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高校生極道  作者: 華琳
2章 虎城高校vs劉星会
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反撃開始

「ハァッ、ハァッ……流石、だネ」


 呼吸が荒くなりつつも言葉を漏らす范を、俺は静観していた。未だに気付かないのか、俺の策にハマりボロボロになっていた。


「ハッ……テメェこそ、大したもんだ」


 しかし、未だに倒れないこの根性……敵とはいえ評価に値するが、厄介な武器持ってんなあの野郎。こういうタイプは嫌いではないが、面倒臭せぇんだよな。


「それはどうも。正直、僕の足をこんな方法で封じるとは思ってもなかったヨ」

「っ!?」


 今、この男は何を口にした? まるで俺の策を分かっていたかのような物言い……まさか


「テメェ……分かってたのか?」

「ああ。君は僕の “縮地(しゅくち)” を見切れないから、こんな方法で向かってきたんだよネ?」

「!」


 縮地……聞いた事がある。

 瞬時に相手の懐に入る為に間合いを詰める移動技、縮地法。まるで瞬間移動のように迫って来る事から、魔法でも使ってるんじゃないかと思わせる程に速く感じるのだ。

 実際この男は俺の目の前で消えるような動きをしていたしな……!


「最初は何故? と、疑問に思ったけど、君の視線で分かったヨ。僕ではなく、崩れるぬいぐるみを見ている事がネ」


 チッ、完全にバレてんじゃねぇか……! でもそれならそれでおかしい。分かっていたんなら


「何で……ガードせず、馬鹿みたいに突っ込んできた?」

「ン? そんなの、喧嘩を楽しみたいからだヨ」

「!」


 コイツ……あっさりと理由を吐きやがった。しかも、昔の俺と同じこの考え。ある意味で似た者同士かもな……!


「けど、そろそろサービスもここまでだヨ。悪いが、これ以上は付き合いきれないからネ!」

「っ!? 待てこの野郎!」


 しまった、完全に虚を突かれた!

 慌てて追いかけるものの、崩れるぬいぐるみが障害物になり、おまけに范の足の速さのせいで差が広がってしまう。


 ズボッッ!!


「待ってたヨ」

「あ――ぶっ!!」


 抜け出した直後に掌底を顔面に打ち込まれ、体がぐらついてしまう。

 クソッタレ! 待ち伏せするならもってこいの状況に、まんまと引っかかってしまった……!!


「さぁ、いくヨ!」


 怯んだ僅かな間に連打を容赦なく叩き込んできやがる。スピードもある上に、力もあるのが本当に(たち)が悪い。


「ぐほっ!?」


 それに加えて最も厄介なのが、防御の縫い目を確実に見逃さない事だ。ガードしてると思っても、気付けば攻撃が当たる。

 何度も喰らえば分かるが、こいつの拳は相当小さい。だからか、ちょっとの隙間でも()じ込んできやがる。本当に面倒な相手だぜ……!


「そんな雑なガードじゃ防げないヨ!!」

「っ……! 調子乗んな!!」


 ブォンッッ!


 ヤベェ、やっちまった……喧嘩において最もやっちゃいけねぇ事を!

 それは相手の挑発に乗り、理性を失う事だ。理性が無くなってしまえばただの本能のままに動く獣になる。時にはこれも重要だが、こんな風に頭を使える奴には危険極まりない。分かっていたのに、大振りなアッパーを打っちまった……!!


「ハイィィィ!!」

「ぐほぁっ!!」


 ドシャアッッッ!!


 その隙を見逃さずに渾身の前蹴りが腹に入って、范との距離が遠くなった。

 今、俺どうなってんだ……? 回ってるように周りが見える。クソッ、勢いがあって止まんねぇ!!


 ゴッッ!


「いだっ!?」


 か、壁にぶつかったのか!? 頭痛ぇ〜!! かち割れるのかと思ったぞ……。


「蓮二さんっ!!」


 あれ? 今、神奈さんの声が聞こえてきたぞ? おいおい冗談だろ? どんだけ蹴飛ばされてんだよ、俺。


「か、神奈さ――!?」


 見ちゃいけねぇ……絶対に駄目だ! 駄目なのに……それを捉えてしまう。目の前に立っているからスカートの中モロに見えてるから、神奈さんの下着が!!


