過去話をしただけで、どうしてこうなった?
「ご馳走様でした! いや、美味しかったぁ〜!」
「ここの料理を気に入ってくれたんなら何よりだ」
一緒に飯を食べてた時に思ったが、七海はかなり行儀が良かった。良かったのに加えて食べるスピードも、女とは思えないほどに早すぎるのだ。まるで、テレビに出る大食い選手並に早かった。行儀良くて食べるの早かったら何も言えないわ。悪かったら最悪だったけどな……。
「さて……飯も食べ終えたことだし、話してもらおうか?俺たちの出会いについてよ」
「! うん。私もようやく、蓮二に全てを話せるよ。何処から話そうか?」
「何処からって……そりゃ出会った場所と時間だ。それを聞かないと話にならないからよ?頼む」
今から井口七海が口にする事は……俺にとっての真実になるので、俺も七海の話に集中した。そして外で雨が降り始めた時、七海がゆっくりと口を開いたのだった――――
「あれは確か、中学二年の冬頃だったかな?この街じゃなくて、蓮二の地元であった事だよ」
「地元か……」
そういや、ここ一年は橘組でお世話になってたから帰ってなかったな。偶に連絡とかはするんだが、いつも留守電に繋がるから何してんだか……と、セルフツッコミをすることが多いな。って、今はそれ関係なかった!
「中学二年の冬……その時も七海はピンク髪だったのか?」
「そうだよ! その時確か閑古鳥の鷹緖商店街で、私がカツアゲされそうになったことがあったんだ。ほら、あそこって中学の通学路だったでしょ?」
「閑古鳥の……って、ああ〜! あそこか!! 七海、お前もしかして俺と同じ鷹緖中学だったのか!?」
「うん、そうだよ!」
七海がグッジョブしながら答えを返してくれたので、俺も驚きを隠せずにいたのと同時に何か急に懐かしくなってきた。
地元の中学で登校する時に必ず通ってた場所なんだよな、あの商店街。使う理由としては、そこを通るのが一番の近道だからだ。あの商店街を知ってるなら、七海と俺は中学が一緒である事は間違いない。近場にある中学は鷹緖中学、ただ一つだからな……。
「で、思い出せたかな? 蓮二……」
「あ〜、その……中学の時の俺は荒れてたから、一々その日その日の事を気にしてる余裕が無かったんだわ。だから……すまん! 思い出せそうにない!!」
俺は速攻で土下座を七海に対して敢行した。いや、流石にこれは無い。男としてもそうだけど、人として恥ずかしい。
「ええっ!? 土下座なんかしなくていいよ蓮二! 頭上げてって!!」
「無理!!」
「即答しないでよ!?」
この後暫くの間、俺と七海の「無理!」と「いいから!」の言い合い合戦になり、結局俺が七海の許しに対して下ることとなった。だってさ、泣こうとするんだぜ? 女の涙目に上目遣いのコンボに逆らえる男がいるとすれば、そいつはクソ以下の奴か、同性愛者ぐらいだろう。俺は常にそう思う……。
「それで、だ。確か、俺がカツアゲの被害になりそうだったお前を助けたって事だったな?」
「う、うんっ! あの時の蓮二の喧嘩、痺れたよ? 一瞬で絡んで来た五人組を蹴散らしてたし――」
「チッ……! 女一人に寄って集りやがって。つまんねぇ真似してんじゃねーよ」
「は、はひ。ず、ずいまぜん……!」
リーダー格である金髪モヒカン男が泣きながら土下座をしているが、それよりも驚いたのは助けてくれた人物にあった。何でこの人は私を助けてくれたんだろう? 向こうは知らないだろうけど、私はこの人の事を知っていた。クラスの人から聞いたんだけど、名前は確か……そう、紅蓮二。
この街では “紅鬼” なんて呼ばれてる、不良中の不良だ。私のお父さんがこの場にいたら、間違いなくスカウトしそうな気がするよ……。
だって、五人相手に素手で勝っちゃうんだもの。しかも、その内四人が意識を飛ばすほどの力。こんな逸材、中々お目にかかれないだろうから……!
