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高校生極道  作者: 華琳
2章 虎城高校vs劉星会
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神奈&七海vs有紗 後編

「おおおっ!」

「がふっ!!」


 力任せに拳を我武者羅(がむしゃら)に振るい続けた。相手がどれだけ苦しもうと、血が出ようと関係ない。


「セイッ!」

「ぐっ!」


 例え相手がカウンターを狙っていて、それが顎に当たったとしても止まる事は無い。こっちは腸煮えくり返ってんだから!!


「らぁぁぁぁっ!!」

「ぐぼぁっ! ど、どういう事だ!? 先程よりも力が……!!」


 この女はやってはならない禁忌を二つも同時に犯した。一つ目は私をナメた事。別にどうでも良い相手ならムキにならなかったけど……あの神奈よりも、私の方が弱いですって?


「おぉぉぉぉっ!!」

「ぐはぁっ!?」


 馬鹿も休み休み言え! 神奈には絶対に負けられないのよ!!

 怒りとその思い最後の右拳に込めて放つ。それによって有紗が数メートルぶっ飛んで、更にそこから長い廊下を転がっていくのを黙って見届けた。

 

「ぐ……ぐぐっ……!」

「へぇ、まだ立つんだ? 意外と根性あるじゃない!」


 一歩ずつわざと力強く、ダァン! と大きな音を立てながら歩み寄る。それに対してあの女はビクリと身体が反応していた。殴った右拳から有紗の鼻を折った感触を感じたから、確実に決まった筈なのに意識を断つ事ができない……タフね、この女。


「立ちなさい! まだこんなもんで済ませないわよ!!」

「チッ!  正直、甘く見ていた。まさかこれほどとはな……!!」


 両手を杖のようにして、ゆっくりと立ち上がりながらそう呟いていた。今更認識を改めたようね……ま、遅いけど。そんな事をしたって、許す気はサラサラ無い。


「これ程の相手なら、紅蓮二を殺すのにいいウォーミングアップになりそうだ!」


 ブチッッッッ!!


「あ゛?」


 アンタは今、私にとって大事なもう一つの禁忌を二回も犯したんだから……!


「!?」

「私をナメた事の認識を改めたのはいいわ……けど、巫山戯(ふざけ)んじゃないわよ! そんな事を私が黙って見逃すとでも思ったの!?」


 そのおかげで完全に堪忍袋の緒が切れたわ。さっきの一回だけなら九分殺し程度で許してあげたんだけど、無理だわ。

 二つ目の禁忌、それは蓮二に手を出そうとする事。喧嘩に恋愛……これならまだ怒る程度で許す……だけど!


「蓮二を殺す事だけは絶対に許さない!! 死ぬ覚悟は出来たか!? “劉星会の懐刀” 有紗ぁ!!!」

「七海さん……」


 そう思っているのはきっと私だけじゃない。少なくともここにいる神奈や、この場にはいない神楽燈だってそうだろう。

 あの二人とは知り合った時間は短いけど、これだけは分かる。だって、私と同じで蓮二の事が好きなのは間違いないから……!


「っ……!」


 怒りを(あらわ)にした物言いに有紗は押し黙っていた。だけど、まだ目が死んでいない。蓮二を殺すと言ったのは(あお)りの(たぐい)ではなく、本気だというのが嫌というほど伝わる。

 向こうから諦めさせるのは無理ね。それなら相手の心がへし折れるまで何度でも叩き潰すだけ。よし、それなら……!


「言っとくけど、その程度の力じゃ蓮二に勝てる訳ない。でも……まぁそれ以前の問題よねぇ?」

「どういう意味だ……!?」

「だってアンタ、今から私に潰されるし」

「っ! こ、このガキ!!」


 あはっ、こんな安っぽい挑発に乗るなんて……沸点低すぎね。蓮二と初めて出会った時に喧嘩したナンパ男たちとまるで変わらない。さっきまで神奈と私を同時に圧倒してた女とは違う……。


「かかってきなさい。ここからは口で語るより、拳で語りましょ?」

「決めた……お前は全殺しだ!」

「それはこっちの台詞よ!」


 有紗(この女)には……負ける気がしない!!


