コンテスト参加決定!?
虎城高校新聞部……校内新聞である『虎城新聞』を発行している部活でもあり、校内情報屋でもある。個人個人によって情報の精度や金額の差はあるもののほぼ正確である、と藤木が教えてくれたっけ……。
「着いた……よ。ここが、新聞部部室」
「あの、あーちゃん……何で門番らしき人いるんすか?」
とても新聞部の部員とは思えないムキムキの男たち……この時期だと特に暑苦しいな。
「ここ、よく殴り込みとか起こるから……対策として、だよ」
「そうなんすか……」
それより……さっきから神奈さん一言も喋ってねーんだけど、滅茶苦茶怖い。今声掛けたら身に纏っている殺気全部ぶつけられそうな程に迸ってんだよな……。
「神楽さん、ご苦労様です」
「今日はどんな御要件で?」
「ここにいる二人と一緒に成瀬と……話がしたい。今、中にいる?」
「はい! どうぞお入り下さい!!」
あーちゃんもあーちゃんでスゲェと思わされる場面、最近増えてきたな。同学年である三年は勿論下級生から人気も高いって結城先輩から聞いてたが……。
「失礼、する……」
「おぉ、神楽先輩に……紅君に橘さんか。どうした?」
うおっ、すげぇ……部屋の殆どが新聞やファイルなんかで溢れている。流石新聞部、と言えばいいのか? よく分からんけど。
「二人が、成瀬に話があるって……」
「うん? 何の話だ?」
「虎城ミスター&ミスコンテストについてですよ。何で俺がメンバーに入ってんですか?」
勝手にエントリーされているのは正直気に入らない。まして俺は参加する気もないのだから当然だ。
「その件についてはコンテストの歴史が原因なんだよ」
「歴史……?」
「そう。今まで参加してきたメンバーはこの虎城高校における校内テストや新聞部が作り上げた喧嘩ランキングの結果に基づいて決められるんだ」
成程、それなら喧嘩がからっきしだと言われていた猪狩先輩も参加出来るわけだ。確か前にあーちゃんがテストで学年トップだと言っていたからな……ってそれよりも。
「喧嘩ランキングって何ですか?」
「あぁ、そういや一年の分は君が来る前に作ったものだから更新を忘れていた。ほら、これだ」
そう言って一枚の紙を俺に突き付けてきたのでそれを受け取った。するとそこには『虎城高校喧嘩ランキング 一年の部』と書かれており、トップテンまで名前が書かれていた。えっと……ん?
「二位が神奈さんと七海って、何で……!?」
「あ、本当ですね。成瀬さん、どうして私もランキングに?」
「君と井口七海がタイマン張って、引き分けた事を知っているからね。当然の結果だよ」
この人たちの情報収集力、半端じゃねぇ……あの喧嘩は俺たち三人だけしか知らないと思ってたが流石情報屋でもある部活ってとこか。
「で、何で俺が一位なんすか……」
「君はあの橘組若頭なのだろう? いくら虎城の学校が “不良学校四大勢力” の一つとはいえ格が違いすぎる。劉星会の頭、范との喧嘩も見させてもらったしな」
「!」
そもそもランキングの基準が分からないからどうしようもないけど、あの喧嘩を見ていたんなら仕方ない……のか?
「そうっすか……ランキングについては分かりました」
「さて、これで話は終わりかな?」
「いえ……まだ終わってませんよ成瀬さん」
俺はまぁ何とか納得? したものの……そんな理由で神奈さんは折れないんだよなぁ。
「え?」
「そんな勝手に決められたランキングに入っていたからと言って、誰しもが喜んでコンテストに参加する訳じゃありませんよ?」
だって神奈さん、超がつくほどの頑固だからな。親子はよく似ると言うが正にこの部分は親父譲りと言うべきだろう。何せ過去に俺と口喧嘩になった時も俺が折れる事が何度もあったし……。
「ふむ……つまり、君たちはコンテストの参加を辞退したいという事かな?」
「はい」
「正直俺も面倒なので、出来れば……」
この流れで成瀬先輩が折れてくれたら儲けもんだが……怪しい。だって何か企んでるかのように不敵な笑みを浮かべているからな。
「まぁ待て。コンテストで一位になった時の特典は知っているか?」
「あー、それならここにいるあーちゃんから聞きましたよ。ペア旅行プレゼントでしょう?」
「お、そっちは知っていたのか」
ん? そっちは……という事は他にも何かあるのか?
「そっちは、というのはどういう意味でしょうか?」
「言葉通りだ。理事長の粋な計らいで旅行券のプレゼントはあるけど、私たち新聞部からもあるのだよ」
何だろう、この人誰かの喋り方に似てるな。しかも眼鏡何時の間にかけてんだよ……?
「新聞部からも……?」
あーちゃんも知らなかったのか、興味を持ち始めていた。今までソファーに座ってのんびりしていたのに俺の右腕にくっついていた。
あの、あーちゃん。当たってます。素晴らしい二つの双丘が……!
「ああ。これは優勝した者同士にしか渡す物だが……特別に教えてやろう」
「勿体ぶらないで早く……!」
「すみません、神楽先輩。それはですね……予約一年待ちで女子なら誰でも知っている有名なスイーツ店 “甘粕” の招待券です」
『え!?』
うおっ、吃驚したぁ! え、何 “甘粕” って? そんなに人気ある店なの? 俺にとっちゃ興味無いから全く知らないんだけど、予約一年待ちのスイーツ店あったのか……。
「成瀬さん、それは本当ですか!?」
「あ、ああ……新聞部部長であるこの私が約束する」
喰ってかかる勢いで成瀬先輩の両肩を掴み上げるが、一体どうしちまったんだ? 神奈さんって興奮するとこうなっちまう事あるけど、そんなに気になるのか?
「分かりました! それならコンテストに参加させて頂きます!!」
「神奈さぁぁん!?」
嘘だろ!? そこいらの頑固親父なんかが可愛いと思える程頑固なあの神奈さんが折れた、だと!?
「成瀬、私も本気で取りに行く」
「おぉっ、神楽先輩も参加でいいですか!?」
「うん」
あーちゃんまで……! 兎に角、分かった事は “甘粕” ってすげぇ店なんだという事だけだ。失礼だけど、普段のあーちゃんって何処か抜けてる感じがしていたからな……喧嘩の時は別だけど。
「紅君、因みに君が優勝したらこの写真も与えよう」
「え?」
おいおい、写真って何のですか? そこいらのアイドルグラビア写真程度ならいらねーから参加しませんって……!?
「なっ!?」
「フフフ……どうだ?」
なん……だと……!? この写真、どうやって手に入れたのか詳しく聞きたいがそれよりもだ! 神奈さんのナースコス姿、やべぇ!! なんて破壊力だよこれ……!?
「成瀬先輩、アンタ最高だわ」
「そうか。それじゃあ、いいんだね?」
笑顔で差し出してきた彼女の右手をがっしりと力強く握り、笑って答えを返してやった。
「はい……出ますよ。そんな最高なモノが懸かってんなら、やるに決まってんじゃねーっすか!」
こうして俺と神奈さんのコンテスト参加が決定したのであった……!




