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高校生極道  作者: 華琳
2章 虎城高校vs劉星会
50/63

男は拳で、女は口で?

 喧嘩は先手必勝……これは中学時代に喧嘩で学んだ事だ。素人同士の喧嘩は後手に回れば回るほど、カウンターなんぞ狙いにくいからな。


「おお〜、速いネ!」


 俺のラッシュをちゃんと見て回避している……勘や反射神経だけじゃなく、ちゃんと見極める目も持ってんのかよ。メンドクセェなぁ、おい!


 パァン!!


「ムッ!?」


 それなら、相手の虚をつく動きを見せてやればいい。今俺がやったのは猫騙(ねこだま)し……両手を全力でノーモーションの状態から目の前で叩く技だ。


「うらぁっ!」

「ぐっ!」


 渾身の右ストレートを顔面に打ち込んだが、倒れねぇ。寧ろ意気揚々(いきようよう)として戦意が全く折れて無いのを見ると、相当打たれ強い。

 俺の拳がマトモに入って倒れなかった奴は親父だけだ。大抵、意識が飛ぶか膝をつくからな……。


「思ってたより重いネ……君の拳」


 全然嬉しくねぇ評価だな、オイ。それに……こっちは全力出してんのに何だそのニヤけた顔は?


「気に入らねぇなぁ、その余裕!!」

「オオッ!?」


 チッ、やっぱり当たらねぇ。やっぱりスピードに置いては完全に向こうが上か。さっきの動きを見れたからそんなに驚きはしないが……。


「ン〜……そろそろだネ。観るのは止めだヨ」

「あ?」


 ゴッッ!!


「ぶっ!?」


 今、何をした? 顔面が痛い……それしか分からねぇ。拳だったのか、それとも蹴りなのか……見えなかったから判断の仕様が無い。


「フゥゥゥ……」

「!」


 さっきまでの明るさなんざ感じさせないこの圧力……これが范の本気かよ? ヤベェ、ワクワクが止まらねぇ!


「オルァ!」


 ブンッッ!!


 全力で突っ込んで繰り出した俺の右拳は空を切った。アイツ、何処に消え――――


 ドガッッッ!!


「つっ……! んの野郎!!」


 後頭部に攻撃をくらい、背後にいると思って裏拳を仕掛けながら振り向くがそこには誰もいなかった。

 おいおい、何の冗談だよ!? 怪奇現象でも見てる気分だ……!


 スパァン!!


「ぐふっ!」


 今度は顔面に……! クソ、どうなってんだよ!? 何処から攻撃が来るか分からねぇ!!


「ン〜、最高ネ」

「っ……!」


 やっと姿を現した范は嬉しそうだったが、こっちは最悪だ。何せ動きが捉えきれない以上、攻撃を仕掛けるのが難しい。コイツ、どんな手を使ったらあんな消える動きが出来るんだ……?


「ほらほら、どんどん行くヨ!」

「チッ!!」


 休む暇すら与えないと言わんばかりに再度、姿を消して攻撃を仕掛けて来た。何とか必死に防ごうとするが、向こうはガードの()い目を()い潜って当ててくる。


「そらそらそらァ!!」

「くっそ……!」


 しかも、予想より一発一発の力が半端じゃねぇぞ……!? 流石に親父よりは劣るが、それでもバットで殴られるよりも衝撃が大きい。こんなのマトモに喰らい続けたらヤベェ!!


「うおおおおっ!」

「ンッ!?」


 強引に腕を振り回して何とか包囲網から抜け出し、バックステップで距離を取り睨み合う。

 正直このままじゃ埒があかねぇ。向こうに攻撃が当たらねぇんじゃ、こっちの負けは目に見えてる。猫騙しのような手は二度目からは通用する確率は低い。

 それなら――――


「こっちだ!」

「っ!? 待つネ!」


 俺があるものを目掛けて逃走し、声に反応して後ろを一瞬だけ振り返ると、必死の形相で范は後を追いかけてきている。

 よし、狙い通りだ……!


「誰が待つかよ!? 悔しかったら捕まえてみろ!!」


 ズボッ!!


 何も正面からやり合うだけが全てじゃねぇ。格闘技なんかと違って周りにあるもの全て使っていい。汚い手や道具を使おうが、闇討ちだろうが、勝てば官軍負ければ賊軍になるのが喧嘩だ。

 本来なら正面から殴りあって真っ向勝負をしたいところだが……今回の喧嘩は絶対負ける訳にはいかねぇからな。


「何処まで逃げるつもりだヨ!」


 それに、この男には……神奈さんや七海殴った有紗の分までケジメ付けなきゃいけねぇんだからよ!?


