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高校生極道  作者: 華琳
3章 虎城高校 夏の陣
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橘組の宴

「神奈さん、それマジですか?」

「マジもマジ、大マジです。先程母さんと話をしましたから……」


 トレーニングルームで筋トレに励んでいた所に、神奈さんが飛び込んできたから何事かと思ったが、まさかあの茜さんが特別ゲストとしてコンテストに関わる事になるとは……って!


「やっべ……」

「え? どうしたんですか蓮二さん?」


 きょとんとする神奈さん可愛い……じゃなくて! そんな事を今は考えてる場合じゃねぇ!


「コンテストに参加が決まってるって事は、俺の殺し文句を茜さんに聞かれるの確定じゃないすか……」

「あ……」


 今の状況は最悪だ。こんなの公開処刑じゃ……いや、待て待て。元々コンテストである以上、全校生徒の前に晒す事は決まっていたから覚悟してたが、流石にあの人にまで聞かれるのは勘弁してほしい!


「クソッ……」


 正直、勢いに任せたのは今更だけど後悔してる。だが……優勝しなきゃならねぇ。もう引くに引けねぇんだよ俺は!


「それなら蓮二さん、コンテストの参加を取り消しますか?」

「いえ、それはしませんよ。男に二言はねぇっすから」


 一度決めた事を簡単に変えるのは、自分を曲げるのと同じ。俺はそんなダセェ男になりたくねぇ。

 一度しかない人生なんだ。一瞬の恥よりも自分の生き様を大事に……ってな?


「そうですか……」

「まぁ、より覚悟をキメなきゃいけなくなったのは間違いないですけど……」

「ふふっ、確かにそうですね」

「! ……フッ」


 皮肉混じりに嫌味を言った途端に神奈さんが笑みを浮かべ、俺もそれにつられて笑ってしまった。やる種目なんかは決まってるし、逃げない宣言もした以上やるしかねぇ。

 もう腹ぁ括った……うっし、もうちょっとだけトレーニング続けるか!!


 ガチャッッ!


「神奈、蓮二さん。ここにいらしたの」

「っ!?」

「母さん……どうしたんですか?」


 おぉっ、話の元凶様がご降臨なさった。

 それにしても綺麗だよな、この人。とても子持ちとは思えねぇ……二十代でも通るぞマジで。


「そろそろ夕食の時間ですので呼びに来ましたけど、もしかしてお邪魔でした? そうなら二時間後にもう一度来ますが」

「い、いえ結構ですっ! さ、行きましょう蓮二さん!!」

「え、ちょっ、神奈さん!?」


 強引に握られた右手が熱い。引っ張られてるから顔が見えないけど、多分()(だこ)のようになっているだろうな。

 それにしても茜さん……発言が生々しいっすよ。何すか二時間後って? 俺と神奈さんがコトを終える前提で話さないで下さいよ。


「あらあら……まだまだ初心(うぶ)ですわね、神奈は」


 振り向きざまにほくそ笑むこの人の姿を見て『あ、この人単純に揶揄(からか)いに来ただけだ』と思うのであった……。






「ささ、飲んでくれや茜」

「どうも。あなたからのお酌、久しぶりですわ」


 この光景も懐かしく感じるぜ……。

 今日、橘組は茜さんが帰ってきた事によって宴が開催され、今日家にいる組員約五十人がこれに参加していた。


「麗花……ほれ、もう一献」

「あ、ありがとうございます海さん」

「雅人さん、失礼します」

「おう……」


 周りは皆酒を飲んで、話が弾んでいた。去年にはない盛り上がりだ……あの時はこの大宴会の間で親父の隣に座らされて、組の皆から物凄い殺気が立っていたしな。

 それにしても海さんとレイのツーショットは珍しい。後で写メでも撮ろうかね……?


「蓮二さん、どうぞ」

「あ、ども……すんません」


 この中で未成年である俺と神奈さんはジュースを飲んでいた。この前の時のように親父から飲まされそうになった事もあったが、今回は茜さんが止めてくれたから助かった。


「あ、あの……お兄ちゃん」


 それに……今は風鈴ちゃんもいるしな。酔ったら相手が親父とはいえ好戦的になってしまう。もしその対象がこの娘になってしまったらと思うと……!


「お〜い、お兄ちゃ〜ん……」

「ん!? ど、どうした?」

「あの人が神奈お姉ちゃんのお母さんなの?」


 茜さんを指さしながら聞いてくる仕草が何か可愛い。神奈さんとはまた違った可愛さがあるよな、風鈴ちゃんは……って、何考えてんだよ俺は。


「そうだよ。あの人が橘茜さん……隣にいる神奈さんの母親だ」

「ふぅん……そっか、そうなんだ」


 聞いてきた割には淡白な返事だな、おい。もう少しくらい興味示せよ……。


「だから神奈お姉ちゃんもあんな美人なんだね……」

「!」


 訂正、ちゃんと興味を持ってたようだ。決めつけは良くねぇな……反省反省。とりあえず神奈さんが注いでくれたジュースでも飲むか。


「んぐ……あ、これ美味いっすね」


 飲んだ瞬間にほんのり香る白桃……それにジュース特有の甘ったるさが殆どなく、程よい。別にそれを否定するつもりはないが、俺はこういうのが好きなんだよな。


「これなんて飲み物っすか?」

「あ、これはその……実は私の手作りでして」

「嘘ぉ!?」


 スゲェ……! 神奈さん、料理得意なのは知ってたけどオリジナルジュースも作れるのかよ!? つーか照れてる姿可愛いなぁ、おいっ!!


