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高校生極道  作者: 華琳
2章 虎城高校vs劉星会
39/63

崩れ去る平和

「ハッ……ハッ……」


 長谷川と出会ってから二日が経過し、休日も終わって今日は学校だが、日課である筋トレは欠かせねぇ。あんなすげえ喧嘩したから血が(たぎ)って一昨日も帰った後、そして昨日もずっとここで身体を動かしていたら、神奈さんとレイにすげぇ心配されたな……。


「今日も朝から精が出てますね、蓮二さん。凄い汗じゃないですか」

「あ、神奈さん……おはようございます。つーか、何でジャージ姿に?」


 汗を右手で拭いながら声をかけたその先には水色のジャージを身にまとった神奈さんの姿があったから、思わず聞いてしまったぜ。


「私も鍛錬する日はあります。今日がその日でしたので、良かったら一緒にと思いまして……」

「! 俺は構いませんよ。丁度、組手練習しようと思ってたんで」


 軽く言葉を交わし、二人でアップをこなす。うーん、何だろう……凄く新鮮だ。まぁ、神奈さんと一緒に鍛錬するの久しぶりというのもある。

 つーか……ジャージを全閉じにして着ているから、神奈さんのおっぱいが強調されてる。思わず目がそっちに行ってしまう……!


「か、神奈さん。そろそろいいっすか?」

「はい。おかげで体は(ほぐ)せましたので」


 互いに数歩の間合いを取り、呼吸を整える。とにかく今は集中だ……。相手は神奈さんとはいえ、これは鍛錬。全力で向かわないと失礼だからな……。


「いきますよ神奈さんっ!」

「はい!」


 俺は神奈さんに向かって突進し、拳を強く握り締めた。

 先手必勝は喧嘩における上等手段だ。後手必殺という言葉もあるが、これは熟練の格闘家の試合で起こり得る話で、素人の喧嘩ならそう簡単に決められずに負けるのが関の山だからな……。


「らぁぁっ!」

「っ……! 相変わらず、荒々(あらあら)しい攻撃ですね!!」


 流石は神奈さん。軽口を叩きながらも、俺のラッシュを全て弾きながら(さば)いてやがる……! 俺はどちらかというと反射神経に任せて避けるか受け止めるの二択で、こういう綺麗な防御は苦手なんだよな。


「はあっ!」

「うおっとぉ!?」


 ラッシュの隙を突いて、カウンターの右掌底……七海との喧嘩でもこの技は良く使ってたから避けられたものの初見はあの一撃、(あご)に貰ってたなぁ〜……。今となっては懐かしい思い出だ、うんうん。


「お見事です蓮二さん。あれを(かわ)すなんて……」

「今の一撃は初見だったら俺でも躱せませんよ、神奈さん」

「またまた、そんな謙遜(けんそん)を……」


 俺は本心で言ってるんだが、それを軽く微笑みながら返された。

 神奈さんは七海と一対一(タイマン)で引き分ける程の実力を持つ。だから決して弱くないし、(むし)ろ喧嘩の強い部類に俺の中では加えている。だけど、決して(おご)らず自分を磨く事を止めない。

 そんな心を持つ人間は、間違いなく強い。無論、喧嘩においてもこれは例外ではないと言えるだろう……。


「俺、こういう事で嘘言いましたか?」

「……いえ。時には厳しい言葉も浴びせられましたよ、貴方には」

「あ〜……そ、そうでしたっけ?」


 俺はそっぽを向き、口笛を鳴らしながら誤魔化(ごまか)そうとするが、神奈さんがそれに合わせてジト目で見つめてくるのが痛い……。


「忘れてませんよ、私は……初めて貴方と組手をした時の事」


 それ、大分前じゃないすか……よく覚えてんなこの人。俺もう忘れてんだけど……って、ん? 


「あ、神奈さん。そろそろ切り上げましょうか」

「え?」

「時間……もう六時半ですから、そろそろ支度しないと遅刻になりかねないっすからね?」

「……そうですね」


 俺がトレーニングルームにある時計を指差した事で、神奈さんは俺と共にトレーニングルームを出た直後に別れ、俺はシャワールームに向かってシャワーを浴び、俺はグレーの五分袖Tシャツと学校制服の黒ズボンに着替えて、いつもの部屋の(ふすま)を開いた。

 するとそこには……!!


「あ、蓮二さん。準備出来てますよ」

「……」


 基本白ベースの半袖セーラー服だが、胸元と(えり)のところが(あい)色になっており、赤のミニネクタイをつけている。これってもしかして……。


「神奈さん、それって虎城高校の女子の夏服なんですか?」

「はい、もう六月ですから……頃合だと思いまして」


 確かに、そろそろ半袖にしてもいい時期になったけど……可愛いなぁっ!! 神奈さんの白い肌が半袖になった事で、それがより引き出されて魅力が増している。しかも、出るところは出る、締まるところは締まっているという理想的なボディ! 反則だぜ……!!


