先輩たちとの出会いは、衝撃の事実と共に・・・!?
「そういえば、君たち一年と会うのは初めてだね」
「確かに、これが初ですね」
「こっちの校舎でも君の噂は届いてるよ。転入二日でクラスを二つも落とした転入生は初めてだからね」
「そうですか……」
俺たち一年と、先輩たち二年と三年の校舎はそれぞれ別なのだ。最初は疑問に思ったが、この学校は敷地が広いからふんだんに使っていると神奈さんが教えてくれて、何とか納得は出来たんだ。
「で、君は一年仕切る気はあるの?」
「! いえ……俺は売られた喧嘩なら買いますけど、自分で喧嘩売る気はないです」
昔の俺なら有り得ないけどな、こんな発言はよ……?
ことわざに “男子三日会わざれば刮目して見よ” という言葉があるが、俺も成長? したと言えるのだろうか……。まぁ俺の場合はあれから一年の時が流れてるんだけどな。
「そっか〜」
ニコニコと笑う久坂先輩だが……それにしても、結構フレンドリーだな。グイグイ来る人だとは思ってたけど、割と話しやすい。結構優しい先輩なのかね……。
「っと、ついたよ。ここだ」
「大会議室……ですか?」
「大人数が集まるからね。ささ、入って入って」
「失礼します……」
久坂先輩が扉を開き、俺と柳は先に入らせてもらう。するとそこには、七海たちを始め、一年の各クラスの頭たちや先輩方が既に集まっていた。
「七海……それに櫻井に佐藤も来てたのか」
「やっほ、蓮二」
「よう」
「来たね……」
俺と柳は七海たちのところに歩み寄って合流し、周りを見渡す。十五人入っても大分広い。大会議室って名の通り、ちゃんと大人数で会議できるようにスペース確保されてるのな。
「久坂、遅かったな……」
「申し訳ないです、結城先輩」
久坂さんが結城先輩と名乗る女子に頭を下げている。俺と同じ……いや、少し濃い赤髪だな。赤髪に黒のワイシャツって組み合わせは合うな。映えるぜ……!
それに加えて凛とした佇まい。まるでいい所のお嬢様のように感じる。身近の人間で例えるなら、神奈さんのよう――っ!?
「痛っ! な、七海……何で腹摘むんだよ?」
「結城先輩をガン見しすぎ。どうせなら、私の方を見て欲しいんだけど?」
そう言いながら七海がワイシャツの第二ボタンを外し、こちらにチラチラと見せびらかしてくる。その時に、可愛くウィンクしてくるから思わずドキッとしてしまう。
チクショー! 視線が七海のおっぱいから外れん!!
「おい、小娘。ここは盛る場所じゃねーぞ?」
「あ? 誰アンタ……」
「アタシは二年の原田叶。アンタじゃなくて、叶先輩と呼びな」
肌が少し浅黒く、金髪ウェーブ髪。ミニスカからスパッツが見えており、ピンクの五分袖シャツを着ている女性……それが叶先輩だ。
七海に対しての忠告なのか、持っていた木刀の切っ先を七海の顎に軽くコツンと当てる。叶先輩の目から殺気が迸っているが、七海は――――
「あっそ。どうも、ガングロ先輩」
『!』
それを平然と受けながらも、挑発をかましたのだ。その挑発を聞いた瞬間、俺ら一年以外の先輩方がこちらを注視しているが……え? どうしたんですか?
「ガ、ガングロ!? そんなに肌、黒くねーよ!!」
「いやいや、これもうガングロ予備軍だから。だからガングロ先輩って渾名にしたんです。似合いますよ?」
眉をヒクヒクさせながら、七海は叶先輩に喰ってかかってやがる。七海の奴、キレてねーか? あれ止めないとやばいだろ……!?
「おいお前ら、止めねーのか?」
「無駄だ……。ああなった大将は、俺たちじゃ止められん」
「私たち、二人がかりで完膚無きまでに負けてるし」
あ、そういえばそうだった……。七海の奴、この櫻井と佐藤の二人を文字通り力でねじ伏せたんだったな。忘れてたぜ……!
「殺されてぇのか、小娘ぇ……!」
「やってみなよ、ガングロ先輩? 木刀なんか使うアンタに、負けるなんて思ってないからさ」
不味い、互いに熱くなってもう爆発寸前のところまで来てる! 俺が動こうとした時、俺の横を誰かが通ったのか、フワッと風を切った音が聞こえた。
いったい誰が――――
「そこまでにしてよ、二人とも」
「なんだお前……!?」
「柳……」
さっきまで全く話をしなかった柳が二人の間に割って入り、淡々と話しかけていた。いつもの元気は無いが、低く怒気の孕んだ声音に俺はこの時、驚きを隠せずにいた。
柳の奴、こんな声出せるのかよ……!!
