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高校生極道  作者: 華琳
1章 若頭、転入します!? 
12/63

平和な時ほど、事態は動いている。

「そういう訳でこの時代では――」


 あの喧嘩から三日が経過し……今、担任である五十嵐先生の日本史の授業を受けている。まぁ連日喧嘩ばかりだったから、平和なのが不思議な位だ。

 俺は左手で頬杖をついてるが、喧嘩での傷は完治してるから痛くもないし、右手でノート書いてるので問題無しだ。そして、先生が板書を終えた段階で授業の終わりを告げる鐘がキーンコーンカーンコーン、と鳴り響く。


「はい、それじゃあここまで。次の授業までにちゃんと課題やってこいよ皆! やって来なかった奴はプリント追加するからなー?」


 そう言い残して五十嵐先生は去っていくが、コレはマジである。クラスの何人か前に忘れてるの見たからな。そして、五十嵐先生が教室の外に出た瞬間、外に出ていく奴等やグループで集まって弁当を拡げる。五十嵐先生の授業の後は昼休みだからな……。


「うっしゃ終わったぁ! 蓮二、飯食おうぜ!」

「少し落ち着けよ、弘人……ま、俺も腹減ったけどさ」

「ふふっ。村田くん、元気ですね」


 いつものように弘人が俺の前の席に座り、買ってきたであろうカツサンドと牛乳を出してきた。因みに俺は今日も神奈さんが作ってくれた弁当だ。いつも申し訳ないと思って前に俺も弁当作ると進言した事があったんだけど……。

 神奈さんが「蓮二さんは私のお弁当、嫌ですか?」って、上目遣いして言ってくるんだから無理だってぇ!! 断れるわけがないだろ!! 男で断れる奴いたらそいつはホモで間違いない!!!


「やほーん。ここ、いいよね?」

「あ、美月。うん、大丈夫だよ」


 萩原も購買で買ってきたのか、サンドイッチとオレンジジュースを持ってきて俺たちに混ざる。最近はここにいる皆と飯を食べるのが学校では恒例になっている。


「それにしても、五十嵐の授業は寝れねーわ……」

「あ、それは分かるよ。蘭ちゃん先生の課題追加のプリント超ムズいからね」


 何か萩原は追加をされたかのような言い方だな、と思いながらも弁当を食す。あ、今日ワカメご飯だ。めっちゃ美味い……。


「美月、それ受けたの?」

「まっさかー? クラスの女子から聞いただけよ」


 アハハと笑いながら萩原が神奈さんに答えてるが、神奈さんの口調に俺も動揺を隠せずにいた。

 何故なら――――


「神奈さんも、萩原に対してはフランクな所あったんすね」

「美月とは幼馴染で付き合いが長いので……自然とこうなりました」

「マジすか!?」


 バァン! と、大きな音を立てるほどの力で机を叩いて弘人が驚いているけど俺も内心では弘人と同じだった。神奈さんと萩原は幼馴染だったのか……。それなら、屋上での会話のフランクな感じも納得がいくな。


「ふふ〜ん。どうよ村田〜?」

「凄く腹立つけど……羨ましい」


 そう言いながらカツサンドを豪快に食べる弘人だが、俺も正直に言うなら羨ましい。神奈さんともフランクに話せるようになりたいという願望もあるが、こればかりは築き上げてきた絆かあるからこそ出来る関係か。そう結論に至った俺は、フッと笑いながら弁当箱を片付けた。


「ご馳走様でした」

「「はやっ!?」」

「お粗末様です、蓮二さん」

「いやー、神奈さんの弁当美味くて箸が止まりませんでした」


 そう言いながら立ち上がり、背伸びをする俺。飯食った後は必ずコレやるんだよな。まぁ特に理由はないが……習慣というやつだ。


「飯を食べ終わるのが早いな、大将」

『っ!?』

「おぉっ!? 藤木、お前いつの間に!?」

「それは秘密だ。そんな事はどうでもいいだろ?」


 いや、このメンツの誰にも気付かれずに俺の背後を取れるお前は何者だよ。コイツ、忍者か何かか? 暗殺仕掛けられたら殺られるんじゃねーの、俺?


