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高校生極道  作者: 華琳
2章 虎城高校vs劉星会
31/63

蓮二と神楽 中編

「がっ!?」

「ぐはっ!?」


 本来、女が男に勝つというのは、普通に考えて難しい。何せ体格差もあるし、男と女じゃ基本性能が違いすぎる。格闘技、武術を習って自分のモノにしてる相手なら尚更な?


「シッ!」

「あがぁっ!?」


 だがしかし、俺の目の前で暴れている神楽先輩はそれをものともせず、ハイキックを繰り出し沈め、時には相手が突っ込んでくる力を利用して投げ飛ばし、劉星会の男たちを一人ずつ確実に倒していく。


「ははっ……マジかよ、この人?」


 中国拳法を身に付けている十四人相手にこの立ち振る舞い。強いとは思ってたけど、まさかここまでとは……!

 恐らくこの人、合気道か何か格闘技を身に付けてやがる。しかも相当の凄腕だ。俺が全開の状態であったとしても、勝てるかどうか分かんねぇ。だけど、一度でいいから手合わせ願いたいものだ。


「アンタで最後……」

「クソがぁ……!!」


 気が付けば、劉星会のメンバーは俺に止めを刺そうとした金髪オールバックの男ただ一人になっていた。

 噂とはいえ、中国マフィアとして語られている相手なのに全く怯えることなく堂々と喧嘩できるのは一種の才能ともいえるだろう。

 因みに学校では俺と神奈さん、そして結城先輩しかあの噂の真相は知らないし、教えていない。理由としては皆に緊張感を保って今回の件には関わって欲しいからだ。相手が格下だと思わせると怒りで余計な力が入って負けに繋がる恐れがあるからな……!


「こんなガキに……ましてや女にナメられてたまるか!」

「っ!」

「なっ……」


 あいつ、拳銃を隠し持ってやがったのか!? (ふところ)から出されたそれに、俺と神楽先輩は一瞬体が震え、硬直してしまう。


「はははっ、どうだ! ビビったか!?」

「……撃てるなら、ね」

「っ!」


 よく目を凝らして見ると男の手が小刻みに揺れている。これだけで、拳銃を使っての威嚇(いかく)が初だって事なのがよく分かる。人間ってのは、何でも初めてやる事は緊張してしまうものだ。この男も、恐らく拳銃を使う計算なんかして無かったんだろう。

 それにしても、神楽先輩はもう冷静さを取り戻してる。この人、マジで何者だ……!?


「ガキが……! これ以上、大人を馬鹿にするんじゃねぇぞ?」

「……(くず)の間違いでしょ?」

「!」


 神楽先輩、いくら何でも(あお)り過ぎだ! この男、明らかに今は沸点が低くなってる。そんな風に挑発を続けたら取り返しがつかない事になりかねない! クソッ、何とかしないと……!


「死ぬ覚悟は決めたか、小娘?」

「……撃てるなら撃ってみろ。そんなに震えてたら、当たるわけないから」


 不味い、こうなったらあの男は間違いなく撃つ。それが例え神楽先輩に当たらない結果になるとしても、な。だけど、もし当たったら……!


「死ねぇ!!」

「っ! させるか!!」


 俺の目の前にあった石を咄嗟に掴み、拳銃を狙って投げつける。しかし、投げた右手が力んでしまったせいで男の顔面近くに軌道が変わる。


「っ!?」


 だが、俺が声を上げたことによって神楽先輩から拳銃の照準が俺に向けられた。これによって、俺の投げつけた石が拳銃に命中した。


「ぐあっ!」

「っ!!」


 奇跡といってもいい程に綺麗に決まった俺の投擲(とうてき)により、拳銃を落としたのを神楽先輩は見逃す事無く、助走をつけ男の顔の高さまで跳躍する。そして右足を高々と上げて……振り下ろした!!


 ゴシャッ!!


「すげぇな、今の(かかと)落とし。アレは頭に決まったらまず意識飛ぶわ」


 俺がそう呟いたのも仕方ないだろう? 何せ目の前にいる男が泡吹いて白目剥いてるからな……!

 それにしてもさっきのジャンプ、軽く二メートルは飛んでたぞ? 身体鍛えてないとそう簡単に出せない。それにまだケロッとしてるあたり、底が見えないなこの人。


「うっ……くっ……」

「蓮ちゃん大丈夫!?」


 俺が何とか立ち上がろうと四苦八苦してる所にすかさず駆け寄り肩を貸してくれた。凄くありがたいが、おっぱい当たるんですけど……。

 七海より張りが強い……って何考察してんだ俺は!? それよりも……!


「神楽先輩……また、俺の事を “蓮ちゃん” って言いましたね?」

「え? ……あっ!!」

「どういう事か、説明してくれますか?」


 やらかしたと言わんばかりに顰めっ面になっている。やっと隙を見せてくれましたね、神楽先輩……?


