コンテスト男子の部 選手入場
「レディース&ジェントルメェェン! 本日は我々虎城高校生にとって夏の最高イベント『虎城ミスター&ミスコンテスト』の男子の部が開催されるぜー!!」
『うおおおおおおおっ!!!』
この怒号に近い雄叫び……耳がイカレそうだ。まぁそう思うのも仕方ねぇよな? 何せ、全校生徒収容してるんだからな……虎城高校の体育館は。
「なぁ蓮二、凄すぎじゃねぇかこれ?」
「! あ、ああ。そうだな」
一方、参加者組ら体育館の舞台の両脇にある道具部屋で待機している。隣にいる弘人もそうだが、櫻井も緊張しているのか身体がガチガチになっていた。
「つーか、何で藤木が司会やってんだよ?」
「本人から聞いた話だけどよ……何でもアイツ、新聞部に入部したんだと。それで成瀬先輩が指名したらしいぜ?」
俺たちが前に新聞部に行った後、藤木は個人的に部室に行ったそうだ。そこでどんなやりとりがあったのかは知らないが『新聞部入った』と教えてくれた。
まぁちょくちょく新聞部から情報を仕入れてたから、それなら入部した方がイイと踏んだんだろうな……。
「マジかよ?」
「ああ。それにしても、藤木の野郎は場慣れしてんな」
「……そうだな。板についてるよ、アイツは」
初めて出会って、色々と説明してくれた時から思ってたが、藤木の野郎は人の目とか気にしてなかった。それを買って司会進行を任せたんだろう……。
「二人共、大丈夫かい?」
「え……あ、ちわっす!」
「……どうも」
前回の男子の部優勝者の久坂タツキ先輩。やっぱ流石というべきなのか、元々こういうのに慣れているのかは分からんが堂々としてやがる。
「俺も一年の時は二人のように緊張したよ」
「え……マジすか!?」
「ああ……何せ全校生徒が見てるんだからな。去年も優勝出来ると思ってなかったし」
この人でも緊張させるコンテスト……益々興味が湧いてきた。こればかりは参加しねぇと感じない事もあるか。
「よう、タツキ。それと一年の村田に……紅蓮二」
「あ……香川先輩」
「ど、どうも……」
この野郎、俺だけフルネームかよ。二人には友好的なのに対して敵意剥き出しじゃねーか……ま、俺もこの人苦手だし寧ろ有難い。
「どうも、香川晴彦さん?」
「っ! やっぱテメェ生意気な後輩だなぁ、おい?」
『!』
胸ぐらを掴んでビビらせようとメンチを切ってくるが、この程度何とも思わん。喧嘩慣れし過ぎなのもちょっとした問題だな……。
「やり合うのは別に構わねーけど、コンテスト前っすよ?」
「関係ねぇな。大体俺は前からテメェの事ボコボコにしてやりてぇと思ってたんだからな」
この先輩が馬鹿なのは初めて会って喧嘩売られた時から知ってたけど、ここまでとは思ってなかった。正直やりたくねぇけど……前にイイもん貰ったから、返しとかねぇとな。
「そうかい……それなら恨むなよ?」
「あ?」
ゴッッッ!!!
『っ!?』
てっきり避けるもんだと思ってたけど、綺麗に入ったな。右拳にもちゃんと感触が伝わったが……。
「結構イイ拳持ってんじゃねーか、紅蓮二よぉ?」
「……へぇ」
全く効いてないのか笑ってやがる。それにしても最近こういうの多いな……まぁ、一発で失神する雑魚共よりかはマシだけど。
「こりゃコンテストなんかよりも楽しめそうだ……こいよ?」
「上等……!」
「そこまでにしておけ、香川」
後ろからゆっくりと歩み寄ってきたコンテストに参加するもう一人の三年、猪狩先輩が香川……さんの背中を小突いていた。
「猪狩……」
「喧嘩なら後でやれ。それに、今彼に手を出したら神楽が五月蝿いぞ」
「チッ……! 勝負は預けだ、紅蓮二」
あーちゃんの名前出したら引っ込みやがった……。まぁ無理もない、あの時の迫力は有無を言わさずに黙らせるだけの力があったもんな。
「蓮二、大丈夫か?」
「別にどうって事ねーよ。そういや久坂先輩、安藤先輩の姿が見えないっすけど何処にいるんすか?」
「あぁ……アイツは極度のあがり症でな? 時間ギリギリになるまでは来ないよ」
成程、それでここにはいなかったのか……その理由なら納得出来る。
「それより……紅君。香川先輩には気をつけておいた方がいいよ」
「……どういう意味すか?」
今の久坂先輩からは二枚目の様子が完璧に無くなってる……これ、もしかしてこの人の本気モードなのか?
「俺は一年の時にあの人の喧嘩を見た事があるけど……正直二度と見たくないと思わされる程に相手が悲惨な状態に追いやられるんだ」
「!」
ほぅ……そんなに強いのかよ、あの人。
まぁ確かに前に貰った蹴りは正直効いた。親父との喧嘩にも影響が出る程だったしな……!
「この虎城高校でも残虐非道で通ってる男だ……そんな彼に喧嘩を売ったからには覚悟をキメておいた方がいいよ」
「ご忠告どうも……」
何れ決着は付けてやる。俺がまだまだ未熟なのは分かってるとはいえ、橘組のことも馬鹿にされてるしな……!
ガラッッ!!
「すまない、遅くなった!」
「遅いよ、安藤。ギリギリもいいとこだぜ?」
おおっ、安藤先輩汗だくだけど、全く不快さを感じさせねぇ。寧ろ、何かカッコよく見えるのは何故だ?
「参加者の皆さん、まもなく始まりますので学年順に並んで下さい」
「おっしゃあ! テメェら並べー!」
香川……さんの号令によって一列に並んだ。俺が一番後ろでその前に弘人、櫻井の順で一年、久坂先輩、安藤先輩の順で二年が、そして猪狩先輩にあの人で三年……これで参加者全員揃ったか。
「フゥゥ……」
喧嘩する時とは別の緊張感を味わうのは初めてだ。心臓がバクバクと鳴っているのがハッキリと分かる……。
「時間です! 入場お願いします!」
でも、それが何故か分からないけど心地よく感じている自分がいる。いずれは経験するであろう事を今体験出来た……今後の人生において慣れておいて損はねぇからな。
「行くぞお前らぁぁっ!」
『おうっ!』
ま、優勝すると決めたからには……気合入れていきますか!




