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高校生極道  作者: 華琳
2章 虎城高校vs劉星会
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極道としての紅蓮二に祝勝会

「お前ら気合入れろ! 今日、この後もう一件仕事あるんだからなー!!」

『うっす!!!』


 劉星会との喧嘩から一週間が経過し、この四神市の街には平穏が訪れていた。劉星会が荒らした店の復興に俺たち橘組も現在大忙しである。

 因みに復興と言っても、俺たちがやるのは荒らされた店の清掃だけで、営業は店の者に任せるけどな。


「頭、津島の姉御が呼んでます。至急外に来て下さいとの事です」

「レイが……? 分かった、すぐ行くわ。おーい、雅人! お前に指揮任せるぞ!!」

「はい!」


 レイの奴、至急って言葉を使うくらいだから余程のことがあったんだろうな……そんな事を考えながら店を出た先には、この暑い中でスーツ姿のレイが待っていた。


「よう、レイ。遅くなってすまんな」

「お待ちしておりました、蓮二様。こちらにお乗り下さい」

「おう」


 このやりとりも最初は慣れなかったが、今となってはこのように平気になってしまった。うーむ、時の流れとは恐ろしい……。


「つーか、わざわざ組の車なんざ用意して何だってんだ? そんなにヤバい事でも起きたのか?」

「いえ……今回は例の男についてです」

「!」


 例の男とは、俺たち虎城高校とぶつかった劉星会の頭……(ファン)である。アイツは結城先輩たちがケジメを付けた後、今は俺たち橘組が身柄を拘束している。ここであの男を事を口にしたのは何か進展があったのだろうか?


「あ、そういやレイ。風鈴ちゃんはあれからどうしてる?」

「え……あ、あの子でしたら私の直属の部下たちが見てくれています。最初は蓮二様とお嬢様にしか懐いていませんでしたが、今はもう組の皆に心を開いてくれていますよ」

「! そうか……良かった」


 劉星会を潰した事で行く宛が無くなってしまった彼女を、俺が保護して橘組に迎え入れたのだ。

 彼女に懐いていた有紗の事も保護してやりたかったが、あの喧嘩で俺にトラウマを覚えてしまったのか、この街から姿を消してしまった。正直やり過ぎてしまったと今更だが反省している……。


「すまないな、レイ? 話の腰を折って……そういやあの野郎は彼処にいるのか?」

「! は、はい……」


 この話題を振った途端、車の中の空気がずっしりと重くなったのを感じた。チッ、またあの場所に行かなきゃいけねぇのかよ……でも、仕方あるまい。これも若頭である俺の務めだからな。


「分かった……とばしてくれ」

「承知しました」


 さてさて、どうなるのかね……?

 助手席に座りながら不安を抱えながら一応の覚悟をキメていた。どんな惨劇が繰り広げられていても吐かない覚悟を、な……。






「スゥゥ……フゥゥ〜……」


 俺が橘組本家にある離れの蔵の前で深呼吸をしているのには理由がある。

 此処は通称 “黄泉(よみ)案内所(あんないじょ)” として橘組では認知されている。何せここで行われる拷問に耐え切れず、精神的にも……そして、肉体的にも崩壊する人間が多いからだ。


「蓮二様……開けますよ?」

「あぁ、頼む」


 ガラッ……!


 相変わらず鼻に突き刺さるヒデェ臭い。正直これに慣れたいとは思わねぇな……。


「ひっ!?」


 范の奴……完璧に心をへし折られてやがる。俺の喧嘩の時に見せた熱い気持ちが、今は一切感じねぇ。

 それにしても、顔の原型留めてねぇな。叩かれ過ぎて傷だらけだし、この男の足元が血溜まりになっている。流石は雅人さんが鍛えた拷問班、仕事が早すぎるぜ……!