「あ、その、てっきり市販の物かと思って……すみません」

「気にしないで下さい。私も今までジュースはあまり作ってなくて……その、久しぶりに試してみたかったので」


 何か俺が実験体(モルモット)にさせられたような言い方だが、こういうのなら大歓迎だ。神奈さんの作ったもんなら喜んで付き合うぜ。

 ただし、生死がかかるようなモノならいくら神奈さんといえども絶対に断るけどな!


「試すって、何でまた……?」

「女子の部のコンテストには料理の審査があるので、それに備えていたんです。審査でジュースが出されるとは限りませんが」

「!」


 そっか……いくら神奈さんでも初見の料理だってあるはず。だからお題で何が出されてもいいように準備してたんだな。神奈さん、最初は否定側だったのにトコトンやる気じゃないっすか……!


「ハハッ……」

「な、何で笑うんですか?」

「いえ、別に何でも……あー、このジュース美味い!」


 この人、本当にやると決めたら何にでも全力だよな……例えそれが自分が参加する気がないものであったとしても、だ。それがおかしくて思わず笑っちまったよ。


誤魔化(ごまか)さないで笑った理由を話して下さい、蓮二さん」

「いや無理っす」


 理由が目の前にいる貴女だから、何て言えるわけねぇでしょうが。ここは黙秘権を行使させていただきます。






「理由を話して下さい、蓮二さん」

「だから無理ですって、神奈さん」


 あらあら……思ってたよりも二人の仲は進展してるようですね。もしそうでなかったらハッパをかけようかと思ってましたが、その心配はなさそうで安心しましたわ。


「ぷはっ……美味しい」


 それより、蓮二さんの膝に座っているあの可愛らしい娘は誰でしょうか……?


「茜、どないした?」

「あなた、あの娘は誰ですの?」

「あぁ……一週間前まで劉星会って奴等と喧嘩してたんやが、そいつらに拉致られてた子を蓮二が保護したんや。名前は風鈴、とてもええ子やで?」


 ふむ……今度話をしに行きましょうか。今はあの二人の邪魔をしては馬に蹴られますので止めておきましょう。


「それよりあなた、全然進んでませんわね? お酒が」


 いつもなら一升瓶(いっしょうびん)程度、平気で空けるのに今日はその半分だけ……珍しい事もありますね。


「あぁ……いや、皆楽しそうにしとると思ってな?」


 最初に組に来た時はこんな光景が拝めるなんて思ってもなかった程に酷い有様でした。でも、それが今では一つの大きな家族の団欒(だんらん)のように明るい。蓮二さんが来てからはより一層それが強まりましたね……。


「ずっと、こんな平和な時が続けばええなぁ……」

「!」


 極道たるもの、こんな時間を過ごせるのは短い。組長である夫は勿論、神奈の隣にいる蓮二さんも組の若頭である以上、常に命を狙われる立場にあるからです。


「あなたがそんな弱音を吐くなんて、珍しい事もあるんですね?」

「ワシかて人の子や。こんな気持ちになる時もあるわ……お前かてそうやろ?」

「! そうですね……失礼しました」


 そしてそれは組長の妻である私と娘である神奈も同じ事が言えます。人質に取られたことは何度かありましたね、確か……。


「ま、それよりもや。神奈たちの学校でのコンテスト、何時(いつ)あるんや?」

「明後日ですが……それがどうしたんです?」

「ワシもその日は一緒に行くわ。神奈や蓮二が世話になっとるから、理事長に礼を言いにな」


 あらあら……これはこれでまた一波乱が起きそうですわね。でもそれも一興(いっきょう)、かしら?


「分かりましたわ。それじゃあ、お願いします」

「おう……」


 まだ今宵(こよい)の宴は終わりそうにない……いえ、終わらせたくありませんわ。


「ですから答えて下さいっ!」

「だから無理ですって言ってるじゃないすか!?」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん落ち着いて……」

「頭とお嬢が衝突してるー!? 止めるぞ麗花!」

「は、はいっ!」

『わはははは!!!』


 神奈と蓮二さんの二人の間にいる風鈴ちゃんを止める雅人とレイを中心に大いに盛り上がり、橘組(私の家族)が笑顔で(あふ)れているこの光景をもっと見ていたいですから……。

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