「だ、大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫っす! ほらこの通り!!」


 腕の力だけで身体を起こし、ガッツポーズを決めて神奈さんを見つめた。正直もうちょっと見たかったけど、これ以上やれば多分喧嘩に負ける。

 それだけは何としても避けねばならん! 正直もっと見ていたかったけど!!


「蓮二さん……」

「! ……そんな心配そうな顔、しないで下さい。必ず勝ってきますから」


 不安からか、表情が暗くなっている神奈さんの手を取って勝利宣言を告げた。正直、今のとこは虚勢(きょせい)でしかないが、この人の前で弱音なんて吐けねぇ。


「は、はいっ! 私は信じてますから!!」


 ハキハキとした声と共に俺の手を強く握り返してきた。力を込めてる割には全然痛くないし、俺ならすぐに振りほどける。だけど、この手の温もりをもう少しだけ感じていたかった。


「フゥゥ……」


 正直、喧嘩の最中だってのに心が落ち着く。今までの苛立ちが嘘のように消え去るのを感じる。

 今ならいける! 負ける気しねぇわ……!!


「うし……そんじゃあ、行ってきます」

「はい!!」


 俺は自信を持って堂々と闊歩していた。自然と口角が緩むのが分かる。

 ハハッ、こんなん笑うしかねぇだろ? 調子のいい野郎だって思うだろ? けどよ……?


「?」


 俺にとっての女神から『信じてる』なんて言葉を貰えたら、そうなるのは仕方ねぇよ……!

 神奈さんを一瞥(いちべつ)したら、何か可愛くポカンと反応していたけど……気付いてないならそれで良い。アンタが見てるなら、カッコ悪りぃ所を見せるわけにはいかねぇ。


「イチャラブは済んだかヨ?」


 イライラした様子で首をゴキゴキと鳴らしながら范は俺を睨んでいるけど、全然怖さを感じない。それにしても『イチャラブ』って……そんな風に見えてたのか?


「ハッ、そのおかげで元気出たわ」

「フゥン……? それは良かったネ」


 皮肉のつもりで言ったんだが、鼻で笑われてしまった。何だよ、そこはムキになって突っかかって来いよ? いきなり冷静になられたらリアクションに困るんだが……。


「それじゃあ、再開といこうかネ?」

「! おう……」


 場の空気が変わった……。また、范からピリピリと圧力を感じるようになったか。

 さて、もうぬいぐるみの山の中に誘き寄せる方法も、猫騙しも使えない。けどやるしかねぇ……!


「セイッ!」

「ちっ!!」


 そもそも俺が攻撃を喰らうのは何故だ……? 相手の攻撃を防ごうと攻めの意識が薄いからか? けど、無闇に拳を振り回したところで当たるわけないし、体力も消耗する。


 ドガッ!!


「ぐっ……!?」

「どうしたネ! さっきの勢いは何処に消えたんだヨ!?」


 かといって、このまま受け続けるとジリ貧になるのがオチだ。そもそも目で捉えられないなら――――あ、そうか……そうすればいいじゃねぇか!


「よし……来いよ、范」

「! ……紅蓮二、僕をナメてんのかヨ?」


 さっきまでのご機嫌な様子が一転し、不機嫌になって怒っているのが弾まず突き刺さるように冷たい声音から感じる。

 あー、これ完璧にキレたな? まぁそりゃ仕方ないだろう……。


「いいから来いよ。それともビビってんのか?」


 だって俺、目を閉じているもの……。そのせいで何も見えないけど、その代わり別の感覚が敏感になっている。今はそれを頼りにするしかねぇ。


「上等ネ……! ぶっ潰してやるヨ!!」


 こうやってキレた奴は必ず突っ込むのは間違いない。だが、速さのあるこの男が真正面からとも思えない。

 意識を集中しろ……全感覚を研ぎ澄ませ……!


 タンッ!


「! そこぉ!!」


 向こうが恐らく踏み込んだであろう足音に合わせ、瞬時に振り向き真っ直ぐ右拳を突き出した。


 ズンッッッ!


「グフッ……!?」

「ハッ……!」


 拳が腹に減り込んだこの感覚……手応えアリだな。正直一発で上手くいくとは思ってなかったぜ。けど、これで流れは変わった……!


「さぁ、続けようか? 俺たちの喧嘩をよ?」


 反撃開始といこうか……!!

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