第九十五話 連携
「ふんふん~ふ~ん」
上機嫌な鼻歌を歌いながらユキは列の一番前を歩いていた。
キャンプイベント二日目、見事シロの課したテストをクリアしたユキは何の気兼ねなく遊ぶことが出来て先ほどからこの調子である。ここ最近も、ゲームをしていても勉強をさせられていたのも原因の一つであろう。
「あまり前に出過ぎるなよ。襲われても知らないぞ」
「は~い」
だが、それくらいでユキの上機嫌が冷静になることもなくルンルンと分かりやすく浮足立っているのであった。ユキの後ろを歩くシロはため息まじりにそれを見ていた。
「それにしても良かったね、皆で探索出来て」
シロの隣を歩くエルが誰ともとれるようなことを口にする。その言葉にシロは反応を見せない代わりに後ろのほうから賛同の声が上がる。
「そうだね。せっかく一緒に寝泊まりしているのに、別行動は寂しいもの」
「「探索ラブ」」
「わ、私も皆さんと一緒で良かったです」
後ろの方からフィーリアや双子の声を聞くとエルは満足そうに頷いた。しかし、一人だけシロと同様に反応を見せない者もいる。
「………」
シロの右後方を歩くミルフィーは、ただ黙々と歩き続けていた。その姿をシロは盗み見してから、小さく嘆息する。ミルフィーの心情としては、ユキやフィーリアと一緒に行動する分にはいいがシロがいるからやりづらいという所だろう。
(いい加減、この現状をどうにかしないといけないなぁ)
いや、実際は特にこの現状をシロが心苦しいとかそういうことではない。ただ、同じ行動をするとなるとあまりギクシャクしたままでは戦闘になった時に支障がでかねない。
(といっても、どうすればいいのか…)
この手の人間関係問題はシロの苦手分野である。
ギルドの長をしていたあの頃は、六人しかいなかったし、全員の仲も良かったこともあってそういったトラブルは皆無であったためどう対処すればいいのか分からなかった。
シロがミルフィーとの関係に頭を悩ましていると、【索敵】に反応があった。
「出ましたね」
シロのその一言で、全員の顔つきが変わった。その反応の速さはさすがトップギルドと呼ばれることはある。
「何匹?」
「7匹って所ですね」
「それじゃ、やりますか」
シロに数を確認するといきなり【向日葵の輪】のメンバー全員が円を組むように向き合った。その行動にシロたちは揃って首を傾げる。
シロたちが呆然としているのに気づいたエルも最初、首を傾げるがすぐに「あぁ…」と何かに気づいたような声を出した。
「ごめんごめん、いつもの癖でつい…」
「あの、一体何をしているんですか?」
「モンスターを狩る人を決めるじゃんけんよ」
「じゃんけん、ですか?」
「うん、レベ上げの時とかで獲物の数が少ない時はいつもこうしてるの」
エルがそう言うとシロたちを除く全員がうんうんと頷いた。
「はぁ、そうですか。ですが……」
シロがそこで一度区切ると苦笑いを浮かべ、指を上へ向けた。
「スゲー強そうなのが一匹いますよ」
ズドーン!!
シロの言葉が終わると同時にシロたちの後方で轟音と共に地面が揺れた。一体、何事かとユキとフィーリアが一斉に振り返るとそこには、身長が3mくらいあるゴリラがいた。太い腕に黒い毛がぎっしりと生えており目は赤く文字通り血走って見える。そのゴリラの登場を少し後からシロたちを取り囲むようにゴリラと同じ毛並みを持つ猿たちが現れた。
グリーンコング Lv82
グリーンモンキー Lv60
「どの辺がグリーンなのかは、まぁこの際放っておいて……。流石に、これは全員でやらないとダメじゃないですか?」
辺りにいる敵のレベルと立ち位置をサッと流し目で確認したシロはそう言った。エルたちも先ほどのおちゃらけた空気がガラリと変わり、真剣な目で敵と向き合っている。
しかし……
「いや、これくらいなら私たちで十分だよ」
不敵な笑みを浮かべたエルがシロに対して言った。その言葉からは決して、強がりや傲慢な考えが浮かび上がっていなかった。
同時にまわりのメンバーも同意するように無表情で構えを取っていた。シロは、品定めするような目を、だが相手にバレないように目の前の少女たちに向けていた。
「……そうですか、なら俺らは見学させてもらいます」
「えっ!? いいのシロ君」
「エルさんたちが戦いたいって言ってんだからしょうがないだろ。楽出来てラッキーじゃねぇか」
「いや、そういう問題じゃないと思いますけど……」
シロたちがそうこうしている内に、エルたちはあっという間に戦闘態勢を整えていた。それを見たシロたちは少しエルたちから距離を取って見学することにした。
「それじゃ、やりますか」
エルが誰に向かってか分からない呟きを口にするが、それを近くで聞いていたメンバーは小さく笑みを浮かべて構える。
