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高校生極道  作者: 華琳
1章 若頭、転入します!? 
14/63

ケジメのつけ方は、人によって違う。

「さて、話をしようか?」


 俺たち橘組がいつも使っている料亭、虎石(とらいし)のある一室に俺と井口七海、そして男たちのリーダーである男の三人がいる。

 俺と井口が隣合って座り、男はガチガチになり、汗をかきながら対面する形で正座している。


「は、はいっ……!」

「お前らは、何でこの井口七海を狙った? まずはそこから話してもらおうか」


 俺の右隣にいる井口を指し示し、動かして男に答えを促す。緊張を(ほぐ)す意味もあっての話題振りだったのだが、ガチガチに緊張してやがる。まぁ無理もないけどな……。


「俺たちは、その……! あ、ある人に依頼されたんです……」

「依頼だと? その依頼をした人物は誰だ?」

「そ、それは……」


 俺は疑問を抱きながら答えを求めるが、男は苦虫を噛んだような表情を浮かべて中々答えようとしない。だけど、ここでこの男に追い打ちをかけるのは得策ではない。もし、そうすれば男は萎縮してしまい、逆に情報を伏せてしまうかもしれない。ここは焦らずに待つ。ひたすらな……。


「あ、あの……」

「ん? どうした?」


 そして待つこと五分……男はようやくゆっくりと口を開いてくれた。深呼吸をしてから覚悟を決めたのか、先程までの弱気な態度が消えていた。


「お、俺たちに依頼してきた男の名は……(ファン)という男です! りゅ、劉星会の……」

「えっ!?」


 井口も驚きを隠せずに声に出していたが、俺も内心では動揺していた。さっき口にした “劉星会(りゅうせいかい)” というのは、最近になってこの街に現れ始めた中国マフィアの事だ。

 親父も最近、この街に中国人が多いって言ってたが……まさか、アイツらが絡んでるとは。


「その范って男からの、依頼内容は?」

「お、俺たちのやる仕事は……そこにいる、井口七海さんを拉致する事でした。そうすれば必ず父親である、井口団蔵(だんぞう)さんが動く。そしてそこで――」

「うちの組の名を使って井口さんを焚き付けて、抗争を引き起こそうとした……ってわけか」

「なっ!?」


 男が動揺した事によって、俺の予想が見事に的中してしまった。まぁ少し考えれば分かる事だが、まさか街の不良を中国マフィアが雇うとは思わなかった。こりゃ親父に報告決定だな……。


「よし、大体の事情は分かった。ありがとな、正直に話してくれて」

「は、はい……」

「さて! これで理由については終わりだが……こっから先はケジメの話に変わろうか」

「!!」


 男が俺の『ケジメ』という言葉に顔を真っ青にした。正直に言うと余りやりたくないが……ここでキッチリ、ケジメをつけておかないと “若頭” として組員たちからの信頼を失うことになる。だから、やるしかないのだ。

 俺はここに来る時組員に持たせておいたドスを懐から取り出し、男に差し出した。


「じゃあここで……お前に選択肢をやろう。今ここで、エンコしてケジメにするか……それとも、山の中に行くかの二択をな」

「っ!?」

「れ、蓮二……?」


 俺以外の二人がこの時、俺を恐怖の対象として見ているような……そんな感じがした。こんな感覚は以前にもあった。あったんだが、何だろう? 不思議と今回は緊張している。

 因みに “エンコ” とは、自分の指を切り落とす事だ。そしてもう一つの選択肢である山の中ってのは、言わなくても分かるだろう……。だからか、男はガタガタと震えていた。


「どうする? 選ぶのはお前だ」

「はぁー……! はぁー……!!」


 呼吸が荒くなってきたか。この反応も、今まで見てきた奴らと同じだ……。人は人生において生きるか死ぬかの、大きな選択を迫られると大抵はこうなるものだ。余程の度胸を持つか、精神力が強くなければの話だがな……。

 そして男が俺の差し出したドスを抜き、左手の小指に刃を向けた。さて、そろそろ――――


「う、うわぁぁあーっ!!」

「っ!!」


 男は悲鳴にも近い声を上げながらドスを振り下ろそうとした。井口はそれを見た瞬間に目を瞑り顔を背けたが、俺は男の手を掴んで動きを止めてやる。ミシミシと、音が鳴るぐらいまでに力を入れたせいか、男の顔が苦しそうになっていた。


