第五十八話 ボス戦(2)
「出たな! 〇ッパ!!」
「シロ君、〇ッパじゃないよ」
ユキの指摘を受けてシロは落ち着きを取り戻した。
(いかんいかん、つい国民的赤いおじさんの気分になってしまった)
シロは、両手剣を構えなおして相手をよく観察する。
相手の鬼王からシロたちの距離は結構あるが鬼王から放たれている殺気のせいかシロとファングは不用意に動けなかった。その感覚にシロは身に覚えがあった、前の防衛戦で戦ったアサシンフロッグ、今目の前にいる相手もそれと同等の強さを感じさせた。
鬼王はギロリ、と前にいるシロとファングを一睨みしてその後方にいるエイミーのほうに視線を移した。視線を受けてエイミーは恐怖で体を震えさせる。それを見たユキとフィーリアはエイミーを隠すように前に出る。
『ニンゲン、ワレノ住処二勝手二入ッタ挙句、ワレノ嫁トナルオナゴヲ攫ッテイクツモリカ?』
「はぁ、勝手に村を襲った挙句女の子を誘拐した奴が言うセリフかよ」
「……自己中」
鬼王の視線からユキたちを守るかのようにシロとファングは相手の視界に割って入った。
『ハッ! ワレハ気ニ入ッタオナゴガ居タカラ、連レテキテヤッタノダ。感謝シテ欲シイクライダ。ココニイレバ何デモ欲シイ物ガ手ニ入ルゾ?』
「い、いやです。わ、私はあの村に帰らないといけないんです! 帰りを待ってくれている人がいるから」
『ナンダト……』
怯えながらも鬼王の言葉を拒否するエイミー。それに鬼王は鋭い目つきをさらに尖らせ、エイミーを睨んだ。その視線に恐怖が浮かび上がる。
『オマエラモ生キテココカラ出ラレルト思ウナヨ』
エイミーを睨んでいた鬼王は今度は殺気の籠った視線をシロたちに向けた。だが、エイミーと違いシロとファングはその視線を真っ向から返し、ユキとフィーリアは少し顔を強張らせているが視線を受け止めていた。
「ユキ、フィーリア、エイミーさんと一緒にそこにいてくれ。出来るならフォローを頼む」
「大丈夫なの? シロ君」
振り返ったシロの目に映ったのは不安そうな顔を浮かべているユキとフィーリアであった。いくらファングがいるとはいえ、レベルが30離れているモンスターを…それも、アサシンフロッグの時と違い、今回は周りを囲むのは真っ赤なマグマである。安全な街の中とは状況が違うのだ。それに、アサシンフロッグの時だって【双銃】を用いてやっと勝てたがファングがいる手前絶対に【双銃】を取り出すことは出来ない。状況は前回の時よりも厳しいことは明らかであった。
自分の力をセーブされた状態での戦闘がどれだけやりづらいかはシロ自身が一番知っているだろう。
「大丈夫だ」
しかし、そんな不安要素で溢れている状態でもなおシロは不敵に笑っていた。
「……そういえば、君ってそういう人だったよね」
窮地に追い込まれれば追い込まれる程予想だにしていない結果を出す。それがシロの、かつて最強と言われていた彼である。そのことを改めて知らされてユキは力なく微笑んで杖を構えた。
「【付加魔法】、《パワー》、《スピード》、《ディフェンス》」
【支援魔法】をシロとファングにかけたユキはフィーリアと一緒にエイミーを後方へと連れて行った。
『ホウ、ニンゲン、ワレト戦ウカ』
「あぁ、悪いがそこを通してもらう」
「…………」
『フッ、ニンゲンゴトキ、ワレモ舐メラレタモノダナ』
シロとファングが自分の得物を相手に向けると鬼王も右手に持っていた金棒を高く宙に掲げた。そして、それをその場で一振りする。
ブオンッ!!
