セーブ01 ログイン
はい、どうものんびり+です。
二度目の連載です。
私自身未熟なので温かい目で見てくれると嬉しいです。
ここは森の中なのか、辺りには無数の木々が静かに立ち尽くしていた。今は夜らしく、空を仰げば葉と葉の間から青黒い空と光の粒達が見える。
そんな光景を一通り見て、俺は再び先程から抱えている疑問を思い返す。
「何で……俺はこんな所にいるんだ?」
少なくても、俺が住む町にこんな自然に溢れた場所は無かったと思う。
しかも、さっきから記憶が曖昧で過去の事を思い出せない。
「……まさか、夢遊病とかじゃ無いよな? それとも何者かに拉致られたか!?」
ふざけた妄想が広がる中、俺は足元に落ちていたそれを見つけた。腰を屈めそれを拾ってみる。それは、説明書と書かれた一冊の白いノートだった。
疑問で頭がいっぱいだが、俺は何となくページを開いてみる。
“ようこそ、神無月優也さん。この説明書をしっかり読んでゲームクリアを目指して下さいね!”
冒頭にはそんなメッセージが書かれていて、下には目次らしきものが続いていた。
それにしても、何故俺の名前がノートにあるのか。
てかゲームクリアって……何かのゲームの説明書か?
どうしてゲームの説明書がここに落ちてるんだよ。
疑問が増えた。
そして今更ながら気付いたが、今の俺の服装がどういう訳か燕尾服になっていた。
夜に燕尾服で独り寂しく森の中、オマケに意味不明な説明書……。
一体何が楽しくて俺はこんな状況下にあるのか。そう考えると少しイライラしてきた。
――――そんな時だった。
ズシン! と重みのある足音が聞こえたのは。
「……何だ?」
音の方を向いて見る。
足音は、等間隔にどんどんこちらに近付いて来るようで、音も次第に大きくなる。そして、足音は俺のすぐ近くで止まった。
ソイツは、俺よりも二回り以上でかい体、人間とは思えない青い肌、肩に担がれたそれまたでかいこん棒、腰には動物の毛皮で出来たようなものを巻きつけている…………巨人だった。
巨人の一つしか無い目が俺を捉えて動かない。
俺は動けなかった。恐怖とかじゃ無くて、ただ頭が混乱してたから。
そんな俺の脳内では、目の前の巨人についての考えが溢れていた。
これは……何かのドッキリかな? そうだとしたら、きっと俺の驚きぶりに視聴者の皆様も爆笑間違い無しだな。
……それとも、これが噂のバーチャルリアリティってやつか! いやぁ最近の科学は凄いな。
俺は一度深呼吸をして、目の前の巨人に話し掛けてみた。
「こんばんは、良い夜ですね。そんな薄着で寒く無いですか?」
反応は無い。あったとすれば巨人の目が血眼になった事ぐらいか……。俺の頬を汗が一滴伝うのが分かった。
「む、無視は酷く無いですか?」
笑顔を作ってそんな事を言ってみる……その笑顔が引き攣っているのが自分で良く分かる。
一歩、巨人が俺に近付いた。俺は反射的に一歩後退する。
そして……
「ア゛ァァァァァァァァ!!!!」
爆音のような雄叫びと共に巨人はこん棒を振り上げ、俺に迫ろうとする。
瞬間、俺は既に走っていた。一心不乱に、ただ巨人から少しでも離れる為に。
……どれくらい走ったかは分からないが、もう巨人の足音は聞こえなかった。
「助かった……」
俺はその場に腰を下ろす。不思議と体に疲れは無く、大きな安心感が俺を満たしていた。
そして俺は左手に何かを掴んでいる事に気付き視線を移す。掴んでいたのは説明書だった。また何となくページを開いてみる。
……ゲーム……。このワードが妙に引っ掛かる。俺は……さっきまで………………
「そうだ!!」
やっと思い出した。曖昧だった記憶を。
俺は神無月優也、高校三年生で今は夏休み中だった。
それで今日は……そうだ、ゲームを拾ったんだ。買い物帰りに道に落ちてるのを見つけた。その光景は異様に不自然で、まるで拾って下さいと言わんばかりだった。パッケージも綺麗で見た事が無いゲームだったからつい興味が出て拾ったんだ。家に帰って早速ゲームをやろうとディスクをゲーム幾に入れて…………ここからが思い出せない。恐らく、記憶の続きが森の中での事だろう。
「って待て! 場面が飛びすぎだろ!?」
思わず声に出てしまった。それもそうだ、家でゲームやってたらいつの間にか森の中。明らかに可笑しい。
俺は溜め息を吐いた後、半分やけくそで説明書の続きを読んで見た。
ページを捲ると、大きめにゲームのルールと書かれ小さめの文字が下に続いていた。
“ゲームクリアの方法は、この世界で360日以内にお姫様と結婚する事です。また、期間を過ぎるとゲームオーバーと見なします”
「…………は?」
疑問が口から出る。文字はまだ続いている。
“もしあなたがこの世界で死んだ場合もゲームオーバーとし、現実世界のあなたも死にます”
「…………え?」
また疑問が出た。
今の俺はやけくそと言うより呆れた気分だ。
俺は軽い放心状態のままページを捲った。次のページには何故か俺のプロフィールが書かれていた。
“名前は神無月優也。この世界での魔王に該当する。種族は吸血鬼。身長は170センチ程で――――”
俺の趣味から性格、身長までが事細かに書かれている。唯一気掛かりなのは、魔王と吸血鬼と言う謎ワード。
「……もう訳が分からん」
疲れ果てた俺は、ペラペラと文字も読まずにページを捲る。最後のページを捲ると一枚の紙が落ちた。そしてページの最後には“ご武運を”と言うメッセージ。
そこまで読むと、何故かノートが光に変わってあっと言う間に消えてしまった。
だが、もうそんな事はどうでも良かった。
今は何も考えたく無い。
俺は無気力に寝転がる。
葉と葉の間からは、青黒い空と大きな真円の月が見えた。
お疲れ様でした。