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高校生極道  作者: 華琳
2章 虎城高校vs劉星会
21/63

波乱の予感

 四神市の夜街で起きる喧嘩は……よく見られる光景だ。しかし、それは不良やギャングチーム同士での話。今、この街にある人目につかない湾岸の倉庫前にて喧嘩をしていたのは俺、紅蓮二と……中国マフィア “劉星会(りゅうせいかい)” の連中、十人だ。


「っらぁ!!」

「ガハッ!?」


 最後の一人が俺のアッパー喰らって膝をついてからその場に倒れ込んだ。十人全員が中国拳法を使うから、まとめて相手するのはちと骨が折れたがようやく決着がついた。


「さてと、話を聞こうか?」


 俺は倒れ込んだ男の髪を鷲掴みにして持ち上げ、睨みつける。すると、負けじとそいつもガンをとばしてくるが、俺は目を逸らさずにいた。

 これくらいでビビって視線を切るようじゃ、この先極道で通用するわけがないからな……。


「何が聞きたい……!?」


 中国人とはいえ、日本語慣れしてんな。思ってたよりも片言がない……って、思ってる場合じゃなかった!


「用件はたった一つだ。お前らの組織の実態、及び仲間の居場所を吐け……!」

「こ、断る……! 誰が貴様なんかに……っ!!」


 俺の脅しに対して男が歯軋(はぎし)りをしながら答えるが、怖くも何ともない。こんなのは苦し紛れだって分かる。喧嘩で負けた後に、不良たちが悔しがっているのと同じくだからな……!

 それにしても、肝が据わってんなこの男。今まで拘束した奴らは簡単にビビったのに、中々気骨のある男だ。こういう奴は組織に欲しいが、敵だからそれは無理に近いか……。


「それなら仕方ねぇ……! お前ら全員、連行させてもらう。後は頼んだぞ、お前ら」

『ウッス!!』


 俺が出した合図によって、組員たちが倒れている中国人を結束バンドを使って拘束し、倉庫へ連れていく。逃がさないよう、逃げ道を車で塞ぐように組員たちに指示を出して配置して良かった。万が一って事も有り得るからな……。

 ふぅ、これでやっと一息つけるな。そう思いながら俺は夜空に照らされている三日月を眺めていた。


「綺麗だねぇ……」

「蓮二様!!」

「げっ、レイ……!?」


 月見を楽しんでいたらまさかのレイ登場!? 予想だにしなかったから、思いっきり嫌がってしまったよ……! そんな俺の面を見たからか、レイは俺を睨みつけていた。


「『げっ、レイ……!?』ではありません! またお一人でこんな無茶を!!」

「いや、お前何でここにいるんだ!?」


 今回俺はレイを呼んでいなかったし、話もしていなかった。なのに何故、この場に来れたのか……? 普通に疑問に思うわ!!


「うちの組員から、蓮二様が何人か連れて出て行ったという報告を聞きました。それで気になって、すぐに追いかけたんです」

「いや、それでもこんな場所分かんねーだろ……?」

「ウチの車には全て、GPSが付いてるのをお忘れで?」


 あ、忘れてた。そういや、前にレイや雅人さんからも教えて貰ったな……。成程、それでここが分かったのか。


「蓮二様、自分の立場を理解して下さい! 貴方は私たちの組において親父同様、大切な人なんですよ!?」

「理解してるよ……」

「いいえ! 貴方は分かってません!!」


 レイの説教は相変わらず堪えるな……。女でここまで俺に物申せる奴もかなり少ないから、尚更だ。


「このような仕事は下の者の務めのはずです! なのに何故――」

「レイ……俺はいつも言ってるだろ? 組織の上の者が動かないと、下の奴等だって付いて来ないってよ……?」


 俺はレイの言葉を遮って語った。上の者の威厳だ、何だと喚き散らす事よりも、組織の為に自分が率先して体を張って行動する。そうすることで、周りの人間も付いて来てくれる。

 これは、俺が橘組に入ってから分かった事だ……!


「確かにそれはそうかもしれませんが!」

「ならいいじゃねーか。それとも俺が、あんな下っ端如きに負けるとでも思ったのか? レイ」

「っ!? 蓮二様!!」


 俺の名を怒声で呼んだレイは両手で俺の右手をギュッと握りしめ、詰め寄ってきた。

 うおお、近い近い! 良い匂いしかしない!! 何で女ってこんな良い匂いするの!? 分かる人誰か教えて!?


