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高校生極道  作者: 華琳
1章 若頭、転入します!? 
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蓮二の強さ

 蓮二さんと村田くんが教室から出ていってから用事を済ませて私、橘神奈はお昼の準備をしていた。多分だけど蓮二さん、授業になるまで戻ってこないと思いますから……。 

 折角お弁当作ってきたのに、残念です。


「紅と村田……行っちゃったね、神奈」

「あ、美月!」


 背後から突然現れた私の親友である、萩原美月(はぎわらみつき)と一緒にお昼を食べ始める。美月は小学校の頃からの幼馴染みで、私の家の事も知っています。それでも私と一緒にいてくれる数少ない親友です。


「隣、いい?」

「うん」


 私とほぼ同じくらいのスタイルで、髪が金髪ボブ……なんですけど、私はこの時驚きを隠せずにいました。


「にしても神奈、アンタが男と学校来るとは驚いたよ?」

「男とって言い方はないんじゃない? 美月は私の家のこと知ってるでしょ?」

「まぁね? でも同い年の男で名前呼び、しかもさん付けしてるの紅だけだから。少なくとも、今まで一度も聞いたことないよ? 私」

「うっ……!」


 美月はこういうことに関しては人一倍鋭い。こういう時に迷いなく指摘してくると、人をよく見ているなぁと思えます。買ってきた卵サンドを一口(かじ)って、牛乳を飲みながらニヤニヤしているのはムカつきますが、私今絶対顔赤くなってます……!


「美月! それよりも、髪どうしたの?」

「あ、誤魔化(ごまか)した……」


 話題を変えるべく、強引に話を切り出したのですが……露骨(ろこつ)すぎたからか美月にも誤魔化そうとしているのがバレバレだったみたいです。

 けど、美月はフッと笑って毛先に触れた。


「あ、これ? 染めたんよ。ココ、校則かなり緩いからね! 親は自由におやりなさいって認めてくれたし!」

「それにしても黒から金髪って、結構派手にしたね……」


 家じゃ有り得ない事だから少し羨ましいです。実際、一回してみたいと父さんに話をしたら、大激怒して大喧嘩した事がありました。蓮二さんと出会う前の話ですから蓮二さんは知りませんけど、あの時は父さんと本気で喧嘩したから家が大変でしたね……。


「一度やってみたかったんよ! どう、似合う?」

「うん。美月に合ってると思うよ」

「おぉ〜! ありがとう神奈!」


 美月が満面の笑みで私の肩に手を回してきました。美月はテンション上がった時、大抵こうなるから私は巻き込まれる事が多いのですが、正直嫌いじゃないからこういう事をされても何も言いません。


「それより転入生の紅、大丈夫なん?  あの村田に呼び出されたってやばいでしょ? どう考えても」

「そうかな……?」


 私はそう答えてからお弁当のおかずであるハンバーグを口に運びました。

 村田くんが蓮二さんを呼び出した理由は何でかは分かりません。でも、今あの二人がしてる事はなんとなくだが分かります。恐らく今頃、喧嘩の真っ最中だと思ってます。予想、外れて欲しいですけど……。


「そうかなって……。あのねぇ神奈、アンタ入学式の時の “大嵐闘(だいらんとう)” 覚えてないの?」

「あぁ……。あったね、それ」


 入学式の集会の時に、理事長が発したある言葉によって起きたあの時の光景はまさに一つの大きな嵐そのものだとさえ感じました。誰がつけたのかは知らないけど “大嵐闘” とはよく名付けたものです。上手いと少し感心してしまいましたから。


「私ら一学年だけだったとはいえ……村田は、あの “大嵐闘” で残った “一年五本の指” の一人なのよ? 紅がどれだけやれるのか分からないけど、正直村田相手じゃキツいと思ってるんよ。その辺どうなん?」

「そうだね……私は理事長の隣であの “大嵐闘” を見ていたから、村田くんの強さもある程度は把握出来てるよ? 村田くんは私たち一学年の中じゃ間違いなく群を抜いて強いと思う。けど……」

「けど?」


 蓮二さんの強さも、村田くんの強さも私は知っている……。だからこそ見えるものがあります。あの二人がもしやり合っているのだとしたら――――


「それでも村田くんの方が心配だよ。蓮二さん、やり過ぎないといいんだけど……」

「え?」


 間違いなく蓮二さんに軍配が上がると、私は確信していました。

 私はそう言い放って、再度箸を手に取った――――






「うおらっ!」


 結構速いな、コイツ。この巨躯で思ってた以上に俊敏だ……。パワー&スピードの二つを備えてる奴ってのは結構厄介なんだ。例えばボクシングや空手等、格闘技をやってる奴に素人じゃ勝てないからだ。しかも攻撃が当たらずに、な。

 それにしても拳が放たれた時の音ヤバいな。拳でブォンッて音、普通鳴らないだろ……?