「おい、アンタ」
「は、はいっ!?」
「あ〜……その、何だ。今度からは一人でこの辺歩くんじゃねーぞ? 危ないからな。そんじゃ」
そう言って彼は頭をボリボリと掻きながらこの場から立ち去ろうとするが、私は何故か呼び止めていた。
「ま、待って下さい! せめてお礼をさせて下さいっ!!」
「あ? 別にそんなのいらねぇよ。俺はコイツらが気に入らないからぶん殴った……それだけの事だ」
私の方に振り返り、淡々と言い切った彼は何も寄せ付けない……! まるで名前の紅なんて想像させない、氷のように冷たい態度だった。だけど、私は彼に目を奪われていた……。
「今度こそ……じゃあな」
歩きながらこっちを見ずに手を振り、彼が去って行く姿を見届ける事しか出来なかった。だけどその時、私は彼の背中が大きく見えたのだった――――
「と、まぁこんな感じかな〜……」
「何かそんな事があったような気がしてきた……」
うっすらと、本当にうっすらとだが思い始めていた。あの時、何か物凄くでかい猪みたいな女がいたんだよ確か。だけど、見た目ほどガサツではなくて妙に礼儀正しい奴だったっけ……? ってちょっと待て。もしそれが本当だとしてだ。あの時の奴が今目の前に……? ええぇぇっ!!?
「嘘だろお前!? 何で一年でこんなに変わってんだよ!?」
「そ、そこは努力したんだよっ! 恋する乙女は強いの!!」
恋する乙女って……自分で言うのかよ。でも、この七海が言っても文句は言えないだろう。いやだって、滅茶苦茶可愛いもの。反論ないわこれ……。
「一年ちょっとでここまでの美少女になれるものなんだなぁ……」
「えっ!? や、やだもう蓮二ったら〜!! 美少女だなんて……!」
何か身体をクネクネしながら照れ始めたんだけど――――って、え? 俺今美少女って言った? 嘘だろ!? 俺、心の中で思ってたのに口に出してた!? うわぁ〜、やっちまったぁ……!!
「もう辛抱たまらない! 蓮二〜!!」
「え、ちょうおわっ!?」
七海が突然俺にタックルしてきたので、俺はそれを受け止めようとしたのだが、突然の事で力をかけれずタックルをもらってしまい、その場に倒れ込んでしまった。
「蓮二が私の事をそんな風に見てくれたってだけで嬉しいよ〜!」
「ちょ、おまっ! 身体をスリスリするのやめろ!!」
何だこれは? 押し付けてくるから柔らかな感触をまず感じる。そして。俺が引き剥がそうとするから俺の胸板からおっぱいが元に戻る時、プルンッと揺れる弾力性もある。近くで見ると尚更分かる……! まるで、物凄くでかいプリンが二つ存在しているようだ。
こんなの押し付けられたら大抵の男は逆らえん! デレデレになるだろ!! 俺も思わずゴクリと唾液飲み込んでしまったしよ!!
「蓮二……私とじゃ、駄目?」
「あっ!? 何が……だよ?」
「そんなの分かってるでしょ? 個室に二人きりなんて状況を作ったのは、蓮二なんだから……」
いや、俺は全くそういう事をするつもりなんてサラサラ無かった。だけど、今の俺は七海の身体に理性が殺られそうになっていた。いや、俺も男だからさ……っておいっ! ちょっと待て!?
「お前、何スカジャン脱いでんの!?」
「え〜? 服を脱いでやることなんて、一つでしょ?」
七海はワイシャツのボタンに手をかけ始め俺に少しずつだがにじり寄ってくる。これヤバいって! チラッと黒のブラが見えたんだけど!?
「私と一戦、シようよ? 蓮二……」
「馬鹿! よせ、七海……!!」
頬を朱に染め目を閉じた七海が俺に対して、唇を近づけてくる。俺は抵抗しようとしたが、身体が動かなかった。心は否定してるはずなのに、どうして身体が思うように動かないんだよ!?
あと数センチで俺と七海の唇が触れようとしたその時――――
バァン!!!
「「っ!?」」
豪快に襖が開かれ、そこにはある人の姿があった。七海がワイシャツの第二ボタンまで開けた状態で馬乗りになって俺にキスしようとしている所を、最も見られたくない人に見られてしまった。
その人物とは――――
「……」
「橘神奈……!?」
「か、神奈さん……!」
俺、今日生きて帰れるかな……? そんな事を考えながら、呆けた神奈さんを見上げた――――