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高校生極道  作者: 華琳
2章 虎城高校vs劉星会
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虎城高校大行進

「結城先輩。動ける二年合計七十七人、(そろ)いました」

「俺たち一年は、七海のとこも合わせてざっと五十三人……集まりました」

「そうか……ありがとう」


 結城先輩の指示で、劉星会と喧嘩する意志のある者を全て運動場に集めたのだが……凄いな、おい。

 橘組でも抗争があった時はそれ以上の人数が集まるけど、組やマフィア……そしてギャングチームと違って学生が喧嘩する為に、一年と二年の合計百三十人に加え、三年の八十人を含めたら合計二百十人がここにいるからな……。


「諸君! 集まってくれて感謝する!!」

『!』


 俺と久坂先輩の後ろにある壇上に登っている、結城先輩の声が運動場に響き渡り、二百人もの視線が一気にこちらへと向いた。

 軍隊並の反応速度だったぞ、今の……。


「私は今回の喧嘩でやられた事は決して忘れていない! 奴等との喧嘩によって病院送りにされた者の事や、行方不明になった三人……そして、今朝うちの生徒が一人拉致(らち)された事もだ!」

『っ!?』


 ここで今日起きた事を皆に伝えるか……。それによって一斉にざわつき始めるが、まぁ無理もない。劉星会の連中も弘人の(はりつけ)によって、自分たちがどれだけ本気なのかを虎城高校(俺たち)に示した事になるからな。


「だが、行方不明になった三人と拉致された生徒は、奴等のアジトに人質として捕らわれ、四人はまだ生きている!」

『!!』

「へぇ……」


 思わず声が漏れちまったが、上手いなこの人。落としてから上げるか……!

 この場にいる二百十人もの生徒を、一気に絶望から安心へと底上げしやがった。流石、この虎城高校の頭を張るだけの事はあるな。


「そしてこの四人は今、奴等のアジトである旧赤虎小学校跡地にいる! 幸いにも向こうはまだ、こちらがこの情報を掴んだという事を知られていない!!」


 つーか、女がマイク使わずによくこれだけ大きな声を出せるなぁ……? それでいて叫んでいるとは思えない程に、結城先輩の声が美声なので耳に残る。


「叩くなら今しかない! よって、今日!! この喧嘩に決着をつけると同時に、四人の救出も行う!! 私たちの大事な仲間たちを傷付け、拉致した劉星会を潰す覚悟のある者は、私に付いて来い!!!」


 宣言を終え、結城先輩が自分を親指で指し示した事で、辺りが沈黙した……かに思えたが、ほんの数秒後――――


『うおおおおおおおお!!!』


 それに応える様に、この場にいる生徒たち全員が拳を天に掲げて意思を示す光景を見た俺は、結城先輩のカリスマは本物だと確信した。

 人を惹きつける……口では簡単に言えるが、このような一大事の時に(まと)まらないようでは話にならないからな。


「行くぞタツキ、紅君。付いて来い」

「はい!」

「うっし……行きますか」


 俺と久坂先輩が壇上から降りて行く結城先輩の後について行くと、運動場にいた生徒たちも俺ら三人を追うように歩き始めた。

 橘組で抗争がある時は先頭切って歩いてたから、その最中で人の背中を見る事はあまりねぇんだけど……結城先輩、女とは思えない程にデカく見える。


「フッ……凄いな」

「ん? 何が『凄い』のだ、紅君?」

「! ……何でもねーっす」


 聞かれてたのかよ……。小声でボソッと喋った独り言だったのに、結城先輩は耳が良いのか? ならもう余計な事は言うまい。再度両拳を握り決意を固め、俺は足を進めるのであった……!!






「お、おい! あれ見ろよ!?」

「な、何だよこの大行進は!?」


 街に出た事で我々に目がつき始めたのか、声を荒らげる街の人々の姿が現れる。まぁ今回ばかりは仕方ないだろう……。


「それに先頭にいる人、結城天音だろ? 虎城高校三年で頭を張ってる」

「やっぱ美人だよな……」

「それは確かに」


 私の事に関してもチラホラと話題に出ているが、どうせお世辞だな。毎回のように言われるが、私はそこまでの女じゃない事は分かっているからな。


「おいおい見ろよ、あの後ろにいる人……!」

「紅蓮二さんじゃねーか!? 何であの人が……!!」


 やはりと言うべきか、流石は橘組若頭。この街での知名度は私なんかより遥かに上だな。四大勢力の学校の頭である私と、全国に名を響かせる組の若頭である彼とでは、格が違うから仕方ないだろう……。


「あの紅蓮二も結城天音には勝てなかった……という事か?」

「馬鹿お前、そんな事良く言えるな!?」

「だって、結城の後ろにいるって事はよ……そういう意味だろ?」


 ふむ……周りからはそう見えるのか? 私が彼を喧嘩で下したと……? 実際、私は彼とタイマンなどやり合ってもいないし、根も葉もない話だが……これでは橘組若頭としての彼の名に泥を塗る形になってしまう。さて、どうするべきだ……?


