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高校生極道  作者: 華琳
2章 虎城高校vs劉星会
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異変

「っしゃあ! おい結城、終わったぜ!!」

「見れば分かる。五月蝿いぞ、香川」


 私たち三年は後輩たちが向かった新校舎に雪崩込み、残党刈りを始めていた。旧校舎で白竜相手に少々長引いてしまったのは予想外だったがな……。


「結城先輩、香川先輩!」

「ん……叶か。他の皆はどうした?」

「はい! この階にいた皆は現在、一階にある地下への入口を守っている劉星会本隊と交戦中です!!」

「そうか……」


 因みに、この学校は三階建てで現在私たちがいるのが二階だ。三階には神楽を送り込んでいるから、鎮圧するのも時間の問題だろう……ん?


 ザザッ!!


「こっちは終わったよ……」

「おお、神楽……タツキと一年の村田に柳もいたのか。それと……君は?」

「あ……どうも、結城さん。自分、四神中学三年の長谷川春樹です。勝手ながらこの喧嘩に参戦させて頂きました」


 私の母校でもある四神中学、しかもその中で有名な長谷川春樹か。あの荒れ狂った四神中を中二でシメた男だから知ってはいるが、こんなに小さいんだな……。


「早く下へ行こう。蓮ちゃんはきっとそこにいるはず」

「!」


 確かに紅蓮二君はこの校舎の中にはいなかった。旧校舎に来るわけもないから自然と地下にいる事になるが、神楽のこの自信は何処から来ているんだ……?


「あ、ああ……行くぞ!」

『おう!!』


 地下には恐らくだが、彼だけでなく敵の大将もおそらく一緒だろう。

 そうなるとこの喧嘩、決着は近い……!!






「シッ!」


 ゴッッ!!


 どれだけ拳を打ち込んだ? どれだけ蹴りをぶちかました……? もう数えるのも面倒になる程に攻撃した筈だヨ。なのに……。


「ハァッ、ハァッ……!」

「っ……!」


 全然倒れない……!

 この男、僕に劣らずタフだヨ。こういう相手は骨が折れるネ……!!


「どうした……? そんなもんか!?」


 顔は殴りすぎたから膨れ上がり、血で染まっている。正直見ていて気分の良いものではないヨ。さっさと潰れて欲しいネ……!


「このっ……! 強がってんじゃねぇヨ!!」


 ドガッッッ!!


「がっ!?」

「いい加減くたばれヨ!!」


 これでもかと言わんばかりに何度も、何度も本気で攻撃を仕掛ける。それなのに何度も踏み止まり、足が子鹿のようにガクガクと揺れていても倒れようとしない。

 このボロボロの男の何処にそんな力があるネ……!?


「プッ……!」

「この……! 何故倒れない!?」

「……テメェの攻撃は確かに痛てぇよ。けど、それだけだ」


 痛いだけ……だと? 答えたと思ったら訳の分からない事言いやがって……!!


「どういう意味ネ!?」

「言葉通りだ……テメェの拳や蹴りはガツンと全身に響くものじゃねぇ。ただ痛みが一瞬伝わるだけで、堪えねぇんだよ」

「何……!?」


 痛みだけ……?

 殴ったり蹴れば痛いと思うのは当たり前の事だろう? 他に何が必要なんだヨ、攻撃に!?


「こちとら、その程度の攻撃は喧嘩でとっくに慣れてんだよ……! ナメてんじゃねぇぞ、この野郎!!」

「っ……!」


 獲物を狩る肉食動物のような、そんな目がまだ出来るのかヨ!? しかも心が全く折れていない……!

 クソが……それならもっと叩き込むのみ!! その生意気な口、黙らせてやるネ!!!






「う……」


 あれ……何で寝てんの、私? そういや喧嘩してて誰かに蹴飛ばされたような……。


「シャアァァァ!」


 ドガッッッ!!


「ぐぅっ!」

「っ!?」


 れ、蓮二!? 何でそんなタコ殴りにされてんのよ!? 今すぐ――――


「蓮二さん……!」

「大人しく見ていろ。あの男が大事ならな」

「!」


 そっか成程……そういう事ね。敵は神奈を人質に取ったから動けない訳か。

 卑怯と言えばそれまでだが、喧嘩に卑怯もクソもない。何でもアリだし、これは有効な手の一つだからね……。

 でもさ? それだからって許せる訳ないけどね。私の蓮二をあれだけボコりやがって……! 腸煮えくり返ってるっての!!


「フゥゥゥ……」


 怒り心頭だけど、落ち着け。ここで叫んだら気付かれる……そうなったらおしまいだ。蓮二に反撃のチャンスを作ってやれるのは私しかいないから……!

 ゆっくりと立ち上がり、忍び足で有紗の背後をつく。間合いに入るまでは確実に一歩ずつ歩み寄り……入った瞬間に――――叩く!


「神奈! 伏せなさいっ!!」

「えっ!?」

「っ!?」


 神奈を巻き込まないように打ち込むの難しいけど……拘束が外れたから避けられるでしょ、アンタなら!

 私の声で振り向いた有紗が銃を突きつけるけど、遅いのよ! もうこっちはとっくに仕掛けてんだから!!


「らぁぁっ!!」

「うわっ!?」


 ゴッッ!!


