表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セブン  作者: 明るいあかり@ユリ
9/18

牛の肉はソースと絡められ。

柔らかいパンは好きなだけある。

果実は大皿に盛られていた。


エータがセッテと話をしてから数日後。

長い長い廊下を渡って大広間を抜けた先。

長い長いテーブルに向かい合わせに、主の妻と、シーク…いや、エータは座っていた。

主の妻は、シーク…もといエータを部屋から連れ出したのだ。

「どう、久しぶりのお母様とのディナーは?美味しいでしょう??」

「え、えぇ、とっても!」

母親の面を被った女に見えぬよう、エータはバツの悪そうな顔をした。

彼女は言ったのだ。

シークとエータを連れ出す時に、言ったのだ。

『シーク、貴方がごっこ遊びを止めてくれて嬉しいわ。』

『今日は久しぶりに、お母様と一緒にディナーを食べましょう。』と。

その言葉は、エータにとって腹立たしいモノであった。

故に、女に対して取り繕う自分自身にも、嫌気がさした。

だが外に出ることができたのは、エータにはかなりの幸運だった。

『一人ごっこ』を止めたフリをし、料理を一人分にすることによって、自分が消えたように見せかける。

目的は達成された。

だが、これだけで終わるわけにもいかない。

これからどうするか。

自分の中のシークをどうするか、自分はどうするかを考えながら、エータはステーキをナイフで切った。

フォークで刺した肉は柔らかく、上品さに満ちていた。

「ごめんなさいねぇ、ホントは家族三人揃って食べたかったんだけど…。あの人今日は用事があるみたいで。」


「いつも遊んでばっかじゃないですか。」

聞こえるような、聞こえないような微かな声を発したのはチンクエだった。

主の妻に皮肉を言う彼女の瞳には、尊敬の念も憧憬の気持ちも含まれていなかった。

彼女もまた、嫌気がさしていた。

自分の娘に非道な扱いをする女に、今、こうして配膳をしている自分に、嫌気がさしていた。

「何か言ったかしら?」

「い、いいぇ、はははは…。」

チンクエは誰にも見えないように下唇を噛んだ。

「…まぁいいわ。でもこんなにおめでたい日なのにねぇえ。家族で過ごせないのは残念だわ。やっとシークがごっこ遊びをやめて、まともになってくれたんですもの。それでこうやって、アタシ達が外に出してあげたわけなんだから。」

外に出して『あげた』?

エータは眉を動かす。

「奥様、そんな言い方…!」

「ホントのことでしょ?シーク、貴方が悪いのよぅ?変な遊びなんかするから。だから閉じ込めたの。だ・か・ら。お父様とお母様は何にも悪くないの、わかる?許してちょうだいね。」

エータは考えるのを止めた。

これからのことを考えるのを、止めた。

フォークだけを置き、自分の視線の先に座る女だけに集中する。

「…お母様。一つ聞きたいことがあります。お母様たちがワタシを閉じ込めたのは、本当に一人ごっこが原因ですか?」

「えぇ、そうよ。」

呆けた、醜い顔で、女は肉をワインで流し込む。

それが、腹立たしい。

「……もう一つ聞いて良いですか?お母様は十年前、いえ、十年以上前。ワタシに何をしたか覚えていますか?」

「そんな昔のこと、忘れたわ。」

覚えているわけがない、と、女は手をひらひらと泳がせた。

それが、腹立たしい。

エータにはそれが、腹立たしい。

「あ、お嬢様、そろそろ紅茶でもお淹れ、」

空気を察してか。

チンクエはエータに気を遣った。

だが、彼女の手は、エータによって払われてしまった。

「八年前だ。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