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死にたくないので本気でゲームクリア目指します  作者: のんびり+
チャプター1 ゲームスタート
2/4

セーブ02 帰宅開始

 しばらくぼーっと月を眺めていた。さっきよりかはだいぶ落ち着いてきたようだ。まあ、取り乱すのは状況的に無理も無いだろう。

 一度、目を瞑って深呼吸をする。俺なりのリラックス方法だ。


「にしても、どうしたもんかな~」


 ゆっくりと上体を起こす。とりあえずの現状理解は何とか出来たものの、これからどうすれば良いのかはサッパリ分からない。


「あ、そういえば……」


 俺は、ノートから落ちた一枚の紙を思い出す。

 辺りを見回すと、幸い消えてはいなかったようだ。少し黄ばみ、折り畳まれた紙がすぐそばに落ちていた。俺は紙を手にとって開いてみる。

 どうやら地図のようで、大雑把に森、村、魔王城が記されていた。


「魔王城って……ここだと俺が魔王な訳だし……つまり俺の城か!」


 森を抜けて村さえ見つけられれば城に辿り着けるだろう。何の目的も定まっていない俺は、とりあえず城を目指す事にしてみた。


「よし、気分を切り換えよう。そうだ、これは探検だ」


 俺はさっきの巨人に出会わないよう注意しながら、雑木林の奥へと進んだ。








 雑木林を進む事数十分。

 次第に周りの木々が少なくなっていき、俺は森エリアを抜ける事に成功した。


「ん?あれは……村か!?」


 運良く遠目ながら村の確認に成功。夜の野原に小さな光がぽつぽつと見える。


「巨人にも会わなかったし、こりゃツいてるな」


 俺が安堵の溜め息を漏らし、歩を進めようとした時だった。


 ズシン! と、聞き覚えのある重たい足音が響いた。

 これがフラグと言うやつか。

 距離はここから少し離れた場所だから、まだ見つかってはいないようだ。

 あんな奴にウロウロと徘徊されるのも心臓に悪い。

 俺が再び歩を進めようとした時、今度は別の声が聞こえた。


 これは……犬の鳴き声?

 俺が声の方向を見ると、一匹の子犬が森の方に向かって警戒したように吠えているのが見えた。

 すると、そこに人影が一つ。まだ幼い少年だった。少年は子犬を抱き上げて、村に帰るのか歩き始める。

 だが、そこに奴(巨人)が現れた。

 巨人の歩く速度は当然幼い少年よりも速い。すぐに少年に追い付いてしまう。


 ――これってヤバくないか?


 少年は腰を抜かし、子犬は少年の前に立ち必死で吠えている。

 だが、巨人は目障りな虫でも殺すかのように、その手に持ったこん棒を振り上げ、今にもそれを降り下ろそうとしている。


 ――考えるまでもなくヤバいだろが!


 あんなもん降り下ろされたら、少年も子犬も、死ぬぞ?

 助けなきゃ。


 だが、俺の足は震えるばかりで言う事を聞かない。それはきっと、俺が恐怖しているから。

 さっきは混乱してたから恐怖なんてものは無かった。

 でも、今は違う。あんな化け物にビビるなって方が無理な話だ。


 そもそも、助けるって……俺に助けられるのか?

 こうしてる間に、こん棒はもう降り下ろされる直前で、巨人が力を込めたのが分かった。


 分かった瞬間、何故か俺は走っていた。

 それに気付いたのは、俺と巨人の距離が数メートルになってからだった。


 あれ? 俺何でこんな所に居んの!?


 だが、ブレーキはかからない。


 ――ここまで来たら、当たって砕けろか。


 そして、俺は左足を軸に飛んだ。


 そのまま右足を突きだし、その右足はスピードに乗ったまま、巨人の脇腹に吸い込まれるように飛んでいき――――


「チェストォォォォォォ!!!!」


 ゴキン! と言う音と共にめり込んだ!


 そして巨人はそのまま吹っ飛んでいき、数キロ先で止まったと思ったら、光になって消えてしまった。


「…………え?」


 俺の口からは、そんな素っ頓狂な声が出た。

 可笑しい……あの巨人の足音と足跡から、だいぶ重量があると思ったんだが……軽かった……。


「お兄さんすっげー!!」


 俺はそんな嬉々とした声で正気に戻る。

 少年が俺の事を興味津々と言った眼差しで見つめていた。


「そ、そうだ。君、怪我は無いか?」


「うん! それよりお兄さんって何者!? 急に目の前に現れてあのサイクロプスをやっつけちゃう何てさ! まさかお兄さんってハンターの人!?」


 ハンター? 何じゃそりゃ……。まあ、ここは適当にあしらっておこう。


「ああ、俺は通りすがりのハンターだ。もう夜に出歩くなよ?」


「はーい!」


 俺が早く家に帰るように促すと、少年は嬉しそうに村へ戻っていった。

 まあ、少年が無事で良かった。

 ふと空を見ると、月が先程よりも傾いている事に気付く。


 今の俺は吸血鬼。もし、俺が城に辿り着けずに朝が来れば……。

 いつしか見た映画で、吸血鬼が朝日を浴びて灰になるシーンを思い出す。


「くそっ、こんな所で死ぬのはごめんだ!」


 村を越え、森を越えた先の山に城があるらしい。


「舐めんなよ、帰宅部エースの実力を魅せてやる!」


 俺は自宅であろう城を目指し、出せる限りの速度で突っ走る。




 しばらく走って、異変に気付く。


 さっきからずっと全力で走っているのにも関わらず、息が全く上がらなかった。


 運動は専門外の俺がこんなに走って疲れないなんて……。


 そして、ふとさっきの巨人を思い出す。あんなボリューミーな巨人が、俺の飛び蹴りで軽々と吹っ飛んだ。


 少し考えて、俺はある一つの結論を導き出した。


 俺の体力が増えたのも、巨人を吹っ飛ばせたのも、すべては吸血鬼になったからだろう。

 これって、つまりつまり!


「俺無双ルート来たこれ!」


 無双。

 アニメや小説とかでの主人公の強さに憧れを抱いた事は、男なら一度はあるであろう。理不尽なまでの強さ! それを今、俺は手に入れたのだ!

 ワッハッハッハと言う俺の高笑いが、まだ暗い森に響いた。








 愉快な事を考えている間に山に到着した。山は急な斜面が多く、所々から岩肌が露出している。


「夜明けには間に合ったか」


 とは言え、城があるのは山頂付近。悠長にはしてられない。 一度深呼吸をし、俺は再び走り出した。
















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