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高校生極道  作者: 華琳
2章 虎城高校vs劉星会
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虎城会議 後編

 結城先輩の放った言葉に、俺と七海に皆の目が集まる。それより今、極道って言葉を……!?


「結城先輩……アンタ、何処まで俺たちの素性を知ってんだ?」

「何処までだと思う? “紅鬼(あかおに)” の名を馳せた、紅蓮二君……」

「!」


 俺は席から立ち上がって結城先輩を睨みつけるが、全く動じることは無かった。チッ、気に入らねぇ女だ……!!

 あの言い草だと、どうやらここ最近の情報は間違いなく知ってそうな気がする。気持ちの悪いもんだな……? 初めて会う人間に素性知られてるのはよ?


「皆も聞いてほしい。ここにいる二人は極道関係者だ。井口七海さんは隣町にある鷹緖組の若頭補佐、井口団蔵さんの娘。そして……紅蓮二君は、この街にある橘組の若頭だ」

『っ!!』


 コイツ……! 七海も気にいらないのか、結城先輩にメンチを切っている。まぁそりゃそうだろ? 知られたくない素性ってのは誰にでもあるもんだ。それをあっさりと喋りやがった……!!


「お前があの紅鬼で、しかも橘組の若頭だと?」

「……だったらなんすか? 香川先輩」

「お前みたいなガキが、あの橘組の若頭だなんて俺は認めねぇ、絶対認めねぇぞ……!」

「はぁ……」


 あー、ほらこういう事が起きるから嫌なんだよ。弘人や萩原の時は神奈さんもいたから納得してもらえたけど、こうやって関係者のいない時に紹介されると間違いなく気に入らねー奴は出るんだよなあ。


「本当なの? 七海」

「あはは……事実なんだよね、これが」

「マジかよお前!? 何で黙ってたんだよ!?」


 つか、七海の奴も櫻井や佐藤に言い寄られてるし……大変だよな、ホント。


「おい、何ださっきの溜息は?」

「別に何もねーっすよ……」

「何も無いわけねぇだろうが!」


 あーあー、もうめんどくせぇ。前の俺なら迷いなく突っかかるところだが、そうはいかねーしなぁ……?


「クソ生意気な後輩だな、テメェはよぉ……?」


 そう呟いてニヤリと笑んだ香川先輩が、いきなり俺に向かって歩き出したかに思えたが、何かどんどん速さが上がって――!?


「しゃあ!!」

「いっ!?」


 咄嗟のことで反応が遅れてしまい、俺は香川先輩のドロップキックを防ぐ事ができずに直で貰ってしまった。何とか倒れるまではしなかったものの、窓際までぶっ飛ばされてしまい窓に身体が打ち付けられる。


「がっ!?」

「ははっ!!」


 しかも、香川先輩は止まることなく猛進してくる。先輩相手に喧嘩したくないとか、言ってる場合じゃない……! やるしかねぇ!!

 そう思い、拳を強く握りしめ迎え撃つ準備をしていたのだが――――


 ドガッ!!


「ぐっ!?」

「え……」

「お前、ぶっ殺されたいのか……!!」


 七海が香川先輩の腹に一発ハイキックをぶち込み、啖呵を切っていた。やばい、今の七海はガチでキレてやがる。だって今の七海は女の子がしたらいけない狂気に満ちた目をしてるからな……!!

 しかし、香川先輩は何ともないのかピンピンしており、ニヤニヤしながらそんな七海を見つめていた。


「ははっ! 女の癖に力あるじゃねーか、井口七海よぉ?」

「蓮二に何してんだこの野郎……! お前だけは絶対に許さない!!」

「上等だ、かかってこいや!!」


 七海と香川先輩が同時に踏み込み、互いに攻撃を繰り出そうとしたその時――!


「そ、そこまで……」

「神楽!?」

「っ!?」


 香川先輩の右拳を左手で、七海の右脚を右腕で静止している神楽先輩の姿があった……!!