「いや、もういい」

「え――グァッ!?」


 追いかけてくる以上、後ろにいるのは馬鹿でも分かる。だから俺は後ろ蹴りを繰り出した。当然、走ってきたのだから止まれるわけもなくこれが命中した。

 まぁここまでは予想の範囲内……とりあえず上手く中に誘い込めたな。コイツも喧嘩になると熱くなるタイプで助かったぜ。


「さ、続けようか?」

「上等ネ!」


 范はさっきと同じように俺の目の前から姿を消したが、今回は分かるぜ……? お前が何処に移動してるのかがなぁ!


「らぁっ!」

「ガッ!?」


 動いた先に右ハイキックを打ち込んだが、今回は手応えアリだ……! 一撃入った感触が右足に伝わった!!


「さっさと立てよ、范。喧嘩はこれからだろ?」

「生意気なガキだネ……!」


 よし、これならやれるが、問題は向こうがこの方法に何時(いつ)気付くか……その一点だけだが、そうなる前に沈めてやる!!






「成程、そういう事ですか……」


 私はそう呟きながら二人が突進したぬいぐるみの山を眺めました。確かにあの中なら、上手く立ち回れますのでいい方法でしょう。


「貴女も気付いたようですね、橘神奈? それにしても紅蓮二……やはり面倒な男ですね」


 どうやら向こうも分かったようですね……あの人の狙いを。でも(しか)めっ面になるのはムカつきます。後でシメましょうか。


「え……どういう事?」


 蓮二さんは落とし穴にハマって落ちた場所で私たちの発言に疑問を抱いているこの風鈴ちゃんと出会ったんでしょう。それにしても劉星会の連中は何故、こんな子供を監禁するような真似を……?


「范様の長所はあのスピードにある。だが二人が入ったぬいぐるみの山の中なら、范様の消えるような動きはぬいぐるみが障害物になるから出来なくなるんだ」

「え、えっと……どういう事?」


 端的に要点だけを伝えたからか、彼女は理解が追いついていませんでした。仕方ありませんね……。


「つまり、動く方向にぬいぐるみが崩れてしまうので場所が特定されてしまうという事ですね」

「あ……そっか」


 私の補足によって理解してくれたのか、頷いてくれました。それにしても先程からぬいぐるみの山が激しく崩れていきますが二人の姿は見えません。どんな戦いが繰り広げられているのでしょうか……?


「ねぇ、お姉さん」

「えっと……私ですか?」

「うん。お姉さんって……蓮二と仲良いの?」


 ストレートに聞いてきましたね……。正直彼女は敵側だから答えたくは無いですが、こんな純粋な目を子供から向けられたら、答えないなんて選択肢は消えます。

 私はその場にしゃがみ込み、風鈴ちゃんの顔を見つめました。


「私はそう思ってますし、蓮二さんも同じ考えだと思いますよ」

「ふぅん……やっぱりそうなんだ」

「やっぱり?」


 意味深な発言に思わず聞き返してしまいました。子供とは思えないほどに大人らしさを感じさせられるこの感覚をまさかこの娘から受けるとは思ってもいませんでした。


「私といる時はずっと笑顔だったのに、お姉さんとそこで寝てる人を見たら、凄く怒ってたから……」

「!」


 私の後ろで横たわっている七海さんを指し示しながらそう言ってきました。

 全く、恐ろしい人です。子供にも人気があるのは知っていましたが、喧嘩をしていた短い時間の間で、悲しげな表情を風鈴ちゃんは作っています。

 蓮二さん……一体何をしたらそんな風にさせられるんですか?


「お姉さんは蓮二の事、好きなの?」

「えっ?」


 今……この娘はなんて聞いてきたんでしょうか? 好き……って言いました?


「ど、どうしてそう思ったんですか? えっと……風鈴ちゃん」

「うん。だって范のお兄さんに蓮二が『ケジメを付ける』って言った時、嬉しそうだったから」


 よく人の事を見ていますね。子供は大人より人を見ると言いますが、本当にその通りです。


「違った、かな?」

「ううん……違わないですよ。私は蓮二さんの事、好きですから」


 たった一年、長い様で短い時間ではありますが、私はあの人の事を本気で好きになりました。

 この気持ちだけは誰が何と言おうと、(くつがえ)る事はありません……!


「そっか……」

「風鈴ちゃん、こちらからも質問いいですか?」

「え……何?」


 思いもよらない内容を投げかけられてポカンとしていました。ちょっとした意趣(いしゅ)返しにはなりますが、こちらも聞きたい事がありますからね。


「私たちがいなかった間、蓮二さんと何をしていたのか……教えてくれるかな?」

「……うん。いいよ」


 悔しいですが、この喧嘩で私が出来る事は何もありません。仮に加勢しようとしても、隣にいる有紗が邪魔をするのは明白です。

 今、唯一出来る事は蓮二さんの勝ちを信じて待つ事……これしかありません。


「それじゃあ、どこから話せばいい?」

「えっと……蓮二さんが落ちてきた所からお願いします」

「分かった……」


 蓮二さん、絶対に勝って下さい。信じてますから……!

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