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高校生極道  作者: 華琳
2章 虎城高校vs劉星会
23/63

虎城会議 前編

 俺は屋上に来ていた。というのも、会談が終わってすぐに教室に戻る気がなかったからだ……。


「……」


 俺は寝転がって空を見上げた。空に浮かんでいる雲は、風に煽られてゆっくり流れ移動をしていた。

 お前らは何も考えずに、のんびり出来ていいよなぁ……? 俺もそうなりたいわ。


「蓮二、これでも飲んで。いくよっ!」

「っと……。サンキュ、七海」


 七海から一本のペットボトルを投げ渡されるので、それを片手で受け取る。

 中身はお茶だが、まぁ飲めれば何でもいいか……。俺は身体を起こして胡座をかき、キャップを取ってグイッと勢いよくお茶を飲んだ。


「ぷはっ! 美味ぇ。七海、ありがとな」

「気にしないで。それ、学食のおば様のお茶だから特別製だよ」

「マジか!? 学食のおばちゃん気前いいのな」


 それにしても、マジで麦茶美味い……。

 この学校の学食にいるおばちゃんのお茶は、学食において人気が高い。だが、このお茶が出るのは日替わり定食だけなので、学食で一番人気なのが日替わり定食だったりする。


「それにしても、よく貰えたな?」

「おば様がね? 私が入学してからいつも利用してるからって、特別サービスしてくれたんだ〜」

「へぇ……というか、おば様って何?」

「おばちゃんって言い難いから、おば様にしてるの。この言い方だと何でか喜んでくれるからさ」


 それにしても、七海と学校で二人きりになるとは思ってなかった。こんな風に他愛のない雑談してると、先程までの事が嘘のように思える。


「で、蓮二……どうするの? 今回の件」

「……」


 七海の言葉を無視し、俺は再度寝転がった。今回の件というのは、会議で起きたある出来事によるものだ。

 あれは約二時間前の事――――






「行方不明って……結城さん! それ、マジですか!?」

「ああ、マジだよ猪狩。何せそれは、うちのクラスの人間だからな……」

『!!』

「チッ!!」


 嫌な予感が当たっちまった! 自然と舌打ちしてしまったが、これは本当に不味い!!

 本来、普通の行方不明なら生きているか死んでいるかの二択になる。だがしかし、このような喧嘩時の行方不明というのは、生き残る確率より確実に(バラ)される確率の方が高いのだ。

 それが皆分かっているからか、この場における緊張感が増した気がした……!!


「結城、このまま黙ってるわけねーよな?」

「本来なら黙るはずが無い……と、言いたいところだが今回の相手は中国マフィアだ。これ以上の犠牲を出すわけにもいかないだろ? 香川」


 おおっ、結城先輩はちゃんと分かってる。頭としての責務なのか、それとも劉星会の事を知った上での発言か……? どっちでもいいが、冷静に対処してくれるのは助かるぜ。


「そりゃまぁ、そうだけどよ……! 仲間やられて黙ってられるかよ!!」

「落ち着け。だから私は皆を招集したんだ」

「何?」


 ん?『皆を招集した』ってどういう事だ? 結城先輩は喧嘩しない旨を伝える為に、俺たちを招集したわけじゃないとすると――――


「皆の意見を聞きたい。今回の劉星会との喧嘩……打って出るべきかどうかを、な」

『!!』


 そういう事か……! ここにいるのは一年の各クラスの頭に加えて二、三年の先輩方。しかも久坂先輩が俺と柳を招集した時に言っていた『幹部』という言葉も引っかかっていたが、ようやく分かった。

 恐らくだが、ここにいる先輩方は全員、各クラスの頭である人間ばかり。今ここで行われてるのは、この高校における首脳会議みたいなものだ。つまり、この場で出る結論は上の人間が決めたという事になる。

 もし、喧嘩する事に決まったら……!!


「結城先輩、俺は――」

「俺は反対です」

「! タツキ……」


 俺が意見しようとしたが、久坂先輩にぶった切られた。最初から反対意見が出た事によって、この場にいる全員の視線が久坂先輩に向いた。


「相手は中国マフィアで、既に行方不明が三人も出た。この時点でもう、ただの喧嘩じゃ無くなってる。これ以上の犠牲者を出すわけにはいかないでしょう? だから、俺は反対に一票入れます」

「そうか……他の皆は?」

「私もタツキ君と同様に反対です」

「俺も」


 お、久坂先輩と同じ二年の藤堂先輩と安藤先輩も反対か。いきなり賛成票がない展開だ。このまま行けばいいと思うが、そうならないのは分かっていた。

 何故なら――――


「俺は打って出るべきだと思うぜ、結城」

「香川……」

「さっきも言ったが、俺は仲間やられて黙ってるほどお人好しじゃねーんでな。相手が他校だろうが、マフィアだろうが関係ねぇんだ……よっ!」


 バァン!!