「シッ!」


 俺はワンツーを村田の顔面に命中させる。その時、パパッ! と音が鳴るし、両拳に顔面を綺麗(きれい)に殴った手応えは確かにある。

 だがしかし、この村田という男は想像以上に力があるせいで、俺のワンツーなんかじゃ怯みすらしない。お返しと言わんばかりに、俺に攻撃を仕掛けてくるが――――


「っと! 危なっ!!」

「ちょこまか避けてんじゃねぇ!!」


 喧嘩だからといって真正面からぶつかるだけが喧嘩じゃない。避けながら隙をついて攻撃し、距離を取るヒット&アウェイのスタイルを今、俺は取っている。

 村田がイライラしてるのは俺が攻撃をスウェーしたり、ギリギリのところで攻撃をずっと躱しているからなのだが……避けるのも飽きてきたな。ヒット&アウェイのスタイル、そろそろ終わりにするか!


「うし! それじゃあ、お前の望み通りにしてやるよ。村田……」

「何?」


 俺はニッと笑い、村田に一歩ずつゆっくりと近寄る。廊下を歩くように、至って普通にだ。

 村田は村田で何してるんだこいつと言わんばかりにジト目だが、それはスルーだ。


「お前正気かよ? つーか、何で笑ってんだよこの野郎……!!」

「避けんなって言うから、こうやって近付いてやったんだろうが⋯⋯。それとも何か? お前、ビビってんの?」

「っ!? そんなわけあるか!」


 おっ、挑発に乗った! 助かるぜ村田、お前が単純でよ⋯⋯? 俺はニッと笑みを浮かべ、両手を鳴らして準備を整える。村田は村田で強く右拳を握りしめていた。


「よし、そんじゃあ遠慮なくやり合おうぜ? 村田……来いよ」

「っ! おっしゃぁぁぁ!!」


 村田の雄叫びと同時に、俺たちは拳を繰り出した――――






「な、何でそんな事あっさりと言えんの?」

「うーんとね? 美月に蓮二さんの強さを分かりやすく説明するなら――美月はさ、私の家の事知ってるよね?」


 お弁当を食べ終えた私と美月は再度話を続けました。本来、家の事を出すのは避けたいんだけど⋯⋯この場合は仕方ありません。蓮二さんの強さを簡潔に説明するには、これしか方法がありませんから。


「そりゃ当然だよ。神奈はあの橘組の一人娘、でしょ?」

「そう……。うちの家は極道組織の橘組。しかも生粋の武闘(イケイケ)派で有名なの知ってるよね。だから当然だけど喧嘩が強くないと組員にすらなれないって、話をしたの覚えてる?」

「あー、そういや前にそんな事言ってたね」


 父さん曰く、組員選ぶのも頭も大事だが、特に喧嘩の強い奴に関しては重宝しているって昔聞いたことがあります。だから家にもトレーニングルームがあって、組員は日々鍛えてるんです。因みに私もあの日から毎日使わせてもらってます。


「組員一人だけでも武器を持った五人を相手して勝つ事は出来るんだけど……前に蓮二さん、家の者と喧嘩したことあるんだ。組員二十人と素手で」

「二十人も!?」


 美月が大声を出して驚いているが、まぁ無理もない。橘組(うち)の組員がどれだけ強いかを、彼女は知っている筈ですから……。


「何度か家に連れて来た時にいきなり歓迎だー、とか言ってね?」


 あの時の父さん、凄く頬がヒクヒクしてたの覚えてます。蓮二さんは蓮二さんでやりたくも無かったのに無理矢理やらされてる感で溜息を吐いていましたね、そういえば……。


「それでどうなったん!?」

「決着は、喧嘩が始まってから僅か二十分足らずでついたよ。蓮二さんには傷一つつかずに……ね」

「えっ!?」


 美月も私の言葉に呆けてしまったのか、口を開けたままポカンとしてます。美月も私が嘘をつかないのは長年の付き合いで知ってるはずだし、何より家にも遊びに来たことあるから組手している所も見ていました。だからでしょうね? 信じられないって顔してます。


「神奈、それ……マジ?」

「マジだよ、美月。それとも私の言葉が嘘だとでも?」

「それは無いってのは分かるけどさ……。そっか、紅ってそんなに強いんだ。普通じゃありえないよ?」

「うん、私もそう思う。当時見た時は信じられなかったから……」


 私にも組の皆はよく相手をしてくれましたけど、父さんの一人娘ってこともあり、手加減してくれているのは分かっていました。

 でも、蓮二さんの時は皆も手加減無しで全力を出していた筈。だけど……それを傷一つつかずに倒すことが出来た蓮二さんは、間違いなく普通以上の力を持っているのを、私はこの目で見たから知ってます。


「神奈、紅の所には行かないの?」

「お昼も食べ終えたし……そろそろ探しに行こうかなと思ってるよ? 場所は何処か分からないけど――」


 ガシャァァ!!!


『!?』


 屋上からですね。金網に大きな衝撃が加わったのか、その音が校舎全体に響き渡る。私はそれを聞いてすぐにお弁当箱を鞄に仕舞い、立ち上がりました。


「美月も来る?」

「そりゃ勿論、行くよ。そこまで言われたら気になるじゃん?」

「それじゃあ行こっか!」


  私たちは二人で屋上に向かうべく、教室を後にしました――――

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