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高校生極道  作者: 華琳
2章 虎城高校vs劉星会
52/63

チャンスが訪れば、またピンチも訪れる

「いたぞ! 虎城高校の久坂タツキだ!!」

「チッ……!」


 不味いな……さっきから数が増えすぎてる。倒しても倒しても人が雪崩込んでくるのは正直心折れそうだ。

 全員白竜の特攻服……こんなに人数いたのかよ……?


 ガシャァァン!!


『っ!?』

「あー疲れた〜……って、うわ! まだ白竜の奴等これだけいるの!?」

「柳さん……」


 スーツの男を引き()りながら面倒くさそうにし、首をゴキゴキと鳴らしながらこっちを見つめる彼女、柳美紅さんの姿を見てちょっとだけ希望が持てた。あくまでもちょっとだけ……ね。


「でも、こんな事で弱音吐いてたら蓮二君に笑われるか……よっし!」


 頬を叩いて喝を入れ直し、元気を取り戻していた。こんな時に彼女の心の支えになっている、紅蓮二。正直初見では橘組若頭を張る男には見えなかった……けど、今日の彼の背中とこの光景を見て確信に変わった。

 やはり只者(ただもの)でないし、持っているカリスマも本物だと……!


「フッ……」

「先輩、何笑ってんの?」

「いやいや、つくづく今年の一年は頼もしいと思ってね。さぁ、やろうか!」


 僕が先陣を切って突進したその時――――


「おるぁぁぁぁ!!!」

『っ!?』


 下から誰かの雄叫びがこだました。しかも、階段を上る音がすぐそこまで聞こえてくる。しかも一人だけじゃない!?


 ザザッ!!


「あ、虎城高校の人ですか!?」

「そうだけど……君は?」


 ざっと数えて五十は超えてるな。階段が人で埋め尽くされている……それにこの制服は確か四神中学の……?


「俺は四神中学三年の長谷川春樹です! 四神中学総勢二百五十、勝手ながらこの喧嘩に加勢します!!」

「えっ!?」

「行くぞお前ら!!!」

『おおおおおおっ!!!』


 思ってもいなかった援軍だったから思わず声が出てしまった。しかも二百五十人もの人数……!

 恐らくここにいない連中は他の階で皆と戦ってくれているのだろう。これなら鎮圧出来る!!


「負けてられないね、僕らも……! 行こうか!!」

「全員ぶっ飛ばす!!」


 彼等がここに来た理由は気になるが、後回しだ。まずはコイツらを制圧する!!






「グァッ!?」


 奴は目を閉じているから捉えられない筈なのに、何故簡単に攻撃を当てられるんだヨ!?


「ガアァッ!!」


 どんなに速く動いても、完璧に裏をかいて攻撃を仕掛けたと思ってもカウンターで反応してくるネ……!


「シッ!」


 パァン!!


「ぶっ!?」

「フゥゥ……」


 クソッ、この落ち着き……腹立つネ! 今すぐにでもぶっ飛ばしたいヨ!!


「どうした? もう終わりか?」

「そんな訳無いネ……!」


 強がったものの、正直今の奴から攻撃を当てることは難しい。向こうから突っ込んで来てくれたらやりやすいんだけど……そんな事ある訳ないネ。


「来ねぇなら……こっちから行ってやるよ!」

「何!?」


 馬鹿なのか、この男! 自分の優位を捨てて特攻してきた!! 何を考えてんだヨ!?


「うおらっ!」

「っと!」


 綺麗な右ストレートをステップで躱した今なら絶好のチャンスだった。だから反撃しようとしたのだが……!


「チッ!」


 咄嗟にカウンターが来ると思ってしまい、突き出そうとした右拳を引っ込めてバックステップをして距離をとった。

 クソ、何をビビってんだヨ!?


「へぇ……」

「な、何がおかしいネ!?」

「いや、安心したぜ。テメェもちゃんと恐怖ってもんを感じてるんだと思ってな」


 ビビってるのを見破られた!?

 クソッ……クソォッ! 何だよその目は……? 何だその顔は……!? 見下したような笑み……ムカつくんだヨ!!!