「BRYUUUUU!!」
『KEEEEEEEEE!!』
エルたちの戦闘態勢が整うのとほぼ同時にグリーンゴリラとグリーンモンキーたちの雄たけびが木霊し始めた。それを聞くやいな、ギルド【向日葵の輪】の戦いが始まった。
☆☆☆☆☆☆
後衛二、中衛三、前衛一、それが【向日葵の輪】の主なフォーメーションである。エルが前でしっかりとヘイト管理をして、ミカ、ルカの後衛組は支援と援護、そして中衛のミルフィーと双子が敵を蹂躙する、そういう風になっている。このフォーメーションは一言で言えばミルフィーが自由に動き回ることで成立する。
元【六芒星】であり、シルバーと同じ中衛をしていたミルフィーの動きは普通の人と比べて桁外れであり、中々動きを合わせられないエルたちがどうにかしようと立てた策で『好き勝手に動かそう』という結果となった。で、元のフォーメーションにミルフィーがぶち込まれる形となり、今ではトップギルドと呼ばれるほどとなった。まさにミルフィーさまさまである。
「ミルフィーは私と前のゴリラ! ララ、ルルは周りの猿! ミカ、ルカはララたちの援護を基本に!」
『了解(~)!』
素早い指示にメンバーは短く返事をして、指示通りミルフィーとエルはグリーンゴリラに向かっていった。ララとルルは体とは不釣り合いなハンマーとモーニングスターを片手にまわりの猿たちを蹂躙するべく地面を蹴った。その際に、ミカによる全員にバフがかかり一気に攻撃力を上げにかかった。
ステータスがメンバーの中で断トツで上のミルフィー。さらにAGIに振っているからその動きはファングまでとは言わないが素人では目が追えないほど。
そんなミルフィーはあっという間にグリーンゴリラとの間を詰めると挨拶とまでに【アウロラ】で攻撃を繰り出す。
「BRYUUUUU!?」
あまりの剣の速さに自分が攻撃を受けていることを遅れて知ったグリーンゴリラは、分かりやすく戸惑い声を上げていた。
しかし、反撃をしないほど阿呆でもなく、直ぐに目の前にいるミルフィーに対して腕を振り上げる。そして、頂点に達した右腕はそのまま勢いよく振り下ろされようとしていた。
「【ウイングジャベリン】!」
グリーンゴリラの前、ミルフィーの後ろから数本の細い槍が飛び込んできた。槍はグリーンゴリラの腕に直撃し、突然の攻撃を受けたグリーンゴリラは動作に鈍さが現れてしまいミルフィーへの攻撃が遅れてしまった。悠々とグリーンゴリラの攻撃を避けたミルフィーの後ろからエルが大剣を構えて突撃する。
「とりゃぁ!!」
胸当てとスカート、マントという軽装に加えて、大剣を肩に乗せたエルはその巨大な剣を首元目がけて思いっきりスイングした。
「BRYUUUUU!!」
エルの振り切られた大剣が見事なクリーンヒットを決め、グリーンゴリラのHPを一気に減らした。その大剣の攻撃力を見て、よくあれだけで済んだなと純粋に思ってしまうシロ。防御力は結構高そうである。
『KEEEEEEEEE!!』
と、グリーンゴリラとエルたちの戦いに気を配っていたシロは猿たちの高い声に反応してそちらを見る。そこには、見事なコンビネーションで次々にグリーンモンキーを蹴散らしていく双子の姿があった。何がすごいかと言うと一気に標的を定めたララとルルはそちらに向かって行くところへ、途中でそれを邪魔しようとする敵が二人に飛び出してくるのだがそれをボウガンを構えたルカが一ミリのずれを許さないヘッドショットで沈めているのだ。フィーリアの命中率もそこそこのものだと思っていたシロであるがやはりと言うべきか、ルカは涼しい顔して次々に敵の妨害を妨害していた。見事な腕である。
そして、ヒーラーらしきミカは全く回復を必要としないメンバーであるから回復魔法は使わないがきっちりと全体を見てバフが切れないようにしている。これが熟練プレイヤーたちの戦い方というものだろう。
シロたちが(というか、ユキとフィーリアだけだが)心配そうに戦況を見守っていると瞬く間にララたちがグリーンモンキーを掃討し終わった。
「「ブイ!」」
シロたちに向かって無表情でVサインを作って見せるララとルル。その後ろで安堵の笑みを浮かべていたミカとルカは、すぐに目線をミルフィーたちの方へ移した。
つられるようにシロたちもそちらの方へ視線を向ける。すると、ミルフィーの手に持つ【アウロラ】が光りだした。それは、【アウロラ】の真の姿を現す光でありユキが前に液晶画面越しに見ていた光でもある。【アウロラ】の光を握る手に力を籠めるミルフィーに気づいたエルはすかさず相手から離れる。ミルフィーはエルが離れたのを確認すると光を相手に撃ち放った。
「【光の軌道】!」
光線と化した突きは凄まじいスピードでグリーンゴリラの腹に風穴を空けた。
