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Break Ground Online   作者: 九芽作夜
第七章 CRIMSON BOY&GREAT GIRL 
303/452

第二百八十五話 リュウとフィーリア3



「く……うぅ……」

「ほらほら、まだまだ来るから構えて」

「は……はい!」


 所変わって深緑の森。木々たちの間から少女の苦しそうな唸り声が聞こえ、少女の頭上からはどこか状況を楽しんでいる声が降って来る。少女が視線を声の方へ上げれば、太い木の枝に腰かけてこちらを見下ろす美青年の笑みがあった。


「矢に関してはどんどん使って貰っていいよー、まだまだたくさんあるから」

「あ、あのリュウさん! これ、あとどのくらいすればいいんでしょか!?」


 森の奥から轟くモンスターの声。それに対して弓を構えながらフィーリアは訊ねる。

 すると、ほぼ同時に木々の間から大きな影が飛び出してくる


「ハクッ!」

「BYUUUU!」


 咄嗟に傍にいた相棒を呼びかけるフィーリア。主人の指示を正確に読み取ったハクは【風壁(ウインドウォール)】を展開。魔法によって作られた壁に衝撃が走る。

 姿を現したモンスターは固い外装を纏う昆虫。無数に蠢く手足は見た者を不快にさせることだろう。


 フォロセネピド Lv102


 ネームバーに表示される名前とレベル。自身とのレベル差を素早く把握したフィーリアはハクの背中へ飛び乗る。


「飛んでハク!」

「BYUU!」


 主人を背にハクは自身の持つ翼を広げ上昇。途端、先ほどまで彼女たちがいた場所に地響きと衝撃音が鳴り響く。壁を突き破ったフォロセネピドの頭が大樹の幹に突っ込まれていた。

 長い胴体、無数に生える足、垂れ下がった二つの触覚に赤く染まった眼。自分より大きな敵にフィーリアは今日何度目か分からない冷や汗を流す。

 

「GIGIGIGI」


 獲物の存在がないことに気づいたモンスターは顔を幹から引っ張り出し、艶のある眼を宙へ向ける。

 フィーリアは腰に装着している矢筒から矢を取り出し、弦を引く。空中で留まり、慎重に狙いを定めると引き絞った弦から手を離した。

 ひゅんっ、と風を切る音。次にはかんっ、と乾いた音が木霊した。


「固い……」


 フォロセネピドの外殻に矢が弾かれたのを見て、フィーリアは敵の防御力が高いことを確認。瞬時に次の手に打つ。


「ハク」

「BYUUU」


 短く相棒に呼びかける。すると、ハクは風の刃を形成させフォロセネピド目掛けて放った。

 鋭利な刃は敵の体を切り込むが、硬く覆われたフォロセネピドの鱗が傷つくことはなかった。


「これもダメ……」

「BYUUU」


 攻撃が通じないことにフィーリアは苦虫を嚙み潰したような顔つきになる。レベル差もあるが、フォロセネピド自身の硬さが凄まじい。あの防御を突破する火力が圧倒的に足りていなかった。

 どうしたものか、モンスターを前に悩むフィーリア。だが、思考する時間はすぐに終わった。


「GGGGGGG」

「っ、ハク避けて!」

「BYU!」


 下から体をバネのように伸縮させ、勢いを最大限まで上げて飛び出してきたフォロセネピド。即座に回避行動を取るフィーリアとハクだが、敵はまるで鞭のようにしなやかに向きを変えて追撃する。

 カタカタ、と鳴る歯音が背後から迫る。体に不釣り合いな口が開き、フィーリアを喰らおうとする。


「どどどど、どうしよう……!?」

「BYUUUUU」


 森を駆け抜ける一頭の天馬と、それを追うフォロセネピド。長い桜色の髪の毛をなびかせ、フィーリアは必死に考える。

 フォロセネピドの体は鎧のように硬い。そして、しなやかな胴体を時にはバネのように、時には鞭のように使いプレイヤーに襲いかかる。

 虫という観点から、火属性の魔法が有効のように思えるがハクは光と風の属性しか持っていないしフィーリア自身も持ち合わせていない。

 ここは、最大火力のスキルを放つか。でも、それで攻撃が通らなかったら詰みだ。

 だが、やらなければやられる。フィーリアは意を決してハクにリュウがいる場所に戻るよう指示する。

 指示を受けたハクはフォロセネピドのかみつきを躱し、大きく旋回すると主を落とさないギリギリの速度で風を蹴る。所々に聳える大樹を避け、森を抜ける。

 やがて、先ほどまでいた開けた場所まで辿り着くとハクは滑空し、地面に足を着ける。飛び降りるように地面に立つフィーリア。矢筒に手を伸ばし、一本取り出す。

 集中。照準を定め、自分が持つ最大火力の攻撃を放つ。


「【狩人の牙(ハンタークリムゾン)】!」

「BYUUUU!!」


 緋色に輝く矢が飛来すると同時に、森の奥からフォロセネピドが姿を現した。フィーリアの隣では、ハクが【嵐魔法】の【ガストテンプル】を放ち、矢に相乗させる。ハクの【嵐魔法】がフィーリアの矢を押し、矢は速度を増した。

 

「GGGGGGGG!」

 

 ハクとフィーリアによる技はフォロセネピドの額に直撃。フォロセネピドの悲痛の声がその場に轟いた。


「やった!」


 苦しそうにもがくフォロセネピドを見て、フィーリアは手ごたえを感じた。

 だが__


「GGGGGGGG!!」

「っ!?」


 数秒痛みに唸っていたフォロセネピドであったが、痛みによる怒りの感情を全身で表現して再びフィーリアに襲い掛かる。

 マズイ、回避を。

 動き出すよりも早くフォロセネピドの顔が近づいていた。

 

