは何だ?」


「魔力を持った瘴気を吹き出す『穴』よ」


「魔力を持った瘴気?危なそうだな」


「危ないなんてものじゃないわ。野生の動物が魔物になる理由そのものだから、人があてられたらどうなるか・・・」


「あそこにある結界で瘴気に蓋をしてるってわけか」


「そう。それとメヒラ村でする厄払いの祭で結界を張り直すの」


「えらく簡単に言うな」


「八つの岩があるでしょ。あれで四角形の結界を二重に作ってあるの。その結界を片方だけ作り直してくの」


エリカが『穴』について一通り説明をすると、ゆっくりとメヒラ村への道に歩き出した。


「それがあるから道に結界が張ってあったり、この森の中に魔物が住み着いてるの。そろそろ出口に行こっか、ボディーガードよろしくねマサキ」


「そうだな、日が暮れたら困るし」


エリカと連れられ出口に向かうがそこからは順調そのものだった。脇道から飛んでくるカラスやコウモリ型の魔物をあしらいながら10分ほど歩くと、出口に到着した。想像していたよりも森の移動は少なかったが、森に到着するまでの移動と魔物との戦闘に体力が奪われた。森を出るとエリカは遠くに見える村を指差しながら話しかけてくる。


「あそこに見えるのがメヒラ村。村に着いたらすぐに休めるから頑張ってね」


「はは・・・」


どうやら俺の顔色を見て疲れていることを察したのだろう。急なやさしい言葉に思わず苦笑いが出てしまう。返事をしながら後ろを振り向きチレイ森を見つめる。ここをもう一度通って帰るのかと考えてしまい、ここから先どうしようかと考えながらメヒラ村へ歩き始める。


チレイ森に背を向けた時、森の中で1つの大きな影が動いた。

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