「ハァッ!」

「らぁっ!」


 互いに右のハイキックを繰り出し、それは相殺されたが、すかさず左拳を突き出し、それが右頬を完璧に捉えた。


「がっ……!」

「まだまだ、こんなもんじゃないわよ!」


 一瞬怯んだ有紗の胸ぐらを掴み上げ、頭を大きく後に引きそれを強引に振り下ろす!


 ゴッッッ!


「あがっ!?」

「もういっちょ!」


 ヘッドバッド……まぁ俗に言う頭突きを幾度となくこの女に浴びせていた。これは喧嘩でもかなり堪える技だから多用する人もいるけど、頭が痛くなるから嫌だ。

 ま、今はそんな事を気にしている場合じゃない。最低でも意識を断つならこれくらいやらないとねぇ!


「調子に……乗るなぁ!」

「いったっ!?」


 こっちの攻撃に合わせるように頭突きのカウンターを仕掛けてきた……! 完全にタイミングを盗まれたから余計に痛い。

 体のバランスを崩し、後退りした私との距離を瞬時に詰めた有紗は私のお腹に右拳を置くように軽く当てた。てっきりボディブローかますものだと思っていたんだけど……どういうつもり?

 ナメてんのか、この女!!


「このっ!」

「フンッ!」


 ドンッ!!


「ごぶぁっ!?」


 な、何……今の一撃!? 今まで喰らった攻撃の中でも桁外れの威力……!! この至近距離からどうやって!?

 膝をつきそうになるが、何とか教室のドアにもたれかかってそれを凌ぎながら有紗を睨みつけた。


「今の技はもしかして……寸勁(すんけい)!?」

「ほう……!」

「ケホッ、ケホッ……! え、神奈知ってるの……?」


 寸勁……と言われてもピンと来なかった。でも、劉星会のメンバーは確か全員中国武術を使えるって父さんから聞いた。

 鷹緖組でも劉星会は警戒してるから情報くれって言われたから、こっちも等価交換として情報くれたからそれだけは覚えてる。もしかしてさっきのはその系統の技なの……?


「中国武術に関しては勉強中の身ですが、対象に拳を置いた状態で発勁(はっけい)……激しく力を放つ技です。テイクバックが無い分、至近距離でしか撃てない事に加え、そう簡単に使えるものではありませんが……まさかこんなところでお目にかかれるとは」


 どうやら私の勘は正しかったようだ。神奈の口ぶりからで分かるのは、凄い攻撃を受けたってのと、この女がやっぱり強い女だって事を再認識させられたくらいね。


「まぁ、解説としては及第点だな」

「ちっ……!」


 あんな攻撃、正直何度でも受けられるものじゃない。一発貰っただけで相当身体にキてる……でも、ここで逃げるわけにはいかない。

 これは蓮二の命がかかった喧嘩だから! さっきの……寸勁だかなんだか知らないけど、当たらなきゃいいだけでしょ!!


「さて……続けよっか?」

「ああ。お前を潰すまでな!」

「それはこっちの台詞よ!!」


 同時に踏み込みこっちは右ハイキック、向こうは右の掌底を繰り出し、それが互いの左頬に命中する。


「シッ!」

「フッ!」


 怯む間もなく今度は左のストレートを繰り出したのに合わせ、有紗も左のハイキックをぶちかましてきた。二発ともノーガードで受けたけど……それは向こうも同じだった。


「うおおおおっ!!」

「ハァァァァッ!!」


 フッ……上等じゃない! ここからは根性比べと洒落こもうじゃないの!! 絶対に負けないんだから!!!






「おあっ!」

「ハィッ!」


 正直、ここまで手古摺(てこず)る相手だと思っていなかった。初見の時、明らかに橘神奈の方が上だと思った。私が現れた時、井口七海は動揺していたが、彼女は眉一つ動かさず冷静だったからな。


「らぁっ!!」

「セイッ!!」


 もう、何度目だ……? 互いに何発、拳や蹴りを交換しあったのだろうか。駆け引きも何も考えず、ただ全力の一撃を撃ち込む事しか考えていない、まるで子供の喧嘩だけど――――


「何笑ってんのよアンタ!?」

「そういう貴様もな!!」


 凄く楽しい……! 興奮して血が(たぎ)っている。こんな感覚、あの方と初めて出会った時以来だ。井口七海、訂正しよう……橘神奈より弱いと言った事を。

 お前は橘神奈と同じ……いや、それ以上に強い!! この気持ちを思い出させてくれたお前に感謝を込めて、本気で沈めてやる!!!