「貴方は私も含め、組員たち全員が認めて私たちの頭になった男です! あんな奴等に負けるなんて有り得ません!!」

「お、おう……ありがとな、レイ」

「蓮二様、どうしたんです? 顔が真っ赤ですよ?」


 いやだって、普通こうなるだろ!? いい女から手を取られる……これだけでドキドキが止まらん! 


「あ〜、その……何だ。レイの手、あったかいと思ってよ」

「え……っ〜〜!?」


 気付いたのか、即座にレイは握っていた手を離し、そっぽを向いてしまった。こういうとこが俺がレイを可愛いと思う理由の一つだ。普段はクールビューティなイメージだけあって、中々拝めるものでもないからな……。


「れ、蓮二様……! あの、その……す、すみませんでした!」

「いやいや、謝る必要ないから。(むし)ろ、レイがここまで積極的だとは思わなかったから新発見だな、これは」

「忘れて下さいっ!!」


 照れているのか、レイの顔は茹で蛸のようになって、俺に懇願するが……うん、ごめんレイ。それは無理な話だわ……!だって、今のレイが可愛いんだもの。これが所謂(いわゆる)あれか、ギャップ萌えというやつか? 


「まぁそれは置いといてだ……」

「置かないで下さいよ!?」

「こっから先は真面目な話だ。今回の件も含め、これで劉星会の連中を約五十人近く拘束したが、未だに組織の尻尾が掴めねぇ。レイ、これについてどう思う?」


 俺は先程までのおふざけモードを消し去るように、声のトーンを落としてレイに語りかける。それで察してくれたのか、レイは考える人のように(あご)に手を置いた。

 そして数秒後――――


「私の見立てでは、劉星会の末端の部下ではなく、この街にいる不良や不法滞在の中国人を利用していると考えます」

「! 不法滞在の奴等まで?」

「はい。それなら蜥蜴(とかげ)の尻尾として切り捨てるのも簡単ですし、何より劉星会の人数が多いと思い込ませるブラフにもなりますから」


 成程な……。今述べたレイの考えが正しいとしたら、ちと厄介だぞ。今まで拘束した奴等全員から吐かせた情報は(ファン)という男の名前だけだ。

 うちの連中だって、情報(ネタ)を吐かせる為にキツい拷問をしているはずなのに、拘束者全員が口を割らない……! それだけ范という男が恐ろしいのか……はたまた弱みでも握られているのか? 今の段階でそれは分からない。唯一分かっている事は――――


「もしそうなら、向こうには相当頭のキレる奴がいるって事になる。そういう奴を相手にするのは面倒臭せぇな……!」


 俺は苦虫を噛んだ表情を浮かべて頭をボリボリと掻きながら、そう吐き捨てる。これは経験がものを言うのだが、キレ者を相手にするのは、なまじ喧嘩が強い相手を敵に回すよりも面倒極まりないのだ。


「仰る通りです。我々も相手の尻尾が掴めない以上、表立って動くことはできません。それに、警察の目もありますから……!」

「まぁ、焦った所で仕方ねぇよ。地道にこういう活動をしていかないとな」

「そうですね……でも蓮二様、今後は私もついて行きますからね?」

「わーった、わーった……! そんじゃレイ、帰るから車回してくれ」

「はい!」


 俺はレイが乗ってきた白のバンの助手席に乗り、レイと共に倉庫を後にした――――






「あ〜……しんど」

「蓮二さん、昨日もお務めだったんですか?」

「ええ、まぁ……」


 今日も神奈さんと共に登校しているのだが、どうも最近寝不足だ。というのも、昨日喧嘩した劉星会のメンバーがココ最近この街で暴れまくっているから、その事後処理が大変なんだよな……。


「劉星会、最近街でも名を聞くようになりましたね」

「ええ……今、この街での揉め事の大半がアイツらです。何とかしないと――ん?」

「蓮二さん、どうしたんですか?」

「神奈さんすみません、ちょっと持ってて下さい」


 俺は神奈さんに鞄を預け、駆け出した。というのも、うちのクラスの奴らが明らかにその筋の奴から胸ぐらを掴まれ脅されているからだ。


「おい! お前ら何してんだ!?」

「あっ! れ、蓮二……!」

「なんだお前……っ!?」


 俺を見てビビったのか、すぐに掴んでいた手を離した。それを見た俺は即座にクラスの奴らに駆け寄り、前に出る。


「お前、コイツらに何をしてたか正直に吐け」

「は、はぁっ!? そんなん誰が言うか――」


 ドガッ!!