「BRYUUUUU!!」
一気にHPを無くしたグリーンゴリラは雄たけびを上げながらそのまま姿を消した。
戦闘が終わったミルフィーは満足そうに頷くと【アウロラ】を仕舞い、可愛らしくクリルと振り返った。エルも安堵の息を吐くと大剣を背中に収め、シロたちの方へと戻って来た。
「お疲れ様です」
「うん、ありがとう」
「す、凄かったです! やっぱり皆さんお強いですね!」
「私も見てて驚きました」
「いや~照れるな~」
シロたちが口々に出す称賛を受けてエルたちはどこかむず痒いように見えた。しかし、さすがはトップギルドと呼ばれるほどの集団。戦闘にかかる時間が短いし、エルの指示もスムーズで無駄がなかった。個々の力もさることながらちゃんと集団として機能していたことがシロの印象に残った。
そんな、勝利ムードに浸っているメンバーの中でただ一人だけ敵の襲来に気づいた者がいた。そして、その気づいた人物の変化に勘づくことが出来たのは二人。
「【凍槍】!」
『!?』
和気あいあいとしていた空気の中で、突如ユキが白狐を上へ向けて魔法を詠唱した出した。
「KYUUUU!?」
すると、魔法陣から飛び出した数本の槍は空中で何かに当たったようでシロたちの頭上で呻き声が響いた。エルたちが慌てて頭上を見ると、そこには鳥型のモンスターがユキの槍に羽を貫かれている姿があった。
そんなエルたちを他所にシロは【立体機動】を駆使して森に生えている巨大樹の太い幹を忍者のごとく駆ける。そして、ユキの魔法に貫かれてはいるがまだ空中にいるモンスターと同じくらいの高さまでくるとその場から飛び出した。
「落ちろっ」
「KYUUUU!!」
空中に飛び出したシロはモンスターの頭上まで来るとその場で一回転したのちモンスターの頭蓋にかかと落しをかました。重力法則に従って地面一直線にモンスターは落ちていく。
重い物が落ちた衝撃で地面は揺れ、モンスターが落ちた場所には小さくクレーターが出来上がっていた。だが、まだ鳥型モンスターのHPは僅かに残っており、空中から叩き落されたモンスターはボロボロになりながらも頭を上げ、敵を探す。
だが、時既に遅し。鳥型モンスターの視界に桃色の鮮やかな髪色をした少女が自分に向けて弓矢を構えていた。
少女は流れるような動作で弦を引き、照準をモンスターに合わせる。そして、目一杯弦を引いたところで口を開いた。
「【パワーショット】!」
フィーリアの唱えたスキルによって光りを帯びた矢は真っすぐと標的を狙って放たれた。迷うことなく一直線で敵に飛んだ矢はこれまた見事にヘッドショットを決めると僅かだった相手のHPを全損させた。
「ふぅ~、ナイスラスアタフィーリア」
「あ、ありがとうございます」
「う~ん、やっぱり火力が足りないか? ここはどうにかしないとな…」
『………』
突然始まって、唐突に終わった戦闘に呆然としている【向日葵の輪】のメンバーとは対照的に戦いが終わったシロたちは労いと反省を口に出していた。
(いやいやいやいやいやいやいやいや! おかしいよね、絶対おかしいよねこの三人!! 多分索敵系スキルを持っているシロ君は置いておいて、何で二人はあんなに早く行動出来たの!!?)
シロたちの一連の行動に疑問を抱いたエルは内心で思いっきりツッコミを入れていた。上級プレイヤーであるエルたちでも少し敵の認知に遅れたがシロたちは、まるで打ち合わせしていたかのような無駄のない動きと連携を取っていた。それがエルには不思議でたまらなかった。
「ちょっ、ちょっと待って! 何で三人あんなに早く行動出来たの?」
「「「?」」」
エルの疑問にシロたちはキョトンと首を傾げる。一体何がおかしいのかと言いたげである。だが、曖昧な答えを求めていないエルたちは、真面目な顔をしていたのですごく口籠りながらもシロたちは口を開いた。
「えぇと、シロ君が何か気づいたなぁって思って上を見たらモンスターがいたので思わず攻撃して…」
「ユキが先走って攻撃したから、仕方なく先制攻撃は諦めました。んで、ユキの攻撃で落ちてこないから取り敢えず地面に落そうと思って…」
「えとえと、シロ君がなんか木の幹を走っていたので『あぁ、落とすんだな』って分かったので落ちたところを狙いました」
まるでなんでもないかのように答えたシロたちの内容にエルは冷や汗を掻いた。何故なら、一年以上一緒にいるエルたちですら口に出して指示をしないと意図が伝わらないからだ。しかし、彼らは自分たちに匹敵する、いやそれ以上の連携を見せた。それをエルはどこか脅威に感じてしまっていた。
エルがシロたちに若干慄いていると答えを示したシロたちが首を傾げ、揃って声を出した。
「「「…それが何か?」」」




