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高校生極道  作者: 華琳
2章 虎城高校vs劉星会
28/63

まさかの結論

「……」

「お、おい紅君。さっきから凄い睨まれてるんだが?」

「は、はは……」


 神奈さんと俺は、結城先輩と共に二年と三年の校舎にある屋上にいた。俺が例の件で話があるって言ったら結城先輩は来てくれたんだが、案の定こうなったか。

 神奈さん、結城先輩の事を目の敵にしてやがる……!


「それに紅君、その怪我はどうしたんだ? まさか劉星会に――」

「違いますよ……。あんな中国マフィア如きに遅れは取りません」


 結城先輩の言葉を遮るように俺はキッパリと言ってのけた。親父との喧嘩で出来た怪我は、人を驚かせるには充分なものだ。昨日まで、怪我のない俺を見ている結城先輩が相手なら尚更な……。


「それならいいんだ。で……例の件はどうなった?」


 さて、と。今から言う事を結城先輩はどう思うかね……? まぁまず間違いなく、度肝を抜かれるだろうなと思いながら俺は口を開いた。


「親父からはたった一言だけですよ。この喧嘩、橘組は今後一切関わらねぇから好きにしろとの事です」

「っ!? ど、どういう事だ!!」

「今からそれを説明しますよ。今朝の事です」






「おはようございます、親父」

「おう……」

「ど、どうしたんですか?」


 呼び出しを受けた俺は親父の部屋に一人で来たのだが、そこには意気消沈している親父がいた。えっ、昨日までの元気はどうしたんすか!?


「ちょっとな……それよりも蓮二、こっち来て座らんかい」

「は、はい。失礼します」


 テーブルを挟み、俺と親父が対面する。親父も俺との喧嘩で出来た傷が残ってる筈なのに、堂々としてやがる。やっぱりこの人化物だったか……。


「さて、蓮二。呼び出したのは他でもない。劉星会の件についてや」

「!」


 俺は親父とのタイマンに負けた。だから、当然だが『駄目だ』の一言で一蹴するだろうと確信していた。だがしかし、親父の口から放たれた言葉はそれと真逆のものだった。


「今回の喧嘩……ワシら橘組は、もう手を引く。虎城高校(お前ら)のとこで好きにせぇ」

「えっ!? ど、どういう事ですか親父!?」


 親父の言った言葉を俺は信じることが出来なかった。橘組が手を引くという事は、昨日までなら天地がひっくり返ってもありえない事だから……!

 俺も急な事だったから、思わず親父に食ってかかる勢いで聞き返してしまった。


「実は昨日な? お前との喧嘩の後で雅人から劉星会に関する報告があったんや」

「報告、ですか……?」

「ああ。今の劉星会は中国マフィアではなかったってことがな」

「はぁっ!?」


 劉星会が、中国マフィアではなかった? 親父の言ってる事の意味が分からねぇ……。どういう事だよ!? つーかそれよりも!!


「まぁ落ち着かんかい、蓮二」

「いやいや、落ち着けませんよ! それが本当なら俺と親父が喧嘩した意味ないじゃないですか!!」

「ほんまやのぅ? はっはっは!」

「笑って済まないで下さいよ!?」


 俺の意見がサラッと受け流されてしまった。俺がどんな覚悟を持って、組の掟まで使ってタイマンを挑んだと思ってんだよ……!


「まぁそれはおいといて……。蓮二、話を戻すで?」

「は、はい!!」

「雅人が例のやり方で、劉星会の一人から口を割らせたそうや」

「!」


 普段温厚な雅人さんがやるとは思えないアレか。俺も一度見た事はあるが、あれは正直二度と見たくねーよ。初めて見た時、思わず吐きそうになったしな……。


「それで、得た情報が……劉星会を仕切ってるのは范って男で、その下には四神市(この街)でかき集めた中国人が二百人もおるって事や」

「二百ですか? もっと数が多いと思ってましたけど、少ないですね」

「ああ……。せやけど、そいつら全員中国拳法を身に付けとる。そこいらにいるチンピラ何かとは比べ物にならへんから、注意が必要や」


 中国拳法を二百近い人数全員が、ねぇ? 成程、それなら学校の奴等がやられるのも仕方ない。格闘技である拳法や武術等を使う相手に、素人が勝つというのはかなり難しいからな……!


「せやけど、そいつらはマフィアの構成員ではない。范という男が流していたデマやった、言う事や」

「!」


 やってくれるじゃねぇか、范って野郎……! 俺らはまんまと噂に引っ掛かってたって事かよ。

 噂ってのは本当にタチが悪く、本当であっても嘘であっても広まってしまえばそれだけで認識されるからな。今回の場合は最悪の伝わり方だけど。


「せやから、橘組は街の警護に人数を当てる。蓮二、お前は高校生側として参加せぇ。思う存分、暴れてこんかい!」

「っ! はい!!」






「――ってわけですよ、結城先輩」

「そ、そうか……申し訳ない! 私のせいでこんな怪我を」


 結城先輩が俺の頬に触れようと右手を伸ばしたその時、神奈さんがその手首を掴みあげた。


「蓮二さんに触れないで貰えます? 結城先輩」

「橘神奈君……離してくれ」

「嫌です」


 あの、神奈さん? 何か目から光が失われてるんですけど!? こんな神奈さん初めて見た。つーか、結城先輩も神奈さんにガン飛ばしてる!?