「っ!? しまっ――」

「ハァッ!」


 ドンッッッッ!!!


 先程の片手だけとは違い、両手を使って寸勁を放った時、確実に入った手応えを拳から感じていた。

 さっきの一撃で膝を折ろうとしていたから、この攻撃なら井口七海も――――


「ぐっ……! がぁぁぁっ!!」

「ごはぁっ!?」


 ガッシャァァァン!!


 ば、馬鹿な……! 何処にそんな力がある!? 絶対に倒れると思ったのに、何故……!!

 来るはずのないと思っていた右ミドルキックによってドアと共に教室に蹴飛ばされてしまった。その時に足を(ひね)ってしまったせいで、立ち上がる事が出来なくなっていた。


「うぐっ……!」

「はぁっ、はぁっ……!」


 見上げた先には、血で顔が染まって息が上がっている井口七海の姿があった。とっくに限界は来てる筈……なのに、倒れない。


「貴様……何故そんな状態になって、まだ立てる!?」

「さ、さっき言ったでしょ……? 蓮二を殺す事は、絶対に許さないって……!」

「!」


 そうか、そういう事だったのか。私にとって大切な御方であるあの人が、井口七海は紅蓮二という訳か。恋する女は強い……という言葉が日本にはあるそうだが、その通りだ。


「アンタは……私を本気で怒らせた。それだけよ」

「チッ……!」


 井口七海の強さの根源は、そこにあったという事か。それに気付けなかった私の負けだな……。


「くたばれこの野郎!」

「くたばるのはお前だヨ、井口七海」

「え――」


 教室から聞こえてきた声に私は驚きを隠せなかった。理由はこの場にいるわけが無いからだ。私が聞き間違えるはずが無い。

 だって……何度もお側で聞いた、愛しいあの人の声だから……!!


「ぐはぁっ!?」

「七海さん!!」


 どうやって井口七海が黒板までぶっ飛ばされたのか、私には分からなかった。けど、これだけは確信していた。もう何も心配する事は無いと。

 何故なら――――


「僕の有紗に、これ以上手を出すな……!」

(ファン)様……」


 本気でキレた范様以上に恐ろしい男を、私は知らないから……!






「橘神奈さん……ですね? 僕は范と申します。お会いできて光栄ですヨ」

「貴方が……」


 私よりも背が低く、男性では珍しい黒髪の長髪を(なび)かせているこの男が、劉星会のボスである范。

 見た目は中学生にしか見えませんが、油断は出来ません。あの七海さんを数メートル蹴飛ばし、意識を断つ程の力を有する男なのですから……!


「そう警戒しないで下さい。実は、貴女にお話があります」

「貴方と話す事は――」

「萩原美月……と言えば分かりますよネ?」

「!」


 成程……分かってはいましたが、ここで人質を使ってきましたか。こればかりは仕方無い……向こうの要求を呑むしかありませんね。


「欲しいのは私の身柄、ですか?」

「その通りだ、橘神奈さん。君を連行させてもらう。来て頂けるなら萩原美月の安全は保証はしますが……断れば彼女を殺ス」

「!」


 淡々と語る彼に対して、(おぞ)ましさを感じました。橘組でも数少ないタイプの人間ですね。流石劉星会の頭を張っている男……という事でしょうか。


「分かりました……その美月の安全は約束してもらいますよ」


 これはあくまでも美月を助ける為の采配。今は相手の出方を見るしかありません。私では彼に勝つ事が出来るとは思えませんから……。


「こちらも約束は守ります。無駄な死は我々も作りたくありませんからね……。あ、そうだ有紗。井口七海も連れていくヨ」

「え?」

「切り札となるカードは多いに越した事は無いからネ」


 私は彼に従い、気絶して有紗に運ばれる七海さんと共に彼の後について行きました。待ってて下さい、美月。今そっちに行きますから……!!

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