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高校生極道  作者: 華琳
1章 若頭、転入します!? 
20/63

テスト勉強会!?

「え? 中間テスト?」

「はい……。来週から始まりますねって話を今、美月としていたんです」


 あの喧嘩から一週間が経過し、五月中旬に差し掛かっている。この時期は大概中間テストの時期だが……この学校もちゃんとテストとかあるんだな。俺はちょっと意外だった。もう勉強しなくて勝手に進級とかするんだと思ってたが、流石に学校だからそういうわけにもいかないのかね?


「それで、弘人は相当落ち込んでんだな?」

「テストとかめんどくせー……」


 机に顔を埋めている弘人はあからさまにやる気無しの面だった。まぁ、普通に考えてこの学校に入ってる奴で勉強好きなんて人間はそうはいないだろう。いたとしても、数は少ないと俺は思う。


「私も蘭ちゃん先生から聞いたんだけど、虎城高校(ウチ)の赤点は二十点だから優しいんだってさ〜」


 おいおい、赤点が二十点って随分と優しいんだなこの学校! 普通は三十点とかじゃないのか!?


「そんでもって、赤点とったら次の期末まで放課後補習だってさ」

「うげっ! それマジか!?」

「マジだよ。つーか、村田……アンタまさかだと思うけど、テストで二十点取ったことは……あるわよね?」


 萩原が恐る恐る村田に聞き返すが、村田のさっきの反応に加えてバツの悪い顔をしている。それだけで返ってくる答えというのは俺は――というより、神奈さんと萩原も分かっていた。

 そして村田はようやく、その重い口を開いた。


「いっつも一桁ばかりでした……」

「よく虎城高校に入れたな……?」

「この学校の入学は簡単なんですよ蓮二さん。何せ、入試では名前を書けば通りますからね」


 あ、そうなんですね……? って、名前を書くだけで入学って本当にあるんだな……。俺はこの時、何か聞いてはいけないことを聞いたような気がした。あくまでも、気だがな……。


「助けてくれ蓮二! 補習なんざごめんだ!!」

「分かったからとりあえず泣くの止めろ。後、足にしがみつくな……」


 こんな弘人を俺は初めて見た。正直な感想、村田はいつも堂々としてるから、補習ぐらいどうってことない気持ちで受けるもんだと思ってた。だがしかし、完全にそれとは真逆である……。


「前にも言ったろ? 俺は、友達(ダチ)が困ってんなら普通助けるってよ」

「それじゃあ!」

「おう。テスト勉強、付き合うぜ」


 俺はニッと弘人に笑って見せた。すると弘人がゴシゴシと目を拭いながら立ち上がり、俺に頭を下げた。


「蓮二、恩に着る!」

「しゃーない、私も協力するわよ村田。蓮二だけじゃ大変だろうしね」

「私も微力ながらお手伝いします」

「萩原に神奈さんも……ありがとうございます!」


こうして、俺たち四人によるテスト期間までの間放課後テスト勉強が決まったのであった……。






「あ……」

「紅蓮二……」


 校内にある自動販売機にて、俺がたまたま鉢合わせしたのはC組の頭である佐藤ララだ。どうやら俺と同じで飲み物を買っているようだが……今日は殺気は無い。

 どうやら、喧嘩をするつもりはないみたいだ。正直こっちとしては、弘人の差し入れとしてジュース買いに来ただけだから、有難い事だ。


「つーか、何で三本も買ってんだ?」

「これは櫻井のバカと井口の二人と一緒にテスト勉強してるから、その為よ。そういう貴方は?」


 バカって……そう言ってんやんなよ。一応仲間だろ? 一瞬、この台詞を言おうとしたがあえて言わなかった。どうせスルーされるのがオチだからな……。 

 それより今佐藤の奴、テスト勉強って言わなかったか?


「お前のとこもなのか? こっちもだよ、実は」

「え? まさかアンタたちも?」

「まぁな……」


マジかおい。とんでもない偶然だぞ、これは……! でも、もう流石にそんな奇跡起きるわけ――――


「お? 蓮二に……佐藤? 何やってんだよ、こんな所で?」

「春川……何故、貴方がここに?」

「俺は柳にジュースでも買ってやろうと思って来たら、お前らがたまたまこの場にいたってだけだ」


 ん? 柳の為だと? まさかな……。そんな訳ないよな。俺はそんなことを思いながら、恐る恐る春川に改めて理由を聞いてみた。


「因みに聞くが……その理由は?」

「柳の赤点回避の為、テスト勉強だが……」

「嘘でしょ……?」

「何つー偶然だよ……!」

「?」


 俺はこの時、一つの案を思いついた。最近、AB(うち)CDE(相手さん)の小競り合いが勃発してるから、怪我人が互いに増えている。このままじゃ不味いから、何とかしないとって考えてたんだが……丁度いい。

 ここいらで、敵さんとも交友でも深めますか……!