 この人、何時の間に二人の間に割って入った……!? 速いとかそんな次元じゃない、まるで最初からそこにいたような――――


「止めんじゃねー神楽! 折角、楽しい喧嘩になりそうだったのによぉ!?」

「駄目……」

「それじゃあテメェが相手してくれんのか、あぁっ!?」


 香川先輩は喧嘩を止めた神楽先輩へと怒りの矛先を変えており、もう七海の方を見てすらいなかった。七海は七海で、ゆっくりと右脚を下ろしてポカンとした表情で神楽先輩を見つめてるし……。


「香川……ウルサイヨ?」

「っ!!」


 な、何だ今の声は!? それに加え、全てを拒絶するような冷たい視線……! 気がつけば首の裏筋からは滝のように、右手からはじわりと汗が流れてやがる。

 ははっ、マジかよこの人……! これで二度目だ。俺が、女相手に本気でビビったのはよ?


「チッ……わーったよ! 止めりゃいいんだろ、止めれば!!」


 そう言って不貞腐れながら、自分の席へずかずかと歩きながら戻っていく。ホッ、何とかなったか……って、ん? 何か神楽先輩、俺の方を見てる。え、何でだ?

 あ、何かこっち来た……。近い近い、神楽先輩、近いっす。その豊満なおっぱいが当たりそうなギリギリの距離やめて!?


「あの、何すか? 神楽先輩」

「……怪我、大丈夫?」


 怪我って……さっきの香川先輩の蹴りで窓際まで叩きつけられたからか? 何故か上目遣いで見つめてくるからドキドキしてしまう。


「だ、大丈夫っすよ。俺、打たれ強いんで」

「良かった。それじゃ……」

「!」


 んん? 何故、神楽先輩は俺に良かったと言ったんだ? それに……あの人、あんな風に笑えるのか。ポーカーフェイスの上手い人かと思ったけど、意外と感情豊かな一面もあるんだな……。


「すまないな、うちの香川が迷惑をかけて」

「……別にもう気にしてねーっすよ、俺は」

「君はそう言っても、彼女は納得してないみたいだが?」

「え?」


 結城先輩が指し示した先には、明らかに怒ってる七海がいる。というのも、眉間に皺を寄せており香川先輩にガンを飛ばしているからだ……。


「七海、もういいから止めろ」

「でもっ!」

「頼む。その気持ちだけで、俺は充分だからよ」

「……分かった」


 とりあえず何とかなったか。このままじゃ話し合いにすらならないからな。

 これで何とか話を切り出すきっかけは作れた……! よし。


「で、結城先輩。俺たちの力を借りるってのはどういう事すか?」

「それは私も蓮二と同じ意見よ。聞かせてもらおうかしら、結城天音さん?」


 俺と七海が投げかけた言葉により、再び緊張感が部屋に戻った。そう、結城先輩は俺たち二人が極道関係者だということを知っていた。この時点で何となく察しはつくが、あくまでも推測でしかないから断定はできない。

 直接自分の耳で、結城先輩の口から放たれる言葉を聞かないとな……!


「二人は恐らくだが、今この場にいる誰よりも劉星会の事に詳しい人間の筈。だから情報が欲しいんだよ、我々は」

「……つまり何? 情報(ネタ)を流せってこと?」

「察しがいいな。その通りだ……と、言いたいところだがそれだけじゃない」

「はぁ?」


 ん? 情報を流すだけじゃない? だとすると他に考えられるのは……っ!?

 まさか、まさかだとは思いたい。この嫌な予感は当たって欲しくない。というか外れていて欲しい。俺は恐る恐る、口を開いた。


「アンタ、恐ろしい女だな」

「ん? 何がだい、紅蓮二君?」

「俺たち極道の立場を使って、自分らも組み込んでもらうつもりなんだろ? 劉星会討伐のメンバーによ……!?」

「えっ!?」

『っ!?』


 これ以外で高校生である皆がまともにマフィアと喧嘩する方法なんて思いつかないから、自然と辿り着く結果だ。結城先輩は俺の答えに対し、拍手を贈った。


「素晴らしい……! その通りだよ、紅蓮二君」


 あーやっぱりか……。外れて欲しかったけど、そういかないか。だけどな結城先輩、アンタ極道を舐めすぎてないか?


「はぁ〜……。悪いけど、それは間違いなく却下されますよ」

「何?」

「僕も紅君の意見に賛成します。結城さん」

「猪狩……」


 おっ、マジかよ。思わぬ所で三年の猪狩先輩がこっち側についてくれた。けど、何故に?


