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高校生極道  作者: 華琳
2章 虎城高校vs劉星会
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頭の対談

「クッ……! 結城天音、流石に強ぇ……!!」

「白竜の総長、火藤健吾(かとうけんご)。まぁまぁ強かったぞ」


 木造校舎のある教室でタイマンを張った私たちの喧嘩に決着がついた。火藤が倒れ込みながらも私を見上げ睨みつけている。だが、それはほんの僅かな間で吹っ切れたのか笑っていた。


「ハッ……まさか俺が女に負けるとは思ってもいなかった。完璧にやられたよ」

「……」


 私はそれが不気味で仕方なかった。火藤という男は負けず嫌いで通っていると、成瀬の情報を聞いていたから余計にだ。


「けど悪いな。こっちの仕事はきっちりこなさせてもらうぞ」

「何……?」


 ガラッ!!


「!」


 白竜の連中なのか、特攻服を身に纏い、バットを持っている男たちの二人は教室の出入口を封鎖し、残りの五人は私と火藤の間に割って入って来た。


「遅せぇよ、テメーら」

「すみません、総長」

「……成程、そういう事か」


 どうやら私はこの教室に誘い込まれていたようだ。まんまと火藤の策に乗せられた形でな……。


「それと……お前らの軍団が全員入った所でこの校舎全体を、白竜全支部からかき集めた兵隊のうち、百人よって包囲させてもらっている」

「!」


 兵隊……まだいたのか。成瀬もこの学校での数しか把握してなかったから仕方ないだろう。それでも百はかなりの人数……恐らく外にいる連中も全員武器を持っているから、下手に動きが取れないな。

 それより、さっきの発言……。


「兵隊のうち……まだ人数がいるような物言いだな?」

「フッ、察しがいいな? 結城天音……残りの兵隊百五十人全員、向こうの新校舎に向かわせている」

「!」


 合計二百五十人が劉星会についたか。これで数においてはこちらが負けたが――――


「そうか……」

「何だよ、その顔は……心配じゃねーのかよ?」

「火藤、虎城(うち)の後輩をナメるなよ?」

「!?」


 心配は勿論している……確かに心配だがそれ以上に信じているんだよ、私は。

 二年のタツキたちの強さはよく知っているし、それに今年の一年には化物クラスの男がいるからな……!


「それよりも、自分の心配をした方が良い」

「あ?」

「今から貴様らと外にいる百人は……私たち三年の手で叩きのめされるからな」

「何!?」


 私も本気を出そうか……この喧嘩で出すつもりは無かったが、そうも言ってられない。木造校舎に劉星会のメンバーが一人も居ないから、新校舎に潜んでいるのは間違いない筈。いくらタツキたちでも手古摺(てこず)る相手だろう……。


「行くぞ、白竜……!」

「上等だ! 行けお前ら!!」

『おおおおおっ!』


 だから、早々に終わらせる!!






「初めまして、だな?」

「そうだネ……」


 互いに一言交わすが、ピリピリと殺気が張り詰めた空気は変わらない。それでいて笑みを崩さないこの男……やはり只者では無い。流石に劉星会の頭を張ってるという事か。


「紅蓮二……少し話をしようヨ」

『!?』


 どういうつもりなのか、(ファン)は腰を下ろし胡座(あぐら)をかいて俺にも座れよと言わんばかりに手招きをする。これを断って先制攻撃を仕掛けるのは容易(たやす)いが……そんな事をしたって自分の価値を下げるだけだ。

