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高校生極道  作者: 華琳
2章 虎城高校vs劉星会
30/63

蓮二と神楽 前編

 俺たち六人は帰路についていた。弘人は柳に絡まれ、神奈さんと萩原は相変わらず楽しそうにしている。そして、残った俺と神楽先輩でそんな四人の後ろを歩いていた。


「神奈先輩ってよくパーカー着てますけど、パーカーが好きなんですか?」

「……うん。このパーカーも、実は自作」

「嘘っ!?」


 驚きを隠せなかったからか、思わず声が裏返ってしまった。

 神楽先輩が着てる、黒ベースの聖母マリアのバックプリントがなされている五分袖パーカー……これ手作りなの!?


「服を一から作れるって、普通に凄いですね。俺じゃ絶対できませんよ」

「そんなことない。日々、努力すればできるよ……」


 顔を林檎のように真っ赤にしてそっぽを向く神楽先輩。うーむ、その仕草が可愛いなぁ。先輩相手に可愛いという言い方はどうなんだろう? とは思うけど、可愛いものは可愛いんだから仕方ないだろ。


「……何?」

「い、いえ……別に何でもないですよ、神楽先輩」


 おっと、俺とした事が。ジロジロと見すぎたからか、神楽先輩が警戒してしまった。確かに良くなかったかもしれないな。いけないいけない、反省しなきゃ。


「そういや神楽先輩、聞きたい事があるんすけど」

「?」

「あの時、何で俺の事を気にかけてくれたんすか?」

「!」


 昨日の会議で香川先輩にぶっ飛ばされ、その時に心配してくれたのが、目の前にいる神楽先輩だ。接点もないこの人が、何故俺の事を気にかけてくれたのか? そんな疑問でいっぱいだった。


「え、えっと……その……」


 さぁ、神楽先輩。貴女が何を隠してるか、話してもらいましょうか……? オロオロし始めた彼女を俺は真っ直ぐ目で捉える。逃げさせはしませんよ……。


「おい、何だテメェら?」

「あん?」

「?」


 弘人たちが銀バッジをつけた黒いスーツを着た三人組の男たちに絡まれていた。一目見たが、スーツの連中の顔や拳……相当細かい傷がたくさん出来てやがる。あの傷はかなり喧嘩しないと出来ないものだ。こいつら全員、間違いなく喧嘩に対して相当慣れがあるぞ……!


「囲まれてる……」

「え?」


 神楽先輩がボソリと呟いた言葉に反応した俺は慌てて周りを見渡した。するとそこには目の前の三人と同様に、黒スーツの男たちが二十人もいた。そして俺たちを追い詰める為なのか、続々とこっちに詰め寄っている。おいおい、マジかよ……!?


「チッ! 不味いっすね、これ」

「……うん」


 それのせいで、俺たちもゆっくりと後ずさりながら弘人たちに合流せざるを得なかった。その為、六対二十三という圧倒的不利な状況に陥った。

 俺たちは互いに背中を合わせ、円形に囲っている男たちを睨みつけ、膠着(こうちゃく)状態になる。向こうも簡単には動かねぇか……! 


「蓮二さん、この人たちはもしかして……」

「ええ。コイツら全員、劉星会の連中です。バッジに劉の文字がありますからね」

「! そうか、コイツらがハル君を……」


 俺が劉星会の単語を出した直後、柳が右拳を強く握り締めていた。春川がやられた知らせを聞いた時、明らかにキレてたし、何より会議の時の殺気も尋常じゃなかった。目の前に憎い相手がいるから、力が入るのも無理はないだろう。


「おい、アイツだ」

「ああ……あれが同胞をやった橘組の若頭、紅蓮二か」

「!」


 コイツら……狙いは俺か。湾岸での喧嘩だけでなく、街中でも橘組が劉星会のメンバーを拘束してるからな。恨みを全て若頭である俺にぶつけるって魂胆か……。となると、弘人たちは絶対に逃がさねぇと……っ!


「おい、皆。俺が隙を作るから、その一瞬で全員突っ込め」


 俺は右ポケットにあったモノを握り締めて皆に呼びかけた。これなら成功すればいけると思う自信があるから出た言葉だが……。


「ちょ、何言ってんの蓮二!?」


 萩原の怒鳴り声が、俺には全く聞こえなかった。チャンスは一度きり、失敗は許されない。そう思ってしまうと、全身から汗が流れているのに加えて、心臓がバクバクと鳴っているのを感じていた。やべー、珍しくテンパってやがる。こういう時は……!!


「ははっ……!」

「ん?」

「コイツ……何笑ってんだ?」


 乾いた笑いだが、敵に対しての意味は特になかった。俺がしたかったのは気持ちを落ち着かせることだった。

 こういう時にガチガチに動けなくなっちまうと命取りになるからな。できる限り身体の緊張を解いてやる必要があった。まぁこのやり方はあくまでも俺だけのやり方で、人それぞれ方法は違うだろう。


「フゥゥゥゥ……」


 俺が大きく息を吐き、呼吸を整えた直後に俺は右ポケットから手を素早く出し、掴んでいたモノを上空に弾いた――――!!