「おいチビ、引っ込んでろ。私は今この小娘と話をしてんだよ!」
叶先輩はそれにビビることなく、突っかかるが七海は黙り込んでいた。どうやらビビってる訳では無いが……柳を見つめている。
どうしたんだ、七海の奴……?
「……いいわよ、柳。今は退いてあげる」
「あぁっ!? おい待て小娘! 逃げんのか!?」
「アンタよりも厄介な奴を敵に回したくないだけよ」
そう言いながら、七海はあっさりと俺のところにまで戻って右腕を取る。うん、やめよ? おっぱい当たるからさ!?
「叶先輩も、お願いします。ボクたちは今回、喧嘩するために集まったんじゃないんですよね?」
「何だとこのチビ――っ!」
『!?』
何だ、今の……!? 柳から放たれたのか? まるで心臓を鷲掴みにされたような圧迫感。こんな恐ろしい殺気を出せる高校生を、俺は初めて見た……。
今の柳には、下手したら俺でも勝てないかもしれない……!!
「お願いします、叶先輩」
「っ〜! クソが!!」
柳が頭を下げたのを見て、怒りの矛先を何処に向けたらいいのか分からなくなった叶先輩は、悪態をつきながら机の上に座り込む。何とか大喧嘩にならなくて助かったぜ……。
そう思った直後、パァン! と甲高い音が鳴り響く。皆一斉に音のした方へ振り向くと、どうやら結城先輩が一回だけ拍手したみたいだな。だって、合掌してるし……。
「ようやく落ち着いたか……。今日は私の招集に応じてくれて感謝する。各々、好きな席についてくれ」
結城先輩が指示を飛ばし、それに先輩方が従う形で円盤テーブルに配置されている席につく。成程……何となくだけど、結城先輩の立ち位置が分かった気がするぜ……!
そんなことを思いながら、俺たち一年もそれに倣って各々席についていく。俺は一番真下の中央の席に座り、結城先輩と対面する形になる。
「では、今回は初めて一年と会うから自己紹介もしていこう。私は三年A組の結城天音だ。自分で言うのもなんだが、この高校の頭として周りからは認知されている。宜しく」
やっぱり虎城高校の頂点だったか……! 凛としている結城先輩の態度に、俺らは息を呑んだ。高校生とは思えない、圧倒的貫禄ってもんを感じる。まぁ俺が言えた義理じゃないけどな……。
「じゃあ次は僕ですね。三年B組の猪狩慎吾です。初めまして、一年生諸君!」
漫画で見るようなぐるぐる眼鏡つけてる人初めて見た……。それに学生服のボタン全閉じで、七三の髪型。何か、如何にもガリ勉キャラっぽい人だな。この “不良学校四大勢力” の一つ、虎城高校には似合わない人材だ。
「三年C組、神楽燈……」
ピンクのパーカーのフードを取って、一礼する。その時に、燈色のゆるウェーブのかかったショートカット……そして髪と同じ色の眼も、太陽のようにキラキラと輝いて見えた。あ、またフード被った。綺麗なのに勿体ねえな……。
それにしてもおっぱいでけーな。七海よりもでかくねーか、あれ……?
「三年D組の中村春香です。宜しくね、一年生の皆さん」
ふわふわ系女子、と言うべきなのだろうか? 何か優しそうで母性溢れてるような、そんな人だと思う。
それに付け加えてお洒落さんだな。マッシュウルフの茶髪ロング……なんかセットも時間かかってそう。それに制服のシャツやスカートも改造してフリルついてるし、あくまでも思うだけだがな……。
「三年E組の香川晴彦だ! 呼び方は先輩つけようが、名前だろうが自由でいいぞ? ハッハッハッ!!」
どっからどう見てもスポーツマンじゃねーか……。坊主頭に虎城の刺繍がかれた黒のジャージ姿してたらそう思うわ……!
最初席につく前に見た時、俺が思ったのは確実に弘人よりもデカいという事だ。身長二メートルくらいあるんじゃねーのか、この人……!?