「「…………」」
たった一振りしただけでその場で風が起こり、下から熱せられた空気がシロとファングを包む。まるで格の違いを見せつけるように鬼王は不敵に笑ってシロたちを見下した。
『デハ、始メヨウカニンゲンヨ』
マグマが沸き上がる紅蓮のフィールドで今、戦いの火蓋が落とされた。
☆☆☆☆☆☆
『カカッテ来イ、ニンゲンヨ!』
「……お言葉に甘えて」
シュッ
『…エ?』
ファングが静かに鬼王に言葉を返すとその場から一瞬で姿を消した。急に消えたファングを見て鬼王は呆然とした。が、次の瞬間には顎から強い衝撃が伝わってきた。
『ッ!?』
衝撃は鬼王の顎から上へと伝わり、足が地面から離れ気が付いたら後ろに飛ばされていた。巨大な体躯が飛ばされた衝撃で鬼王は倒れたまま1、2秒ほど放心状態となる。しかし、その隙を見逃すほど目の前にいた二人は甘くなかった。
「……シロ」
「了解です」
倒れた鬼王の耳に何やら不穏当なやり取りが入る。すると、次の瞬間には視界に黒い点のようなものが映り込んだ。が、その点は徐々に大きくなっていきその正体が明らかとなる。
両手剣を振りかぶったシロは、仰向けに倒れている巨大な体目がけて着地すると同時に斬りかかった。
『ノワッ!?』
突如、振り下ろされた剣を寸前のところで鬼王は回避した。巨大な見た目とは裏腹に素早く、回避能力も長けていた。
「ちっ……」
攻撃が不発に終わり舌打ちするシロ。しかし、嘆くのを後に回して鬼王の姿を捉える。長いHPバーがほんの少しだけ減っていた。
シロの隣に来たファングを確認するとシロはおもむろに訊いた。
「ファングさん、今レベルどのくらいですか?」
正直、こういったゲームの中で不本意に自分のレベルなどは明かさないのが常識であるがファングは特に誤魔化す様子もなく口を開いた。
「……135」
「マジか」
ファングのレベルを聞いて絶句しかけるシロ。BGOではレベルの上限がない、レベルを上げようと思えばいくらでも上げられるのだ。しかし、レベル50を過ぎると一般的にレベルが上げにくくなる、その理由は50以降からはレベルアップに必要な経験値が膨大に増えるからだ。上級プレイヤーなどは効率のよいやり方などを知っている者が多いためどんどんと上げられるのだがそれでも100を超えてくるとそれ以上は厳しくなってくる。大抵のプレイヤーたちは100辺りからレベ上げを諦めるのが多くなり、120を超えているのはBGOユーザーの5%くらいに入るだろう。しかし、ファングのレベルは135。そこら辺の上級プレイヤーたちを凌駕している。
ファングのレベルについては置いておいて、そんなファングの攻撃を受けてHPがまるで減ってない敵のほうを問題視するべきだろう。
「随分とタフだな」
「……HPが尽きるまで殴ればいい話」
「まぁ、そうですね」
シロが不安そうに呟くとファングはなんでもないかのように言ってのけた。それにシロは頼もしさと同時に何だか可笑しかった。
『キ、貴様ラ、タダデ済ムト思ウナヨ』
「うお、キレてる」
「……返り討ちにしてやる」
シロとファングが立ち上がった鬼王の怒り具合を見て再び戦闘に集中させた。先ほどは鬼王の油断とファングの奇襲が成功したが相手の怒り方からして次はもうないだろう。シロは剣を構え、相手の出方を窺う。
数秒、お互い睨み合う間が続く。下からぐつぐつとマグマが湧く音が場を支配する。
刹那、先に動いたのは鬼王のほうであった。金棒を両手で持ち上げ、シロたちとの間合いを詰めると一気に叩きつけた。シロとファングはそれを左右に分かれるようにかわした。
「おいおい、あんな馬鹿力で叩きつけたら橋壊れるだろうが」
容赦のない鬼王の攻撃にシロは橋が壊れないか心配しつつ、体勢を立て直して刃先を相手に向ける。一方のファングは素早く相手の懐に入ると固められた拳を鬼王の腹に突き付ける。しかし、鬼王の反応が早く金棒でファングの拳の軌道上に金棒を置いて迎え撃つ。重々しい音が鳴り響き、互いに反動で後ろに下がる。シロはその隙を狙い相手の背後に周り連撃を繰り出す。
『グッ!?』
背中から斬撃を受けた鬼王は呻き声を上げる。すかさず、後ろへ金棒を振るがシロはその攻撃を予想していたらしく易々とバックステップで避けた。
すると今度はファングが鬼王へ蹴りを炸裂させる。攻撃を受け、鬼王のHPは2割ほど減った。
『クソガッ、チョコマカト』
シロとファングの見事な連携で自分の攻撃は当たらないのに自分にダメージは与えられるという状況に鬼王は苛々を募らせたのであった。




