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高校生極道  作者: 華琳
1章 若頭、転入します!? 
17/63

神奈vs七海 前編

「「はぁぁぁぁっ!!」」


 ゴッ!! と鈍い音が響く。神奈さんと七海の右ハイキックが、お互いの顔面に命中したせいで、互いに口を切ったのか血を流していた。


「蓮二さん、見てて下さい! 私の勇姿を……!」

「蓮二! 私、絶対負けないから!!」

「どうしてこうなった?」


 俺は今、神奈さんと七海の二人が喧嘩してる場面に立ち会っていた。二人が何故喧嘩をする事になったのか? それは今日の昼休みに起きた、ある出来事がきっかけだった――――






 今日は柳と春川も含めて、いつものメンバー(俺、神奈さん、弘人、萩原、藤木)と食堂で昼を食べる約束をしていたので皆と飯を食べ、俺と神奈さんは共に食堂を後にし廊下を歩いていた。


「ふぁぁ~……」

「蓮二さん……もしかして、寝不足ですか? 目のクマが凄いですよ?」

「ええ……残ってる仕事を一気に片付けたんで」


 学校に通いながらも、俺が極道組織、橘組の若頭としてやらなきゃならない事もある。だからココ最近、溜まりに溜まっていた仕事を全て片付けたのだ。

 とはいえ、俺なんかではまだ不安な外交関係の仕事は雅人さんやレイにも協力してもらったけど……あの二人には本当に頭が上がらねーよ。


「そうでしたか……! それなら、保健室で休みますか? 私もお供しますので」

「すみません、神奈さん。お願いします」

「はい。それじゃ行きましょうか」


 俺は神奈さんと共に、この校舎一階にある保健室へと向かった。俺はこの時、安心して寝られると確信していた。前に藤木から話を聞いたのだが、保健室はよく利用される場所であるが故にそこでは『絶対に喧嘩してはならない』というこの高校での暗黙の了解(ルール)がある。破った者は停学か、下手すれば退学処分もあったらしい。

 要は保健室で喧嘩しなければ問題は無い。そういう事だ……。


「蓮二さん、着きましたよ」

「あ、はい」


 俺、そういや保健室は初めて利用するんだよな。

 さてさて、男なのか女なのか?どっちなのかを考えながら俺は神奈さんと共に保健室へと入った――――


「新井先生、失礼します」

「んー? おぉ、橘さんか。それと……へぇ? 今話題の一年(ルーキー)、紅蓮二君か。ようこそ、保健室へ」


 思ったよりもフケてるオジさんだな、おい! 白衣はシワが目立つ、髭も剃ってない、おまけに髪がボサボサだ。こんな清潔感の欠片も感じられない男がここの校医だと?


「は、初めまして。新井先生……で、いいんですよね?」

「おう。俺は新井健三(けんぞう)だ。 新井先生でいいから、宜しくな」


 そう言いながら新井先生は、ボサボサの頭を掻き毟りながら俺に挨拶を交わした。その時に頭垢が飛び散る。汚いなおい……本当に校医として、この人大丈夫か?


「で、今日は何しに来た? いや、ナニをしに来たんだ?」

「っ!?」

「ニヤニヤしながら何言ってんですか!?」


 少しは自重しろよ校医! あんた、寧ろそういうのを止めるのが仕事だろうが!? 神奈さんまであまりの発言に驚いて、顔を赤くしてんじゃねーか!!! 


「ってのは冗談だ。それより……紅、お前さんは寝不足で保健室に来たんだろ? で、橘はその付き添いってとこか」

「!」


 見ただけで俺が寝不足だと断言しやがった!? さっきまで大丈夫か? と心配していたのが嘘のようだ。目もなんか先程までの気だるさは消え、力が篭っているように感じる。何なんだこの男……!? ただ者じゃないぞ……!


「ど、どうして分かったんですか?」

「長年、色んな生徒を見てきたから分かるんだよ。俺にはな……? っと、それよりもだ。紅! 寝不足ならとっとと寝ろ。好きなだけ寝ろぃ」

「あんた本当に校医なのか? 普通は寝すぎたらサボりとかって、注意しねーの?」

「フッ……」


 あ、俺の言葉を鼻で笑いやがった。え? 俺なんか変なこと言ったか?