「がはっ!!」


 神奈は何とかしゃがんで躱したか……それにしても綺麗に顳顬(こめかみ)に入ったわね。あれなら流石に立てないでしょ。


「な、七海さん! いつからそんな所に!?」

「五月蝿いわね……蓮二の足引っ張ってんじゃないわよ、この馬鹿」

「うっ……」


 返す言葉がなかったのか、神奈が落ち込み始めた。私だってもし逆の立場だったなら同じだろうから、これ以上は言わないでおこう。

 今はそれよりも――――


「蓮二ぃぃ!」

「っ! な、七海!?」

「こっちは大丈夫だから、さっさとそのチビを倒しなさい!!」


 蓮二にいい加減、喝入れてやらないとね。蓮二の喧嘩をこの目でちゃんと見たいし!


「この……クソガキがぁ!!」

『っ!?』


 嘘でしょ!? 顳顬に蹴り喰らってまだ立てんの!? しかも最悪な事に銃を落とせてなかった!!


「死ねぇ!!」

「っ! 七海さん!」

「え?」


 ドンッ!!


 ちょっと、アンタ何してんのよ……!? 何で私を突き飛ばしてんの……! それじゃあアンタが……!!


 パァン!


「うっ!!」

 

 有紗が撃った弾は神奈の左腕に当たり、そこから血が流れ出した。一瞬何が起こったのか分からなかったけど、腕を押さえてその場に(うずくま)った直後に気がつけば駆け寄っていた。


「神奈! アンタ何してんの!?」

「これで……さっき助けた借りは返しましたよ、七海さん……!」

「馬鹿! 今はそんな事気にしてんじゃないわよ!!」


 最悪だ……! 確実にトドメをさしておけばこんな事にはならなかった筈。こうなってしまったのは、全部私の驕り……! 顳顬に当てたから油断してた……!!


「形勢逆転、だな。小娘」

「っ……!」


 クソッ、人の事言えないじゃんか! 私も結局蓮二の足を引っ張ってるし、神奈に怪我までさせてしまった……! オマケにあの女まで立ち直らせちゃったし……それに銃はまだ手中にある。最悪じゃない……!!


「良い蹴りだったが惜しかったな、井口七海」

「っ……!」

「けど、調子に乗るのはここまでだ。大人しくしてもらうぞ」


 パァン!!


「うぐっ!?」


 右足撃たれた……! 何これ、滅茶苦茶痛いんだけどっ!? しかも血止まんないし……!!


「范様! こちらは大丈……っ!?」

「え……?」


 有紗も私と同じように激励の声をかけようとしたその時、この場の空気が凍てついたように感じたのと同時に、目の前の光景を信じられなかった。

 さっきまであのチビと喧嘩したのに、私たちに気付かれずにどうやってここまで……?


「…………」

「く、紅蓮二!? 貴様何時の間に――」


 ガッッッ!


 咄嗟に銃口を向けようとしたが、それを感じ取った蓮二は銃を持っていた有紗の右手を掴み上げ、それを(ねじ)りあげた。


「ぐぁぁぁっ!?」


 うわ……蓮二の奴、容赦ない。捻るのって、相当体が柔らかくないと結構痛いのよね。そのせいであの女銃落としたし。

 それにしても、情報と違うな……? 柳との喧嘩も渋々しただけで、基本女と喧嘩するのは嫌だって聞いたんだけど……。


「俺、言ったよな? 神奈さんは勿論だが、そこにいる七海にも手を出したら(バラ)す……ってよ?」

「!?」


 嘘……何、この雰囲気?

 学校で見た優しさ何か全く感じない。それに、目が死んだ魚のように光を失っている。しかも蓮二の口から『(バラ)す』って……!


「とりあえず二人を怪我させたケジメとして、先ずはこの右腕な」

「え……ぐあっ!?」


 力づくで投げ倒し、右腕を両手で持ち、背中を右足で全力で踏みつけている。ヤバい、アレはマジなやり方だ! 蓮二の奴、本気で!!


 ボキッッッ!!


「ぐぁぁぁぁっ!!」

「……」


 腕を折られて泣き叫ぶ有紗を、まるでゴミを見るような目で見下ろしている。

 正直、今の蓮二からは恐ろしさしか感じない。ここから逃げ出したいとさえ思える程に……!


「二人共、とりあえずこれで止血してくれ」

「え?」


 突然、着ていたTシャツを脱ぎ出しそれを私たちに手渡した。恐らく破って布地替わりにしろって事なんだろうけど……。

 何その腹筋!? すんごい割れてんですけど! やだ、カッコイイ。益々惚れそう……じゃなくて!!


「神奈さん、それから七海。ちょっと待ってろよ? 二人に怪我させた有紗は勿論だけど、范の馬鹿も(バラ)して来るから」

『っ!?』


 そう言い残して、再び有紗に歩み寄るのを止める事を出来なかった。怪我してる事もだが、私の場合はあの恐ろしい蓮二に惹かれてしまったのも理由の一つだ。


「蓮二……」


 もっと見ていたい……怖いけど、好奇心の方が勝ってしまった。この時、今の蓮二なら絶対に負けない。何故かそんな確信めいたものが私の中で芽生えていた……!





 あんな敵だけを冷たく見下すような目……一年も一緒にいて一度も見た事がありませんでした。

 正直、今のあの人からは恐怖しか感じません……が、私が惚れた唯一の人である事に変わりません。ならば、信じて待つのみ……ですが、もしあの二人を(バラ)そうとするその時は――――


「蓮二さん……」


 何があっても、私が絶対に止めます ……!

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