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高校生極道  作者: 華琳
2章 虎城高校vs劉星会
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恐怖とチャンスは同時に巻き起こる

「おい、見たかよあれ?」

「ああ……ひでぇ有様だったな」


 弘人の事は瞬く間に広がり、話題に上がっていた。まぁこれに関しては校門に晒し者のようにされていたのだから、俺のクラスでもひそひそと呟くのは仕方ないだろう。


「劉星会の奴等でしょ……? 村田をやったの」

「聞くまでもないよ、そんなの。アイツらと私たちは戦り合ってる最中なんだからさ?」

「だよね……」


 そして、不味い事にこの喧嘩に怯える連中も増えていた。元々生徒が六十人以上やられていた事もあり、ビビってる奴もいたが、弘人の(はりつけ)姿が虎城の生徒にとって見せしめになってしまったからな……。劉星会にやられたら自分もこうなるんじゃないか、ってよ?


「大将……これ、やばくないか?」

「そんな事は分かってるよ藤木。だけど……弘人は不幸中の幸いと言うべきか、まだ生きてる。正直、劉星会が何を考えてるのか分からなくなってきたな」

「え?」


 劉星会の連中は人を殺す事なんざ躊躇(ちゅうちょ)のない連中だと睨んでいたが……弘人をボロ雑巾のようにしただけで、生かした。

 これは確かに恐怖を与えるが、絶望に(おちい)る程じゃない。あくまでも命を失う可能性は低いという印象を植え付ける事になるからな。

 仮にそうだとすると、向こうの狙いは何だ……? いや、今考えても分からないものは分からねぇんだ。止めるか……。


「とりあえず、今は弘人の回復を待つしかねぇ。話はそれからだ」

「あ、ああ……そうだね」


 それよりも今は弘人の回復を待つしかねぇ。保健室に運んだ時新井先生は言っていた。『病院に行くほどでは無い』ってな? 普通なら病院送りだろうが、あの人が言うと何故か妙に説得力があるんだよな。

 だから弘人に関しては取り敢えず大丈夫だと思っているが、それよりも……。


 ガラッ!!


「蓮ちゃん……ちょっといい?」


 教室の扉が開かれ、皆が視線をそこに動かした。そこにはこの前ゲーセンの時に着ていた、白パーカーを纏ったあーちゃんがいた。


「あーちゃん……どうしたんすか?」

「橘神奈も連れて来て。天音が呼んでる」

「! ……分かりました」


 正直、今の神奈さんに声をかけるのは悪手でしかないから避けたかった。普段なら速攻で要件を伝えるんだが……。


「……」


 教室に来てからというものの、だ。神奈さんがずっと自分の席から窓の外を眺め、上の空状態になっているから話しても無駄だと思ったのもある。だけど、招集かけられてるし……仕方ない。


「神奈さん」

「っ!? あ……蓮二さん」


 俺が声をかけた瞬間、神奈さんの身体が一瞬だけビクッと震えた。仲が良いとはいえ、突拍子もなく話しかけたらビビるのも仕方ないが……明らかに様子がおかしい。どうしちまったんだ?


「どうしたんですか?」

「俺たち二人を結城先輩が呼んでるみたいっす。あーちゃんが迎えに来てくれてるんで、行きましょう」

「……分かりました」


 俺は神奈さんも連れてあーちゃんも含めて三人で教室を後にして、互いの校舎を繋いでいる道を横並びで歩いていた。

 俺たち三人がそこを半分過ぎてからの道中で、俺だけを睨みながらボソボソと何か呟いている男たちが数多く見られた。


「何で神楽さんがあんなヤローと……!」

「くっそぉぉ、俺狙ってたのに!!」


 嫉妬深そうなタイプの二人だが……見事なまでにワイシャツからお腹出てんな。初めて会った安藤先輩よりかは痩せているが、世間からしたらとデブいうカテゴリーに入るだろう。ま、こういう奴等からの妬みには慣れてるから動じねーし……見た目で人を判断しねーけどな。


「それにもう一人の女……あれが橘神奈だろ?」

「ああ……橘組の一人娘。だからあの野郎を寄越したって事か」

「そうだったな……あいつ、下級生とはいえあの橘組の若頭だもんな」


 あの会議があってからというものの、俺と七海が極道関係者だという事に関する記事が号外として虎城新聞に載ってるから、知られないわけがない。

 勿論最初は俺らのクラスも騒々しさを増し、俺にビビる奴らもいたが……。






「藤木、どうしたよ?」

「あ、いやその……知らなかったとはいえ、橘組の若頭に大将って渾名つけて悪かったと思ってさ」


 藤木が落ち込んでいた理由はそれだったか……。周りの皆も同級生を見る様子じゃなく、恐怖の対象として俺を見ている。紅鬼と噂され始めた、あの頃と同じ目でな……。


「馬鹿野郎、んなもん気にすんな。ここじゃお前らと同じ虎城高校の一年、紅蓮二という男だ。組の立場も何も気にする事ねーよ」

「紅、お前……!」

「それに……折角出来た仲間から他人行儀にされんの、俺は嫌だからよ?」






 俺のこの発言により、クラスの皆の動揺は消え去りいつもの様に戻ったのだが……周りはそうでもなかった。二年や三年に関しては、(むし)ろ俺に対する敵意の凄みが増していた。