「あのなぁ……授業をサボる、授業に出る。それはお前らが自分で決めることであって、人に言われてやる事じゃないだろ? 俺はあくまでも怪我人や、お前みたいな体調不良者に場所を提供してやるってだけの話だ……! ま、嘘ついてる奴は分かるし、つまみ出すけどな」


 ケラケラと笑いながら新井先生は俺たちに語ってくれた。まぁ、確かに新井先生の言葉にも一理ある。要するに自分で責任を持って、行動しろってことだよな。

 それなら――――


「分かりました。それじゃ、遠慮なく寝させていただきます」

「おう、寝ろ寝ろ。ぶっ倒れられても、こっちが困るからな」


 俺はベッドへと向かい、そのまま横になる。あー、フカフカで気持ちいいな。これならすぐに寝れそうだ。


「それでは蓮二さん、放課後にお迎えに行きますね?」

「すみません、神奈さん。お願いします」


 神奈さんが保健室から去るのを見届けた直後、意識を失うかのように目の前が真っ暗になった――――






「はぁ~……」


 私、井口七海は溜息を吐きながらとぼとぼと廊下を歩いていた。昨日の橘神奈の言った言葉……あれは嘘だと信じたかった。だけど、蓮二が認めていたから間違いなく本当なのだろう。


「どうすればいいのよ……」


 私はそう落ち込みながら、教室には戻らず保健室に向かった。正直、今は授業に出れる状態じゃない。一旦落ち着かせる必要がある。新井先生にでも愚痴って悩みを解消してもらうか。

 そして私は保健室に辿り着き、扉をゆっくりと開けて、中へ入った。


「どうも、新井先生」

「お? 井口か……健康そうだが、何かワケありか?」


 私は入学式の時にこの男と会った事があるので、一応の認識はある。前の時も思ったけど、何でコイツはピンポイントで分かるのかが不思議だ。


「何で分かるのよ……?」

「俺は色んな生徒を見てきたから分かるんだよ。お前の今の状態は、恋に悩む乙女ってトコだな」

「うぐっ!?」

「図星か……まぁいい、そこ座れ。話、聞いてやるから」


 私は新井先生が指差したソファに座り、対面する形になった。普段はやる気のない先生にしか見えないんだけど、こういった時は真面目に生徒と向き合ってくれる。ホント、変わった先生だよ……。


「で、どうしたんだ?」

「昨日ね……? 久しぶりに初恋の男と再会出来たんだ。中学の二年の時だから――約一年とちょっとってとこか」

「ほぅほぅ、それで?」

「その時は死ぬほど嬉しかった! 中三の頃から突然姿を消すように学校に来なくなったからさ……」


 そう、蓮二は中三になってからは全く学校に来なくなった。最初は少年院にでもぶち込まれたんじゃないかって噂になってた。私も最初はそうだと思ってしまっていた一人だ。

 だけど、卒業アルバムに蓮二の写真があったから疑問に思った私は、当時の校長先生から話を聞いた。返ってきた答えは、蓮二は保健室登校という形で学校には来ていたというものだった。だから中学の卒業アルバムに名前もあったし、写真もあったのかと納得できた。

 そして私は、それを肌身離さずに持っておこうと決意し、中学の卒業アルバムで蓮二が笑っていた奇跡の一枚を見つけた。それを切り取り、今つけているロケットペンダントに入れている。これは今、私にとっての宝物である。


「そりゃ良かったじゃないの。なのに、何故落ち込む?」

「この学校にいるある女が、その男の “許嫁” だって名乗りを上げてきたのよ!」


 私は怒り任せにコーヒーテーブルを叩きつけた。その時、ダンッ!! と大きな音が響く。

 今思い出しても腹が立つ! 橘神奈……!!


「コラコラ、落ち着け井口。寝てる奴いるんだからよ」

「あ……! す、すみません」

「成程な? そりゃ穏やかじゃねぇ悩みだ。初恋の男に再会したら、他の女が言い寄ってたってわけだ」


 私は新井先生のストレートな物言いに何も言い返すことが出来なかった。それが的を射た発言だったからだ。この人、ホント容赦ないなぁ⋯⋯。


「でもよ。許嫁って事はまだ結婚はしてないって事だろ? それなら、まだまだお前さんにもチャンスはあると思うぞ」

「え?」

「そいつの事を諦められないなら、その許嫁って言った女から奪うのもアリだと思うぞ。それで起きる揉め事はお前が解決しなきゃいけないけどな」


 新井先生はそう言いながら、白衣の中に入れていた飴を口に含んだ。けど……そっか、そうだよね。別にまだ決まったわけじゃないんだ。許嫁だからって諦める必要ないじゃん!


「ありがとうございました、新井先生。お陰で吹っ切れました」

「カッカッカッ! 気にすんな」

「ん、んん~……」


 あ、誰か起きたみたいだ。新井先生が言ってた寝てる生徒かな? 盛り上がっちゃったから、もし起こしてしまったのなら私のせいだ。謝っておこう……。

 私は恐る恐るベッドに向かい、カーテンを開いた。


「あの、すみませんでした。うるさかったですよ――ねっ!?」

「え……? 七海か? お前、何でここにいるんだよ」


 え? う、嘘ぉぉぉぉおお!? 何で蓮二がここにいるの!? 思いもよらないことだったから声が上擦った!! やだもう恥ずかしい!!!


「起きたか、紅」

「新井先生! まさか寝てる生徒って、蓮二の事だったんですか!?」

「そのまさかだ。え、何? もしかしてお前、話に出てた男って――」

「わーっ! わーっ!!」


 私は新井先生が言いそうになるのを大声を出して遮る。保健室だとか関係ない! 蓮二に聞かれるのだけはマジで御免(ごめん)(こうむ)る!!


