セーブ03 猫耳メイド
「疲れた……」
中々に険しい山を登り、やっとの思いで目的地に着いた。
いくら吸血鬼と言えどもうヘトヘトだ。
そして、俺は目の前にある我が家を見つめる。
魔王城と言うからには、ゲームとかで良く見かける黒くてでっかい城をイメージしていたのだが、目の前にあるのは赤いレンガで出来た屋敷だった。恐らく二階建てであろう、黒い屋根からは赤レンガの煙突が突き出ている。
まるでどこかのペンションだな。
俺は玄関に向かい、ドアノブを捻り扉を押す。ギィと音を立てて扉が開く。
見渡すと、床一面にはレッドカーペットが敷かれていて、天井には小さいシャンデリアが吊るされている事が確認出来る。
俺がキョロキョロと辺りを見回していると不意に――――
「お帰りなさいませ、ご主人様」
そんな甘い声がすぐ近くから聞こえた。
「え?」
俺が隣を見ると、そこに少女は居た。
腰まで伸びた黒髪を靡かせ、頭に生えた猫耳をピンと立て、黒と白のメイド服に身を包み、黒い尻尾をゆらゆらと揺らす少女が目に入る。
「……何だ、天使か」
「ご主人様?」
気付けば、少女の黒い瞳が目と鼻の先にあった。
「おわぁ!?」
思わず飛び退いてしまう。
ビックリした……それにしても、この美少女は一体誰だ?
俺は改めて少女を見てみる。
背は俺より少し低いくらいか……身体の発育はよろしいようで、出る所はしっかり出ている。更に、その少女の格好は、男のロマン猫耳メイドだ!
猫耳とメイドさんの奇跡のコラボレーション!そして、猫耳メイドとあの美少女のシンクロ率よ!俺が見る限り、シンクロ率九〇パーセント以上は確定。鬼に金棒とはこの事よ。
「……ご主人様、どうなさいましたか?」
少女が心配そうに尋ねてきた。
「い、いや、何でもない」
少し緊張しているからか、歯切れが悪い。
俺が答えると、少女はほっと胸を撫で下ろした。
そんなに心配するような事があっただろうか?
何か話を振ろうと、俺はゴホンと咳払いをして少女に質問してみた。
「あのさ、君の名前を教えて欲しいんだけど」
俺が言った瞬間、少女の動きが固まる。心なしか顔からは血の気が引いていくようにも見える。
あれ?まさか失言だったか?
何がまずかったのか考えていると、少女が口を震わせながら言った。
「ご主人様は、私の事が分からないのですね?」
「あぁ、まあ……」
俺が答えると、少女はぎゅっと握り拳を作る。
「……あの腐れハンターが」
「え?」
少女が何か呟いたが、声が小さくて聞こえなかった。
しばらくすると、少女が俺の目を見て言う。
「ご主人様、食事の用意が出来ております。詳しい話は後程」
「わ、分かった」
「こちらです」
俺は少女に案内されるがままに屋敷の奥へと歩を進めた。