「土日と休みが明けた今日、出たぞ。虎城新聞がな。また一面飾ってたぞ?」


 バンッ!と音を立てて叩きつけた “虎城新聞” に俺を含めた四人が集まる。

 確かに俺の記事がまた載っていた。しかもその時の写真が、柳を俺の拳でぶっ飛ばしているシーンだ。相変わらずだけど新聞創ってる人の写真上手くね? そう思わせられるよ、俺は。

 タイトルは『一年A組VS一年B組、頭同士のタイマンにてA組勝利』か……んん? 記事を見てると気になる一文があった。『これによりB組はA組につき、二クラスは統合した。残る三クラスもまとめてしまうのか?』だって? 

 俺は興味無いが……狙われる可能性もあるよな。


「そういや残り三クラスの事、俺は全く知らねーんだけど……クラスの頭の情報とか、知ってる奴いないか?」

「いやー、スマン! 俺もそこまで詳しくねぇわ」

「私も。蓮二ごめん」

「柳さん以外のクラスとなると、私もですね。すみません、蓮二さん」


 三者三様に知らない……か。まぁ仕方ないわな。となると残るは――――


「お前はどうだ? 藤木」

「フッ……一年のことは網羅してる。それを今から教えてやるよ、大将」

「さっきから思ったんだけど……何だよその呼び方は?」

「この言い方は、俺なりに親しみを込めてるんだよ。別にいいだろ?」


 親しみを込めて、か。うーむ、それならまぁ……いいか? と、俺は疑問を抱きながらそれについて追求することをやめた。何か嫌だなと思えば嫌だと言ってやればいいしな。つか、相変わらず格好つける時のポージングはダサいなおい。ドヤ顔を決めるな、ドヤ顔を。


「分かった。それじゃあ藤木、頼むわ」

「おう! まず、C組の頭から……名前は佐藤(さとう)ララ! 水色のポニーテールが特徴の女の子だ」


 C組の頭の佐藤ララは、水色のポニーテールの女の子か。虎城高校 “一年五本の指” の二人目も女子ってのは驚きだな。そいつも柳クラスに強いのか?


「身長は158センチ、スリーサイズは上から――」

「はいストーップ!!」

「ぐふぇっ!?」


 藤木がスリーサイズを言おうとした段階で、萩原の蹴りが藤木の顔面を殴打する。あ、メガネは外して何とか逃がしてるが蹴り当たった時にゴッ!!! と鈍い音が聞こえたから痛そうだというのは分かる。


「藤木、あんた何でそんな事知ってるわけ?」


 萩原の声がとても低い。明らかに怒ってるな……。今後、萩原を怒らせるのは止めておこう。だって極道並に迫力あるもの……。


「いってぇ〜……俺は生まれつき、対象を見ただけで身長は勿論、服の上からでもスリーサイズは分かるんだよ! 当てた度に怒られたから間違いない!!」

「「な、なんだってー!?」」


 雷のような衝撃を受けた俺と弘人が同時に驚きの声を上げた。網羅してるって、一年生女子の身体の事かよ! 紛らわしい!!


「萩原、貴様のも当然知っているぞ。上から順に――」

「藤木……アンタ、それ以上言ったらどうなるか分かってんでしょうね……!?」

「おお、怖い怖い。ここまでにしておこう……」


 何か打ち合わせでもしてたかのような流れだな。でも、萩原の様子を見る限りではその線はないだろうと思いながら、俺は藤木の話に集中した。


「あ〜……それでは話を戻そう。佐藤が喧嘩で多用してたのは主に足技だ。彼女の蹴りは、瓦を七枚も同時に破壊するだけの力がある。まともに当たれば、間違いなく骨が砕けるぞ」