 そりゃそうだろうな? 何せ目立つ下級生が同じ学校にいたら面白くないと思うのが不良ってもんだからな。中学の時にそんな扱いを受けていたから良く分かるからな。


「あんな奴があの橘組の若頭なんて思えねーけどな」

「確かに……。だが、それよりもだ。神楽先輩、何か嬉しそうじゃね?」

「ああ……俺もそう思う」

「あの人の明るい所、俺は初めて見たぜ」


 窓際の一角に座り込んでいた四人組の話を耳にして、気になった俺は左側にいる彼女をちらっと覗き見た。すると、確かにあーちゃんは満面の笑みを浮かべていた。俺がココ最近で良く見るあーちゃんって、こんな感じだけどなぁ……。


「? ……蓮ちゃん、どうしたの?」

「え!? あ、いや……何でもねーっすよ」


 この後も、俺とあーちゃんの間で会話はなく……大会議室まで足を運んだ。するとそこには、結城先輩が会議室の席に座っている姿だけがあった。


「来てもらって悪いな、紅蓮二君に橘神奈さん」

「結城先輩……他の連中はいないんですか?」


 こういう時の招集では幹部格である先輩方や “一年五本の指” の皆がいるはずなのに、今日はいない。てっきりいると思ってたんだが……。


「今日は君たちと……それともう一人呼んでいる。タツキが迎えに行ってる」

「久坂先輩が?」


 もう一人……この言い方、何か含みを感じる。弘人の事があったから全員で話し合いでもするのかと思ってたが、どうやら違うみてぇだな。


「そろそろ来るはずだが……」


 結城先輩による呟きと同時に、ガチャッ! と扉が開かれる音が聞こえる。するとそこには、久坂先輩と、何故か不機嫌な七海の姿がそこにあった……!


「あ、蓮二ぃ〜!」


 先程までの不機嫌だった七海が急に明るくなり、駆け寄って俺の右腕に抱きつく。うん、良いおっぱいだね……って、思ってる場合じゃねーよ。


「もう一人って、七海さんの事だったんですね。それよりも、早く蓮二さんから離れて下さい」

「それと神奈、アンタもか〜……」


 ああ、神奈さんまで俺の左腕絡めてきたよ……! それによって腕がおっぱいが挟まるんだが、七海のよりも柔らかさが上だから気持ち良いな……って、だからそんな事考えてる状況じゃねーって!!

 この二人、俺を間に挟んで互いに威嚇(いかく)し合って怖いから止めにくいんですけど。すみません、結城先輩に久坂先輩……笑ってないで止めてくれよ!?


「うわっ!?」

「そこまで……蓮ちゃん、大丈夫?」

「あ……ありがとう、あーちゃん。助かったぜ」


 七海と神奈さんを後ろから強引に引っ張った事で二人が投げ出され、逆にあーちゃんが俺の右手を包み込むように両手で強く握っていた。

 でも、痛くねぇ。力は入ってる筈なのに心地良い。何だろう、この不思議な感覚は……?


「やっと、落ち着いたな」

「天音……」

「ちょっとアンタ、どういうつもりよ? こんな時に私たちだけ呼ぶなんて」


 ここにいるメンバーは俺を含め、神奈さんに七海にあーちゃん、そして結城先輩と久坂先輩を合わせて六人だけだ。

 つーか……七海の、奴喰ってかかるなぁ? 俺にもあんな時期があったから何も言い返せんが、結城先輩はすました顔を浮かべそれを流していた。


「そんな事は決まっているだろう? 劉星会の件で情報(ネタ)を掴んだ」

「! 何か分かったんですか、結城先輩?」


 久坂先輩が質問したその時、結城先輩が立ち上がって俺たちの元へ歩み寄ってくる。その時、俺は何故かゴクリと息を呑み込んでいた。こういう時は大抵何か大きな事が起こると、そう思っていたからだ。

 そしてすぐに俺の予想は――――






「あぁ。劉星会の潜伏先が判明した」

『!!!』


 見事、的中する事になるのであった……!!

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