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高校生極道  作者: 華琳
2章 虎城高校vs劉星会
32/63

蓮二と神楽 後編

「あ、あーちゃん……助かりました。ここからはもう大丈夫です」

「……分かった」


 医務室の前に到着し、少しだけ足に力が入るようになった。こんな時に肩貸して貰って部屋に入るといらない心配をかける事になる。だから、少しでも虚勢を張らないとな。


「行きますよ」

「うん」


 俺はそんな決意を胸に秘め、扉に手をかけた。


 ガラッ!


「れ、蓮二さん!」

「それに、神楽先輩も……」


 俺は即座に神奈さんと萩原を交互に見つめた。怪我はない……か。どうやら、弘人と柳はきっちり仕事してくれたみたいだな。


「二人は?」

「今、彼処でレイさんを含め皆さんが治療してくれてます」


 カーテンで仕切りを作っている所を指し示す神奈さん。うん? つーか、何であんなものを作ってんの?


「美紅ちゃん、喧嘩の時に背中から叩きつけられるように投げられてたから、今塗り薬してるのよ」

「ああ、そういう事か……」


 萩原の分かりやすい説明によって納得がいき、疑問は消えた。そりゃ作るわな……塗り薬ってのは直接肌に塗るものだ。つまり、カーテンの先には柳が服を脱いだ状態でいるという事だ。よって、当然の配慮といえるだろう。


「よ、よう蓮二……」

「! 弘人、怪我はもういいのか?」

「おう。本気で暴れたから疲れただけだよ」


 弘人は余裕ぶっているのか、歯を出して俺には無理して笑顔を作っているとしか思えなかった。今の俺と同じだ……。


「その割には顔の傷、多くね?」

「まぁ何発かいいの貰ったからなぁ……ってそれより蓮二、お前の方は大丈夫だったのか?」

「あ、ああ。神楽先輩に助けて貰ったからな」

「……」


 俺が弘人に対して神楽先輩と言葉を放った瞬間、物凄い殺気が向けられたのを背中で感じていた。殺気を出している人物は言わなくても分かるが、この場合は仕方あるまい。ここであーちゃん呼びしたらややこしい事になるのは間違いないからな。

 だから後であーちゃんには謝ろう。うん、それがいい……。


「それにしても、神奈さんの家にと言うより、橘組の本家……でいいのか? 初めて来たけど、すげぇな? こんな部屋まであるなんて……」


 キョロキョロと辺りを見渡す弘人。まぁ極道組織の家にこんな医療機関も吃驚(びっくり)仰天(ぎょうてん)するような設備整ってたら誰でも凄いと感想を漏らすだろう。

 それに、ここから離れた先には手術室まであるしな。それに加えて表舞台にはもう立つことはできない腕利きの医者がこの組には十人以上はいる。だから、下手な病院に行くよりはこの家の方が安心だ……。


「まぁ、橘組では実践訓練を毎日やるから、怪我が絶えねぇ。だからこういった部屋も揃えてあんだよ」

「それにしても凄すぎだろ! もはや病院じゃねーか!?」

「それは俺も最初に思ったよ……」


 俺も若頭になって、最初にこの部屋に来たから覚えている。弘人とほぼ似たようなリアクションもしたし、俺の説明よりも長いものを受けた。

 あの時は確かまだ俺の事を渋々でしか認めてなかったレイと、雅人さんの二人が案内してくれたんだよな。うん、懐かしい……。


「つーか弘人……ありがとな? 神奈さん守ってくれて」

「……おい蓮二、頭下げんなよ。友達(ダチ)から頼まれたんだ。全力で応えるのは当然だっつーの」


 ポリポリと頬を掻きながら照れ臭そうにする弘人を見て俺は軽く笑みを零す。俺としてはこういう時に礼を言うのは当然だと思っているが、まさかの返答だ。

 何か、こういうのも悪くねぇな……。


「それでも、ありがとな? 後で柳にも礼言っとくわ」

「おう、そうしとけ」

「それよりも、だ。今日ここにいる全員泊まってけ」

『えっ!?』


 俺の突然の提案に驚きの声を上げる弘人と萩原。神楽先輩……ではなく、あーちゃんは理由が分かっているのか、俺の言葉に首を縦に振るだけだった。


「それって……劉星会の夜襲に備えて、ですか?」


 神奈さんが俺に言葉を投げかけてきたのは今の現状を考えてのものだろう。まぁ、正解なんだけど本当に察しがいいよな、この人……。


「はい。劉星会も流石に橘組(うち)にカチコミかけられるほど戦力もないし、ましてや度胸もないでしょう。だから、ここが一番安心だと思います。後は弘人たちの親御さんへの説明が必要ですけど」

「蓮二アンタ、そこまで考えてたの!?」

「このくらいは当然だ」


 萩原のツッコミにも冷静に答える。喧嘩慣れしてるというのもあるが、喧嘩において夜襲というのは当然行われる。自宅や友達の家、その他にも学校やアジト等……とにかく、自分がよく出入りする場所は襲撃される可能性は高い。だから警戒しておいて損は無いのだ……。


「俺は大丈夫だぜ? 親には連絡しとけば問題ねー」

「私も神奈の名前出せば大丈夫だけど……神楽先輩は?」

「……私は問題、ない」


 となると、残りは柳一人か。だがしかし、柳は今治療中。下手に声掛けできねー、と思った矢先、カーテンが開かれ柳ともう一人、白衣を身に纏い、長い赤髪を手で靡かせる女性が姿を現した。


「ボクもお世話になっていいの?」

「ああ。聞いてたんなら話は早い……って、海さん。貴女が診てくれてたんですか?」

「お嬢さんからの頼みで、しかも相手は御学友って聞いたからねぇ? 医者としても断れんよ、頭」


 この女性は海野(うみの)ひなたさんといい、通称は『海さん』で通っている。この人は凄腕の医者で、表舞台では『四神市の海』で医者としての異名が轟いていたのだが、ある事件に巻き込まれ表舞台から姿を消して、今は橘組にいる。

 それにしても、この人は妙に色っぽいんだよなぁ。組でも男女問わず人気も高い。今も香水ではなく、独特のフェロモン? が出ているのだろうか。それっぽい雰囲気が……!


