表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
高校生極道  作者: 華琳
1章 若頭、転入します!? 
11/63

A組vsB組 後編

「らぁっ!」

「ぶふっ!?」


 ボクは、今の状況が信じられなかった。喧嘩でここまでボコボコに殴られたり、蹴られた事が今まで一度も無かったからだ――――


「どうした柳!? 来いよ!!」

「っ……! この野郎っ!!」


 紅蓮二君が頭の高さにまで右手を上げ、手前にクイクイッと動かし挑発してくる。これにキレてしまったボクは力一杯拳を振るった。その時にグシャッ!! と、鼻の骨が折れた音が聞こえできた。それを聞いたボクはニヤリと笑った。

 何故なら、これはいつもの感覚で、拳に感じていた手応えは完璧にワンパンコースだった。これで何時も男たちは沈んでいった。だから、立ち上がれるわけがないと確信していた。それなのに――――


「うらっ!!」

「あぐぁっ!?」


 この男は、寧ろ平気で殴り返して来たのだ。ボクも流石に驚きの連続で避ける事すら出来なかったから、お腹に右拳が減り込んでしまう。ボクは距離を取るべく後ずさりながら、彼を睨みつける。

 紅蓮二君の拳は毎回毎回ガツン! と、僕の身体中に染み渡るから痛いなんてものじゃない。だけど、ボクにこれだけ殴られて、どうしてこんな力のある拳を出せるのか? ボクは興味が湧いていた。


「なぁ、紅蓮二君」

「あん? どうした柳?」

「何故……君はそこまで頑張れるのだ?」

「どうして頑張れるかだって?」


 だから、曲がった鼻を治している彼に自然と質問していた。どんな答えが返ってくるのか、ボクは知りたかった。だから純粋に聞いたんだけど、答えてくれるかな?


「そんなもん決まってんだろうが? 男の意地ってやつと……神奈さんからの声援を受けたからだよ」

「は?」


 思わぬ返答だったので理解出来なかった。男の意地というのはよく分からんが、橘神奈の事は知っている。今、A組の連中の一番前で照れているナイスバディな女の事だ。あの橘組の一人娘であり清楚で可憐と名高く、ボクたちの学年でもトップクラスに人気の女だ。でも、そんな女の声援一つでそこまでやれる理由がボクには分からない。だから自然と彼に食ってかかった。


巫山戯(ふざけ)るなよ! そんな理由で頑張れるだと!? そんな訳がないだろ!!」

「おいおい、俺は嘘なんか吐いてねーよ。ホントだっつーの」

「何で!?」

「何でって……んなもん、お前が決めることじゃねーだろうが」


 確かにそうだけどさ……! 納得出来ないよ。そんな下らない理由でボクの拳に耐えている紅蓮二君の言葉をボクは鵜呑(うの)みにする事は出来なかった。

 でも――――


「蓮二さーん!! 頑張って下さーい!!」

「負けんな蓮二! お前に勝つのは俺なんだからよぉ!?」

「蓮二! あんた気張りなさい!!」

「よっしゃ皆! 声出せやァァァ!!」

『お〜!!! 蓮二! 蓮二!! 蓮二!!!』


 何故、A組の皆は応援してるの? それに何で呼応するかのように、君は笑ってるの?


「ははっ、マジか。こんなん貰ったら、負けられない理由が増えちまうじゃねーかよ?」

「! 負けられない、理由?」

「そーだよ……! 俺らクラスの頭ってのは、クラスの皆の代表だろ? その皆から応援されたら嬉しいじゃねーか。例え、それがまだ知らない奴だとしてもな?」


 ニカッと笑ってる紅蓮二君の顔を見てボクは何故かそれにドキッとしてしまう。何で、何でそんなにいい笑顔でいられるのか……ボクにはまだ分からない。

 だってボクは――――


「負けんな柳! お前は俺たちB組の大将だろうが!!」

「柳さーん!!」

「勝ってくれ柳ぃ!」

「お前らいくぞ! A組の応援に負けんな!!」

『オッス!! 柳! 柳!! 柳!!!』

「皆……!」


 まだ応援なんか受けてない、そう思ったけど今浴びせられているのは応援の声。全く、五月蝿いだけではないか。耳が痛い……!

