第九十六話 伝承
「それにしても、やっぱりエルさんたち強いですね~」
「そりゃ、俺たちと違って年季が入ってんだから当たり前だろ。レベルも高いし」
「ですね、私もあんな風に強くなりたいです」
『………』
グリーンゴリラたちと戦闘を終えて再び歩き出したシロたち。道中、ミルフィーたちの戦いに魅せられたユキが尊敬の眼差しでミルフィーたちを讃えていた。
だが、そんなシロたちの称賛を素直に受け取れない【向日葵の輪】の姿がそこにはあった。それは、明らかにシロたちが自分らよりも優れた連携を目の前で見せられたからである。そして、それを本人たちが無自覚というのだから質が悪い。
「まぁ、それは置いておいてどこに行くかって決めてるんですか?」
エルたちが意気消沈しているのに気づいてか、それともただ単純に疑問に思ったのかシロは先ほどから後ろを歩くエルに訊ねた。エルも話題が変わったことをよしと感じたのでシロの疑問に素直に応じた。
「シロ君は、このフィールドの設定って知ってる?」
「いいえ、ていうか設定があること自体初耳です」
「うん、私も昨日までは知らなかったけどね、昨日あちこち動き回っていたプレイヤーたちが情報を集めたいたらしいんだ」
「掲示板にはそんなことは……」
「そう、掲示板にはそれらの事実は包み隠されている。何故だか解るかい?」
エルの質問にシロと同じように聞いていたユキとフィーリアは首を傾げるばかりである。しかし、シロはすぐにエルの言わんとすることが分かった。
「…ボスに関わること、ということですか」
「その通り。ちゃんと分かっているみたいだね」
「俺が頭を使わないとやっていけないですから」
「はは、なるほど」
エルとシロの会話にユキは何だか自分らがバカにされた気がするが情報を集め、そこから分析するという作業はシロの得意分野でもあるために一概に否定しづらい。
「どういう事シロ君?」
「そもそもこのイベントはどういう趣旨のものだ?」
「えぇと、キャンプを楽しむ?」
「……ボスの討伐だ」
イベントが始まる前に白衣のGMは説明する時にはっきりと口にしていた。『四つのエリアには、それぞれボスを設けている。フィールドを駆け回り、ボスを見つけて倒せば報酬として豪華なものを用意してある』と。つまり、イベントに参加しているプレイヤーの大半はそのボスを討伐するのが目的である。
まぁ、シロたちのように別の目的を持っている者も少なくないだろうが…。
「それで? 隠すほど重要な事がこのフィールドにはあるんですか?」
「まぁ、確実ではないけどね」
エルは自信なさげではあるが、シロには少なくとも周りのプレイヤーには隠すほどのものであると感じた。
「ちなみに俺らに話してもいいんですか?」
それゆえにシロはまずそれらを確認しなくてはならなかった。どういう手段を使ったかは分からないがエルが掴んだ情報を易々と自分らに教えてもいいのかと考えた。
「ハハハ、随分とつれないことを言うじゃないか。今、私たちは一緒に組んでいる小さいレイドパーティみたいなものじゃない。何の問題もなーい」
「…はあ」
シロの心配をまるで介さないようにエルは軽い口調で答える。それを聞いてシロはどこか拍子抜けするとともに彼女の余裕を感じた。
人を観察することに関しては中々のものを持っていると自負しているシロの目がエルを捉える。が、特に何かを隠している様子はないので黙ってエルの話を聞くことにした。シロが沈黙に入るのを見るとエルは自身が掴んだ情報を語り出した。
「このフィールドはね、その昔多くの人が住んでいたらしいんだ……」
遠い昔の事、この地には森と共存している種族がいた。種族は森からの恩恵を受け、そして森にその恩恵を返して暮らしていた。
しかし、そんな平穏なこの地で災いが降り注いだ。大地は割け、木々は倒れ、天は荒れ、モンスターが人々を襲い多くの死者を出した。この災いに種族の人々は自分らでは手に負えないと判断し、神に頼ることにした。この地では、湖の底にこの地を見守っている神がいると伝えられていたのだ。