「……先ずはここを離れよ? 危ないから。後でちゃんと説明する」

「! 分かりました。催促してすみません、神楽先輩」

「気にしないで……いい」


 そして俺と神楽先輩は、劉星会の連中十四人が倒れている高架下からゆっくりと歩きながら離脱したのであった……。






「ぜぇ……ぜぇ……。おい柳! 生きてっかぁ……?」

「愚問だよ、村田……! ボクがこんな奴らに負けるわけないだろ……?」

「そりゃ俺もだ、馬鹿野郎……」


 互いに大の字で倒れ、俺と柳は激を飛ばし合っていた。相手は中国マフィアだと知っていたから決して舐めてた訳じゃない。だけど、まさかここまで強いなんて思ってもなかった……!


「二人共、大丈夫ですか!?」

「しっかりして!!」

「は、はは……すんません神奈さん」

「美月、ごめん。ボクも動けないや……」


 柳の奴、顔ひでぇな? 切り傷だったり拳や蹴りで殴打されて顔が腫れてやがる……って、それは俺も同じか。これじゃあ、蓮二のとこに行くのは難しいな。

 アイツ、無事だといいんだが……大丈夫だよな? そんな事を思いながら俺は神奈さんに、柳は萩原によって運ばれるのであった。






「すみません、神楽先輩。わざわざ部屋にまで運んで貰って……」

「……ううん、気にしないで蓮ちゃん。私なら大丈夫だから」


 あの後、俺と神楽先輩は橘組本家……まぁ俺が住まわせてもらってる家に帰ってきていた。理由としては、確実に落ち着ける場所がここしか無いからだ。途中で偶然雅人さんと合流出来て、事情説明して車で乗せて貰えたのは大きい。あのまま歩いて帰ってたら、間違いなく狙われるからな。

 つーかこの人、開き直ったか。自然と俺の事を『蓮ちゃん』と呼びやがる。正直、自分の事を『ちゃん』付けで呼ばれると何かゾワゾワするな。


「それに何で俺は膝枕されてんすかねぇ……?」

「こういうの、好きだと思って……。駄目?」


 あのさぁ……そんな(うる)んだ目で、しかもちょっと可愛い声出して俺を見つめないで? こんな美人から泣かれそうになって、俺が断れる訳ないから。うん、本当に止めて下さい。お願いします!


「い、いえ! 俺は大歓迎ですけど、重たくないですか?」

「全然……蓮ちゃんのだから平気」

「そっすか……」


 その後、頭を撫でられ俺たちに沈黙が流れた。どうやって話を切り出すべきなのか……何か言い難い空気になってしまった。

 だが、それはすぐにぶち壊されるのであった。

 

「……蓮ちゃん」

「は、はい? 何ですか?」

「私が蓮ちゃんって呼ぶ理由……知りたい?」

「!」


 こ、ここで来るか!? いきなりな話題振り……俺としては願ったり叶ったりだけど、この人空気をぶち壊すの早いなぁ。色々と考えてたのが馬鹿馬鹿しくなるぜ。


「え、ええ……! 是非、お願いします!!」

「分かった……あれは私たちが幼稚園の頃の話だよ」


 幼稚園か……って事は十年ちょっと前か。普通一年も経てばその時の記憶なんかうっすらとしか覚えてない人が多いのに、この人よく十年も前の事を覚えてんなぁ……。


「当時の私は友達もいない、親も仕事で家を空けてたこと多くて、ずっと独りだった。そんな私が公園で遊んでた時に、その事をきっかけに虐められたの」

「えっ!? か、神楽先輩がですか?」

「うん……」


 俺は思わず驚きの声を上げる。まさか神楽先輩が苛めを受けていた、なんて思ってなかったからな。

 それにしても公園か。んー、全く思い出せそうにない。何せ今の話題、十年以上前の話だからなぁ。


「人と話す事が苦手だった私は、多人数相手にビビってしまって、反論出来ずにいた。助けて欲しい、止めて欲しいと思ったその時……蓮ちゃんが来てくれた」






「やーいやーい、この無口女!」

「黙ってないで何か言えよ!?」


 私は何も悪いことしてないのに、何で虐めるの? 止めてって言いたいけど、声が出ない。口をパクパクと動かすので精一杯だ。お願い、誰か助けて……!