「そうすか……」

「んん? 何だい、つれないねぇ。お姉さん悲しいぞ」

「す、すんません」


 悪いっすね、海さん。今、アンタの雰囲気に呑まれる訳にはいかないんだよ……! 油断したら堕ちかねないし、何より神奈さんとあーちゃんの視線が痛いってのもある。あーちゃんに至っては何故か殺気も入り混じってるような気がする……。


「と、とにかく今日は皆泊まりって事で! おい弘人、俺の部屋行くぞ!!」

「ちょ、おいっ!?」


 俺は無理矢理弘人をとっ捕まえ、手を肩に回してそそくさと医務室を後にした。こうでもしないと面倒な事になりかねないからな……。俺はそんな事を思いながら、部屋へと向かうのであった――――






「そうか……教えてくれてありがとう」


 一夜を明かした翌日、俺たちは結城先輩に報告するべくあーちゃんと共に学校の大会議室に来ていた。昨日の今日でいきなり襲撃にあったからな。情報交換はしておいて損は無いだろう。


「……相手も強かった」

「神楽がそう言うか……まぁあの “一年五本の指” の村田と柳が手古摺(てこず)る程だしな。仕方あるまい」

「! 結城先輩、随分と俺ら一年の事を気にかけますね?」

「当たり前だ。一年の中でも特別視しているからな。その中でも特に、極道関係者である君や井口七海、そして橘神奈はな」


 相変わらずというべきなのかね。この人の情報網は何処からあるのだろうか? 今度、徹底的に調べてみるか。マジで気になったし……。


「それより、結城先輩のとこはどうだったんです?」

「ん? あぁ、私のグループは問題無かった。強いて言うなら、原田と井口七海が揉めていたくらいだな」

「あ〜……やっぱり」


 予想はついてたけど、まぁ仕方ないよなぁ。何せ一昨日の会議であれだけの舌戦をやり合った二人なのだ。何事もない方が不思議である。


「それより紅君。君は大丈夫だったのか?」

「それに関しては問題ないっす。神楽先輩が――」

「蓮ちゃん?」


 咄嗟に横からあーちゃんに声をかけられたのだが、笑顔なのに何だろう? ツンドラの如く冷たいんだけど……って、いててて!?


「にゃにをふるんでふか!?」

「何をって……蓮ちゃん、何でもするって言って私と約束した。嘘は良くない」


 頬を両手で引っ張られているからちゃんと喋れていないが言葉は伝わったようだ。いや、確かにあの時そう言ったけど……。


「でも今は結城先輩もいますし、二人きりの時じゃ――」

「駄目……! それに、昨日も呼ばなかった事について聞いてない」


 お、覚えてたのか……! そういや、昨日は結局俺と弘人はあの後、飯も俺の部屋に運んできてもらって部屋で食べて、風呂入った後は泥のように寝てたから女子とは会ってなかったな。

 とはいえ、あーちゃんに謝るの忘れてたのは俺が悪い。それに目が狂気に満ちそうで怖いからとっとと謝ろう。


「分かりましたよ、あーちゃん。昨日も呼ばなかった事、すみませんでした」

「! ……うん、許してあげる」


 俺が呼び方を元に戻した事で、あーちゃんが右腕を取り、スリスリと身体を擦り付けてくる。あの、その大変素晴らしいおっぱいが揺れて当たっているんですが……? 


「なぁ紅君、君は神楽と付き合っているのか?」

「はい!? な、何でそう思うんすか!?」

「いや、先程から互いの事を渾名で呼び合うからてっきり……違うのか?」

「これに関しては訳がありまして……」


 俺は掻い摘んで結城先輩に昨日あった事の説明を始めた。しかしその時、俺の心境は穏やかではなかった。

 俺とあーちゃんが付き合ってるだって? その答えは断じてノーだ。ノーなのだが……揺らいでいる自分もいた。

 何せ、あの喧嘩の時に助けてくれたあーちゃんは本気でブチギレていた。自分の事以外で相手にキレる事は、その人を大切な存在だと思ってなきゃ出来ない事だ。つまり、あーちゃんはそれだけ俺の事を……って、思いたいけど烏滸(おこ)がましいよなぁ〜……。


「――と、いう訳です。結城先輩」

「そうだったのか……君と神楽が幼い頃に会っていたとはな。しかし神楽、良く覚えていたな?」

「……あの時から蓮ちゃんは、私にとってずっとヒーローだから、忘れる訳ない」

「っ!?」


 先程までの弱気な気持ちは、あーちゃんのこの一言によって打ち砕かれた。マ、マジかよ……!? これで、あーちゃんも決まりか。神奈さんに七海に次いで三人目。俺、本当近いうちに死ぬんじゃなかろうか……? 今後の人生が恐ろしいと思い始めていた。


「と、とにかく結城先輩。俺らの報告はこれで終わりです。そろそろ授業も始まると思うんで、俺は向こうの校舎に帰りますわ」

「そうか……もうそんな時間か。すまないな、遅くなって」

「いえいえ……。それじゃ、あーちゃん。また後で」

「バイバイ……」


 俺は二人に別れを告げ、新たに抱いた恐怖を抱えてダッシュで教室へと戻るのであった……。

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