「橘組はこの街でなく、関東一円で有名な極道です。現組長である橘隼人さんは、この街にいる一般人(カタギ)を何よりも大事にする。だから、僕らを喧嘩に巻き込む事は絶対に却下する筈です。組の名に泥を塗ることになりますからね……!」


 言いたいこと全部、猪狩先輩に言われちまった。本来ならそれ、俺の台詞なんだけどな。


「そうか……だけど、話だけでも通してくれないか?」

「は? 結城先輩、さっき猪狩先輩が言ってましたよね? 却下するって」

「それでも、学生側からこういう意見があったという事を報告してくれないか?」


 この人、滅茶苦茶頑固じゃねーか!? クール系だと思ったけど意外と熱い一面もあるのかよ……。めんどくせぇなぁ、もう!!


「……話だけでいいんすね?」

「ああ。紅蓮二君、それに井口七海さん。頼む……」

『っ!?』






「この高校の頂点(てっぺん)にいる人間が、俺たち下級生に頭を下げたんだぞ? 極道関係者とか置いといて、無視(シカト)できるかっての」


 空を見上げながら俺はそう呟いた。あの時の結城先輩には皆面食らってたしな……。


「それはまぁそうだけどさ……? それにしても、あの香川ってやつ腹立つ〜!」

「まだキレてんのかよ?」

「だって、私の蓮二にあんな蹴りぶちかましたんだよ!?」

「コラコラ、勝手に人を所有物にするな」


 それにしても俺の事であんな風に怒ってくれる人間は神奈さん以来だな。七海の奴はそこまで俺の事を……。


「けど、ありがとな? 助けに入ってくれて」

「蓮二……! その言葉だけでも嬉しいよ私は。だけど、今思えば喧嘩の邪魔しちゃったかな……?」

「!」


 昔の俺なら間違いなく『邪魔だ』って言ってたかもな……? だけど、今は違う。


「ハッ……んな事思ってねーよ。喧嘩は好きだけど、あれは面倒臭いタイプだったし、止めてくれて感謝してるよ」

「そっか……」

「とにかく、今回の話は通しておかないとな……」


 俺は俺で改めて、覚悟をキメていた。何せ話す相手はあの親父だ。気合入れておいて損はしねぇからよ……!?


「私もめんどくさいけど、一応父さんに話つけとくよ。ま、却下されるだろうけどね」

「頼むわ……」


 そして、都合よく授業終了の鐘が鳴ったのを聞いた俺たちは屋上を後にしたのであった――――






「ふぅ……」


 学校から帰ってトレーニング用のジャージに着替え、トレーニングルーム前の扉で一呼吸していた。というのも、先程雅人さんから親父は今ここにいると聞いたからだ。しかも都合よく一人で。

 なので、絶対に『誰も通さないように』と若頭として雅人さんに緘口令(かんこうれい)を敷かせた。だから今、この場にいるのは俺と親父のみだ。


「うし、行くか!!」


 俺は改めて気合を入れ直して、扉を開いた。するとその先には……!!


「……な、何やってんすか親父?」


 何故にトレーニングルームのど真ん中で腕立てをしてるんだ? 入って早々思った感想がそれだ。

 しかもそれに加えて――――


「おう、蓮二……! 見て分からんか? 腕立てや、腕立て」


 いや、それは分かるんすけど……何でダンベル背中に乗せてんすか! しかもそれ、親父特注の100キロダンベルですよね!? 

 覚悟決めてここまで来たのに、親父が筋トレしてる姿を見て一気に緊張感無くなっちまったぜ……。


「親父……背中、大丈夫っすか?」

「馬鹿もん、これくらいは平気や。うっし、これでラストの一万回目や!!」

「い、一万回!?」


 嘘だろおい……! 普通、人間が100キロのダンベルを背中に乗せることすら出来ないのに、その状態でケロッと腕立て一万回もしてんの!? しかも片手で100キロのダンベル持つなよ平然と! 俺ですらそんな事できねぇのに……!!


「で、何の用や? 蓮二……」

「っ! はい。今日学校で……劉星会の件での話し合いがありました。その件について報告を」


 やっぱりすげぇよ、この人……。一瞬で空気が変わった。今から話す内容、正直怖いんだけど――――


「! 聞こうやないか、その話。こっち来い」

「はい!」


 もう、腹括るしかねぇよな。この後どんな事が起きようとも……俺は全てを受け入れる。そんな気持ちで、親父の元へとゆっくり歩を進めた――――

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