「マジか……」


 俺は頭をボリボリと掻きながら、佐藤って奴はそれだけ足に自信があるって事で、瓦を割る事だって簡単に出来るものじゃない。こりゃ要注意だな……。


「それじゃあ次だ。D組の頭の名前は櫻井誠(さくらいまこと)……コイツはとにかく猪突猛進で、喧嘩好きな男だ」

「ほぅ?」


 猪突猛進で、喧嘩好きな男だと? 何か気になるな、そいつの事。俺はそう思った矢先に口が動いていた。


「藤木、そいつの事をもっと教えてくれ」

「はいはい、大将。アイツは一度決めたことには猪のごとく突き進み、喧嘩でも負けそうになっても笑いながら殴り合う様から “喧嘩好きの馬鹿野郎” って皆が口を揃えて言うよ」

「面白れぇな……? 会ってみてぇよ、そいつに」


 俺は話だけでも好感を持てたぞ、その櫻井という男に。余程のマッチョマンなんだろうなと思わされるが、そういう真っ直ぐな奴は友達に欲しいぞ俺は。


「それ、マジか蓮二?」

「ん? 何だよ弘人? お前は知ってるのか?」

「一応な……正直アイツとは戦り合いたくねぇよ、俺は」


 弘人が戦意喪失する程の相手なのか……!? やべぇ、余計に会いたくなってきた。


「まぁ、大将はクラスの頭になってるから何れ出会う事にはなるよ……そんでもって最後! E組の頭、井口(いぐち)七海(ななみ)!この娘は一言で言うなら……可愛い」

「はい?」

「だーかーらー! 可愛いんだって!!」


 お、おう? 藤木の奴どうしたんだ……? いきなり可愛いしか言わなくなったぞ。気でも狂ったか? つーか、『井口七海』だっけ? どっかで聞いた事ある名前だな……。

 そんな事を思いながら俺は藤木を落ち着かせて、E組の頭について改めて聞いてみる事にした。


「何、そんなにその井口七海って女は可愛いのか?」

「一年の間では、神奈さんと学年トップを争うほどに――」

「マジかおいっ!?」

「「食い付いた!?」」


 あの神奈さんと争う程だと!? そんな女がこの世にいるのか……!? いや、神奈さんに勝てる一年がいるわけがないね!! つーか、それよりもだ。これで “一年五本の指” が出揃ったわけだが、半数以上が女とは予想外だ……! 残りは男がシメてると思ったからよ。


「井口七海……その名前、何処かで……」


 ん? つーか、神奈さんは顎に拳を当て始めたぞ。何かブツブツと小声で呟いてるから何て言ったか聞き取れなかった。何を考えてるんだ……?

 そして数分が経ったところで神奈さんがいきなり手を叩いて大声を上げた。


「あ、思い出しました!!」

「? 神奈さん、井口の事を知ってるんすか?」

「はい……。会った事が一度だけありましたが、確かに彼女は可愛いと思います。でも橘組(うち)とは今、敵対関係にあります。彼女の父親が確か鷹緖組の “若頭補佐” だった筈ですから」

「!」


 神奈さんが放った『鷹緖組』の言葉で俺はニヤけてしまった表情を引き締めた。ここ最近、俺たち橘組とはちょくちょく争っているものの、数でこっちが押してる状態だ。抗争にならない様に小競り合いで今の所収まってはいるが、その内激化するかもな。

 まぁ、そんな事は俺たちがさせないけどな。


「とにかく……各クラスの頭の情報はこれくらいだぜ、大将」

「おう、恩に着るぞ藤木」

「なぁに、気にするなっての!」


 良い奴なんだけど……格好つける時のポージングはダサいんだよなぁ。それさえ無ければもう少しマシだと思うんだがな。

 俺が藤木に対して失笑した瞬間、教室のドアが開かれた――――


「やっほー蓮二君!」

「おす、蓮二」

「お、柳に春川! お前らどうした?」

「遊びに来たよー!」

「うぉっ!?」


 そう言いながら柳が俺の胸に飛び込んできたので俺は慌てて柳を受け止める。何とか踏ん張れたのだが、力が強いから胸が痛いっ!!