「ナメてんじゃねぇヨ! この糞ガキガァ!!」

「ハッ、口は立派だな? 口はいいから拳で来いよ」


 僕の罵倒(ばとう)を涼しげに受け止め、紅蓮二が右手を扇ぐように動かす。その余裕、今すぐ潰してやるヨ! 


「! ……フン」


 円形に囲い込むように移動しながら彼を観察するが、また目を閉じたか。

 となると、狙いはカウンター……さっきまでの攻撃を見れば、当てたのはまぐれでない事はもう分かってる。それに、その状況だと一発しか打てない事もネ!!


 タンッ!


「! そこっ!!」


 残念だったネ、紅蓮二。もう君の攻撃は当たらないヨ!

 カウンター狙いしかなく、しかも目を閉じているなら攻撃を仕掛けるフリをして隙を作ってやればいい。そうすれば向こうは勝手に空振りするからネ……!


 ブォン!!


 狙い通り、簡単なフェイントに引っかかったヨ。相手は攻撃した瞬間はどんな人間であれ、僅かな隙が生まれる……そこを突けばもう一度流れを呼び込めるネ!!


「もら――」

「甘ぇんだよ、范!」

「なっ!?」


 目が……開いて――――!?


 ゴッッ!!


「ぶっ! な、何故……!?」

「何も見えない俺に対してフェイントを混ぜてくる……このやり方の弱点をお前なら必ず突いてくると思ってたよ」

「!」


 読まれていた……! 一か八かの方法ではなく、僕が弱点を見逃さない事まで想定して……!!

 バックステップで距離を取り、相手の出方を見るが先程と違って動く様子が無い。追って来てくれた方が楽なんだけどネ。それにしても……。


「随分と信じていてくれたんだネ、君は」

「あ?」

「僕が弱点に気付く保証なんて何処にも無かったのに……」


 思わぬ発言だったのか、紅蓮二は何故か僕を不思議そうな目で見つめていた。

 先程言った事は嘘ではなく本心だヨ。何故ならば、先程やった彼の芸当は相手である僕を信用していないと出来ない事だからネ……!


「ハッ……何だ、そんな事か? それならお前と出会う前から頭のキレる野郎だと確信していたから出来ただけだ」

「何?」


 出会う前から確信していた? そんな事出来る訳無い……が、実際やってのけたこの男が目の前にいる以上、言えなくなったネ。


「どういう意味だ、紅蓮二? 説明しろヨ」


 思わず足を止めて睨みも効かせたが、向こうは全く通用していないみたいだヨ。何故かは分からないけど、笑っているからネ……!


「……この短期間で “劉星会(りゅうせいかい)” の名を中国マフィアだと噂とはいえ拡散した事と、兵隊は四神市(この街)にいる中国人だけで構成した事。この二点が同時に出来ただけで相当のキレ者だと分かる」


 橘組若頭という立場をナメていた訳じゃない……それにしてもこの二つに気付くとは思っていなかったヨ。

 噂というのは広めてしまえば後は勝手に飛び火するもの。だから、そこに関しては楽だったが……兵隊はこの街の中国人限定にしている事まで掴むとは思っていなかったネ。


「……それで?」

「あと理由はもう一つある。さっきの喧嘩での狙いを見破った速度だ。頭のキレと読みの早さ……それを合わせれば間違いなくすぐに気付くと思ったって訳だ」


 元々警戒していたのに加えて短時間でぬいぐるみの山の中に突っ込んだ狙いを見破ったから、か……。

 参ったネ……思ってた以上だヨ、紅蓮二!


「話はそれで終わりだな? そんじゃ、喧嘩の続きといこうか!」

「!」


 真正面から突っ込んで来た……! それに、何故嬉しそうに笑っている? まるで新しい玩具(おもちゃ)を見つけた子供のように目を輝かせて……!!


「ナメてんじゃねぇヨ!!」


 勢いに任せて掌底を繰り出すが、それが空を切った。目の前から突然消えたように姿が見えなくなった!?


「オルァ!」


 ゴッッ!


「グハッ!?」


 何で、俺はぶっ飛んでいる……? しかも顎が滅茶苦茶痛い……まさかアッパーでもぶちかまされたのかヨ!?


 ドドォッ!