 香川先輩が右拳を机に思いっ切り叩きつけた事で、周りが萎縮してしまった。まぁ無理もないだろう……。何せ、今の一撃によって机が右拳の形に減り込んでいるのだから……!!


「私は香川先輩の意見に賛成します。気持ちは一緒ですから」

「おぉっ、叶!」


 真っ先に手を挙げたのは先程、暴れそうになったガングロ先輩……ではなく、二年の叶先輩だ。この人、初見で間違いなく血の気の多い人だと思ってたから間違いなく香川先輩に賛同すると思ってたぜ……!!


「うちのクラスの連中は何人も入院させられてるんだ。返しを取らなきゃ話にならないよ」

「わ、わ、私も……賛成」

「おおっ!? 矢田、アンタも?」

「うん……」


 あの矢田先輩も賛成に加わった事で、互いに三票ずつ入った。

 つーか、あの人喋るんだな……。それが俺にとっては驚きだし、声可愛いな。一瞬、声優さんか何かかと思ったぞ!?


「僕は反対ですね。相手が中国マフィアな上に、数も実態も分からない組織に無計画で挑む程馬鹿な事は無いですからね」

「……」


 猪狩先輩の反対意見に、無口ながらも首をコクコクと縦に振ってそれに賛同する神楽先輩。三年の二人が反対意見に加わり、これで三対五だと思った矢先――――


「私は賛成。天音ちゃんのクラスで行方不明になった中には、私の友達がいるからね……!」

「春香……」


 中村先輩の目には静かにだが、闘志が漲っているかのように感じた。それにしても、頭の事を名前で呼ぶ、しかもちゃん付けとなると二人は仲がいいのかね……?

 とりあえずこれで四対五、未だ反対側が有利か。


「これで二、三年の票は決まったが、一年諸君。君たちは?」

「ボクは賛成ですよ、結城先輩」


 真っ先に挙手したのは柳だった。まぁ、そりゃそうだ。春川がやられたのを教えてくれた時、明らかに殺意が篭ってたからな。そりゃこんなの賛成するに決まってる。


「俺も賛成っすね。マフィアと喧嘩できるなんて早々ないしな……!」

「私も賛成。私も友達やられてるし、返しを取りたい」


 マジかよお前ら! これで一年は俺と七海以外が全員賛成した事になり、賛成票が七票で反対が五票になって逆転した。

 俺も返しを取りたい気持ちはある……が、それよりも橘組の人間として劉星会からの被害をこれ以上増やすわけにはいかねぇんだよ……!!


「俺は反対に票を入れます。猪狩先輩の言った事に一理あるんで」

「はいはーい! 蓮二がそういうなら私も反対でーす」


 七海……! ありがとな、マジで。俺は七海の方を向こうとしたが、何か右手を握られてるような感じがするのでそっちに視線をやる。

 すると、七海が俺の手を握っていたのだ。しかも、痛くないので普通に力もあまり入れてないのが分かる。しかも笑顔だしよ……!?

 こんなん、やめろなんて言えねーわ。


「おい結城、これで七対七で丁度キリがいい。あとはお前の票だけだぞ」

「っ!!」


 しまった……! ここにいるのは十五人。奇数だから間違いなく賛成か反対のどちらかに多く入る。しかも最後の一人がこの高校の頭である結城先輩。学校で最も強い立場の人間の発言力は大きい。

 クソッ、これじゃ不味い……!


「普段なら速攻で打って出たい所だ。うちの生徒が大勢やられてるからな」

「それじゃ――」

「まぁ待て、香川。あくまでも普段なら、だ」


 確かにそうだ。結城先輩は今『普段なら』と言っていた。この人も流石に馬鹿ではないか……。

 組織における頭というのは、全責任を背負う立場にある。自分の言葉で人を動かす立場の人間は、起きる結果を全て自分で受け止めなければならない。

 それが分かっているから、結城先輩は簡単に決断はできないのだ……!


「先程も言ったが、相手は学生ではなくプロの中国マフィア。それに加えて行方不明も出ている以上、喧嘩は避けるべきだ。しかし、このまま黙りを決め込むというのも納得出来ない人もいるだろ?」


 ん? なんか話が変な方向に飛躍してねーか? 何で避けるべきだと言っておいて、そんな打開策を提示する?


「当たり前だろ! 少なくとも賛成したやつはそう思ってる!!」

「だよな……? そこで、私はある事を一つ提案したい」

「天音ちゃん、提案って?」


 結城先輩が何か俺と七海を見たような気がした。どうやら七海もそれを感じ取ったようで、結城先輩を睨みつけていた。何を考えてんだ……!?

 そして結城先輩が何故かニヤリと笑みを浮かべ、再度俺たちを見つめて口を開いた。


「紅蓮二君に、井口七海さん。君たちの力を借りたい。学生としての立場ではなく極道関係者としての立場を、な」

『!?』

「は?」

「えっ……」


 俺と七海の二人はこの時、結城先輩の言葉の意味がまだ分からなかった――――

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