 やばい、この二人物凄く怖い……!!


「か、神奈さん! 話の続きがあるんで、一旦離してやって下さい!!」

「……蓮二さんがそう言うなら」


 神奈さんの目から光が戻り、いつもの様に微笑みながら結城先輩の手首から手を離した。今の神奈さんは本当に俺が本気でビビってしまうほど恐ろしかった。

 もしかすると、俺は神奈さんが本気で怒るという意味を勘違いしてたかもしれない。あの時はまだ序の口レベルだったのかもな……。


「結城先輩。今回の喧嘩、どう対抗します?」

「! あ、ああ……。それなら私に考えがある」


 結城先輩が制服のポケットから折り畳んでいる一枚の紙を取り出し、俺に手渡してきた。それを俺が広げて、神奈さんもそれに視線をやった。


「部隊編成表……ですか?」


 神奈さんが呟いたこの一言。そう、結城先輩が置いた紙には部隊編成表とタイトルがあり、そこにはメンバーである生徒の名前が書かれていた。主にあの時の会議でいた、俺含め十五人のな……。


「ああ。もし、賛成になった時の事を考えて昨日作ったものだ」


 へぇ……? 結城先輩も行動が早いな。さてさて、どんな編成だ?

 えっと、結城先輩が久坂先輩と叶先輩、そして七海の三人と組み、猪狩先輩と中村先輩が藤堂先輩と矢田先輩に櫻井の五人、香川先輩が安藤先輩に佐藤の三人と組んで……!


「俺が柳と神楽先輩との三人すか……」

「あの場にいた皆の戦力を均等にわけたつもりだ。春香の所にいる猪狩が喧嘩を苦手としている為、人数を多めにした」


 へぇ、あの人喧嘩苦手なのか……。なのに幹部って事は、よほどの信頼があるのかね?


「それと、君の班についてだが……。あの神楽が本気で一個人を守る所を初めて見たから、一緒にしておいたんだ。神楽もその方が、力を出せるだろうと思ってな?」


 そうだったのか……。結城先輩からの言葉で、何か神楽先輩が俺を特別扱い? しているように聞こえるな。それにしても、この編成は有難い。神楽先輩には聞きたいことがあったからよ?

 それよりも、心配なのが――――


「七海と叶先輩を一緒にするの、不味くないですか?」

「そこは私が抑えるから大丈夫だ。その為の編成にしてある」


 頭である結城先輩を一緒にいるから大丈夫だと思うが、不安しかねーぞ。絶対喧嘩するのが目に見えるんだけど。


「劉星会との喧嘩の間、常にこのメンバーで行動するように一年に伝えてくれ。二年と三年には私から伝えておこう」

「お願いします」

「じゃあな、紅蓮二君」


 そう言って、屋上の出口の扉まで向かっていく結城先輩を見送った後、俺はその場に座り込んだ。


「はぁ……疲れた」

「蓮二さん、大丈夫ですか?」

「正直、結構バテてます。やっぱり、喧嘩でのダメージ全然抜けてないっすわ」


 今の俺なら、誰でも喧嘩売ってきても負ける確率は高いだろう。だからと言って、そう簡単に負ける気はしないし、負けてもやらん。気持ちだけは常にこうなんだが、今の身体がどこまでついてきてくれるかね……?

 そんなことを考えていると、いつの間にか隣に正座して座っている神奈さんが俺のことを見つめていた。


「うおっ!? どうしたんですか神奈さん!?」

「蓮二さん、それなら私が膝枕してあげましょうか?」

「…………はい?」


 え……? 神奈さん、今なんと言った? ヒザマクラ? ひざまくらって、あの膝枕だよな? しかも、神奈さんの……!?


「うそぉぉぉ!?」

「嘘じゃないですよ。蓮二さん、驚きすぎです」

「いやだって、今までやってくれたこと無かったですよね!?」


 この一年で、一緒に寝たことはあったが膝枕してくれた事は一度もない。なのに何故……?


「今朝、父さんに問いただすまで蓮二さんの状態を知れませんでした。だからせめて、これで少しでも癒そうと思ったんです。駄目でした?」


 神奈さん……! 貴女の上目遣いは最高に反則なんですから止めて下さい。俺がこんなの断れる訳ないでしょう!?


「いえ! 是非お願いします!!」

「それじゃあ蓮二さん、ゆっくりと頭をここに置いて下さい」


 ポンポンと膝を叩きながら、誘導する神奈さんに俺は頭を預けた。

 あ、やっべ……。神奈さんの膝枕、超気持ちいい。意識が……落ちる――――






「すぅ……すぅ……」

「ふふっ。蓮二さん、もう寝てしまいましたか」


 気持ちよさそうな寝顔ですね、蓮二さん。それにしても、父さん相手に堂々と戦った結果の怪我とはいえ酷いですね。こんなになるまで、頑張って……。

 そう思いながら無意識だったのか、私は自然と彼の頬に手を添えていました。


「んん……むにゃ……」

「今はゆっくり休んで下さい」


 寝ている蓮二さんに語りかけながら、私は彼の頭を優しく撫でる。今出来る事はこれくらいしかありませんから……。


「私がついていますから、安心して下さいね?」


 寝ている彼に笑顔を向け、再度私は手を伸ばした――――

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