 キィィィン!!


『っ!?』


 俺が弾いたモノの正体は一枚の小銭だ。コレを親指で弾くコイントスによって高らかに音を鳴り響かせることが出来る。これはやられると間違いなく注意を引きつけることが出来るが、一回やってしまえば慣れてしまう為乱用は出来ない。


「行けお前らぁ!!」


 気を取られた劉星会の奴等が視線を上に向けたその瞬間を狙い、俺は雄叫びを上げながらタックルをぶちかました。


「がっ!?」


 予想だにしてなかったのか、勢いよくぶっ飛び頭を打ち、気絶してしまう。それによって空いた僅かな空間を駆け抜けた。


「成程、そういう事かよ蓮二!」

「了解っ! 神奈に美月も、ボクたちの後についてきてね!!」

「おわっ!?」

「ぐっ!!」


 それを見た弘人と柳は、俺に続くように同じくタックルをぶちかまし空間を作って、駆ける。そしてそんな二人の後に神奈さんと萩原はダッシュでついていく。察してくれてありがとよ、お前ら!


「あー、上手くいって良かった……!」

「……流石」

「おおう!?」


 気がつけば神楽先輩が俺の横に立っていた。この人、いつの間に……!? ま、まぁいいや。これによって俺ら二人と弘人たちは逆方向に包囲を抜け、そんな俺たちの間には、一人減ったとはいえ劉星会の連中が残り二十二人もいる。こうなってしまった以上、ここでの合流はもう不可能だ。仕方ねぇ……!


「弘人! 柳! 神奈さんと萩原の事を頼む!!」

「っ!」

「蓮二くん!?」

「後で必ず会おう! 散れ!!」


 俺の掛け声で全員がスタートを切り、この場から全速力で離れる。それを見た男たちが慌てて追いかけてくるのを、俺は振り返ることなく走り続けた――――






「はぁっ、はぁっ……!」

「おい、皆いるか?」

「うん、何とかね……」

「はい……」


 蓮二と神楽先輩の二人と別れ、俺たち四人は四神商店街の一角にある小さな公園で休息を取っていた。走りっぱなしだったから、皆も疲れてやがる。


「蓮二の奴、まさかあのタイミングであんな事をするなんて思わなかったぜ」

「それはボクも同じ気持ちだよ。勝負師だねぇ、蓮二くんは」


 柳と軽く笑い合いながら、蓮二に対する感想を述べていた。まぁ確かにあのコイントスは気を引くには持ってこいの技だし、最善の手と言えるだろう。だけど……。


「蓮二の奴、大丈夫なの? あの怪我」

「普段なら問題無いと思うけど、今は怪我があるから心配だよ」


 そう、アイツは今負傷している。しかも頬の腫れ方から分かるが、間違いなく喧嘩して出来たものだ。しかし、蓮二は俺と柳を倒す程の強者だ。そんな奴があんな大怪我を負うなんて、いったい誰と喧嘩したんだよ……?

 そんな疑問を抱いた瞬間、ジャリッと土を踏んだ靴音が聞こえた。そこに視線を向けると……!


「見つけたぜ、ガキ共……!!」

「くっ……!」

「しつこいねぇ、劉星会の連中は……」


 息を切らしながら、俺たちを睨みつける劉星会のメンバーがいた。こっちが四人なのに対して、向こうの人数は倍の八人か。ということは、向こうに十四人も向かわせた計算になる。蓮二が負けるとは思えんが、怪我のせいでもしかする可能性もある。

 なら、とっととコイツら倒して蓮二の所に向かわねぇとな……!


「おい、柳。お前半数の四人やれるか?」

「当然じゃないか、村田。君こそ、ボクの足を引っ張るなよ?」

「コノヤロー……言うじゃねぇか? なら、やるぞ」

「オッケー!!」


 俺と柳はコツンと軽く拳を合わせ、笑みを浮かべた。そして、劉星会の連中を見据えて拳をバキボキと鳴らし始めた。


「いくぜ劉星会!」

「ハル君の仇を取る!!」


 俺たち二人は猪突猛進の勢いで劉星会の連中に突っ込んだ――――






「何とか撒けたか……」


 俺は今、高架下の壁にもたれかかって一人で休んでいた。というのも途中で神楽先輩とは逃走経路が分かれてしまったので、今何処にいるのかも不明であるからだ。まぁ、あの人の強さは会議の時に充分知っている。だから心配はしなくても大丈夫だろう……。


「はぁ……はぁ……。弘人たちは無事かね……?」

「人の心配をする余裕があるのか? 紅蓮二」

「っ!?」


 クソッ、つけられていたか……!

 片側の入口に人数が七人。急いで逃げようと逆側である後ろを振り向いたその時――――


 ゴッ!!