「すまん蓮二、ウチの柳が」

「気にすんな。別にこれくらいはいいって」

「蓮二君、さっきまで何の話をしてたの?」

「ああ、実は――」


 さっきまでの話を簡潔に『残りの一年クラスの頭について』という一言を俺は柳たちに伝えた。別に隠すことはないからな……。


「そっか〜……で、残りの奴等はどうするの? 蓮二君」

「今の所はとりあえず様子見だ。情報が足りなさすぎるからな」

「懸命な判断だ、蓮二」


 春川が俺の意見にうんうんと頷きながら賛同してくれる。因みに春川が戦後対談後、俺の事を名前で呼んだ理由としては『名字の方が呼びにくい』から、らしい。まぁ俺としても名前の方がいいからこれを承諾したんだ。


「んな事しなくても、片っ端からやればいいんじゃねーのか?」

「ボクも村田に賛成なんだけど?」


 何とも分かりやすい奴らだな、弘人と柳は……! 俺はそういう奴は嫌いじゃない。だけど……。


「俺は暴力路線で無理矢理抑えようとはしない。そんなんやった所で、(いず)れ痛い目に()うのがオチだろ?」

「私も蓮二さんの意見に賛成です。それは私も分かりますから……」


 神奈さんが俺の意見に賛同してくれたのは大きい。何せ彼女は “極道” の一人娘だから、こういう組織の事情に人一倍詳しい。この場にいる皆もそれが分かっているからか、先程まで反対意見組だった村田と柳も「うっ……」と押し黙ってしまった。


「確かに、大将の意見の方が理に適ってる」

「私も異議ないよ。蓮二が私等の頭なんだから」

「とまぁ、そういう訳でしばらくは様子見だ。お前らもいいな?」

「「うぇーい……」」


 明らかにやる気無さそうだなお前ら。まぁどう見ても喧嘩好きな二人だからそれは仕方ないだろうが、無駄な喧嘩はしないほうがいいからな。


「それじゃ、これでもやるか」


 俺がポケットからカードケースを取り出し、その中身を開ける。カードの中身は――――


「トランプ?」

「そそ。折角だから、コレで更に友好関係を築こうと思って持ってきたんだよ」

「蓮二、ゲームは何にするんだ?」

「この人数ならババ抜きで良くね? 王道だし全員参加できるしな。皆もいいか?」


 俺は皆にも意見を求めたが、誰も断ること無く賛同するかのように頷いてくれたり、親指を立てるグッジョブポーズ等で返してくれた。


「よっし、遊ぶか!」

『おぉ〜!!』


 残った昼休みの時間をトランプに使い、大いに盛り上がった。だけど俺はこの時知らなかったんだ。既に動いていた奴らがいたということを⋯⋯。





 

「はい、お疲れ様」

「クソッ……!!」

「つ、強……!!」


 んー、流石 “一年五本の指” の二人なだけはある。同時に相手したから結構疲れちゃった。ま、怪我は一つも無いけどね。


「それじゃあC組とD組は、今日から私たちE組に下る……って事でいいかな?」

「ああ……! 敗者に口なし、だ。お前に従おう」

「ええ……私たちC組も、貴女につくわ」

「どうもありがとう。櫻井君に佐藤さん」


 さぁ、これで戦力は整った。次はAB連合との喧嘩になる。楽しみだ……! 私は滾る気持ちを何とか抑えながら、首につけていたロケットペンダントを開けた。


「待っててね……蓮二」


 ロケットペンダントの中に写っているその男の名を口にした私はギュッと強く握り締め、喧嘩の後に必ず吸うと決めている愛用のセッターこと、セブンスターの煙草(タバコ)に火をつけた――――

※喫煙の描写がありますが、未成年の喫煙は法律で禁止されています

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