「がっ!」

「よっと……!」


 倒れた所に追い討ちをかけるようにマウントを取られてしまう。目は同じだが笑みは純粋な子供ではなく、悪魔のように見えた。


「俺はずっと待ってたぜ、范。テメェの顔面に、容赦無く拳を振るうこの時をな……!」

「っ!!」


 強く握った拳を目の前で見せたこの男に、身体全身がゾッと鳥肌が立つのを感じた。ヤバイ、これはヤバイ……。


「るぁぁっ!!」


 この男、強ぇヨ……!






「蓮二さん……」


 マウントを取って范を圧倒している姿を見て頼もしさと同時に恐ろしさも感じていました。人を殴っているのを楽しんでいるような……そんな気がしたからです。


「……」


 風鈴ちゃんもあの姿を信じられないのか、少し引いていました。子供には見せられない光景ですから無理もないです。


「范様……!」


 一方で、有紗は焦っているように感じました。先程まで優勢だった者が劣勢な姿を見せられては、そうなるのも仕方が無いと思います。

 私も最初に蓮二さんがいいようにやられているのを見て、焦っていましたから……。


「チッ……なりふり構ってられん。私たちはこんな所で負ける訳にはいかないんだ」

「え……っ!?」


 彼女が懐から取り出したものに、言葉を失ってしまいました。何故なら、彼女の手に握っているものは拳銃……そしてそれを私に突きつけて来たからです……!


「動くな、橘神奈」

「……!」

「有紗お姉ちゃん、何してるの?」


 風鈴ちゃんが何をしているのか分からないから、当たり前のように質問していました。その様子に、彼女は顔を顰めながら風鈴ちゃんの元にしゃがみました。


「すまない、風鈴。寝ててくれ」

「え……むぐっ!?」


 ポケットから何かを取り出し、それを無理矢理風鈴ちゃんの口の中に押し込みました。すると風鈴ちゃんは力を失ったのか、その場に倒れ込みました。


「貴女、一体何を!?」

「睡眠薬を押し込んだだけだ。ここから先は子供には刺激が強すぎるからな」

「!」


 そんな事を口にしながら、彼女はこちらに歩み寄り、私の額に銃口を当ててきました。それによって身体が硬直してしまう私を、有紗はあくどい笑みを浮かべて見つめました。


「お前にはあの男の足枷(あしかせ)になってもらうぞ」

「え……きゃっ!?」

「紅蓮二ぃ!」


 パァン!!


『っ!?』


 銃声に反応したのか、戦っている二人はこちらに視線を向けていました。私の首を後ろから持ち、頭に銃口を突きつけられている光景を見た蓮二さんは、血の気が引いているように感じました。


「今すぐ范様への攻撃を止めろ! さもなくば、この女を殺すぞ!!」

「っ! クソが……!!」


 完全にやられたと言わんばかりに悔しそうにしながら有紗を睨みつけますが、直ぐに立ち上がって范への攻撃を止めました……。


「紅蓮二……今までよくもやってくれたネ?」

「チッ、まだくたばらねぇのかよ……」

「タフだとよく言われるヨ」


 蓮二さんの拳をあれだけ喰らっても平然としている様子を見て、私も動揺を隠せませんでした。

 あの人とは組手を良くしていますから、力がどれくらいのものなのかは身をもって知っています。だから余計にショック……とまではいいませんが、敵ながら恐れ入ります。


「さぁ、今までやられた分を取り返すネ……!」


 范はニヤリと不気味な笑顔を浮かべて、拳をバキボキと鳴らしています。私のせいで、蓮二さんが今から……っ!


「……テメェが俺をどれだけボコろうが構わねぇ。けど……神奈さんは勿論だが、そこにいる二人にも手を出してみろ……? その時は俺がお前らを絶対(ぜってぇ)(バラ)すからな……!!」

『っ!?』


 蓮二さんの口から『(バラ)す』と聞こえた瞬間、この部屋の空気が冷たくなりました。それを感じ取ったのか、私だけでなく二人も緊張しているように見えます。

 あくまでも二人を一瞬見ただけで判断しましたが、それでも今の蓮二さんは恐ろしいと……この私でも感じました。


「来いよ……范」

「じょ、上等ネ! 遠慮なくやらせてもらうヨ!!」


 ゴッッッ!!!

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