「頭、それに津島の姉御……珍しいですね? こんな所に顔出すなんて」


 血で染まったハンマーを手に持ち、俺に不気味な笑顔を向けるこの人は、拷問班でも雅人さんの教えを色濃く受け継いだ男……柏木(かしわぎ)辰馬(たつま)さんだ。


「お久しぶりですね、柏木さん」

「相変わらず、津島の姉御は俺をさん付けで呼びますね? 俺の方が下なんですから呼び捨てで結構ですよ」


 そう、この人はとても二十歳とは思えないほどに、申し訳ないのだが悪い言い方をすると老けている。だからレイもこうやって丁寧に呼んでいるんだが……。


「いえ……この方が呼びやすいので」

「そっすか……」


 意外とナイーブなんだよな、この人は。最初に出会った時、それを気にしているから気にしないでやってくれと雅人さんから教わったっけ……確か。


「今回の一件の黒幕だから気になって様子を見に来たが、どうやら問題ねぇようだな? 柏木」

「! は、はい。後はいつもの様に片付けておきますので」

「おう、頼むぞ……」


 とはいえ、若頭としての立場もあるから俺は呼び捨てにしてしまうんだが、そこに関しては本当に申し訳ないと思う。雅人さんや柏木さんだけじゃなく、歳上の組員全員にな……。

 そして蔵を出た直後――――


「プフゥー! ハァッ、ハァッ……!!」

「蓮二様、大丈夫ですか!?」

「ああ……」


 クソッ、まだやっぱりダメか……どうしても気持ち悪くなっちまう。最初に彼処を出た後は思いっきり吐いてしまったから進歩したといえば進歩したんだろうけど……俺もまだまだって事か。


「それよりレイ……今日の残り一件の店、これから二人で行くぞ」

「え?」

「あの場所は俺たちもしょっちゅう使ってるからってのもあるが、今後も使わせてもらう立場だしよ? 親父の名代(みょうだい)として挨拶もしないといけないからな」

「…………分かりました」


 何でそんな頬を膨らませるんだよ? 別に俺間違った事を言ったつもり無いのに。でも……滅多に見ないレイの膨れっ面、可愛いな。


「ハッ……」

「何がおかしいんですか?」

「別に何でもねーよ。いいから急ぐぞ」


 今日はどうしても夕方迄には仕事全部終わらせなきゃいけねぇんだよ。面倒くせぇけど、な……。






 あれはちょうど喧嘩が終わった翌日の事だった。喧嘩で疲労が溜まっており、しかも休日だったのもあって、家でのんびりしていた時……。


「ん? 電話か……はい、もしもし?」


 ベッドに置いていたスマホの液晶画面も見ずに適当に出たから誰かなんて分からなかったが、正直迷惑だ。さっさと終わらせるか……。


『昨日の今日ですまない。結城だ……今、時間はあるか?』

「! 結城先輩……どうしたんですか? 今日流石に会うのはキツいですよ」

『いや、話が出来ればそれでいい。少し構わないか?』


 劉星会との抗争中に電話したような重苦しい空気を感じさせない、フランクなこのやり取り。昔の俺ならこんな事絶対有り得ねぇって思っただろうな……。


「それくらいならいいですけど……用件は?」

『来週の話になるんだが、劉星会に喧嘩で勝った祝勝会を学校で開こうと考えている。そこで一年の代表格である君と井口に連絡をしておきたくてね』


 祝勝会、か。まさかこんな喧嘩で開くとは思ってもなかったが、終わった後に宴で締めるのはいい手法だと思う……けど、面倒だなぁ。


「七海は何て言ってたんすか?」

『蓮二が参加するなら行く、と彼女は言っていた。だから一年が参加するのは君の一言にかかっているよ』


 七海お前、何て事を言ってくれたんだよ。それに結城先輩の言葉の掛け方が上手いから、参ったな……こんなんじゃ断りにくいじゃねぇか。


「はぁ……分かりましたよ。皆も呼びますんで、俺たち一年は参加しますから」

『そうか……ありがとう。具体的な日時は近い内に連絡する』

「お願いします。そんじゃ、失礼しますね」






 そしてその連絡か三日前にあり、今日の夕方に行うという事に決まったのだ。一応皆にもこの件はLIME(ライム)を使って話したが、全員参加するという返事だけ返ってきた。