 だけど、紅蓮二君の言っていた言葉の意味が少しだけ分かった気がする。クラスの頭はクラス皆の代表で、そう易々(やすやす)と負けていい立場ではないよね。


「ふふっ……」


 気がつけばボクも何かか吹っ切れたみたいで、自然と笑っていた……。彼が嬉しいと言っていた意味が、ようやく分かった気がする。

 成程ね……これは嬉しいわ。


「何笑ってんだよ、柳?」

「ありがとう、紅く――ううん……蓮二君! お陰でスッキリしたよ。それじゃ、そろそろ終わらせようか? この喧嘩をさ」

「! フッ……そうだな。終いにすっか!この長い喧嘩をよ?」


 蓮二君は気付いてくれたみたいだね。僕の足が小鹿みたいにガクガクと震えてるのを……! 正直ボクはもう一発殴るのが限界だ。だから、この一発で倒せなかったらお終いだ。

 だけど、ボクだって負けられない理由が増えた。皆の頭として、負けられない! 絶対に勝つ!! その思いも乗せて、力強く握りしめて拳を作り、それを躊躇う事無く振るった。


「うおおおおっ!!」


 蓮二君はボクの拳が迫ってくるというのに、避けようとしない。

 え、何で……!?


「こう来ると思ってたよ、柳」

「っ!?」


 蓮二君がボソリと呟いた言葉と、ある行動に動揺してしまった。何故なら、彼はボクの拳が迫ってくるギリギリの所で頭突きを繰り出してきたからだった。

 ゴッ! と、鈍い音が僕の拳に伝わる。蓮二君の頭突きによって右手が完全にイカレてしまった……!!


「ぐぁっ!?」

「柳……楽しい喧嘩だった。また、やろうぜ?」


 本気の右拳を蓮二君は頭で受け止めたからか、血が流れている。だけど、そこよりも彼の笑顔を見つめてしまっていた。


「うん……! またやろうよ」


 答えたその直後に、ボクの顔に蓮二君の右拳が命中した。それによってクラスの皆の所まで、約五メートルといった所だろうか? そこまでぶっ飛ばされてしまった。

 そしてクラスの誰かに抱き抱えられた所で意識を失った――――






「はぁっ、はぁっ……! 疲れた」


 柳をぶっ飛ばすつもりはなかったんだが、思わず力入っちまった。A組(ウチ)のクラスの奴も、B組(向こう)の連中も、呆気に取られたかのようにポカンとしてやがる。


「俺の勝ち……だな」


 ボソリと聞こえないように呟いて、俺はガッツポーズをするべく右拳をゆっくりと空に突き上げたその瞬間――――


『よっしゃあああ!!!』

「紅が勝った!!」

A組VSB組(この)喧嘩は、俺たちA組の勝ちだぁ!」


 勝った側のA組の皆は歓喜に満ち溢れ、負けた側のB組はガックリと落ち込んでいた。ま、こればかりは仕方ないだろう……。喧嘩には勝ち負けがハッキリしている以上、必ずこうなるからな。