「――と、いうわけで……! 今日からテスト期間までの間、敵も味方も抜きで一学年合同で、テスト勉強会にしようと思う。因みにこれは、互いの頭である俺と七海が合意した事だから、お前らは逃げんなよ?」

「逃げようとしたら、私たちが成敗するからね〜?」


 俺は窓側に陣取り、七海がドア側の机の上に座り込みながらこの場にいる対象者である弘人に柳、そして櫻井に忠告した。すると、「うっ!」と三人が同時に声を漏らしたのでもう逃げる気は無いだろう。

 残りの神奈さんに萩原、そして春川と佐藤は賛成してくれたから、助けを求めても無駄だしな。


「橘は村田で柳に春川が……そして、私が櫻井にマンツーマンで教える。更に、萩原が全体のサポートって事だったわよね? 紅」

「ああ、その通りだ佐藤。そんじゃ始めるぞ!」


 テスト勉強会が始まってからは、教室が静けさに満ちていた。話す時は基本的に問題で解けない所の質問や、萩原の解説のみだ。

 うーむ、これは見てて面白い光景だ。普段は敵同士だけど、たまにはこういうのもあっていいと思う……。

 つーかこれ、俺と七海いるか? 何か逃げる気配全くないんだが……?


「大将、中々に危ない事をしたな」

「うおぅ!? 藤木お前……毎回何処から現れてんだよ?」

「それは秘密だ」


 背後からいきなり現れるから、怖いんだけど……。もうお前の存在自体が恐怖そのものになりそうだぜ。


「こんな光景、クラスの奴らは誰も想像してないだろうな」

「まぁそりゃそうだろ……? 敵対してるクラスの主だった連中が、手を取り合い “テスト” という共通の敵を倒しにかかってんだからよ?」


 俺はニッと笑みを浮かべ、藤木と共にテスト勉強に励む皆を見つめていた。弘人がしかめっ面になって問題を睨みつけ、柳は春川の教えでスラスラと解けていた。一方で櫻井が佐藤に蹴りをぶちかまされながら、渋々頑張ってる状態だ。

 確かに、誰も想像つかないわな? こんな光景。


「でも、これで新聞部が食いつくいいネタになったんじゃないの? 大将」

「! 何だ、気付いてたのか?」

「当たり前だよ。喧嘩を止めるには都合がいいネタだからね」


 俺の狙いは藤木も話してくれた通り、一年のクラス同士の喧嘩を止めることだ。その為にはまず、各クラスの主だった者を集めなくてはならなかったのだが……テストのおかげで、奇跡的に全員揃ったのだ。

 そしてそこで、迫っているテストを一学年全クラスの主だった者が、力を合わせて戦うという光景を見た新聞部は真っ先に、どうして喧嘩してるのかを疑う記事を書くと俺は睨んだ。

 まぁ、実行に移せたのは奇跡に等しいけどな……。


「そうです! 合ってますよ、村田くん」

「教師より分かりやすい……! これならいけるかも!」

「うん、正解だ柳。やれば出来るじゃないか」

「ハルくんと美月のおかげだよ〜。ありがとね!」

「私はちょっと解き方教えただけだから……」


 うん、うちの連中は何とかなってるな。弘人と柳は何とか乗ってくれてるからこのまま行けば来週から始まるテストは何とかなりそうだな。

 問題は――――


「やってらんねー! 訳が分からん!」

「何で分からないのよ、これくらい!? 初歩中の初歩でしょうが!!」


 七海側の受講生、櫻井誠か……! 教えてる佐藤もしびれを切らしたのか、櫻井に怒鳴り散らしていた……。

 つーか、そもそも何が分からないんだ? 俺は逆に興味を持ち、櫻井の解いてる問題を後ろから覗き見た。


「どれどれ……? あぁ〜、これは確かに初歩中の初歩だな」

「でしょう? こんなの問題文をちゃんと読めば分かるわよ」


 佐藤の言葉に俺は同意せざるを得なかった。というのも、櫻井が解いてる問題は国語の読解問題だ。その解き方の指定が『文章から抜き出せ』なので、読めば分かる問題なのだ……。


「だから、抜き出す文ってのが分からねーんだよ!」

「いいか櫻井。この問題は主人公の気持ちを示す文を抜き出せば正解なんだ。だから、悔しいとか、嬉しいみたいな気持ちを指す言葉を探してみろ」

「え? お、おう……」


 櫻井は一瞬キョトンとしたが、すぐさま俺の指示通りに文章から探し始めた。すると何かを閃いたようで、答えが分かったのか、その答えをノートに書き始めたのだ。


「どうだ佐藤! 正解だろ!?」

「……うん、合ってる。正解よ」

「っしゃ! 紅、ありがとな!」

「ちょっと助言しただけだ。大した事じゃねーよ……」


 見事問題に正解した櫻井だが、別に礼を言われるほどの事ではないので、俺は至って普通に返事を返す。だって、こんなのは考えれば誰でも分かるからな……。


「蓮二は謙虚だね……? でも、そういう所も好き!」

「七海……くっつくな。離れてくれ」

「何で?」


 何時の間にか俺の右腕を自然と絡め取っている七海に注意したのだが……キョトンとされてしまい、そんなのはお構い無しだった。寧ろ、余計に力が強くなったのだ。

 クソッ! おっぱいに視線が奪われる!! あ、気持ちいい……。って、何感触を堪能してんだよ俺は!?