「おい! お前ら止めろ!!」

「げっ!?」

暴蓮二(あばれんじ)だ! やべえ、逃げろ!!」


 えっ? 『暴蓮二』って……あ! 聞いた事がある名前だった。私たちの二つ下で(うわさ)されてる子がいた。その子の名前が確か蓮二で、周りからの異名が『暴蓮二』だった気がする。


「ねぇ君、大丈夫?」

「えっ……う、うん」


 彼が手を差し出してくれたので、私は手を伸ばし掴んだ。そして、立ち上がらせてくれた彼を私は目を逸らさずに見た。

 何て眩しい笑顔を向けるんだろう。初めて会った彼に真っ先に抱いた感想はそれだった。


「俺は紅蓮二! 君は?」

「あ……あか、り……」


 自分の名前を聞かれるなんて思ってなかったから、思わず吃ってしまった。うう、だって始めてだもん……。


「あかりちゃん、か……じゃあさ、あーちゃんって呼んでもいい?」

「えっ?」

渾名(あだな)だよ、あかりちゃんの。駄目なら駄目でいいんだけど」

「だ、駄目じゃない……!」


 あ、渾名なんて初めてつけられた。しかも、可愛い……。それが嬉しくて、私は認めるべくコクコクと首を縦に何度も振った。


「よっし! 今日からあーちゃんって呼ぶから、宜しくね?」

「う、うん……!」






「――という事があって、私は蓮ちゃんから『あーちゃん』って呼ばれてたの。毎日の様に遊ぶようになって、私も何時の間にか蓮ちゃんって呼んでた」

「そ、そうでしたか……」


 う、嘘だろ……? 俺が神楽先輩と幼い頃に遊んでたなんて。し、しかも『あーちゃん』呼びしてた事を全く覚えてなかったし、彼女に言われて始めて、自分がとんでもない事をしでかしたと悔しさで胸がいっぱいだった。


「あ、あの……神楽先輩」

「何?」

「すみませんでした……!」


 俺は神楽先輩に対して謝罪した。彼女は俺との思い出を大切にしてくれており、ずっと忘れずに覚えていた。それなのに、自分はすっかり忘れてしまっていた事に対して激しい怒りが芽生えていた。自分の情けなさが腹立つぜ……!


「……蓮ちゃんは悪くないよ? だから気にしなくていい」

「で、でもそれじゃ俺の気が収まらないんす! 何でもしますから、許してくれませんか!?」

「! ……ほんと?」


 あ、あれ? 俺、何かとんでもない事を口走った気がする。神楽先輩の目から炎のようなものが見えるし、力が(みなぎ)っているような……そんな気がした。


「……じゃあ、これからは私の事を神楽先輩じゃなくて『あーちゃん』って呼んでくれる? 蓮ちゃん」

「あ、あの……せめて『あーちゃん先輩』じゃ駄目ですか?」

「さっき何でもするって言ったよね……? 嘘は良くないよ、蓮ちゃん」


 あ、あら? 何か目から光が失われてるんですけど。それでいて、物凄い殺気が身体から(にじ)み出ている。これ、逆らったら不味い……! 恥ずかしいが、致し方あるまい。男に二言はない……だよなぁ?


「わ、分かりましたよ。あ……あーちゃん」

「っ! うん……ありがと」


 なんて眩しい笑顔を()せるんだよ、神楽せ……じゃなくて、あーちゃんは。こんなんやられたら何も言えねーわ。それに俺が悪いしな? 仕方あるまい……。

 それにしても……うーむ、膝枕されてるからこそ分かるが、少しでも傾かれたらあーちゃんのおっぱいが当たるんだよなぁ……って、ほんと何考えてんだよ俺。自重しろ……!


「頭!」

「?」


 この声……雅人さんか? (ふすま)開けないでいるから影がくっきりと映し出されている。それに声音がいつもと違って、興奮してるように聞こえた。


「ど、どうした?」

「お嬢がお帰りになりました……。ですが、お嬢と美月さんを助けた御学友の村田弘人と、柳美紅が負傷しております」

「っ!?」


 アイツらが……!? まさか、やられ――いや、雅人はさっき『負傷した』と言っただけ。それを知っているって事は、この家に来ている筈だ。それなら……。


「神奈さんたちは何処に?」

「医務室に連れてうちの女性組員たちに手当させてます」

「そうか……分かった。報告ありがとう」

「それでは、失礼します!」


 雅人さんがここから離れていくのを見送った事だし……さてと、見舞いにでも行くか。と思い、体動かそうとするが全く力が入らん。

 ちっ、どうやらさっきの喧嘩に加えて親父とのタイマンのダメージの反動が一気に来てしまったのか。家に帰ったという安心から気が抜けてしまったんだな……。


「蓮ちゃん、大丈夫?」

「すみません、あーちゃん……また、肩を貸してくれます?」

「勿論だよ、蓮ちゃん」


 俺からの頼み事を満面の笑みで受けてくれ、ゆっくりと立ち上がろうとする俺をサポートしてくれる。お年寄りを介護する介護士みてぇだな……と、思ってしまった俺は悪くない。

 何せ、体全体にガタがきてるせいか足に力が入らないからだ。あーちゃんが支えてくれないと、歩く事すらままならない年寄りそのものだからなぁ、今の俺は。


「そんじゃ、医務室まで頼みます。案内は俺がしますんで」

「分かった……」


 俺はあーちゃんと共に、医務室にゆっくりと向かうのであった……!

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