セーブ04 俺の愉快な仲間達
「どうぞお座り下さい」
猫耳メイドに言われるがままに、俺は背もたれの長いイスに腰を下ろした。
「私に用がありましたら、こちらの呼び鈴をお使い下さい」
そう告げると、猫耳メイドは部屋を出て行った。
……何だか落ち着かない。何気なく部屋を見渡して見る。床はやはり赤い、壁は白っぽく、等間隔に黄色の縦ラインが入っている。オシャレな部屋だ。
次に、目の前に並べられた料理に目を通す。こんがり良い匂いを放つバターロールパンが三つ、スープ皿から湯気を上げるコーンポタージュに、新鮮そうな野菜のサラダ、そしてグレイビーソースが掛かったローストビーフ。実に美味しそうだ。
とりあえず腹ごしらえをしようと、俺は料理に手を伸ばし、あまりのうまさにあっと言う間に完食してしまった。
吸血鬼だから普通の物は食べられないって事はないようだ。
そうして、俺が料理の余韻に浸っていると、急にドアが開く音がした。
「ゆ、優也さん……?」
「え?」
そこに立っていたのは、黒いローブのような物に身を包み、黒いとんがり帽子を被った少女だった。……見るからに魔女って感じの格好だな。
「優也さん~!!」
「え? ちょ、うわ!?」
何故か急に、少女が俺に勢い良く抱きついてきた! なんで!? いや、嬉しいけれども、ってそうじゃなくて!
「あの……」
なんと声を掛ければ良いのか分からず、言葉をつまらせていると、
「あ、すみません、つい……」
俺の様子を見た少女は、嗚咽を漏らしながら俺から離れた。どうして少女は泣いているのか。俺が考えていると、今度は男の声がした。
「いやー、無事で良かったぞ優也」
声の方を見ると、銀髪に赤目、迷彩柄のジャケットを着たイケメンがこちらに歩み寄って来ているのが分かった。
他の二人――メイドと魔女っぽい少女――に比べると、イケメンは凄い親しげだな。……あれ?
「二人共なんで俺の名前知ってんの?」
初対面の人が俺の名を知っているのはおかしいと言う、当たり前の疑問の筈なのだが、二人は不思議そうに顔を見合せて言う。
「優也は優也だろ?」
「優也さんは優也さんですから……」
全く分かんない。理由がアバウト過ぎるよ。まあ、些細な問題だからそんなに考える必要はないか。
そして、メイドと魔女っぽい少女とイケメンが部屋に集い、まずは自己紹介をしようと言う事になった。
「では私から。クロード・マイスタと申します。ご主人様に仕えるメイドです」
猫耳メイドの名前はクロードと言うらしい。てか、名前が日本人っぽくないな。どうでも良いけど。
「ボクはウィーラ・アスタリスクです! えっと、魔法使いです! 宜しくお願いします!」
魔女っぽい少女は本当に魔女だった。しかも、ボクっ娘かよ!! 背は低めでボクっ娘とか……ウィーラたんマジ天使。
「俺はシャマル・グルウフ。お前とは親友だ。宜しくな」
イケメンはシャマルと言うのか。親友……っていう設定?
「えっと俺は――」
俺が自己紹介しようとしたら、クロードに止められた。
「ご主人様の紹介は不要です。ここにいる全員が存じてますので」
「そ、そうか」
そして、クロードは続けた。
「恐らくですが、今のご主人様は記憶喪失の可能性が高いです」
「記憶喪失?」
「はい」
そして、クロードは過去の出来事を話してくれた。
なんでも、俺達はこことは別の魔王城に住んでいたらしい。ある日、城はハンターなる集団に襲われ、俺達は仕方なく、第二拠点のここに集合する事を決めて別々で逃げた。だが、いつまで経っても俺だけが戻らずにいた。そして、
「今日やっと俺が帰って来たと」
「左様でございます」
なるほど。なんとなく分かってきたぞ。……にしても、眠いな。
俺が大きなあくびをしていると、どうじぞお休みになって下さいと言うクロード。部屋の掛け時計は午前七時を指している。そう言えば、今の俺は生活リズムが逆転してるんだった。
「じゃあ、もう寝るよ」
「ご主人様、案内します」
クロードに連れられ、俺は自分の部屋であろう場所まで来ていた。
「それでは、お休みなさいませ。ご主人様」
「あぁ、お休み」
そしてそのまま、俺はベッドに潜り込み、深い眠りに就いたのだった。