 俺はクラスの皆の所へ戻った直後に、皆から揉みくちゃにされてしまった。


「うおわっ!? お前ら何だよ!?」

「紅! お前の喧嘩、マジで痺れた!」

「カッコよかったよ〜! 蓮二君!!」

「お前最高だぜ!!」


 喧嘩して、こんなに褒められた事はあまり無かったな……。特に同年代からはこれが初だ。

 俺の記憶が正しければ、な。こういうのなんか照れるぜ。慣れてないから。


「蓮二、ご苦労さん」

「おう、弘人。お前の激励も届いてたぜ」


 俺と弘人は互いに右拳を重ね、ニッと笑い合う。それで周りが更に盛り上がるものだから、まるで宴の真っ最中みたいに感じる。悪くないな、こういうのも。


「蓮二、おっつかれ〜!」

「おう。お前もありがとな萩原」


 ハイタッチを交わしながら萩原への挨拶も終える。うーん、同年代の女子とハイタッチとか初めてかも。地元じゃ有り得なかったし⋯⋯。


「よくあそこから抜け出せたね。正直ヤバいって焦っちまったよ」

「! 藤木……そりゃ俺もだ。あれはマジでヤバかったからな」

「とりあえず、お疲れさん! 紅」

「ああ。つーか、お前らもだけど、蓮二でいい!! 苗字より名前で呼ばれるのがしっくりくるからよ」


 笑いながらそう言うと、皆も笑顔で返してくれた。どうやら分かってくれたみたいだな……。理解が早くて助かる。


「蓮二さん、お疲れ様でした。これ、良かったらどうぞ」

「あ、ありがとうございます。神奈さん……」


 俺は神奈さんから貰ったスポーツドリンクを一気飲みにかかった。それだけこの喧嘩で疲れていたのだろう。一分もしないうちに飲み干し、ペットボトルが空になってしまい俺はそれを握り潰した。


「さて、と。喧嘩は終わったし、帰るか?」

「いや、まだだぜ蓮二。戦後対談をしないと」

「戦後対談?」

「ああ。クラス同士の頭がタイマン張って、A組(俺たち)の勝ちという結果が出た。なら、敗者であるB組(アイツら)をどうするか決めるんだよ。向こうとの話し合いでな」


 フムフム、成程。それは確かにそうだな……。 傘下に加えるか、それとも全員潰すか? と、選択肢もあるが……俺はそんな風に上から押さえつけるような事はしたくない。極道の立場からしたら甘ちゃんって言われるかもしれないけど、ここではそれは関係ない。

 これは虎城高校一年、紅蓮二としての決断だから。


「そんじゃ、話し合ってくるわ」

「俺も行くぜ。怪我してる頭を一人で行かせられないっての」

「私も同行します。蓮二さん、構いませんね?」

「……分かったよ、弘人。それから神奈さんも」


 俺たち三人は、B組のいる所へと歩み寄る。もう喧嘩する気は無いから俺は険しい顔をしていなかった。それを見たB組の一人が先頭に立ち、俺たち三人と対峙した。


「B組の頭、柳美紅に変わって話をさせて貰う春川(けん)だ。宜しく」

「おう、宜しく」


 名乗りを上げた茶髪が目立つ男、春川と俺はガッチリと握手した。それを見ている皆からの視線が突き刺すように来るから何か喧嘩した時と同様に緊張感が解けない。

 さて、どうするかね……?


「今回の喧嘩は俺たちの負けだ。俺たちB組は今後、お前らの下につく」

「! 随分と早い決断じゃねーか? 春川」

「敗者が勝者につくのは当然だろ、村田? 紅、あんたはそれで構わないか?」


 うーん……。ここで普通ならOKと頷けばいいんだろうけど、嫌なんだよな〜そういうの。俺は頭をポリポリと掻きながら、「ハァ」と溜息を吐いた。


「俺たちは同学年だろ? 上も下もねーよ……傘下につくみたいな言い方はよしてくれ」

「だったらどうする気だ? 俺たち全員潰すってのか?」

「ちげーよ……! 単純に仲間になるってことじゃ駄目なのか?」

「仲間?」


 そう、不良にも極道と同じで上下関係が大事ってのは俺も知ってる。だけど俺は学校では嫌なんだよ、無理矢理相手を縛る事はよ……!


「俺たち今日から仲間になるって事でいいだろうが? お前らがやばい時には俺たちが助け、俺たちがやばい時にはお前らが助ける。そういう関係じゃ駄目か?」

「……アンタ面白いな? 決めた、俺たちB組は今日からお前たちA組の仲間として加えさせてもらう。但し、大将はお前だけどな」

「そこは曲げないのかよ……」

「大将を決めるぐらいは構わないだろ?」


 まぁいいか……向こうの言い分にも一理はあるからな。

 そして俺は春川に右の手を出し、春川がそれを握り返した。すると周りからは大歓声が巻き起こり、辺り一帯が騒がしくなった。五月蠅(うるさ)いとは思うけど、こういうのは嫌いじゃない……!


「これから宜しく頼むわ、春川」

「おう。宜しく頼むわ、蓮二」


 こうして、俺たちA組とB組の喧嘩は幕を閉じたのであった――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