「がっ!?」


 いきなり拳が飛んできて、俺はガードすることが出来ずに直撃してしまった。それによって俺の足は止まってしまい、再度壁に叩きつけられた。

 つーか、周りをよく見てみると……。


「おいおい、十四人もいるじゃねーか。マジかよ……!?」

「当然だろう? 俺たちの狙いはお前だったんだからな」


 やばいな、この状況。親父との喧嘩で負傷して、身体が思うように動かせない俺一人に対して相手は怪我が無く、中国拳法を扱う十四人。この状況は不味いが、喧嘩に言い訳はできない。

 体格差は勿論だが、怪我の状態も関係ない。喧嘩は武器を使おうが圧倒的不利な状況であろうと、何でもアリで行われる理不尽な戦いであるからだ。


「ハッ……こんな怪我人に大人数たぁ、随分と情けないねぇ? 劉星会はビビリの集まりかよ?」


 余裕だと思い込ませる為、俺はニッと笑い挑発を試みた。これで向こうが乗ってきてくれたら御の字だが……どうだ?


「……フッ、その手の挑発には乗らんよ? 紅蓮二君。我々はそんなの慣れているからね」

「チッ……!」


 分かってはいたが、やっぱこんな安い手には引っかからねぇか。さぁて、こうなると残る手段はたった一つしかない。今の俺でどこまでやれるか分からんが、力づくでここを抜け出す!!


「うおらぁ!!」

「ぐあっ!?」


 俺は今出せる力を最大限振り絞りながら、先程の挑発を上手く躱した茶髪の天パ男を殴り飛ばした。それを見た、残りのメンバーの顔つきが鋭くなった。これでもう引き返すことはできない。やるしかねぇ!!


「っらぁ!」

「ぐふっ!」


 とにかく俺に出来るのは、ただひたすら止まらず動き続ける事だ。蹴りだろうと拳だろうと大振りで構わない。これだけで相手はやりにくいからな。

 本来喧嘩において多対一は多の方が有利に思えるがそうではない。実は、人数が多い方が攻撃しにくいのだ。というのも、俺以外全員味方である事から、自分の攻撃が仲間に当たってしまう確率が上がる。つまり、同士討ちしやすくなるって事だ。


 ゴッ!!


「ぶっ!?」

「す、すまな――」

「っしゃあ!!」

「あぐぁ!?」


 俺がスウェーして蹴りを躱した先に劉星会の一人がいたので、攻撃が当たってしまった。それによって出来た隙を見逃さずに拳を顔面にぶち込んだ。


「このガキ!!」


 だから結果として人数で勝っていても、結局は一人でしか突っ込む事が出来ないのだ。とはいえ、かなりキツいけどな……!!


 ガクッ!!


「っ!?」


 やべっ、足の力が抜けてしまった! こんな時に……!!


「せいっ!」

「ぐっ!!」


 な、何て重い突きだよ……!? こんなんまともに貰ったら意識飛ぶぞ!? 何とか右腕でガード出来たのが幸いだったが、痺れてしまったので暫くの間上がりそうにない。

 あー、これ本格的に絶望的状況だな。今までの喧嘩でも、過去最高のピンチだと思う。だけど――――


「中々に頑張ったな。だが、もう何も出来ないだろう?」

「ハッ……お前らみたいな腐れ外道に噛みつく事ならやれるけどなぁ?」


 喧嘩の時は決して弱気になってはならない。だから俺は、こんなピンチな時でも虚勢を張った。それが気に入らなかったのか、目の前にいるグラサンをかけた金髪オールバックの男が身体がピクピクと震え拳を強く握り締めていた。


「ほぅ……よく言った! それなら噛みつこうとする汚い獣を殺そうとしても、文句はないな!?」

「く……!」


 俺は繰り出してきた拳を防ごうとまだ動く左腕を動かそうとしたが、激痛が走り動かすことが出来なかった。やべ、やられる!?

 そう思ったその時――――!


 ガッ!!


「あ?」

「……」

「か、神楽先輩……っ!?」


 な、何でここに神楽先輩がいるんだ? つーか、よく見ると目がどす黒い。それにこの尋常じゃない程の殺気が(にじ)み出てる。とても女子が出せる迫力じゃ無いぞ……!?


「何してるの? アンタ……!」

「いでででで!?」


 神楽先輩が男の腕を捻り上げ辺りにいる連中全員にメンチを効かせる。それだけなのに相手がビビる程の迫力を出せる。これは極道である人間でもそうはいないだろう……。


「蓮ちゃんにそれ以上手を出してみろ……!? もし、手を出したらお前ら全員――」

「え?」


 今、俺の事を “蓮ちゃん” って言わなかったかあの人!? どういう事だと考え始めようとしたその時――――


「ブッコロス……!!」

『っ!?』


 この高架下全体から熱を奪う、神楽先輩の恐ろしい程に冷たい啖呵が反響した……!!

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