「話って……七海、新井先生と何か話してたのか?」

「っ!! う、うん。ちょっとした相談をね」

「そうだったのか……あぁ~、よく寝た」


 そう言いながら蓮二は起き上がって、右肩を回す。でも何で蓮二が寝ていたんだろ……? ハッ!もしかして――――


「蓮二!」

「ん? どうした?」

「昨日橘神奈と……何かあった?」

「! あー……別に何でもないぞ?」


 ちょっと待って、今の間は何? (やま)しい事が無いなら迷いなく答えられるはずだ。まさか昨日、橘神奈と!?


「蓮二、正直に答えて。橘神奈と……ヤッたの?」

「っ!? ヤ、ヤッてねーよ! つーか女子がそんな事、真顔で口にするなよ!!」

「そ、そっか……ごめんね、蓮二」


 私は蓮二に謝った後に、ホッと一息ついた。それなら安心だ。まだまだ私にもチャンスがあるからだ。


「いやぁ、青春ですなぁ。カッカッカッ」

「新井先生……そのビデオカメラは何です? 何でニヤニヤしながら撮ってんですか?」

「んー? 面白そうだから撮ってみたんだよ。これ、新聞部に渡したら “一年の頭二人の痴話喧嘩” って面白い記事になりそうだな、おい」

巫山戯(ふざけ)るなよアンタ! それ返せ!!」


 新井先生と蓮二の追いかけっこが保健室内にて行われたが、私はそれを笑って見ていた。蓮二のクールじゃない一面を初めて見た。それに私は目を奪われた。かつて、私を助けてくれたあの時のように……。






「ぜぇ、ぜぇ……! 化け物かよこの人」

「心外だなぁ……? 俺はただの校医だ」


 いやいや、この新井先生は正直言って化け物クラスだ。流石に理事長程ってわけじゃなさそうだけど、もしやり合うなら間違いなくタダじゃすまない。そんな感じの印象だ……。


「そんだけ動けるなら充分だな。でも、もうすぐで六時間目の授業も終わるからとりあえずここにいろ。井口、お前もな?」

「うす」

「は、はい……」

「さて、俺はちょいと煙草でも吸ってくるから任せるわ。じゃーな」


 そう言いながら新井先生は保健室から出ていってしまい、保健室で俺と七海の2人きりになってしまった。あれ? 昨日と同じ状況になったんですけど? これ、何てデジャヴ?


「れ、蓮二……ちょっといい?」

「おう? どうした、七海」

「すぅ~……はぁぁ~」


 突然七海が深呼吸して、頬を赤くして俺を力強く見つめる。俺は不覚にもドキッとしてしまい、七海の目から視線を離すことが出来なかった。


「あのね蓮二、私は――」


 ガラッ!!


「「っ!?」」


 七海が俺に何かを言おうとした時、突如扉が開かれた。嘘だろおい、何でこんなところまで似てるんだよ!? 前もこんな感じで良い雰囲気? のときに都合良く現れたんだよなぁ……。


「橘神奈っ! また私の邪魔を……!」

「井口さん……また貴女ですか」


 あれ? 何か二人が睨み合いを始めたぞ? 目が笑っていない笑みを浮かべている神奈さんの背後からは虎が、眉間にしわを寄せて神奈さんを睨みつけている七海の背後からはライオンが見えるんだけど!? 何これ、滅茶苦茶怖い! 足が動かねぇ……!!


「貴女、蓮二さんに何をしようとしたんです?」

「アンタに話す事はない。とっとと出ていきなさいよ」

「私は蓮二さんを迎えに来たんです。貴女こそ、お帰りになられてはどうです?」


 や、やばい。二人とも完全にキレてやがる。こんな所にいたら俺死んじゃう、逃げたい、そんな思いが芽生え始めているが、身体は硬直したままだ。


「誰が帰るか! つーかもう、言い合いにも飽きたわ。橘神奈!! 」

「はい?」

「私とタイマンで勝負しろ!」

「「っ!?」」


 七海が神奈さんに喧嘩売りやがった!? 正直なとこ、神奈さんと七海がやり合ったらどうなるかって気になるけど、何でそうなるんだよ!?


「敗者は勝者の言うことを何でも一つだけ聞く。条件はこれでいいわよね?」

「! ええ、分かりました。そのタイマン、受けさせていただきます」

「神奈さん!?」


 おいおいおい待て待て待て! 何で神奈さん、乗り気なの!? こんな神奈さんを俺は初めて見たかもしれない。思わず焦ってしまったけど、マジでやる気かこの二人!?


「よし。それじゃここだと迷惑がかかるから屋上行くわよ。彼処(あそこ)なら邪魔は入らないから」

「分かりました。行きましょうか」


 そう言って二人は出ていくのを俺は黙って見届けてしまったが、俺は間違いなく二人きりにしてしまうと喧嘩じゃなくて殺し合いになるという確信があった。

 それを阻止すべく、俺も二人の後を追いかけた――――

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