 だから、俺も急いで今日の分を終わらせなきゃならねぇんだ……面倒臭せぇけど。


「着きましたよ、蓮二様」

「おう。そんじゃ行くぞ、レイ」


 数多くの風俗店が乱立している、四神市の花街と呼ばれている場所。

 その中でも今回被害に遭った一件の店、橘組の若衆がよく使っているキャバクラ『SIJIN(シジン)』そこに俺たちは来ていた。


「お邪魔します」

「! 橘の頭さん、お待ちしておりましたわ」


 おおう……相変わらずの美貌だなこの人は。キャバクラ『SIJIN』のママ、波瑠(はる)さん。とても若々しく、此処の下の娘たちからの信頼も厚い事から良く相談役に乗っているとか何とか。


「今日はお二人で?」

「いや、後で橘組(うち)(もん)を寄越します……が、その前に確認を。それと、今回の件で迷惑をかけた事、誠に申し訳ない。レイ……」

「はい」


 ゴトン……!


 持っていたアタッシュケースを目の前にあったテーブルに置くと、波瑠さんの表情が強ばっていた。

 ん? それにしてもさっきからレイと波瑠さん以外に視線を感じるような……?


「頭さん、このお金は受け取れませんわ。いつもお世話になってますし、結構ですから……」


 このような対応をしてくる事も想定済みだ。基本、迷惑がかかった店には挨拶回りをしているのだが殆ど断られるんだよなぁ。


「何言ってるんですか波瑠さん? 橘組(うち)の若い奴等だって、こちらでお世話になってます。これは俺たちをいつも客として利用させてくれる感謝と、劉星会の喧嘩で迷惑かけた分、二つの気持ちが入ってるんです。どうか収めて下さい……お願いします」

「っ!」

「蓮二様……」


 で、結局俺が頭下げるしか、納得してもらう方法がないんだ。この店に関しては親父も特に気にかけているから、尚更な……!


「頭を上げて下さい……そのような事をされたら、断れないじゃないですか」

「波瑠さん、それじゃあ……!」

「是非、受け取らせて頂きます」

「ありがとうございます!」


 うっし、これでまとまったか……! 後は仕事をこなすだけだ。さっさと済まさないと間に合わなくなっちまう。


「それじゃあすみません波瑠さん、早速今日の確認なんですけど――」

「その前に、お茶でも如何ですか? うちの娘たちも会いたがっていますので。ほら、彼処」

「ん……?」


 あ……何か見られてるとは思ってたが、店の女の子たちだったのか。殺気は感じなかったからそこまで警戒してなかったけど、気付くと何か妙に意識しちまうな。


「あ、でも今日急いでますから――」

「少しくらい良いじゃないですか? それとも、私みたいなおばさんやうちの娘たちでは不満ですか?」

「え!? いやいや、そんな滅相もない! 波瑠さん美人じゃないですか! それに、店の女の子だって可愛い娘多いし……」


 うわぁ、何言ってんだよ俺!? 波瑠さんがとんでもないキラーパスしてくるから思わず口が滑っちまった……!!


「あらあら、うふふ。お上手ですわね、頭さん?」

「……忘れて下さい」

「無理ですわ。それじゃあ行きますわよ?」

「ちょっ!?」


 この人思ってたより力強っ!?