「七海さん? お役目を忘れて何をしてるんですか……!? それと、蓮二さんは顔がデレデレしすぎですよ?」

「いててててっ!?」


 神奈さんが俺の右頬を引っ張りながら七海に警告のつもりなのか、殺気を放っていた。

 かなり痛いけど、それよりも神奈さんの殺気が物凄く怖く、まるで金縛りにあったかのように指一本すら動けない。蛇に睨まれた蛙というのは、まさにこの事だろう。

 だけど――――


「だって三人共、もう逃げる気も無くなってるみたいだし……それなら、蓮二と男と女の関係でも深めようと思っただけよ」

「深めなくて結構ですよ? 深めるなら、愛人になってからどうぞ」

「アンタが愛人になりなさいよ……!」


 七海は俺と違って、神奈さんに喰ってかかったのだ。しかも神奈さんも負けずに言い合ってやがる……!

 神奈さんは笑みを浮かべて、七海はジト目で互いに睨み合う。何か二人からバチバチと火花が散っているような、そんな気がする。


「怖いねぇ、女の戦いは」

「俺からしたら羨ましいけどな……! 蓮二の野郎……っ!!」

「蓮二の奴、一年の男共が見たら間違いなく酷い目に遭うだろうな……」

「俺らの頭は、とんでもない男に惚れたみたいだな。どっちが勝つかね、この喧嘩は?」


 藤木、弘人、春川、櫻井の四人がそれぞれ言いたいことを述べるが……助けてくれよ! お前ら何故傍観者になってんの!?


「あの二人、相当ヤるね……! 今度喧嘩してみたいよ」

「私は御免被る。今の二人に勝てるイメージが湧かない……」


 柳は喧嘩したくてうずうずしてるが、佐藤は逆に闘志が萎えていた。敵対してる “一年五本の指”  の二人の会話なんて新鮮だな……って言ってる場合じゃねー!?


「二人共、喧嘩してないで元に戻ろう!? 俺らだってテスト勉強しなきゃいけないでしょう!?」

「……それもそうですね」

「蓮二がそう言うなら……」


 ふぅ〜……! 何とかなったぜ。この二人の喧嘩はマジで洒落にならない! この中で二人の本気を見てるのは俺だけだ。あんな喧嘩を止めるのは正直、俺でもキツいからな……!


「うし、そんじゃ続けるぞお前ら!!」

『おう!!!』






 こんな調子で一週間テスト勉強会に励んだ結果……目論見通り、虎城新聞で俺たちが一面を飾る記事を出してくれた。そのおかげで、頭である俺と七海の間で休戦協定を結んだと、皆が勘違いしてるのは結果オーライだ。あっさりと喧嘩を抑えることが出来たんだからよ……!

 そして今日はテスト返却日で神奈さん、七海、萩原、佐藤、春川、藤木、そして俺を含めて七人は問題なく赤点を回避した。

 そして問題は――――


「さて、お前ら……どうだったよ?」

「フッ……問題なかったぜ蓮二!」


 まずは弘人が意気揚々とテストを全て机に叩きつけた。全教科大体三十点台というところか……。悪くない結果だ。充分補修回避の圏内だからな……!


「ありがとうございました、神奈さん!」

「良かったです。無事クリア出来て……」


 教えた神奈さんも胸を撫で下ろし、弘人の結果に満足している様子だ。弘人の元々のレベルが一桁しか取れなかったから、大成長だな……。


「次は柳だが……俺が確認した。全教科共に、最低でも五十点台だったぞ。よって、補修は無しだ」

「ボクも見た時は驚いたよ。これ本当に自分の答案なのかって……」


 柳も悪くない結果に終わったみたいだな。これでAB(うち)の連中は問題ないな……。これはとても良い事だが、問題はCDE(相手側の)の櫻井だ。何か放心したような顔をしているから、皆も心配そうに櫻井を見つめる。

 まさか――――


「櫻井お前、駄目だったのか……!?」

「いや、そうじゃないんだ。補習は回避したんだが、未だに信じられなくてよ……!」


 ん? どうやら補習は回避してるようだな……。なら何が信じられないんだ? そう思った俺が聞こうとした時、櫻井が俺の前に答案の一つを差し出した。

 するとそこには――――


「百点……生まれて初めて取ってしまった……!」

『えええええ!?』


 何と、櫻井が一教科だけ満点をとっていたのだ。しかも、俺が重点的に教えた国語のな……!

 こうして、何とか全員補習を回避したのだが……その喜びよりも、櫻井が取った点数に対する俺たちの叫びが、学校中に響き渡ったのであった――――

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