「あ、あの……蓮二さん。何で泣いてるんですか?」

「えっ?」


 神奈さんの指摘を受けた俺は顔を右の掌で(おお)って、すぐにそれを離して見つめると、そこには小粒程度の水が付着していた。


「あ、あれ? 俺何で泣いてるんすかね……?」

「質問に質問で返さないで下さい、蓮二さん」

「そう言われましても……」


 結局、俺は神奈さんからの質問に答えられずギクシャクしたまま、神奈さんの朝食を食べて二人で学校へと向かった。


「蓮二さん、何故あの時泣いていたんですか?」

「自分でも分からないんすけど……」


 通学路である街中に出た今でも、まだ追求されているが、どうしようもない。先程も神奈さんに言った通り、分かってないのだ。涙を流した理由がな……。


「分からないのに泣く……もしかして蓮二さん、病気か何かに――」

「あ〜、その可能性はないっすよ。何せ学校に入る前にやった組の医者班による健康診断じゃ何の問題もなかったんで」


 約一ヶ月前に行った組の健康診断……橘組は人数多いから大変だったな、確か。医者の人数足りなくて、海さん以外の皆は涙目だったし……。


「そ、そうですか……それならいいんですけど」

「そんな心配する事ないっすよ、神奈さん。俺、病気とは無縁っすから」


 生きてきた十五年で、俺は病気にかかった事がない。だから小学生の頃『馬鹿は風邪を引かない』なんて良く囁かれてたっけ……?


「確かに……海さんも最初は不思議そうにしていましたよ」

「ええ……。あの人、まるで実験体(モルモット)で実験をするように俺の事を診察してましたから」

「あはは……海さんらしいですね」


 乾いた笑いを浮かべる神奈さんに対し、俺は淡々と語っていた。正直、あの人に関しては最初怖い印象しか無かったんだよな……。


「だから怖いんすけど……ん?」


 俺は咄嗟に後ろを振り向くが、周辺には俺たちと同じように学校に向かう学生であったり、スーツを着た男たちが出社の為ダッシュしている姿、そして数多くの車が道路を走っている光景しか目に映らない。

 だがしかし、そんな中で俺たち二人だけを覗き見てるような、そんな視線を感じる。気のせいか……?


「どうしたんですか、蓮二さん?」

「…………いや、何でもねーっす。急ぎましょう」


 気にしたところでこの人混みだ。探し当てるのは無理に等しい。ならせめて、警戒だけは(おこた)らねぇようにしておこう。今、神奈さんを守れるのは俺だけなのだから。

 その思いを強く持つ為に右拳を握りしめ、俺は神奈さんと共に学校へと向かった……。






哎呀(アイヤ)〜……凄い男ネ」

「信じられません。まさか気付かれるとは……!」


 有紗と僕は、紅蓮二君と橘神奈の二人から十メートルくらいの距離を付かず離れず保ちながら、監視していたのだが……。


「フッ。流石橘組の若頭……そして、紅鬼と(うたわ)われた男だヨ」

「范様、あの男は危険です。今ここで(バラ)しますか?」

「……気持ちは有難いけど、有紗じゃ無理だヨ。例え、銃を使ってもネ」

「!?」


 恐らくだが、紅蓮二君は有紗の殺気を感じたんだろうネ。殺気というのは消そうと思えば消せるが、どうしても最低限残る場合があるヨ。敵対してる相手に対しては特にネ。

 有紗はそれが顕著(けんちょ)に現れるタイプだとはいえ、この距離から察知できるとは末恐ろしいヨ……!


「それに、彼は僕の獲物……横取りは良くないネ」

「ハッ……! 申し訳ありません」

「有紗、戻るヨ」


 彼らはもうすぐ我々からのプレゼントを受け取る筈。そうなったら、本格的に戦争の始まりネ……!!

 僕は首を回しながら有紗と共にアジトへ向かうべく、監視を止め(きびす)を返し歩を進めた。僕なりの最高の笑顔を浮かべながら、ネ。






「おい……! これは何の冗談だ……!?」

「そ、そんなっ……!」


 虎城高校の校門前に到着した俺たちの目の前には信じられない光景が広がっていた。俺だって信じたくなかったが、そこには――――!!


「がふっ……!」

「弘人ぉ!!」


 校門で十字架のように(はりつけ)にされている、血塗(ちまみ)れの弘人の姿があった……!!!


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