 それに、向こうに今の所戦意がない。ここはあえて乗ってやろうじゃねぇか。


「いいぜ? 最初で最後の語り合いをするのも悪くねぇ」

「フッ……やっぱり君は面白い男だヨ」

「風鈴ちゃん、有紗お姉ちゃんの所に行ってくれ。この兄さんと二人で話がしたいからよ」

「う、うん………」


 風鈴ちゃんがあの女の所に向かったのを確認してから、俺は范と向き合う形で同じように胡座をかいた。


「どうやってここに入ったネ?」

「あ? そんなん上の教室にあった落とし穴にハマってここに落ちたんだよ」


 怒気を(はら)んだ声を出して上を指し示すと、クスリと笑みを浮かべていた。事実だから笑われても仕方ないけど、やっぱりちょっとだけ腹立つな。


「僕が仕掛けたトラップに引っかかってくれたんだネ……嬉しいヨ」

「アレ、テメェが仕掛けたのかよ!?」


 訂正するわ。ちょっとじゃなくて物凄く腹立つ! 敵の大将の罠に引っかかるとか……情けねぇったらありゃしねぇ。


「アレを作るのに相当時間かかったヨ。皆手伝ってくれないから一人でやるの大変だったネ」

「え、嘘!? 一人で作ったのか!?」

「そうだヨ! ホントに苦労したネ!!」


 何故か急に泣き始めた范を見て、俺は正直驚きを隠せなかった。

 あの落とし穴は相当深さがあったのもそうだが、何より作る過程で掘る作業は避けられない。それをたった一人でやったのだから正直大したものだ。


「苦労してたんだな、お前……」

「わ、分かるカ!?」


 凄ぇ勢いで詰め寄られて肩に手をかける動きを目で捉えることが出来なかった。気付けば肩に手を置かれていた……体感したのはそんな感覚だ。

 コイツ、相当動きが速い。間違いなく俺よりスピードは上だな……!


「あ、ああ。敵ながら天晴(あっぱ)れだ」

謝謝(シェイシェイ)……その言葉だけで報われたヨ」


 感動してくれているが、俺はコイツとどう喧嘩するか、もうその事しか頭に無かった。さっきのスピードに加え中国武術を習得しているこの男は、相当厄介な相手だ。

 これにパワーまであるなら余計にしんどい相手になるが、今の俺に知る由もない。こればかりは喧嘩にならないと分からねぇな。


「さて……無駄話はここまでだヨ。君はこの喧嘩をどう見るネ?」

「あ?」

「我々が優勢と見るか、そっちが優勢と見るか、だヨ」


 数的に言えばこっちが上なのを分かってこの物言い……だが、相手にまだ増援や秘密兵器を隠している可能性もある。それに対しこちらにはそれが無い。

 だとすると――――


「テメェ等の方じゃねぇのか? このまま喧嘩を続ければ、な」

「へぇ……? まさかそんな答えが返ってくるとはネ」


 向こうはこちらの返答が予想外だったのか、関心を示していた。それを聞いて調子に乗ったのか、少しだけ声音が弾んでいる。このまま勢い付かせない為に、釘は刺しておこうか……。


「勘違いすんなよ? あくまでもこのまま喧嘩すれば……の話だ。今ここで俺がお前を潰せば、流れは一気に変わる。違うか?」

「! ……本当、喰えない男ネ。勘のいいガキは嫌いだヨ」


 先程とはうって変わり、声音のトーンが数段下がり、(にご)った声で喋った上で立ち上がりながらメンチを切ってきた。

 何だ、そんな目が出来るのか? 劉星会の范。コイツもまた、俺と同じ部類だ。喧嘩での修羅場を相当くぐってないと出来ない……殺意しか無い目を俺に向けている。


「ハハッ、お前いいね」

「ム?」


 こんな目を見たのは中学時代以来か。ヤベェ、身体の中の血が騒ぎ疼いてきやがった。もう止められねぇ……それによぉ?


「……?」


 俺が視線を向けたのに気付いたのか、神奈さんは俺を見つめていた。

 神奈さんと七海を殴った奴は間違いなく、有紗だろう。だが……二人とやり合ったのかアイツもボロボロだ。そんな女を潰した所で何の意味もねぇ。


「面白ぇ野郎だが、残念でもある。この街で派手にやりすぎた件と今回の喧嘩で拉致った萩原や先輩方……に加えて」

「?」


 一旦言葉を区切った所でゆっくりと立ち上がる。何故俺が言葉を紡ぐのを止めたのかを、疑問に思った范は首を傾げていた。

 それを見た俺は思わず笑みを浮かべながら、この男と真正面から対峙した。


「神奈さんと七海を殴った有紗に関するケジメは、劉星会の頭であるアンタに付けさせてもらうぜ……!!」

「!?」


 あんなモノを向けられた俺は今、最高に興奮してる。かつて、一人でありとあらゆるチームに喧嘩売っては潰して回った時以来だな。

 この喧嘩、絶対負けられねぇけど……楽しんでみようか。拳が血に染まるまで振るい続けたあの頃のように……!


「こりゃ参ったネ……橘組の若頭、紅蓮二。正直舐めていたヨ」

「……」


 スーツのボタンを外し、脱ぎ捨ててワイシャツの袖を五分袖になるまで捲りながら軽口を交わす范を、笑顔を崩さずに黙って睨みつけた。

 喧嘩がもうすぐ始まる。そう思うと言葉なんて出て来なかった。もう爆発寸前だ……早く来い。かかって来いよ?


「本気で相手をさせてもらうヨ? お前という男に敬意を評して、ネ」

「上等……! 劉星会の范。俺もお前という男に出会えた事に感謝の意を込めて、全力で潰してやるよ」


 もうこれで余計な事は考えなくていい。後はこの男を全力で……!


 ザッッ!!


 叩き潰すのみ!!!

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