「じゃあ次は二年の俺らだね。俺は二年A組の久坂タツキ。宜しくな!」
うーん、やっぱりこの人爽やかだな……。それに改めてじっくり見ると分かる。この男、間違いなく強いってことがよ……!
「二年B組、原田叶」
自分のクラスと名前だけ言って、膨れっ面を作り七海を睨みつけている。叶先輩、相当『ガングロ』発言にキレてるみたいだな……。俺も気をつけよう。
「二年C組の安藤マサルだ! 宜しく、後輩共!!」
おっ、元気が良い躍動感のある先輩だ。しかし……言っちゃ悪いけど太ってるな。良くいえばぽっちゃり系男子、悪くいえばデブだ。シャツをズボンに入れてるから大きなお腹が目立つしな……。
だがしかし、俺は見た目だけで人を差別しない。それはこの高校に入ってからもそうだが、俺が常日頃からしてる事だからな……!
「二年D組、矢田愛佳……一応名前名乗ったけど、別に覚えなくていいよ……」
何か元気の無い先輩だな……。目のクマも酷いし、制服の白シャツもスカートもヨレヨレだ。つーか、紫色のボサボサ髪のせいで目が見えない。この人、どんな生活してんだよ……!? 気になるって!
「二年E組の藤堂綾です。宜しくお願いします」
ぺこりと丁寧に斜め四十五度のお辞儀をしてくれた。うん、素晴らしいと言えるほどに綺麗なものだ……。
「それでは、次に一年生も頼む。誰からでもいい」
結城先輩が俺らに対しても自己紹介を求めてきたので、とりあえず俺から行こうと思ったんだが――
「まずは俺から失礼します。初めまして、先輩の皆さん。俺は、一年D組の櫻井誠です」
「!」
挙手してから、紹介を済ませて頭を下げる櫻井の動きに俺は感心していた。
ほぅ、敬語使えんのかコイツ……。意外ちゃ意外だな。藤木から “喧嘩好きな馬鹿野郎” って聞いてたから、喧嘩上等とか言うんじゃなかろうかと思ったが、流石にそれはないか……。
「じゃあ次は私が……一年C組の佐藤ララです。先輩方、今日は宜しくお願いします」
佐藤は淡々と挨拶をこなしやがった。なんか慣れてる感じもしたが……まぁいいや。
「一年B組、柳美紅です。どうも……」
柳の声に覇気がない。先程までの気迫が嘘のようだぜ……! この場にいる皆もさっきのを見てたからか、呆気に取られてやがる。
「一年E組、井口七海。蓮二以外の男は興味無しなんで、ヨ・ロ・シ・ク……!」
「ぶふっ!」
おまっ、なんて事をぶちまけてんの!? 思わず吹いてしまったわ!! 何で『ヨロシク』だけゆっくり言ったの!? つーか周りの男共、ニヤニヤしすぎだろ!
というか……今気付いたけど、俺で最後かよ! 気を引き締めるべく、俺は一つ咳を入れた。
「ごほん! 一年A組の紅蓮二です。宜しくお願いします」
「よし、ありがとう……! それじゃあ早速だが会議を始める。議題は、うちの生徒が “劉星会” に喧嘩を売られている件についてだ」
俺の紹介が終わってすぐに会議へと切り替わる。議題はやはり、というよりは分かりきっていた。まぁ俺たち一年もやられてんだ……。二年や三年の先輩方もやられてると考えるのも普通だわな。
そして俺たちの視線が全部結城先輩に集まり、それを感じ取ったのか……彼女はゆっくりと口を開いた。
「全学年合わせて約六百人以上いるうちの生徒の約十分の一……六十人近い生徒が劉星会にやられている。重軽傷者の人数は十人にも満たないが、それでも数は多い方だ」
マジかよ!? うちの生徒、そんなにやられてたのか。俺は組で街の方に集中してたから全くもって知らなかったぜ……!
「そして、それ以上に不味い事態になっている……」
「え? 不味い事態って……どういう意味ですか結城さん?」
結城先輩の顔つきが明らかに変わった。眉間にシワを作って、猪狩先輩の方に振り向く。
俺はこの時、何となくだが嫌な予感がした。首の裏筋から汗がゆっくりと流れる感覚が伝わってる。こういう時の俺の勘は外れない……が、外れてほしい気持ちでいっぱいだった。
だが、結城先輩の放った言葉は――――
「行方不明の生徒が三人も出ているんだよ、猪狩……!」
「何ですって!?」
『っ!?』
この場にいる俺たち全員に、雷が落ちる程の衝撃を与えるのであった……!!