「結城先輩、周囲の言葉なんざ気にする必要ないですよ」

「! 紅君……」

「俺は今、虎城高校一年の紅蓮二です。だから、橘組若頭って事は忘れてただの後輩として見て下さい」


 悩み始めた直後に、何て無茶を要求するんだ、この後輩は。『橘組若頭の立場を忘れろ』だと? 普通なら出来るわけが無いだろう、どう考えても……! だが、この屈託な笑顔の前では何も言い返せん。全く……狡い男だ。これが彼の魅力なのか?


「ふっ……分かったよ紅君。じゃあ、今から先輩としての言葉を贈ろう」


 それならば、こういう形で言ってやった方が、彼は応えてくれるだろう。

 極道社会は上下関係に関する礼節を重んじるという事は、知識程度だが知っている。今回はそれを利用させてもらおう。


「はい……何ですか?」

「私の隣に来い。後ろに埋もれるな」

「! ……分かりました」


 これでいい。贔屓(ひいき)をしたつもりもないし、間違った事はしていない。それに、彼が歩み寄って来たことで……。


「おおっ、紅が結城の隣に!?」

「虎城の頭に、橘組若頭のツートップ……! こんな光景滅多に見れるもんじゃねぇ!!」

「写真撮れ、写真!!」


 何故か、より一層騒ぎ立てて先程までのありもない発言が掻き消されたからな。周りの人たちがスマホやケータイで、私たちを撮り始めたからシャッター音が良く響く……!


「何か有名人みたいですね、俺たち」

「そうだな……。こんなに浴びるのは、虎城新聞に載る以来だ」

「えっ? 結城先輩、撮影会でもやらされたんですか!?」

 

 撮影会……か。アレ(・・)は確かにそうだな。一昨年も、そして去年も通った道だから慣れてはいるものの、正直迷惑だ。今年だけは何としても避けないとな。


「まぁ……そんなものだ」

「……大変ですね」


 何かを察したのか、紅君が気を遣ってくれた。本当に出来る後輩だ……こんな男が下級生にいる、それだけでも下の代を安心して任せられるが、彼は橘組若頭。このような素質が無いと話にならないが、ちゃんと持っているようだな……。


「気合入れておけよ、紅君。奴等に近付いているからな」

「ハッ……そっちも、入れ過ぎて空回りするのだけは勘弁して下さいよ? 結城先輩」


 この度胸……紅鬼として、そして橘組若頭として数多くの修羅場を乗り越えてきたのだろう。でないと、こんな自信が現れるわけがないからな。

 恐らく、ここにいる皆よりも彼は喧嘩に対する準備は出来ている。余計な事を口走ったかな……?


「フッ……生意気な後輩だな」

「! いえいえ、滅相も無い」


 コッ!


 私が突き出した右拳に、彼は左拳を合わせて互いの拳が軽く触れ合う。

 その時に感じた、彼の拳……凄いゴツゴツした岩に触れているような感覚と似ていた。どれだけ拳を振るえば、この硬さになるんだ……!?


「結城先輩、どうしました?」

「っ! いや、何でもない……」


 集中しろ……今は彼の事を考えるよりも、迫る喧嘩へ気持ちを切り替えろ。そう何度も心の中で言い聞かせ、私は首を鳴らして覚悟を入れ直した――――






「着きましたね……」

「ああ。ここが赤虎小学校だ」


 廃校になったとはいえ、最近の出来事。やはり状態は綺麗(きれい)だな……。アジトにするには持ってこいの場所。近々取り壊されるのが勿体無い位に良い出来だ。


「香川、タツキ。いけるな?」

「何時でも来い!」

「はい!」


 校門前には香川先輩と久坂先輩の二人が校門に手をかけ開門の準備をしていた。特に香川先輩はやる気満々な様子で、右腕を豪快に振り回していた。


「すぅー……」


 結城先輩が大きく息を吸い込んだ事で、この場に緊張がはしる。俺は俺で拳を鳴らして気持ちを落ち着かせようとしたが……無理だわ。

 もうここまで来てしまったらよぉ? 神奈さん泣かせた劉星会のクソ野郎共をどうやってぶっ飛ばすか、それだけしか考えられねーわ。


「香川! タツキ!!」

「おう!」

「はいっ!」


 結城先輩の号令に呼応するかの様に香川先輩と久坂先輩が強引に校門をこじ開けた。

 さぁ……始めようか?


「行くぞ……!」


 俺たちの喧嘩をよぉ!?

 結城先輩と俺が先陣を切って、校内へ堂々と乗り込んだ――――!!!


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