喧嘩で怪我するのは仕方ない
ガシャァァァ!
「ぐあっ!」
「ふー……疲れた」
殴られたら殴り返す、まさに子供がやる幼稚な喧嘩……。それを制したのが俺だった。最後に俺が放った一撃が、村田の体を金網に減り込まんとしそうなぐらいになるまでぶっ飛ばし、その音が鳴り響く。
これちょっとやり過ぎたか? 村田の右頬赤く膨れ上がってるし。
「まだ勝負はついてねぇぞ、コラァ!」
「!」
フラフラになりながらも、村田は立ち上がろうとしていた。だがしかし、手足がガクガクと震えており立ち上がろうにも立ち上がれないというのが現状だ。
力も根性も、正直大したものだと俺は感心していた。こんな真っ直ぐな奴、同年代で見たこと無かったからな……。
「クソッタレ! 何で動かねぇんだよ!?」
村田の闘争心はまだ消えてなんかいない。寧ろ今も尚、燃え滾っていると言った方が正しい。だけど、その熱い気持ちに対して身体がついていけてない。
村田は悔しさからか太腿に自分の拳をぶつけ、叱咤激励を繰り返した。
「頼む! 立たせてくれよ!? まだ俺はやれるんだよ!!」
ゴッ! ゴッ!! と、足を殴る鈍い音が響く。だけど、幾らやっても村田の足の震えは止まることは無かった。
そしてそこから十分くらい経過し、村田も諦めがついたのか足を殴るのを止め俺を見上げた。
「止めを刺せ……紅」
「は?」
「止め刺さないなら、俺はまたお前を狙うぞ。勝つまで何度でもな!」
怒気を孕んだ目で俺を睨みつける。これが本当に弱りきった人間がする目だろうか? 獣のように何時でも襲いかかる気満々じゃねぇの。
「フッ……」
「あ!? テメェ何笑ってんだ!」
「いやぁ、スマンスマン。お前って男が面白い奴だと思ってよ? ついつい笑みが零れちまった」
村田という男を見てて俺は分かってしまった。コイツが筋金入りの大馬鹿野郎だってことがな……。
けど、俺はそんな馬鹿は嫌いじゃないし寧ろ好きなレベルだ。友達としてこんな奴は欲しいとさえ思えるほどに、だ。
「何だと……っ!?」
「村田よぉ、その身体じゃもう限界のはずだ。ここは一旦、休戦って事でどうだ?」
「はぁっ!?」
俺の有り得ない提案に村田は動揺していた。まぁそりゃ普通の奴なら強い奴に勝った勝ったと自慢するだろう。だけど、俺は別にそういうのに興味無いんだよな……。
「お前、それ本気で言ってるのか?」
「本気だっての! 俺はいつ何時でもな……」
村田は俺の発言が信じられねぇって感じで大口開けてポカンとしてやがる。仕方の無い事とはいえ、実際俺は嘘ついてねーしなぁ……。
どうやったら信じてくれるかね? と思ったその時
「プッ! 気に入った! 俺の負けでいい!!」
「え?」
何と、奇跡が起きました。村田が自ら負けを認めたのだ。え? おい、さっきまでの気合はどうした!?
「お前確実に勝てるってのに、このタイミングで休戦を申し出た馬鹿は初めてだ! お前最高だわ!!」
「は、はぁ……。どうもありがとう?」
「あー、意地張るのも馬鹿馬鹿しくなってきたわ! ハハハ!!!」
大声で笑う村田を見て、俺はポカンとすることしかできなかった。
何か知らんが、村田の中で吹っ切れたみたいだな……。それにしても喧嘩に負けたってのに笑うって珍しい野郎だ。普通なら悔しさとかが真っ先に出る筈なのによ。
そんなことを思ったその瞬間、ガチャッ!!! と勢いよく扉の開かれた音が聞こえた。
「ん?」
俺はそれに反応して即座に振り向いた。するとそこには神奈さんともう一人、確か同じクラスだったよな? 神奈さんに負けず劣らずで綺麗な金髪ボブの女子の姿があった。
「うっわ、マジか。神奈の言った通り」
「でしょ?」
ん? 神奈さんの言った通りってどういう事だ? 二人で何か話でもしてたのか?
あ、名も知らぬ金髪ボブさんが村田の所に駆け寄った……。
「ほーら村田! しっかりしなさいよ!」
「ちっ、お前かよ萩原……」
おおっ、すげぇ! あの巨漢の村田をいとも簡単に立たせやがった!? しかもケロッとしてるあたり、この女――いや、萩原さんも相当力があるという事だ。少なくとも普通の野郎よりは間違いなく、な。
「蓮二さん」
「神奈さんどうしたんすか? そんな顔して……」
「怪我……してます」
そう言いながら神奈さんは俺の頬にそっと手を添える。その仕草に思わず俺はドキッとしてしまった。
あぁもう! 神奈さん、可愛すぎるからやめて!?
「コレをどうぞ」
「ん? いや、いいっすよ。こんなん手で拭えばいいっすから」
神奈さんが差し出したのは白のハンカチだ。恐らくだが普段から持っているのだろう……。だけど、これを使うわけにはいかない。神奈さんのハンカチ汚すことになるしな。
「だ・め・で・す! 使って下さい!!」
「っ……! 分かりましたよ、神奈さん。それじゃあ、遠慮なく使わせてもらいますからね?」
「はい!」
神奈さんの迫力に負けてしまった俺は、ハンカチを受け取り使わざるを得なくなってしまった。仕方ないかと割り切り、俺は顔をハンカチで拭いた。
予想通りといえば予想通りだが所々に血が付着してしまい、白と赤のコントラストになったハンカチが誕生した。
「神奈さん、その……汚してしまってすみません」
「いいですよ別に。こういう時は仕方ありませんからね! 後、これはこちらで処分しておきます」
「お願いします。そんじゃそろそろ戻って飯食べるとしますわ……。腹減ってしょうがない」
昼食べずに呼び出されて喧嘩したから腹減ってんだよな今。お腹がグーグーとなりそうだぞマジで……
「そりゃ俺もだ。腹減ったわ」
「うおっ!? お前いつの間にこっちに!?」
「悪いんだけどさ紅、手伝ってくんない? 私一人じゃ重くってさー、コイツ」
ケラケラと萩原さんが話しているが、よく見るとプルプルと身体が震えていた。結構無理してたんだな……スマン!
「お、おう! 俺のせいだし手伝うよ、萩原さん」
「さんなんかいらないよ紅。同級生から敬語って気持ち悪いしさ? 呼び捨てでいい」
萩原さんがニカッと笑いながら俺にそう言ってくれた。うーん、可愛い女子の笑顔って不思議とクるものがあるよなぁ? と、俺はこの時思う――って何クソ真面目にどうでもいい事考えたんだ!?
「じゃあ、萩原で。宜しくな……」
「うん、宜しく!」
こうして、俺たち四人は屋上を後にした――――