 やられる。


 迫り来るフォロセネピドに、フィーリアが冷静にこの後のことを想像した。あの巨体に巻き込まれて、木々に体を打ち付けられて____死ぬ。

 目の前の状況とは裏腹に、頭の中ではデスペナルティの文字を思い浮かべていた。

 しかし__


「【ドラコフロッシュ】」


 頭上から降る、女性の心を掴む静かで清らかな声。

 刹那、フィーリアへ突っ込んでこようとしていたフォロセネピドの脳天に刺さる一本の矢。

 ドゴーン、と地響きが立ち木々の葉が揺れる。


「…………」


 今しがた自分を食い殺そうと迫っていたモンスターが地面に屈する姿に、フィーリアは唖然となる。巨体な虫はピクピクン、体を小刻みに動かす。その光景に、やはりフィーリアの口はポカンと開いたままだった。


「ふぅ、怪我はないかなフィーリア?」


 どうやって降りてきたのか、フィーリアの傍まで移動したリュウは優雅な笑みを浮かべて訊ねてくる。


「え、あ、はい……」

「そう、なら良かった。あっ、トドメっと」


 軽い口調とともに、リュウは手に持つ黒く艶のある大弓の弦を引く。矢を使わずに引き絞られた弓をリュウはいつものごとく口を開く。


「【ドゥマ・カディエンス】」


 宙へ向かって放たれた不可視の攻撃。だが、リュウがスキルを唱えるとサメを模した光が宙に姿を見せた。サメは空中に飛び出すと、急降下。鋭く尖った無数の歯をフォロセネピドへ突き立てた。


「GIIIIIII!!」


 噛みつかれたフォロセネピドは激しい断末魔と共に、光の粒子へと変わり消えた。

 たった二撃。一本だけの矢でモンスターを倒したリュウの微笑は輝いているように見えた。



☆☆☆☆☆☆



「はぁ……」

「大丈夫?」

「はい、ちょっと疲れちゃっただけです」


 戦闘の喧騒から静けさを取り戻した森に大樹の根に背を預けて座るフィーリアにリュウが水を与える。素直に受け取り、乾いた喉を潤す。

 フィーリアが戦闘を始めてかれこれ30分以上。闘ったモンスターの数は30を超えていた。どれもレベル100越え、毎度苦しい戦闘だった。


「うん、レベルもちゃんと上がったね。いやぁ、強行レベリングした甲斐はあったね」

「あの、リュウさん。レベルを上げるのは分かるんですけど……」

「無茶だった?」


 言いづらそうにするフィーリアの言葉をリュウが引き継ぐ。肯定しづらく、反応に困る。

 フィーリアの態度にリュウは安心させるように笑いかける。


「うん、君にはちょっと無理をさせたと思ってる。でも、フィーリアが格上相手にどう戦うのかを見てみたかったんだよ」


 そういえば、戦闘中にやたら強い視線を感じていたがそういう理由だったのか。

 最初に『じゃあ、今からフィーリアに戦って貰おうか』なんて言われたから怪訝な表情を浮かべていたものだ。やはり、リュウにはちゃんと考えがあったのだろう。どことなく、言葉少なく指示を出す姿がシロに似ている。


「……それで? どうでした私……」


 不安そうに見上げる。正直、自分の戦い方に自信が持てない。これまでの戦績も勝率は3割、リュウの手助けがなければとっくの昔に死に戻りしていたことだろう。

 だが、フィーリアの心情とは裏腹にリュウは優しい声色で告げた。


「47点」

「……えぇ~」


 優しい口調でも、評価は厳しかった。

 

「まず、敵の出現に対する反応が遅い。もう少し戦闘の心構えをしておかないと。それとせっかくハクがいるの基本逃げの姿勢はダメだね。敵の挙動を観察するのもちゃんとした戦闘だし、スキルを放つタイミングもちぐはぐ。それから__」

「ちょ、ちょっとタイムです! それ以上は私の心が持ちません」


 ずばずばと、水のように湧き出すダメ出しにフィーリアは懇願する。自分の無力さなどとうの昔に分かっていたつもりだったが、他人にこうも無遠慮に示されると心に刺さる。SAN値が減る気分だ。

 

「ま、色々言いたいことはあるけど、フィーリアには伸びしろがある。それは僕が断言してあげる」

「あ、ありがとうございます」

「だからこそ、勿体ない」


 柔らかい微笑みから一変して、リュウの顔に真剣さが宿る。


「素材はいいのに、出来上がった作品が凡庸になったみたいに勿体ない。君が持つ可能性はそれくらい凄い」


 リュウの口から出る称賛と取れる言葉にフィーリアは目を丸くさせる。先ほどのダメ出しが嘘のように、彼から熱を感じる。


「フィーリア、君は今パーティでは後衛を務めているよね」

「はい、そうです」


 ユキたちと組むパーティは、前衛1、後衛2時々3という編成になっている。誰が言った訳でもなく、自然とそうなっていた。

 それを今、何故確かめたのか。

 フィーリアの疑問に答えるように、リュウは口を開く。


「なら、今から君は中衛になりなさい」

「…………え?」


 リュウの放った言葉に対するフィーリアの呟きが、風と共に森へと抜けて行った。



 



 



 

 

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