『っ!?』

「こうなりたくなかったら、正直に答えろ……!」

「は、はぃぃっ!!」


 俺がカカト落としで地面を少しだけ抉ったのを見た男は、子供のように泣き出して俺に全てを語った。どうやらカツアゲをしようとしていたらしく、劉星会の名を出して脅していたようだ。


「チッ……! もう行け。二度とこんな真似するんじゃねーぞ」

「す、すみませんでした! 失礼します!!」


 スタコラサッサとトンズラをこいた男を俺は一息吐いて見送った。ったく、これで懲りてくれたらいいんだけどな……。


「蓮二さーん!」

「あ、神奈さん……! 荷物いきなり預けてすみませんでした」

「今回は仕方ありませんよ。はい、鞄どうぞ」


 そう言いながら神奈さんは俺に鞄を渡してくれた。目が笑っていない笑顔ではないので、怒ってはいないようだ。良かったぜ……!


「あざっす。うし、お前らも一緒に行くぞ」

「お、おう!」

「はい!!」


 そして俺と神奈さんは先程まで絡まれていた二人と共に学校に向かうのであった――――






「っ! お前らどうしたその怪我!?」


 教室に入って早々、腕にギプスをつけている奴や頭に包帯を巻いている連中を見て俺は慌てて駆け寄った。


「コイツら昨日やられたんだと。劉星会って名乗る奴等によ」

「何だと……!?」


 弘人が簡潔に説明してくれたので、大体の事は分かったが……クソッ!! 劉星会の奴等、クラスの連中にまで手を出しやがったのか。許せねぇ……っ!!

 俺が拳を作ったその時、ドアが開かれた。


「蓮二君……」

「お? 柳、どうした?」


 今日の柳にはいつもの元気がない。どうしたんだ? 


「……ハルくんが、やられた。劉星会の連中に……っ!!」

『なっ!?』

「それ……本当か?」

「うん……。今朝B組(うち)の仲間から連絡あった。今は病院に入院してるって」


 コクリと小さく頷く柳を見て、それが本当なのだと実感される。因みにハルくんとは、柳が春川につけた渾名だ。

 春川は柳曰く、喧嘩クラスで自分の次に強いと言っていた。柳みたいな強者が認めるレベルの奴が入院する程までにやられるとはな……!


「クソッ! 巫山戯やがって……!!」

「落ち着け、弘人」

「これが落ち着いてられっかよ! 蓮二、お前は――っ!?」

「……」


 俺は何も言わずに、弘人にメンチを切っていた。それを見た弘人は黙り込んでしまう。弘人の気持ちは痛いほど分かるし、俺だってブチ切れそうだ。しかし、ここで怒り任せに突っ込むのは得策では無い。何せ相手は中国マフィア。学生であるコイツらを巻き込むわけにはいかないからな……。

 教室内で重い沈黙が流れようとしていたその時、突如現れたのが短ランを身にまとった銀髪の男子生徒だった。


「失礼、ここに紅蓮二君と柳美紅さんはいるかい?」

「え?」

「……どちら様?」

「俺は二年の久坂(くさか)タツキ。一年A組とB組を仕切ってる君と、B組内で頭の柳さんを呼びに来たんだ」


 二年って事は先輩か、この人。つーか、今の重い雰囲気の教室に間違いなく似合わない人だってことは分かる。どっからどう見ても爽やか系のイケメンにしか見えないし……。

 って、それより今――――


「え? 俺たちをですか?」

「ああ。劉星会の件で俺ら虎城高校の頭、及び幹部連が待ってるから……来てくれるよね?」


 久坂先輩の『劉星会』の言葉にピクッと反応した柳に対し、俺は俺で『虎城高校の頭、及び幹部連』という所にポイントを置いていた。

 これはもしかすると、俺たち一年だけでなく、二年や三年の先輩方まで関係してるのか?


「ボクは行く……!」


 柳は力強い目で久坂先輩を見つめ、返事を返していた。握りしめている右拳から血が出ているのをみれば、彼女がどれだけキレているのかが分かる……。


「柳さんは決まりだけど、紅君……キミはどうする?」

「……分かりました。俺も参加させて貰います」

「決まりだね。それじゃあ行こうか? ついてきて」

「はい。そんじゃ、行ってくるわお前ら……! 弘人、少しの間頼むな」

「お、おうっ!」


 俺はそう言い残して柳と共に、久坂先輩の後について行く。この時俺は、劉星会と虎城高校の間で殺し合いが起きるんじゃないかと感じていた。確信はないけど、な……。

 だがしかし、事態は予想の遥か斜め上を行っていたのを、俺はまだ知らなかったのであった――――

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