「いてててててっ!?」

「お前さんの覚悟、確かに見届けさせてもらった。今回の件はケジメをつけたとして、これでチャラだ! そして今日からお前含め、仲間たちも全員橘組(うち)預りにする!」

「え!? い、いいんですか!?」

「ああ。お前らをそのままにしとくと、(のち)に劉星会に(バラ)される可能性がある。流石にそれはちと酷だからな……」


 そう言いながら俺は男からドスを取り上げた。劉星会については少しだけ組で調べた情報があるので知っているが、一度でも仕事に失敗した者は容赦なく(バラ)すのだ。

 例えそれが、身内であったとしても……!


「レイ〜、そこにいるんだろ? 後は頼むぞ」

「はい、蓮二様」

「「えっ!?」」


 俺が名前を呼んだことで襖を開けて現れた、オレンジ色の左サイドテールでキリッとした顔つきの女の本名は、津島麗花(つしまれいか)。通称はレイで、立場は橘組 “若頭補佐” だ。

 俺が橘組に入ってからというものの、俺は常に雅人さん以上にレイに支えて貰ってた。レイがいなかったら、今の俺は無かったかもしれない。それぐらい彼女には感謝してもしきれない気持ちでいっぱいだ。何時(いつ)の日か必ずお礼をしたいんだよな、個人的に。


「それでは行きましょうか? 外に車を用意してます。お仲間の皆さんも乗ってますから、外にいる者の指示に従って下さい」

「は、はいっ!」


 レイの丁寧な説明を受けた男は、部屋を出ていった。まぁこれで今更逃げようなんて気は起きないだろう……。逃げた所で、こっちはアイツらの情報は全て掴んでいるからな。


「蓮二様、この後はどうなさいますか?」

「ここにいる井口七海と二人きりで話があるから、飯の準備を頼む。もう遅くなったからな……」

「分かりました。では、そのように手配させますね」


レイは俺の指示にいつも従ってくれる。本当に出会った時から思ったけど、申し訳ないな……。


「いつもすまない、レイ。迷惑かけて……」

「いいんですよ、蓮二様。それくらいでなければ “若頭補佐” の意味がありませんから……。それでは、失礼します」


 笑顔でそう言い残して彼女は部屋を後にした。さて、これでようやく二人きりに――――ってちょっと待て。二人きり!? これやばくね……? こんな可愛い女と二人きりってやばくない? 大切な事なので二度言いました〜、みたいになったよ……!


「蓮二?」

「はいっ!? な、何でございましょうか!!」

「何その口調? 変だよ、蓮二」


 井口がクスクスと笑いながら、キョドった俺の反応を楽しんでいるように見えた。うーん、笑顔可愛いなこんちくしょう。

 そんな事を考えながら俺は沈黙を破るべく、話を始めた……。


「井口……正直、俺は驚いたぜ?まさかあんなに強いとは思ってなかった」

「むー……七海って名前で呼んでよ。蓮二からは名前で呼ばれたい」


 ぷくっと膨れっ面を作る井口が物凄く可愛いんだけど……。写真撮りたいレベルだ。成程、これは俺たちの学年で神奈さんと争うだけの事はある。藤木の言ってた事はガセネタじゃなかったみたいだな……!


「いいのか?」

「いいの! 私がいいって言ってるんだから!」

「じ、じゃあ……七海」

「っ〜!!」


 何か、目がキラキラと輝いてるんだけど? しかもガッツポーズまでしてる……。そこまで嬉しいのかよ? まぁ、悪い気はしないな。名前呼んだだけで喜んでいる七海を見て、俺はそう思った。


「今日は厄日どころか幸せだ〜! 蓮二とも再会できたし!」

「!」


 そういやそうだった……! それを聞かないといけないな。最大の謎だからな、今の俺にとっては……。


「七海、飯食い終わってからでいいから教えてくれないか?俺たちの出会いを……。失礼なんだが、俺全く覚えてねーんだわ」

「! うん……いいよ。そんなに時間はかからないと思うから」

「お待たせしました。こちら、お夕食になります」


 丁度いいところで飯が運ばれたな。とりあえずは飯だな……。そう思い、俺と七海は運ばれた飯を一緒に食べ始めた――――

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