人々は祈った。どうか、この地に再び平穏を訪れることを。すると、湖の底からぐぐもった声が地上に向かって放たれた。
『この地で住む者から生贄を捧げよ。さすればこの地は守られよう』
種族は神の声の通り、この地で住む者の中から一番の美女を生贄に捧げることにした。
そして、湖の真ん中で生贄として縛られた娘は刻一刻と自分を収める神を待った。すると、湖の底から巨大なこの世の物とは思えない姿をしたものが現れた。
その姿から誰もがそれを神と崇め、次々に祈りを捧げた。一人の娘を犠牲にして…。
「……えっ、終わりですか?」
エルの話が中途半端な所で終わったのでユキが思わずエルに訊ねた。ユキのその質問にエルも苦笑いを浮かべて頷いた。
「ここまでしか私たちも知らないの。この後どうなったのかは、また色々調べないといけない」
「それ、ソースはどこなんですか?」
「さすがに、情報源を教える訳にはいかないなぁ」
「いや、そうではなくて、その伝承? は一体どこから分かったんですか?」
シロの質問にエルも「あぁ、そっちね」と笑った。シロも相手の持っている人脈というかネットワークを詮索するほど礼儀知らずではない。純粋にエルの話した内容がどうして知ることが出来たのか、それが気になった。
そんなシロの素朴な疑問に親切にエルは答えてくれた。
「これは、このフィールドに点在する遺跡から拾ったものだね」
「遺跡、ですか……それはまた、テンプレと言いますかトレジャーな匂いがしますね」
「ワクワクするでしょ?」
「はい!!」
「多分お前だけだユキ」
「嘘っ!?」
エルの話だとイベントが開始してあちこちと動き回っているプレイヤーが遺跡を発見しているらしい。そして、そこで壁画と共に文字があり内容が先程のものであるらしい。
「遺跡に、歴史的な伝承。何かあると見て間違いないですね」
「まっ、そういうこと」
「で、今から私たちはまだ発見されていない遺跡を目指しているわけ~」
シロとエルが会話していると珍しくミルフィーも参加して今回の目的を説明してくれた。恐らく、シロにではなくユキたち言ったのだと思うが。
「なるほど、で、どこにあるのか分かってるんですか?」
「いや、正確には分かってない。だけど、目星は付いているよ」
エルはそう言ってメニュー画面をシロたちの方に向けた。そこには、この森林エリアの地図が書かれており、その上に所々で赤い点が表示されていた。
「えぇと、これは?」
「今現在の時点で発見されている遺跡の場所。そして、ここが今私たちがいる場所」
エルはそう言うと湖から南側を指差す。
「確認されている遺跡の数は現在10ヵ所。そのほとんどが地図で言う所の西側、正確には北西側だね」
「それが?」
「おかしいと思わないかい? こちら側には遺跡がたくさんあって私たちがいる所には遺跡がないなんて」
「まぁ、確かに…」
「だから、これはあくまで私の勘だけどこの付近にもまだ発見されていない遺跡があるんじゃないかなって思うんだ」
「はぁ、言いたいことは分かりましたけど。ほんとに見つかるんですか?」
「人は道の上を歩くんじゃない、人が歩くから道が出来るのだよ」
「おぉ、なんかかっこいい!」
「そ、そうでしょうか……」
エルの発言が何やらユキの琴線に触れてしまったようであるがシロは気にせず話を進める。とにかく、見つかる保証はエルたちにもないらしい。それだけは分かった。
シロとしては、こんなことに時間を割くくらいならさっさと勉強をしたいのだが遺憾ながらユキがテストで高得点を出してしまったためにそれも叶わない。遺跡を調べたいならどこかの考古学者でも雇ってくれって話である。まぁ、同行するけど……。
「それじゃ~張り切って行こう~!」
「おぉ!!」
シロたちへの説明が終わったのを見計らってミルフィーが間延びした声を出す。声量だけは元気だが言葉のせいでやる気を削がれるのはいつものこと。それを承知しているエルたちはシロに内心苦笑いを浮かべながら、先へと進むのであった。