 それにこの柔らかな感触……くそぅ、逆らえねぇ。こうなったら――――


「レイ、助けて――」

「申し訳ありません蓮二様。私では力になれません」

「レイさーん!?」


 救いの手が潰えた……。こりゃもう接待を受けるしかねぇか。まぁ何とかなるだろ……。






「申し訳ありません、蓮二様」

「別に気にしてねえからいいよ。出来る限り急いでくれ」

「はい!」


 あの後、接待が思った以上に長引き仕事が思うように進まなかった。とりあえず一旦落ち着いた所で雅人さんの好意に甘えて切り上げ、俺は約束の場である学校に向かっていた。


「あ゛〜、疲れた」

「今日は本当にお疲れ様です……帰りはお嬢様と一緒という事でしたか?」

「ああ。神奈さんと歩いて帰る事にするから迎えはいらねぇ」

「分かりました」


 下手に迎え寄越して時間に遅れたら申し訳ないからな。それくらいなら歩いて帰る方がいい。俺が守ればいいだけだしな……って、スマホ鳴ってやがる。しかも、神奈さんから?


「はい、もしもし?」

『蓮二さん、今日もしかして仕事が長引いてますか? 来れないなら結城先輩に連絡しますが……』

「いや、行きますよ。もう少しで学校に着くので」

『分かりました。それでは学校で』

「うす。失礼します」


 電話してきたって事はもう祝勝会は始まってる筈……急がねぇとな。


「後どれくらいかかる?」

「もうすぐ着きますよ。先程の電話は?」

「神奈さんからだ。学校にいるはずだから頼む」


 レイの言った通り、この電話から数分で虎城高校に到着した俺は慌てて駆け出した。

 うわ、グラウンドにすげぇ人数集まってんじゃねぇか……。喧嘩に参加してた奴等含め、殆どの生徒が参加してやがる。


「バーベキューパーティか……悪くねぇな」

「大将もそう思うかい?」

「あぁ……って藤木!?」


 思わず会話してたけど、全く気付かなかった……この野郎、マジで只者じゃねぇ! 何度も何度も人の虚を突くなんてそう簡単に出来る事じゃないからな。


「やっと来たか、大将。そんじゃ皆のとこ行くぞ」

「お、おいっ!? 引っ張んじゃねぇよ!!」


 何か今日は人に引っ張られる事が多いな……って、ちょっと待て。


「もう皆来てるのか?」

「残りは大将だけだよ。つーか何でスーツ姿なん?」

「今回の喧嘩で起きた件の事後処理とか色々やってたんだよ……」


 本当にこの一週間、苦労したぜ。毎日、学校帰ってからは寝ずに街に繰り出しては指揮取ってたからな……。

 今日の二件でやっと落ち着いたから助かる。おかげでこうやってこっちに来る時間も取れたしな……眠いけど。


「それは……お疲れさん。目のクマ、すげえな大将」

「……おう。ありがとな藤木」

「礼はいいよ。おーい、皆ぁ! 大将連れてきたぜー!!」


 正直このまま倒れたいとさえ思うほどに疲れてはいるが……。


「来たか……遅せぇよ蓮二」

「この馬鹿村田、仕方ないでしょうが。神奈が遅れるかもって言ってたんだから」

「やっほー、蓮二君〜」

「お待ちしていました、蓮二さん。お疲れ様でした」


 神奈さんやここで出来た仲間たちだけじゃねぇ……。


「うす……」

「あ、蓮二だ! おーい!!」

「本当すげぇよな、俺たちの大将の索敵スキルはよ?」

「紅蓮二限定だけどね……」


 まだ敵対関係が完全に終わった訳では無いが、七海や他のクラス連中……。


「蓮ちゃん、お疲れ様。はいこれ……」

「あ、あーちゃん。ありがとう」


 思わぬ所で再会出来たあーちゃん……ここにいる皆の顔みたらそんな疲れが吹き飛んだわ。


「来たか、紅蓮二君」

「結城先輩……すんません、遅くなって」

「何、気にするな。君もゆっくりとこのパーティを楽しんでくれたまえ」

「はい」


 それに、これを企画した結城先輩……ありがとうございます。まぁこういう騒がしいのは好きじゃねぇ、が。


「それじゃあ蓮二さん、これを。それと、音頭もお願いします」

「あ、どうも。えーと……そんじゃあ改めてお疲れさん! 乾杯!!」

『かんぱーい!!!』


 偶には悪くねぇ……付き合うとしますか!

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